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結末【完結】
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明日など永遠に来なければいい。心の中で何度もそう唱えた。
だが、そんな俺の都合を無視するように太陽は空高く昇り時刻は昼過ぎ。
いつまでも引き籠りの真似事をしているわけにもいかない。
頭の中ではそれが分かっていても、なかなかベッドからは抜け出せないというジレンマ。ただただいたずらに時間だけが過ぎ去るという事実に焦る気持ちが強くなっていく。
「明日とは言っても、時間までは指定してないよな……」
――ふと口にしてしまったその言葉。
自分で言っといてなんだが、「なにを言ってるんだコイツは……」と呆れた。
俺がこうやっている間に二人はどういった心境で答えを待ち続けてるのだろう。
それを考えるだけで俺の心は罪悪感で砕け散りそうになった。
「ん……?」
現実逃避するように天井のシミを数えてるうちに、ふと目の端で捉えた違和感。
半ば反射的に俺の視線は違和感の先へと向かった。
「うわああああああああああああっ!?」
「うわぁーって、アンタねえ……」
「お兄さん、窓からこんにちは」
空き巣さながらの手段で俺の部屋に侵入してきた二人組。
俺が感じた違和感の正体はまさにそいつらだった。
「なんでッ!? どうして!?」
「なんでって返事を聞くのは今日でしょ?」
「お兄さん待ってたら夜になりそうだし……」
挟み撃ちにするように有無を言わさずベッドに押し掛けてきた二人の美少女。
よく見てみると、二人揃って目の下に薄らとクマを作っていた。
どうやら一睡もできなかったらしい。俺と同じで少し安心した。
「カッコつけたこと言っといて、まだ答えが出てないとか言わないよね?」
「はは……まさか」
「じゃあ、聞かせてもらえる?」
「ああ……」
答えが出ていないわけではなかったが、いざそれを二人に伝えるとなると上手く言葉が出てこない。それにどんな面をして言えばいい。
――このままではダメだ。
俺は気合を入れるべく下唇を強く噛み締めた。
「二人とも……覚悟はできてるんだよな?」
「当たり前でしょ」
「当然です」
悩むことなく即答でそう返してくれた二人の幼馴染。
愚問だとは分かりつつも、あえて俺がそれを聞いたのは俺がこの中で一番弱いからだ。
このワンクッションがなければ俺は決してそれを口にできなかっただろう。
「……悪い。俺はどちらとも付き合えない」
それが俺が一晩悩み抜いてようやく出した答え。
もちろん勿体ないとは思う。
それでも俺は二人のうちからどちらか片方を選ぶなんてできなかった。
「どうして……?」
示し合わせたかのように二人揃って同じ質問。
もしも俺が逆の立場なら今の二人と同じ言葉を口にしていたに違いない。
「足りない脳みそ使っていろいろ考えたんだ。俺はどうしたいのかってさ。そしたら最終的にどっちと付き合うにしても選ばなかった方のことが頭から離れないんだ。ハルカを選ぶとカエデが気になるし、カエデを選ぶとハルカが気になる。結局のところ、そればっかり気になって付き合った方を幸せにできる気がしなかったんだ」
実際にどうなるかは置いといてそうなるという確信が俺の中にあった。
今のままではどちらを選んでも不幸にする。
たとえ今が二度とこない千載一遇のチャンスであったとしても、俺は自分の心に嘘は付きたくない。それが俺の出した結論だった。
「お兄さんは本当にそれでいいの? こんなチャンス二度目はないよ?」
「かもな……」
「それなら、どうして?」
決断したはずなのに容易く揺れる俺の心――。
危うく惰性に身を任せそうになるも、俺の中にある良心が辛うじてその誘惑を退ける。
「本当にごめん! 俺にはどうしても無理なんだ!」
「お兄さん……」
土下座したことは何度かあったが、本心からの土下座は今この瞬間が初めてだ。
本当に悪いことをした。そう思ったからこそ自然と体が動いた。
その結果として二人からは絶縁を言い渡されるかもしれない。
たとえそうであったとしても、俺にはどちらか片方を選ぶということがどうしてもできなかった。
「……なら最後に一つ聞いていい?」
「ん……?」
「トーマは私達のことをどう思ってるの?」
冷静な口調でそう訊いてきたのはハルカ。火山が噴火するが如く暴れ狂うと思っていた俺の予想に反してハルカは冷静だった。
悪い予感はよく当たるだけにそれは意外なことだったが、だからといって状況が好転したというわけではない。
だからこそ俺は心してその問いに答えようと思った。
「ふざけてると言われるかもしれない」
「…………」
