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優柔不断
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「おはよう」
大和荘の敷地を出ると同時に掛けられた声。
「おっ……?」
そこには大和荘のブロック塀にもたれ掛かって慣れない手つきでスマホをイジるラファエルの姿があった。
「メールと電話したんだけど……」
そうは言わましても、そんなことは知らぬ存ぜぬ。
とりあえず制服の内ポケットに入れたまま充電することを忘れていたスマホを取り出した俺は事実確認を急いだ。
――結果、メール五通に着信八件。
タイトル『明日一緒に学校に行かない?』――すいません、全然気付きませんでした。
「わりい……いろいろあって見れなかった」
天族相手に謝罪なんて真似したくなかったが、これは全面的に俺が悪い。
ここで謝らなければ俺の心に良からぬシコリを残しそうなので謝る。
「別にいいわよ。全然気にしてないし」
「あっ……おいッ!」
歩くスピード超速え。どう見ても拗ねてるとしか思えない。
てか俺を待ってたなら一緒に行かないと意味がないだろ。
今回は俺が悪いんで合わせますけど……。
「どのぐらい待ってたんだ?」
「……さあ?」
「俺が悪かったって……頼むから教えてくれよ」
「……二条君が起きた時にはすでに」
その言葉が本当なら一時間近く前から……?
だとしたらマズい。最高にマズいことになった。
ラファエルがマリの存在に気付いていないなんてそんな都合のいい話あるわけがない。
「本当スマン」
「別に気にしてない。私が一方的に連絡しただけで約束はしてなかったし」
「んじゃ、気まずいから今度ジュース一本奢る。それでチャラにしてくれ」
「わかった」
ラファエルからは触れてこない? ……それは意図して避けられてるか?
マリも強力な力を持つ魔族とはいえ、ラファエルから見れば格下であることは否めない。
なんせ熾天使ラファエルと言えば魔王サタン全盛期である古の戦争で一戦交えて勝負がつかなかったとされているほどの古強者。戦争を知らない若い世代の魔族が戦ってどうこうできるような相手ではない。
だが、それなら何故ラファエルは知らぬ振りをする?
わけがわからんぞ……。
「……――い」
そんな事を考えるうちにふと耳に届いた声。
しかし、肝心の内容の方は聞いていなかった。
「え……? スマン、考え事してた」
「昼ご飯、一緒に食べない……?」
なんという唐突なお誘い。
勇気を振り絞って言ったであろうことはこのぎこちない間でわかる。
――が、そうゆう馴れ合いはちょっとマズいよな……。
それに今日は榊原と飯食う約束があるから断ろう。
「まあ、タイミングが合えばな……」
「わかった」
やっちまった。俺は馬鹿だ。
こうゆう時にあやふやな返事を返すのは俺の悪い癖だ。
イエスかノーかハッキリ言った方が誤解もなくスムーズに話が進みやすいことはもちろんわかっているが、極力角は立てたくない。その結果、消極的な姿勢を見せて相手が察して諦めてくれることを期待するのは我ながら狡いやり方と思う。
いつか直さないと――……。
「そう言えばお前、人間としての名前は? 流石にラファエルはないだろ」
「周防(すおう)神楽(かぐら)」
「ふーん、周防……ね」
「友達同士なら下の名前で呼び合うみたいだから“かぐら”って呼んでいいよ」
「んじゃ、俺は“ショーマ”でいいぜ」
「ショー……」
――って、おいおい……。
なぜ言いかけといて恥ずかしそうに視線を逸らす?
逆にこっちが恥ずかしい感じになっちまった。
あー……その場から逃げ出したいぐらい気恥ずかしいぜ。ちくしょう。
「ねえ、ショーマ」
「ん?」
「……私が友達って重荷じゃない?」
相変わらず脈絡ないな。それに慣れつつある俺も俺だけど……。
まあ、その辺の心配は立場的なものがあるんだろうから無理もないか。
(でも、もし一線を引くのなら絶好のタイミング……だよな)
ならば、今ここではっきり言うしかない。
誤魔化さず、はっきりと俺は敵だと宣言するんだ。
そうすればすべて正常な関係に――……。
「つまらん事を言うな。俺は別にお前の事を重荷なんて思っちゃいねぇーよ」
終わった。もうだめだ俺は……。
こんな時に何をかっこつけてるんだ。本当に死ねばいいのに……。
「ホント?」
「でなけりゃ、電話番号とメアド教えたりなんかするか?」
「そうだよね。ゴメン、今の忘れて」
完全にやっちまった。気のせいか俺、ドツボに嵌ってないか?
