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第4部 溺れる愛
5-2 ※
しおりを挟む唇に噛み付いた最賀は、舌を捻じ込んで陽菜の口腔内を蹂躙する。歯列をなぞって、舌の窪みを突いてからは絡め取る。唾液が飲み込めなくて、とろりと視界がぶれる。腰が砕けそうだ。
欲しかった口付けに酔い痴れ、膝に力が入らずにいると腰をグッと寄せる。固い物が臍下へ当たり、スラックスの膨らみに気が付く。
「それなら間違っているぞ、陽菜」
「え……っ、んぅう……あ、……は、ぁッ」
靴を脱ぎ捨て、誘導されるままに口付けをしながら、服を一枚一枚剥ぎ取られる。床に落とされ、衣擦れの音が耳にやけに残る。口端から漏れる甘い吐息が、自分のもので無いように感じた。
カーディガンのボタンは呆気無く外れ、ワンピースの前ボタンは既に心窩部より下まで肌を晒す。衣服を脱がされながら、性急な行為に、陽菜は従順だった。最賀にどんな理由であれ、求められるのが嬉しくて。
「猛烈に、大人気ないが……嫉妬で腑煮え繰り返ってるよ」
ストッキングを器用に一番下まで下ろしたと思いきや、ずるりと勢い良く脱がせた。内腿に手が滑って、それから鼠蹊部をなぞる。レースのショーツを意図も簡単に膝下まで下ろすと、粘り気のある愛液が糸を引く。
それがまるで期待していることを示唆するようで、陽菜は思わず内股になる。前屈みになって、下肢を隠した。
最賀に誘導されるがままに、中廊下を深い口付けをしながら後退りする。舌が強引に陽菜の短い舌と絡んで、多く分泌された唾液が混ざり合う。
足に力が入らないのに、脱ぎ去った残骸の服達を視線の端に捉えても抗えない。最賀も、唇を離さずにシャツを脱ぎ捨てながら、食らい付く。
「ひ、ぃ……ッ、あ、ぁあ……アッ、あ──」
「結構そう言うのは、気にしないと思ってたんだけどなあ……」
「な、にか……気を悪く、しましたか?」
「アンタ、玄関前で必死にメール返して何分居たと思う?」
「三分……くら、い?」
「ハズレ、十二分。メールに夢中で、生返事していたぞ。三条と随分仲良くメールしていたなあ」
恋人をそっちのけで、異性を介した幼児とメールをしていたなど言い訳にしかならない。
ましてや、相手は三条である。邪な考えを持たぬ、陽菜をいつだって貶して揶揄ってくる男だ。世界線が変わろうとも交わることの無い、唯の同僚であるのに。
陽菜は他人の視線は敏感だが、好意に至っては疎い。良く、それは最賀に軽く指摘をされる。苦笑気味に、だ。
男性を惹きつける女性は典型的な魅惑のある丸み帯びた臀部に豊満な胸元とくびれだと勝手なイメージが凝り固まっている。それは強ち間違いでも無いだろう。視覚的効果は抜群の威力があるのだから。
けれども、これだけは今言える。最賀の片鱗に触れて強引に求められる運びになったのは、一瞬だけ三条に感謝した。
古びたテーブルが背に触れると、陽菜は息を呑んだ。飢えた獣の前では、ただ貪られるのだと。
眼鏡を乱雑に外して、適当に服の束に放り投げると最賀は陽菜を射止める。獰猛な野獣の双眸が炎を宿して、両腕を頭の上にネクタイで一纏めにしてしまう。
手首の拘束は、解けそうで解けない絶妙な締め付けだ。優しさが垣間見える加減さは、手首の圧迫痕や配慮なのだろう。最賀に手や足の自由を奪われたことは一度たりとも無かったので、ドキリと期待してしまう。
「子供はもう寝る時間だ。此処からは大人の時間なんだよ」
「ごめ、ごめんなさい……忠さんを蔑ろにした訳じゃ、ぁあッ」
「はは、それは知ってる」
陽菜の足を開かせると、唾液で濡らした指が念入りに狭隘を慣らしていく。そうは言っても、とろりと愛液が流れる程度には体は仕上がっている。
最賀は目を細めて、そんなに待てなかったか?と意地悪く尋ねる。二週間以上は待ち惚けを食らったせいで、陽菜は口付けだけで軽く達しそうだったのに。蕩けた温床を丹念に指が確認する。的確に悦びを感じる場所を避けられて、腰をくねらせてしまう。
転がっていた柔らかい平らな座布団を差し込まれると、この行為がより際立つ物に変貌する。これから先、深い情交が陽菜を快楽に落とし込むことを。
腹奥がぐつぐつと沸騰した熱を帯びて、最賀を欲しているが中々満たしてくれない。陽菜は眦に溜まった雫がこぼれ、頬を濡らす。
服は殆ど脱がされ、心許なくショルダーの下がったブラジャーのみの格好で足を大胆に開き。全てを曝け出す陽菜へ、最賀は見せ付けるようにゆっくりと。ベルトを外した。
カチャリと金属音が重なって、ボタンを外しスラックスのチャックが下りる。怒張した男根が窮屈そうに顔を出したがっている。下着を寛げて、屹立して血管が浮き出るものに避妊具を被せた。はあ、と吐息を漏らす姿が何とも壮年の色香が芳しく、陽菜は喉を思わず鳴らした。
「病み上がりだから、優しく……それこそ、アンタだけ達かして、終えようと思っていたのに……」
舌舐めずりをする男の、ゆらゆらと獲物を見据える瞳に唾液を飲み込んだ。
本能的に求められる行為が、こんなにも恋しいとは思わなかった。
肌の温もりや、情欲をだいれくとにぶつけられること。恋人の特権とされる情交は深く、深く、陽菜の寂しさや不安を埋めた。
ただ、最賀の手加減すら無い快楽に直結する動きは、陽菜を狼狽させる。
「ごめ、ごめんな、さい……ッ、腕の……ぁ、んッ」
腕を拘束されたまま、骨盤を開いて膝が折り曲げた体勢で容赦無く熱杭を穿たれる。じゅぷ、じゅぷと淫靡な音が響く。甲高い声が、口から溢れて抑えが効かない。ただ喘ぎ、最賀の熱を受ける。
「締め付けて欲しがってるのに? 別に謝らなくて良いぞ、悪いことはしてないんだから、な?」
「はぁ、あ……あ、強いぃ……ぁあ……んッ、う……」
「腕縛られて、声我慢できないくらい沢山奥突いて……俺だけのことしか考えられなくしてやる」
「忠さ、んッ、だけしか、考えたくなぃ……」
舌っ足らずに最賀の名前を呼ぶ。律動は絶え間なく続く。
この束縛はひどく心地良かった。
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