「俺は二人のことが好きなんだと思う」
「……特にどっちの方が?」
「どっちがどうとかじゃなくて、どちらも同じぐらい好きなんだ」
純度百%の俺の本心――。
主観でも優柔不断な答え丸出しだが後悔はしていない。
ここまでくれば納得されようがされまいが己の答えを貫くのみだ。
「……じつにお兄さんらしい答えね。そう言うと思ってた」
「思ってた……?」
「うん。だってお兄さんは馬鹿で不器用でスケベだけど、根は優しい人だし」
「それは褒められてるのか?」
「さあ?」
不意に毒を吐いてくるカエデさん。
静かに怒ってるような表情がなんとも言えない独特の空気を醸し出していた。
「でも、お兄さん」
「ん……?」
「お兄さんのその考えは一つの答えとしてアリだと思う。でも、それとは別にもう一つの考え方があるよね?」
カエデは問題を出すようにそう言ってきたが、意味が分からない。
なぜなら俺が用意した答えは一つだけだ。
それ以外の答えなんてものはまるで用意してなかった。
「やっぱり変なところで真面目なお兄さんじゃ気付けないか」
「…………」
「お兄さんはどちらも選ばないという結論に達したけど、その対極に位置するもう一つの考え方があるよね?」
「対極……それってまさか……」
「うん。そのまさか」
普通に考えればナシだ。どうかしてる。
そういった発想自体がそもそも浮かばなかった。
「二人とも……?」
「正解」
「おいおい、冗談だろ?」
「お兄さんが言った理由でフラれるぐらいなら私の方は妥協案として全然アリだけど?」
そう言ってハルカに挑発的な視線を送るカエデ。
そんな二人の間に挟まれている俺としてはまるで生きた心地がしなかった。
「私も別にッ!」
「別に何? 義姉ちゃん」
「カエデとトーマがそれでいいなら……私もそれでいい……」
モジモジとした様子で恥ずかしそうにそう答えるハルカ。
状況は言うまでもなく超展開だ。
事象としてはすでに俺の理解の限界を超えている。
「だってさ? お兄さん」
筋書き通りとばかりに笑みを浮かべるカエデ。策士ここに極まれり。
そして俺の中においては疑惑が確信に変わった瞬間でもあった。
「カエデ……さてはお前、初めからこうなることを……?」
「それはお兄さん次第だったかな」
「どうゆう意味だ?」
「その様子だと気付いてないみたいだけど、お兄さんが出した結論はすでに昨日、私が言ってるんだよね」
「……そうだっけ?」
「覚えてない? 亡霊になるってくだり」
「あっ……」
言われてみればたしかにそんな会話があった気がする。
二人が俺に告白するという革命的な出来事のあまり昨日の会話のほとんどは俺の脳内メモリに記憶されていなかったが、亡霊という言葉が使われたのは辛うじて覚えてる。
「もっともトーマの方から二人を彼女に……なんて言われたら殴ってたけどね」
「俺から言うのはダメなのか……」
「当たり前でしょ。あくまで私達が妥協するわけだし」
「じゃあ、なんで……?」
「まだ分からないかな。このお馬鹿さんは……」
「義姉ちゃん。お兄さんは鈍感なんだからその手の期待はしても無駄でしょ」
「まあ、そうね。これから私が言うこと、耳の穴かっぽじって聞きなさい」
「……はい」
女心というものは難しい。改めてそう思った。
おそらく俺が理解できる日は未来永劫こないだろう。
この二人の表情を見てると心底そう思えてくるから困ったものだ。
「私達どちらかではなく二人ともを気遣ってくれている。それが答えよ」
「そうか……」
「お兄さん、じつは全然分かってないでしょ?」
「いやいや、さすがにそれは……」
「私達二人を分け隔てなく“平等”に扱ってくれるってことよ」
カエデの補足で背筋にビビッと電流のようなものが走った。
もちろんそれはハルカが言った言葉の意味を理解したという意味でだ。
「平等……そうか、そうゆうことか……」
どちらも好きだからこそ付き合わない。それは俺の出した答えだ。
それに対して「どちらの方が好きか?」と聞かれたが、俺はどちらも同じぐらいだと答えた。
――以上の答えをもってして、ようやく二人が“妥協”として出した選択肢。
それは普通とは大きくかけ離れた変則的なものだった。
「で、どうするの?」
「どうって……」
「私達二人を恋人にするのか、しないのか。普段はいくら優柔不断でもかまわないけど、こうゆう時ぐらいはビシッと恰好つけてもらわないとね」
カエデにしては珍しく手厳しいその言葉。
言ってることが最もなだけに俺の心にはずっしりと応えるものがあった。
「俺は……」
フラッシュバックする記憶――。
初めて三人一緒に遊んだ時の記憶が脳内に流れ込んでくる。
「俺は……ッ」
花が咲き乱れては散っていくように蘇ってくる忘却の彼方の記憶の数々。