ラファエルは天界の最高戦力に数えられるぐらい強大な力を持つ敵で、今までに多くの同胞を討ち取った憎むべき“敵”なんだぞ……。
俺の隣で恥ずかしそうにモジモジしてる女がそのラファエルなんだぞ……。
(やっぱ揺れてる……のか)
距離を置かないとまずいってのはもちろん分かってる。
分かっちゃいるがこの体たらく。自分が情けなくて仕方がない。
「……すまんが学校では他人のフリしてくれないか?」
「なんで?」
「人目が付く所での馴れ合いは極力避けたい。誰が見てるかわからんからな」
「あ、そっか……一応は魔界の軍人さんなんだっけ?」
ひでえ。お前は今まで俺の事をなんだと思ってたんだ……?
単に戦闘力だけで言ったらジンベエザメとプランクトンぐらいの差があるのかもしれないが、そうゆういじめ紛いの発言は本当にやめて頂きたい。
俺はけっこう気にするし、惨め過ぎて割とマジで死にたくなってくる。
「まあ、そうゆうことだ。だからあまり話し掛けてこないように」
「ふーん……」
俺の苦悩は熾天使ラファエルさんにはあまり理解されていないご様子。
――デジャヴだ。
今のこの状況……たしか何かの本で読んだことがある。
貧乏人は金持ちに自分達の苦労が分からないと不満を漏らし、それに対して金持ちは貧乏人に金持ちの苦労が分かってたまるかって返した話。
どうでもいいが、なぜか俺はそんなことを思い出してしまった。
「ま、そうゆうわけだからよろしく頼む」
学校が見えてくると同時にラファエルから距離を置いた俺は二人で登校したことを誰にも見られていないことだけを祈り教室を目指した。
大和荘の敷地を出ると同時に掛けられた声。
「おっ……?」
そこには大和荘のブロック塀にもたれ掛かって慣れない手つきでスマホをイジるラファエルの姿があった。
「メールと電話したんだけど……」
そうは言わましても、そんなことは知らぬ存ぜぬ。
とりあえず制服の内ポケットに入れたまま充電することを忘れていたスマホを取り出した俺は事実確認を急いだ。
――結果、メール五通に着信八件。
タイトル『明日一緒に学校に行かない?』――すいません、全然気付きませんでした。
「わりい……いろいろあって見れなかった」
天族相手に謝罪なんて真似したくなかったが、これは全面的に俺が悪い。
ここで謝らなければ俺の心に良からぬシコリを残しそうなので謝る。
「別にいいわよ。全然気にしてないし」
「あっ……おいッ!」
歩くスピード超速え。どう見ても拗ねてるとしか思えない。
てか俺を待ってたなら一緒に行かないと意味がないだろ。
今回は俺が悪いんで合わせますけど……。
「どのぐらい待ってたんだ?」
「……さあ?」
「俺が悪かったって……頼むから教えてくれよ」
「……二条君が起きた時にはすでに」
その言葉が本当なら一時間近く前から……?
だとしたらマズい。最高にマズいことになった。
ラファエルがマリの存在に気付いていないなんてそんな都合のいい話あるわけがない。
「本当スマン」
「別に気にしてない。私が一方的に連絡しただけで約束はしてなかったし」
「んじゃ、気まずいから今度ジュース一本奢る。それでチャラにしてくれ」
「わかった」
ラファエルからは触れてこない? ……それは意図して避けられてるか?
マリも強力な力を持つ魔族とはいえ、ラファエルから見れば格下であることは否めない。
なんせ熾天使ラファエルと言えば魔王サタン全盛期である古の戦争で一戦交えて勝負がつかなかったとされているほどの古強者。戦争を知らない若い世代の魔族が戦ってどうこうできるような相手ではない。
だが、それなら何故ラファエルは知らぬ振りをする?
