暴君みたいな女の魔手から俺がこの先生き残るには

水無月14

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B班

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 来たるべき運命の時――。
 ありとあらゆるコネを総動員して用意した男女複数名での遊びの場。
 いろいろあって人数合わせのメンツはともかく、主力であるメンツは最強だ。
 サッカー部の色黒ストライカーにバスケ部副キャプテンの長身センター、そしてテニス部のエースという非の打ちどころのない究極の布陣。
 その見た目は言うに及ばず、性格も良し――。
 彼女いない歴イコール年齢なのがあり得ないと思えるような奴らだ。
 「桐原、やっぱ十二人は流石に多いぞ……」
 「俺もそう思った」
 「それは参加予定にないお前らが無理やり参加したからだろうが!」
 合コンに等しい場おいて男女比が均等なのは鉄則――。
 当初はイケメン三人と俺を合わせた四人で臨むはずだったが、何を血迷ったか遠藤と高林が突然参加したいなどと身の程を弁えないことを言い出した結果、急遽予定を変更して六対六となった。
 なんとなく予想はしていたが、実際に十二人集まってみるとやはり多い。
 さながら遠足を彷彿とさせるものだったが、誰がなんと言おうがそれは気のせいでなくてはならない。なぜなら彼氏彼女を見つけるといった場において雰囲気は重要。俺が読んだ本にそう書いてた。
 「で、どうするのよ? この人数で行動なんて収拾つくわけ?」
 抗議するように俺に詰め寄ってくるのは大層ご立腹そうな様子のハルカさん。
 人の貴重な休日を半日近く拘束したファッションショーに付き合わせておいて俺が見たこともない服で来るとか、もはや鬼畜の所業としか思えない。
 加えてこのような場においても俺を敵視する一貫してブレない強硬路線。
 俺の心の骨は早くもぽっきりと折れてしまいそうになった。
 「ハハハ……まずは運命の分かれ道といきましょうか! 高林、例のブツを」
 「はい、旦那さま(ウィ、ムシュー)」
 中学生が好みそうな鞄から高林が取り出したのは我々が用意した秘密兵器。
 事情を知らない連中は興味深そうにそれを注視した。
 「六枚のトランプが二セット……?」
 「十二枚。つまり私達の人数ってことよね?」
 「正解」
 「なるほどね……」
 「そうゆうわけで人数を半分に割ります。奇数はA班、偶数はB班ってな感じで二班に別れて行動してもらいのでそのつもりで。これだけは先に言っときますがどういった組み合わせであっても文句は自分の運に言って下さいね」
 口ではそうは言いつつも、騙して悪いが仕掛けがある。
 A班にはイケメン三人衆とハルカ、そして我々の内通者であるカオル君が内定。
 B班は俺、遠藤、高林で確定なわけだが、残った女子四人は三人がB班へ、一人がA班ということになる。
 できれば全員をコントロールしたかったが、敵はあのハルカだ。勘が利く。
 あえてランダム要素を加えたのは謂わばカムフラージュ。
 万が一にも俺の狙いを悟らないが為の秘策に他ならない。
 「さて、全員引きましたね? A班は俺から見て右側に! B班は左側へ!」
 するとゾロゾロと移動を開始する俺以外の参加者たち。
 違和感なるものはそのすぐ直後に感じた。
 「おー……高林。お前と一緒かー」
 「よろしく頼むぜ兄弟」
 B班側ではワザとらしい三文芝居を見せつける遠藤と高林。
 そしてA班側にはイケメン三人衆。ここまでは俺の予定通りだ。
 「えぇーと、よろしくね。桐原君」
 頬を掻き、気まずそうに俺に挨拶をくれるカオル君。
 なぜかその手には偶数である“6”と書かれたトランプを持っていた。
 「偶数ってことは私はこっちみたいね」
 「あれ? ハルカもB班……?」
 「“も”ってなによ? “も”って」
 おやおやおや? なんかおかしいな……。
 俺の計画ではハルカはイケメン三人衆と同じA班のはず……。
 ここでさよならグッバイする予定だったはずだが……。
 もしかしなくても高林がヘマりやがったか……?
 だとしたら死んでくれ。できれば今すぐに。
 「するとあと一人は……?」
 「お兄さん、私です」
 そう言って小さく手を挙げるのはカエデさん。
 女子側の人数合わせとしてハルカに召喚されたって話だが、我々の計画を知らないので事実上の部外者だ。
 しかし、そんなことはどうでもいいぐらい相変わらず私服姿が天使。
 状況が違えばマジで告白したいレベル。理性のタガが外れそうになった。
「B班は俺、遠藤、高林、ハルカ、カエデ、それにカオル君か……。なんか俺の計画と全然違うんですけど……」
「なんだって? 私がいるのは不服ってこと?」
「すいませんハルカさん。僕の胸座を掴むのはやめてください」
 今すぐにでもヘマをした高林の野郎に銃弾が一発だけ入った拳銃をイタリアンマフィア張りにプレゼントしてやりたくなった。それをこめかみに押し当てて引き金を引くなり口に咥えて引き金を引くなりは本人の好みに任せるが、とりあえずなんらかの形で責任をとってもらいたい。
 眼力にて高林にそう伝えると、あろうことか奴は俺から目を逸らしやがった。
 「おい、桐原。進行役のお前がそっちなら俺達はどうすればいいんだ?」
 「予定はこの紙に書いてある。A班は鈴木君に任せていいか?」
 「なんか遠足のしおりみたいだな。……OK。あとは任せろ」
 流石はリア充イケメン。どこかの魔王様と違って文句一つ言わない。
 A班は鈴木君が仕切り始めたことだし、後は任せて大丈夫だろう。
 問題なのは――……。
 「で、私達はこれからどうするのよ?」
 「まあまあ、そう焦らないで下さいよ」
 時刻は三時過ぎ。季節は冬に近付きつつある為か太陽はすでに沈みつつある。
 駅前のバイキングの予約をとったのは七時頃――。
 移動時間を踏まえて三時間ほどの余裕がある計算になる。
 「考えてるのはボウリングとカラオケなんだが、どっちがいい?」
 「ボウリング」
 「即答だな。理由は……?」
 「どうせアンタ達ってオタクみたいな曲しか歌わないでしょ? だから嫌」
 露骨な偏見。俺達三人の中でオタクなのは高林だけだ。
 その高林も俺達が話題についていけないということで自重してる。
 つまり我々の中にハルカの言葉に該当する者はいないということになる。
 そうゆうわけで今すぐ精神的苦痛に伴う謝罪と賠償を要求――……。
 「んー……僕もボウリングの方がいいかな」
 「私も」
 カオル君とカエデがハルカに続いたことで満場一致の決定。
 これ以上は話し合う余地がない。
 「じゃあ、決まりだな」
 「えっ? 俺達の意見は……?」
 「お前達に発言する権利はない。諦めろ」 
 「桐原、てめえ」
 「この独裁者が……」
 頭数的には三対三であっても、イコール権利が平等というわけではない。
 まずハルカと被ったのは致命的。傲岸不遜だから遠慮などしないだろう。
 つまるところハルカがピンクの鳩が飛んでると言えば、我々は「はい。そうですね」と答えるしかないのだ。
 それがB班における男女のパワーバランスだった。
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