目頭が熱くなり俺の目からは自然と涙が溢れた。
「俺は……ハルカとカエデを幸せにしたい!」
今まで口にしたどの言葉よりも気合を入れて俺はそう叫んだ。
いや、正確にはそう叫ばずにはいられなかった。
心の奥底で氷が解けるような感覚――。
俺は知らずのうちに二人への気持ちを心のどこかに閉じ込めていたらしい。
「言うのが遅いわよ。バカ……」
「まあ、言ってくれただけいいじゃない」
二人のその言葉から察するに落第ギリギリといったところか。
恋愛映画とかでありがちな告白してからとお互い泣いて抱き合うというロマンスな展開は期待できそうになかった。
「じゃあ、しっかり歯ぁ食いしばって目ぇ瞑りなさい。今までのケジメつけてあげるから!」
「何で!? このタイミングで殴られるのか!?」
「いいから早く」
「はい……」
理不尽だとは思うが、ハルカらしいと言えばハルカらしい。
俺に落ち度がなかったと言えば嘘になるので俺はしぶしぶ彼女の指示に従った。
「じゃあ、いくわよ」
「あの、お手柔らかにお願いします……」
「問答無用!」
下手なお化け屋敷よりも怖い。視界が遮断されてる分その恐怖は倍増だ。
だが、この一撃を耐えればハルカのいうケジメはつく。
もちろんそれは生きてれば……の話だが。
「せーのッ!」
反射的にビクッと反応する俺の体――。
どうやら俺の体にはハルカに対しての根源的な恐怖が染み付いてるらしい。
こればかりは意識レベルでどうこうできるものではなかった。
「…………ッ」
俺の脳内を支配するのは頬を通じて奥歯を砕かれるという未来予想図。
それを覚悟して力いっぱい歯を食いしばる。
「……え?」
だが違った。予想だにしなかった感覚。
俺の頬に伝わるのは痛みなどではなかった。
「どうして……」
俺の左右の頬に優しく触れたのはマシュマロのような柔らかい感覚。
その正体が何であるかは目を開かずとも分かることだった。
「殴られると思った? 馬鹿ね。この場面でそんな事するわけないじゃない」
「義姉ちゃん、面向かってキスするのはまだ恥ずかしいんだってさ」
「そ、そんなわけないじゃないッ! 恥ずかしいのはカエデの方でしょ!」
「私はできるよ? なんなら今からやって見せようか?」
「う……」
恥ずかしげもなくカエデがそう言うと、言葉に詰まるハルカ。
涙目なその姿が一瞬でも可愛いと思ってしまったことは絶対に言わない。
悔しいから墓穴まで持って行ってやる。
「と、とにかくッ! 絶対に幸せにしてもらうからね! 分かった?」
「善処します」
「絶対に幸せにします……でしょ?」
「はい。絶対に幸せにします」
早くも前途多難な予感。それはたぶん俺の気のせいだろう。
いや、絶対に俺の気に決まってる。
そうでないと先のことを考えると鬱だ。
「今のまま甲斐性なしなら他に彼氏つくるからね」
「へえー……義姉ちゃんにそんなことできるの?」
「で、でで、できるわよ!」
「堅物で一途な義姉ちゃんに?」
「そうでもないぞ。例外なく五分以内に全滅したみたいだけど、過去に何人か彼氏はいたみたいだし」
「トーマの馬鹿! 死ねッ!」
余計なことを言うなとばかりに引っ張られる頬。
本人が言ったことをそのまま言っただけなのになんとも理不尽な話だ。
「……お兄さんの気を引く為にそんな嘘までついてたんだ?」
「違っ……」
「嘘じゃないぞ。実際に病院送りになった先輩がいるみたいだし」
「トーマは黙ってくれるかな?」
「は、はい……」
片手で俺の口を塞ぎ、リンゴを握り潰す要領でミシミシと力を加えてくるハルカさん。とても女子の力とは思えない。圧倒的じゃないか。
俺の顎骨は外的要因によって変化が生じようとしていた。
「で、実際はどうだったの?」
「どうって何がよ……?」
「義姉ちゃんが暴力を振るう相手なんてお兄さん関係か狼藉者だけでしょ?」
「それは……」
「あっ……そういえば強引にキスされそうになったって言って――……いででででででででで、アゴが砕けるうううう」
「はぁ、その件か。お兄さんってホント鈍感ね……」
「へ……?」
「普通に考えて義姉さんがそんな相手にOK出すと思う?」
「え……」
俺の記憶が正しければ婦女暴行がどうとか言ってた気がする。
彼氏うんぬんはハルカが俺の気を引く為の嘘だとすれば悪者はその先輩で合点がいく。道理でハルカにボコボコにされたとは言えないわけだ。
実際に目の当たりにしたわけでなくてもなぜかそれが真相であると直感的に確信してしまった。
「ハルカさん……そろそろお手を……」
「何か言うことは?」
「ごめんなさい調子に乗ってごめんなさい」
「次はないわよ」
なんとも“慈悲深い”ハルカさんはそう言って俺の顎を解放してくれた。