わけがわからんぞ……。
「……――い」
そんな事を考えるうちにふと耳に届いた声。
しかし、肝心の内容の方は聞いていなかった。
「え……? スマン、考え事してた」
「昼ご飯、一緒に食べない……?」
なんという唐突なお誘い。
勇気を振り絞って言ったであろうことはこのぎこちない間でわかる。
――が、そうゆう馴れ合いはちょっとマズいよな……。
それに今日は榊原と飯食う約束があるから断ろう。
「まあ、タイミングが合えばな……」
「わかった」
やっちまった。俺は馬鹿だ。
こうゆう時にあやふやな返事を返すのは俺の悪い癖だ。
イエスかノーかハッキリ言った方が誤解もなくスムーズに話が進みやすいことはもちろんわかっているが、極力角は立てたくない。その結果、消極的な姿勢を見せて相手が察して諦めてくれることを期待するのは我ながら狡いやり方と思う。
いつか直さないと――……。
「そう言えばお前、人間としての名前は? 流石にラファエルはないだろ」
「周防(すおう)神楽(かぐら)」
「ふーん、周防……ね」
「友達同士なら下の名前で呼び合うみたいだから“かぐら”って呼んでいいよ」
「んじゃ、俺は“ショーマ”でいいぜ」
「ショー……」
――って、おいおい……。
なぜ言いかけといて恥ずかしそうに視線を逸らす?
逆にこっちが恥ずかしい感じになっちまった。
あー……その場から逃げ出したいぐらい気恥ずかしいぜ。ちくしょう。
「ねえ、ショーマ」
「ん?」
「……私が友達って重荷じゃない?」
相変わらず脈絡ないな。それに慣れつつある俺も俺だけど……。
まあ、その辺の心配は立場的なものがあるんだろうから無理もないか。
(でも、もし一線を引くのなら絶好のタイミング……だよな)
ならば、今ここではっきり言うしかない。
誤魔化さず、はっきりと俺は敵だと宣言するんだ。
そうすればすべて正常な関係に――……。
「つまらん事を言うな。俺は別にお前の事を重荷なんて思っちゃいねぇーよ」
終わった。もうだめだ俺は……。
こんな時に何をかっこつけてるんだ。本当に死ねばいいのに……。
「ホント?」
「でなけりゃ、電話番号とメアド教えたりなんかするか?」
「そうだよね。ゴメン、今の忘れて」
完全にやっちまった。気のせいか俺、ドツボに嵌ってないか?
ラファエルは天界の最高戦力に数えられるぐらい強大な力を持つ敵で、今までに多くの同胞を討ち取った憎むべき“敵”なんだぞ……。
俺の隣で恥ずかしそうにモジモジしてる女がそのラファエルなんだぞ……。
(やっぱ揺れてる……のか)
距離を置かないとまずいってのはもちろん分かってる。
分かっちゃいるがこの体たらく。自分が情けなくて仕方がない。
「……すまんが学校では他人のフリしてくれないか?」
「なんで?」
「人目が付く所での馴れ合いは極力避けたい。誰が見てるかわからんからな」
「あ、そっか……一応は魔界の軍人さんなんだっけ?」
ひでえ。お前は今まで俺の事をなんだと思ってたんだ……?
単に戦闘力だけで言ったらジンベエザメとプランクトンぐらいの差があるのかもしれないが、そうゆういじめ紛いの発言は本当にやめて頂きたい。
俺はけっこう気にするし、惨め過ぎて割とマジで死にたくなってくる。
「まあ、そうゆうことだ。だからあまり話し掛けてこないように」
「ふーん……」
俺の苦悩は熾天使ラファエルさんにはあまり理解されていないご様子。
――デジャヴだ。
今のこの状況……たしか何かの本で読んだことがある。
貧乏人は金持ちに自分達の苦労が分からないと不満を漏らし、それに対して金持ちは貧乏人に金持ちの苦労が分かってたまるかって返した話。
どうでもいいが、なぜか俺はそんなことを思い出してしまった。
「ま、そうゆうわけだからよろしく頼む」
学校が見えてくると同時にラファエルから距離を置いた俺は二人で登校したことを誰にも見られていないことだけを祈り教室を目指した。
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