骨が鈍く痛むが今回ばかりは自業自得だと諦めるしかない。
今はそれよりも――……。
「で、本当はどうなんだ?」
「二人してなによ……」
「お前の口から真実が聞きたい」
俺とカエデにそう迫られると観念したのか、ハルカは小さく息を吐いた。
「……誰とも付き合ったことなんてないわよ」
「じゃあ、見栄を張ってたわけだな?」
「見栄じゃないわよ。付き合おうと思えば絶対付き合えたし!」
俺相手に守勢は気に入らないのか、急に攻勢に打って出るハルカさん。
その必死さから、こと恋愛における初心さが痛いぐらいに滲み出ていた。
普段はアレだがこうやって見ると普通に可愛い。
「義姉ちゃん。そんなことばっかり言ってるとお兄さん私がもらうよ?」
「うッ……」
「なにか言うことは?」
「うう……見栄張ってごめんなさい」
じゃじゃ馬ハルカを嗜めるカエデさん。じつに見事な手際だ。
その姿はさながら闘牛士のようだったが、そんなことをうっかり口走ったら最後、俺はその闘牛の餌食になりかねないのでそこは自重した。
「あはははは」
「なによ! トーマのくせに笑うなんて生意気!」
「いや、お前にも可愛いところあるんだなーって」
「かッ……!? かわいい!? てか、私にも……って余計なお世話よ!」
「どれどれ、頭を撫でてやろう」
「気安く触るな!」
「ぐああああああっ!? 腕の骨があああああああああ」
「アンタのお母さんに酷いことされたって言いつけてやるから!」
うおおおおおおおおおお超痛いいいいいい。
ちょっとからかっただけなのに腕があらぬ方向に……。
今のままでは命がいくつあっても足りる気がしない。
「義姉ちゃん。どうやらその必要はないみたいよ」
「えっ……それってどうゆう……」
「隠れて聞くというのはちょっと野暮だと思いませんか?」
忍び足で扉に近付いたカエデは勢いよく扉を開いた。
すると、雪崩のように俺の部屋に転がりこんできた二人。
――どこかで見覚えがある顔だ。どこだったかな……。
「あっ! トーマのおば様! それにおじ様まで!」
「いやぁー……ハルカちゃんにカエデちゃん。ごきげんよう」
「ほほほ、やるわね。カエデちゃん」
「そりゃ、ヒソヒソ話してれば私でなくても気付きますよ」
「なるほど、それは一本とられたな」
どこからどうみてもマイファミリーの面々。
なぜ息子の部屋の前で諜報員紛いの活動をしていたのかはあまり聞きたくない。
だが、状況的に聞く他なかった。
「……そんなところで何してた?」
「さすがは我が息子! 俺に似てグッジョブ!」
「お母さん嬉しいわ。こんな出来の悪い愚息が器量良し二人の心を射止めるなんて!」
「母さん。今日は寿司にしよう」
「ええ、そうねッ! 父さん」
完全に自分達の世界へと飛び立ったマイファミリーの面々。
もはや俺が何かを言ったところで聞く耳を持つことはないだろう。
こうなっては相手にするだけ時間の無駄。放っておこう。
「もしも私達の愚息に至らない点があったら遠慮なく言ってね。必要なら某ヨットスクールとかカルト教団に入信させてでも矯正させるから」
「おい……」
マイマザーに至っては興奮のあまり若干暴走気味。
可能なら二人と付き合うということは隠しておきたかったが、それができなかったのは残念でならない。
「お心遣いありがとうございます。おば様」
ハルカがそう返すと、ハルカとカエデを抱き寄せ俺のベッドに押し倒すマイマザー。それはどう見ても鬱陶しいと思えるものだったが、二人がまんざらでもない顔をしているのがどこか印象的だった。
「我が息子よ」
「ん……?」
「安心してるようだが、お隣さんの一条夫婦を納得させるのは骨が折れるぞ。なんせ娘を溺愛してるからな」
「ああ、そうだよな……」
娘に寄りつく害虫は殺し屋を雇ってでも排除すると公言しちゃう人達。
それがハルカとカエデの親――一条夫妻だ。
「なら、トーマにはカッコいいところ見せてもらおうかな」
「私もお兄さんのちょっといいとこ見てみたい」
「急にそんなこと言われましても……」
「今夜、私の家で誕生日会するんだけど、もちろん来るよね?」
「そうゆうのは家族水入らずに――……」
「返事は?」
「はい……」
そこに参加することが何を意味するのかは頭を使わずとも分かることだ。
俺は死ぬ。確実に殺される。
「声がちっさい!」
「私も聞こえなかったかな」
「お前ら……」
二人の美少女が俺の恋人になったということは実にすばらしいことだ。
しかし、その代償は決して生易しくはないってことなのだろう。
もちろん覚悟はしているさ。
「喜んで参加させていただきますッ!」
自分が選んだ選択肢がどういった結果をもたらすのかは誰にも分からない。
後悔しても始まらない。だから信じて進むしかないのだ。
自分が選んだ道はきっと正しい道なのだと信じて――……。
――終わり
だが、そんな俺の都合を無視するように太陽は空高く昇り時刻は昼過ぎ。
いつまでも引き籠りの真似事をしているわけにもいかない。
頭の中ではそれが分かっていても、なかなかベッドからは抜け出せないというジレンマ。ただただいたずらに時間だけが過ぎ去るという事実に焦る気持ちが強くなっていく。
「明日とは言っても、時間までは指定してないよな……」
――ふと口にしてしまったその言葉。
自分で言っといてなんだが、「なにを言ってるんだコイツは……」と呆れた。
俺がこうやっている間に二人はどういった心境で答えを待ち続けてるのだろう。
それを考えるだけで俺の心は罪悪感で砕け散りそうになった。
「ん……?」
現実逃避するように天井のシミを数えてるうちに、ふと目の端で捉えた違和感。
半ば反射的に俺の視線は違和感の先へと向かった。
「うわああああああああああああっ!?」
「うわぁーって、アンタねえ……」
「お兄さん、窓からこんにちは」
空き巣さながらの手段で俺の部屋に侵入してきた二人組。
俺が感じた違和感の正体はまさにそいつらだった。
「なんでッ!? どうして!?」
「なんでって返事を聞くのは今日でしょ?」
「お兄さん待ってたら夜になりそうだし……」
挟み撃ちにするように有無を言わさずベッドに押し掛けてきた二人の美少女。
よく見てみると、二人揃って目の下に薄らとクマを作っていた。
どうやら一睡もできなかったらしい。俺と同じで少し安心した。
「カッコつけたこと言っといて、まだ答えが出てないとか言わないよね?」
「はは……まさか」
「じゃあ、聞かせてもらえる?」
「ああ……」
答えが出ていないわけではなかったが、いざそれを二人に伝えるとなると上手く言葉が出てこない。それにどんな面をして言えばいい。
――このままではダメだ。
俺は気合を入れるべく下唇を強く噛み締めた。
「二人とも……覚悟はできてるんだよな?」
「当たり前でしょ」
「当然です」
悩むことなく即答でそう返してくれた二人の幼馴染。
愚問だとは分かりつつも、あえて俺がそれを聞いたのは俺がこの中で一番弱いからだ。
このワンクッションがなければ俺は決してそれを口にできなかっただろう。
「……悪い。俺はどちらとも付き合えない」
それが俺が一晩悩み抜いてようやく出した答え。
もちろん勿体ないとは思う。
それでも俺は二人のうちからどちらか片方を選ぶなんてできなかった。
「どうして……?」
示し合わせたかのように二人揃って同じ質問。
もしも俺が逆の立場なら今の二人と同じ言葉を口にしていたに違いない。
「足りない脳みそ使っていろいろ考えたんだ。俺はどうしたいのかってさ。そしたら最終的にどっちと付き合うにしても選ばなかった方のことが頭から離れないんだ。ハルカを選ぶとカエデが気になるし、カエデを選ぶとハルカが気になる。結局のところ、そればっかり気になって付き合った方を幸せにできる気がしなかったんだ」
実際にどうなるかは置いといてそうなるという確信が俺の中にあった。
今のままではどちらを選んでも不幸にする。
たとえ今が二度とこない千載一遇のチャンスであったとしても、俺は自分の心に嘘は付きたくない。それが俺の出した結論だった。
「お兄さんは本当にそれでいいの? こんなチャンス二度目はないよ?」
「かもな……」
「それなら、どうして?」
決断したはずなのに容易く揺れる俺の心――。
危うく惰性に身を任せそうになるも、俺の中にある良心が辛うじてその誘惑を退ける。
「本当にごめん! 俺にはどうしても無理なんだ!」
「お兄さん……」
土下座したことは何度かあったが、本心からの土下座は今この瞬間が初めてだ。
本当に悪いことをした。そう思ったからこそ自然と体が動いた。
その結果として二人からは絶縁を言い渡されるかもしれない。
たとえそうであったとしても、俺にはどちらか片方を選ぶということがどうしてもできなかった。
「……なら最後に一つ聞いていい?」
「ん……?」
「トーマは私達のことをどう思ってるの?」
冷静な口調でそう訊いてきたのはハルカ。火山が噴火するが如く暴れ狂うと思っていた俺の予想に反してハルカは冷静だった。
悪い予感はよく当たるだけにそれは意外なことだったが、だからといって状況が好転したというわけではない。
だからこそ俺は心してその問いに答えようと思った。
「ふざけてると言われるかもしれない」
「…………」
「俺は二人のことが好きなんだと思う」
「……特にどっちの方が?」
「どっちがどうとかじゃなくて、どちらも同じぐらい好きなんだ」
純度百%の俺の本心――。
主観でも優柔不断な答え丸出しだが後悔はしていない。
ここまでくれば納得されようがされまいが己の答えを貫くのみだ。
「……じつにお兄さんらしい答えね。そう言うと思ってた」
「思ってた……?」
「うん。だってお兄さんは馬鹿で不器用でスケベだけど、根は優しい人だし」
「それは褒められてるのか?」
「さあ?」
不意に毒を吐いてくるカエデさん。
静かに怒ってるような表情がなんとも言えない独特の空気を醸し出していた。
「でも、お兄さん」
「ん……?」
「お兄さんのその考えは一つの答えとしてアリだと思う。でも、それとは別にもう一つの考え方があるよね?」
カエデは問題を出すようにそう言ってきたが、意味が分からない。
なぜなら俺が用意した答えは一つだけだ。
それ以外の答えなんてものはまるで用意してなかった。
「やっぱり変なところで真面目なお兄さんじゃ気付けないか」
「…………」
「お兄さんはどちらも選ばないという結論に達したけど、その対極に位置するもう一つの考え方があるよね?」
「対極……それってまさか……」
「うん。そのまさか」
普通に考えればナシだ。どうかしてる。
そういった発想自体がそもそも浮かばなかった。
「二人とも……?」
「正解」
「おいおい、冗談だろ?」
「お兄さんが言った理由でフラれるぐらいなら私の方は妥協案として全然アリだけど?」
そう言ってハルカに挑発的な視線を送るカエデ。
そんな二人の間に挟まれている俺としてはまるで生きた心地がしなかった。
「私も別にッ!」
「別に何? 義姉ちゃん」
「カエデとトーマがそれでいいなら……私もそれでいい……」
モジモジとした様子で恥ずかしそうにそう答えるハルカ。
状況は言うまでもなく超展開だ。
事象としてはすでに俺の理解の限界を超えている。
「だってさ? お兄さん」
筋書き通りとばかりに笑みを浮かべるカエデ。策士ここに極まれり。
そして俺の中においては疑惑が確信に変わった瞬間でもあった。
「カエデ……さてはお前、初めからこうなることを……?」
「それはお兄さん次第だったかな」
「どうゆう意味だ?」
「その様子だと気付いてないみたいだけど、お兄さんが出した結論はすでに昨日、私が言ってるんだよね」
「……そうだっけ?」
「覚えてない? 亡霊になるってくだり」
「あっ……」
言われてみればたしかにそんな会話があった気がする。
二人が俺に告白するという革命的な出来事のあまり昨日の会話のほとんどは俺の脳内メモリに記憶されていなかったが、亡霊という言葉が使われたのは辛うじて覚えてる。
「もっともトーマの方から二人を彼女に……なんて言われたら殴ってたけどね」
「俺から言うのはダメなのか……」
「当たり前でしょ。あくまで私達が妥協するわけだし」
「じゃあ、なんで……?」
「まだ分からないかな。このお馬鹿さんは……」
「義姉ちゃん。お兄さんは鈍感なんだからその手の期待はしても無駄でしょ」
「まあ、そうね。これから私が言うこと、耳の穴かっぽじって聞きなさい」
「……はい」
女心というものは難しい。改めてそう思った。
おそらく俺が理解できる日は未来永劫こないだろう。
この二人の表情を見てると心底そう思えてくるから困ったものだ。
「私達どちらかではなく二人ともを気遣ってくれている。それが答えよ」
「そうか……」
「お兄さん、じつは全然分かってないでしょ?」
「いやいや、さすがにそれは……」
「私達二人を分け隔てなく“平等”に扱ってくれるってことよ」
カエデの補足で背筋にビビッと電流のようなものが走った。
もちろんそれはハルカが言った言葉の意味を理解したという意味でだ。
「平等……そうか、そうゆうことか……」
どちらも好きだからこそ付き合わない。それは俺の出した答えだ。
それに対して「どちらの方が好きか?」と聞かれたが、俺はどちらも同じぐらいだと答えた。
――以上の答えをもってして、ようやく二人が“妥協”として出した選択肢。
それは普通とは大きくかけ離れた変則的なものだった。
「で、どうするの?」
「どうって……」
「私達二人を恋人にするのか、しないのか。普段はいくら優柔不断でもかまわないけど、こうゆう時ぐらいはビシッと恰好つけてもらわないとね」
カエデにしては珍しく手厳しいその言葉。
言ってることが最もなだけに俺の心にはずっしりと応えるものがあった。
「俺は……」
フラッシュバックする記憶――。
初めて三人一緒に遊んだ時の記憶が脳内に流れ込んでくる。
「俺は……ッ」
花が咲き乱れては散っていくように蘇ってくる忘却の彼方の記憶の数々。
目頭が熱くなり俺の目からは自然と涙が溢れた。
「俺は……ハルカとカエデを幸せにしたい!」
今まで口にしたどの言葉よりも気合を入れて俺はそう叫んだ。
いや、正確にはそう叫ばずにはいられなかった。
心の奥底で氷が解けるような感覚――。
俺は知らずのうちに二人への気持ちを心のどこかに閉じ込めていたらしい。
「言うのが遅いわよ。バカ……」
「まあ、言ってくれただけいいじゃない」
二人のその言葉から察するに落第ギリギリといったところか。
恋愛映画とかでありがちな告白してからとお互い泣いて抱き合うというロマンスな展開は期待できそうになかった。
「じゃあ、しっかり歯ぁ食いしばって目ぇ瞑りなさい。今までのケジメつけてあげるから!」
「何で!? このタイミングで殴られるのか!?」
「いいから早く」
「はい……」
理不尽だとは思うが、ハルカらしいと言えばハルカらしい。
俺に落ち度がなかったと言えば嘘になるので俺はしぶしぶ彼女の指示に従った。
「じゃあ、いくわよ」
「あの、お手柔らかにお願いします……」
「問答無用!」
下手なお化け屋敷よりも怖い。視界が遮断されてる分その恐怖は倍増だ。
だが、この一撃を耐えればハルカのいうケジメはつく。
もちろんそれは生きてれば……の話だが。
「せーのッ!」
反射的にビクッと反応する俺の体――。
どうやら俺の体にはハルカに対しての根源的な恐怖が染み付いてるらしい。
こればかりは意識レベルでどうこうできるものではなかった。
「…………ッ」
俺の脳内を支配するのは頬を通じて奥歯を砕かれるという未来予想図。
それを覚悟して力いっぱい歯を食いしばる。
「……え?」
だが違った。予想だにしなかった感覚。
俺の頬に伝わるのは痛みなどではなかった。
「どうして……」
俺の左右の頬に優しく触れたのはマシュマロのような柔らかい感覚。
その正体が何であるかは目を開かずとも分かることだった。
「殴られると思った? 馬鹿ね。この場面でそんな事するわけないじゃない」
「義姉ちゃん、面向かってキスするのはまだ恥ずかしいんだってさ」
「そ、そんなわけないじゃないッ! 恥ずかしいのはカエデの方でしょ!」
「私はできるよ? なんなら今からやって見せようか?」
「う……」
恥ずかしげもなくカエデがそう言うと、言葉に詰まるハルカ。
涙目なその姿が一瞬でも可愛いと思ってしまったことは絶対に言わない。
悔しいから墓穴まで持って行ってやる。
「と、とにかくッ! 絶対に幸せにしてもらうからね! 分かった?」
「善処します」
「絶対に幸せにします……でしょ?」
「はい。絶対に幸せにします」
早くも前途多難な予感。それはたぶん俺の気のせいだろう。
いや、絶対に俺の気に決まってる。
そうでないと先のことを考えると鬱だ。
「今のまま甲斐性なしなら他に彼氏つくるからね」
「へえー……義姉ちゃんにそんなことできるの?」
「で、でで、できるわよ!」
「堅物で一途な義姉ちゃんに?」
「そうでもないぞ。例外なく五分以内に全滅したみたいだけど、過去に何人か彼氏はいたみたいだし」
「トーマの馬鹿! 死ねッ!」
余計なことを言うなとばかりに引っ張られる頬。
本人が言ったことをそのまま言っただけなのになんとも理不尽な話だ。
「……お兄さんの気を引く為にそんな嘘までついてたんだ?」
「違っ……」
「嘘じゃないぞ。実際に病院送りになった先輩がいるみたいだし」
「トーマは黙ってくれるかな?」
「は、はい……」
片手で俺の口を塞ぎ、リンゴを握り潰す要領でミシミシと力を加えてくるハルカさん。とても女子の力とは思えない。圧倒的じゃないか。
俺の顎骨は外的要因によって変化が生じようとしていた。
「で、実際はどうだったの?」
「どうって何がよ……?」
「義姉ちゃんが暴力を振るう相手なんてお兄さん関係か狼藉者だけでしょ?」
「それは……」
「あっ……そういえば強引にキスされそうになったって言って――……いででででででででで、アゴが砕けるうううう」
「はぁ、その件か。お兄さんってホント鈍感ね……」
「へ……?」
「普通に考えて義姉さんがそんな相手にOK出すと思う?」
「え……」
俺の記憶が正しければ婦女暴行がどうとか言ってた気がする。
彼氏うんぬんはハルカが俺の気を引く為の嘘だとすれば悪者はその先輩で合点がいく。道理でハルカにボコボコにされたとは言えないわけだ。
実際に目の当たりにしたわけでなくてもなぜかそれが真相であると直感的に確信してしまった。
「ハルカさん……そろそろお手を……」
「何か言うことは?」
「ごめんなさい調子に乗ってごめんなさい」
「次はないわよ」
なんとも“慈悲深い”ハルカさんはそう言って俺の顎を解放してくれた。
骨が鈍く痛むが今回ばかりは自業自得だと諦めるしかない。
今はそれよりも――……。
「で、本当はどうなんだ?」
「二人してなによ……」
「お前の口から真実が聞きたい」
俺とカエデにそう迫られると観念したのか、ハルカは小さく息を吐いた。
「……誰とも付き合ったことなんてないわよ」
「じゃあ、見栄を張ってたわけだな?」
「見栄じゃないわよ。付き合おうと思えば絶対付き合えたし!」
俺相手に守勢は気に入らないのか、急に攻勢に打って出るハルカさん。
その必死さから、こと恋愛における初心さが痛いぐらいに滲み出ていた。
普段はアレだがこうやって見ると普通に可愛い。
「義姉ちゃん。そんなことばっかり言ってるとお兄さん私がもらうよ?」
「うッ……」
「なにか言うことは?」
「うう……見栄張ってごめんなさい」
じゃじゃ馬ハルカを嗜めるカエデさん。じつに見事な手際だ。
その姿はさながら闘牛士のようだったが、そんなことをうっかり口走ったら最後、俺はその闘牛の餌食になりかねないのでそこは自重した。
「あはははは」
「なによ! トーマのくせに笑うなんて生意気!」
「いや、お前にも可愛いところあるんだなーって」
「かッ……!? かわいい!? てか、私にも……って余計なお世話よ!」
「どれどれ、頭を撫でてやろう」
「気安く触るな!」
「ぐああああああっ!? 腕の骨があああああああああ」
「アンタのお母さんに酷いことされたって言いつけてやるから!」
うおおおおおおおおおお超痛いいいいいい。
ちょっとからかっただけなのに腕があらぬ方向に……。
今のままでは命がいくつあっても足りる気がしない。
「義姉ちゃん。どうやらその必要はないみたいよ」
「えっ……それってどうゆう……」
「隠れて聞くというのはちょっと野暮だと思いませんか?」
忍び足で扉に近付いたカエデは勢いよく扉を開いた。
すると、雪崩のように俺の部屋に転がりこんできた二人。
――どこかで見覚えがある顔だ。どこだったかな……。
「あっ! トーマのおば様! それにおじ様まで!」
「いやぁー……ハルカちゃんにカエデちゃん。ごきげんよう」
「ほほほ、やるわね。カエデちゃん」
「そりゃ、ヒソヒソ話してれば私でなくても気付きますよ」
「なるほど、それは一本とられたな」
どこからどうみてもマイファミリーの面々。
なぜ息子の部屋の前で諜報員紛いの活動をしていたのかはあまり聞きたくない。
だが、状況的に聞く他なかった。
「……そんなところで何してた?」
「さすがは我が息子! 俺に似てグッジョブ!」
「お母さん嬉しいわ。こんな出来の悪い愚息が器量良し二人の心を射止めるなんて!」
「母さん。今日は寿司にしよう」
「ええ、そうねッ! 父さん」
完全に自分達の世界へと飛び立ったマイファミリーの面々。
もはや俺が何かを言ったところで聞く耳を持つことはないだろう。
こうなっては相手にするだけ時間の無駄。放っておこう。
「もしも私達の愚息に至らない点があったら遠慮なく言ってね。必要なら某ヨットスクールとかカルト教団に入信させてでも矯正させるから」
「おい……」
マイマザーに至っては興奮のあまり若干暴走気味。
可能なら二人と付き合うということは隠しておきたかったが、それができなかったのは残念でならない。
「お心遣いありがとうございます。おば様」
ハルカがそう返すと、ハルカとカエデを抱き寄せ俺のベッドに押し倒すマイマザー。それはどう見ても鬱陶しいと思えるものだったが、二人がまんざらでもない顔をしているのがどこか印象的だった。
「我が息子よ」
「ん……?」
「安心してるようだが、お隣さんの一条夫婦を納得させるのは骨が折れるぞ。なんせ娘を溺愛してるからな」
「ああ、そうだよな……」
娘に寄りつく害虫は殺し屋を雇ってでも排除すると公言しちゃう人達。
それがハルカとカエデの親――一条夫妻だ。
「なら、トーマにはカッコいいところ見せてもらおうかな」
「私もお兄さんのちょっといいとこ見てみたい」
「急にそんなこと言われましても……」
「今夜、私の家で誕生日会するんだけど、もちろん来るよね?」
「そうゆうのは家族水入らずに――……」
「返事は?」
「はい……」
そこに参加することが何を意味するのかは頭を使わずとも分かることだ。
俺は死ぬ。確実に殺される。
「声がちっさい!」
「私も聞こえなかったかな」
「お前ら……」
二人の美少女が俺の恋人になったということは実にすばらしいことだ。
しかし、その代償は決して生易しくはないってことなのだろう。
もちろん覚悟はしているさ。
「喜んで参加させていただきますッ!」
自分が選んだ選択肢がどういった結果をもたらすのかは誰にも分からない。
後悔しても始まらない。だから信じて進むしかないのだ。
自分が選んだ道はきっと正しい道なのだと信じて――……。
――終わり
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