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第4部 溺れる愛
1-7 ※
しおりを挟む舌先が生き物の様に畝る膣壁の動きを捉える。じゅぷじゅぷと唾液と蜜液が撹拌した淫靡な音が台所に響き渡る。
足の先が丸まっていく。恥ずかしい場所を自ら晒して、快楽に耽るなんて。でも、気持ちが良くて立っていられなくなる。
「ずーっと、優しく紳士的で、寛容な男でいたんだ。アンタの前では、もう偽りたくないんで、な? 受け入れてくれ」
「うぅ、開き直っちゃ……ぁ、アッ、はぁあ……きも、ち……ぃ」
今日一番に大きな甘い声を上げて、喉を後屈させる。内腿が痙攣して、ついに絶頂へと到達した。蜜液が水溜りを作ってしまえば。反論の余地すら与えられない。
この男に作り替えられた体は隅々までしゃぶり尽くされ、体を重ねる毎に快楽へ貪欲となるのだ。
「──足、開くぞ。辛かったら言ってくれ」
くるりと体勢を変えさせられると、足を肩幅くらいに開かせる。いつの間にか、片方だけショーツの金具を外されて、捲られている。
ずぷ、と背後から熱くて太いものが侵入する。隘路を潜ってやって来た芯熱は容赦無く膣壁を抉る。肌と肌が打ち付けられ、陽菜は揺さぶられるがままになる。
快楽に飲み込まれて、嬌声を上げっぱなしだ。口を閉じようにも、最賀の指が口腔内を犯して弄くり回す。そのせいで霰も無い声で啼いては、支配されるのだ。
「あ、ぁああ……入って、きちゃ……こんな体勢、恥ずかしい……ッ」
「深い所で繋がれるぞ?」
「ひ……ッ同時に触っちゃダメッ!」
「気持ち良いのが二倍なのに?」
指の腹で強く膨張した陰核を捏ねられて、目を見開いた。グリグリと的確に与える刺激は、腰に響く。腹奥が沸騰しそうなくらい熱で煮えたぎっており、白状するまで鳴かされる。
弱い場所を律動しながら、敏感な陰核を同時に刺激する最賀は変なところ器用だ。陽菜の髪紐は慣れない手付きで結ぶくせに。
陽菜を悦ばすのは上手い。理性が陥落寸前で、抽挿を止めない最賀の顔が見たくて体を捻る。
「じゅ、十倍だからッ、お願い……おかしくなっちゃいそうで、怖いんです……だから」
「だから、キスして欲しい?」
何度も陽菜は頷いてキスを強請った。最賀は目を細めると顎を掴んで、少し強引に向けて見せる。陽菜に有無を言わさぬ、その優しい支配は甘い毒のようにも思えた。
「怖くなくなるように、するから。舌、出して絡めてごらん」
切ない声で最賀の名前を呼び続ける。分厚い舌が口の中を蹂躙すると、何だかその支配感に安心してしまう。夢中になって口付けをして、舌を絡める。唾液がぼたぼたと床に落ちても構わない。
最賀忠を、愛している。
この醜い気持ちや、薄汚くてもザルのように愛情を求めてしまう性すら。全部を知り尽くされたい。
愛とか恋とか、本能に惑わされて、馬鹿だろう。
けれども、人間はその形の無い、理由とか言い訳とか要らない物を求めてしまう。
恐るな、ただ信念のままに相手を喰らい尽くす覚悟を持っていろ。そう、酔いの回った早坂の本心を聞いた時のことが思い掛けず浮かんだ。
「忠さ、んっ、……また、きちゃう……っ、一緒に……ッ」
「──ああ。一緒に……達けるか、陽菜」
この熱量に、抗えない。
***
「暇してるなら泊まって行けば?」
「え……」
野菜カレーは煮込む程に味わい深くなっていた。
涼しい時間帯に雑草を抜きつつ、家庭菜園の恩恵に肖る。収穫した鮮やかなトマトとゴーヤは竹で編まれたザルに採れたてを示す。
最賀の家庭菜園スペースは、知らぬうちに拡大していて。故に、煉瓦で囲いを作っているらしい。敷居を作って、区分けすると言う。
二時間前まで、陽菜は散々最賀に甘やかされた。ぐずぐずに蕩けて、喘いで、強請ったのである。嫉妬深い男だと知ったのは、良い教訓だ。陽菜も、満更でもない。感情をぶつけられる相手は、最賀なら喜ばしいことである。
最賀は束縛をしない。友人と出掛けても行ってらっしゃいと見送るし、携帯の中を覗き込んだりも無い。涼しい顔でいる。陽菜だけが悶々と抱える独占欲の捌け口に苦しんでいたのかと思いきや。人並みに嫉妬すると知れたので、若干冷静になった。
合鍵まで貰っているのに、人間の欲は深いのだと日々募らせる。怒ったり泣いたり、感情の起伏が激しくなったらどうしよう。陽菜は最賀にどう甘えていたか分からなくなる。
情事では強い快楽のあまり、ぼろぼろと明け透けに言ってしまうのに。
「無理にとは言わないが」
「──良いんですか?」
「そりゃあ……」
顔の土を取ってくれる最賀に、陽菜は顔を綻ばせた。しかし、やるべきことはもう一つある。
夏野菜を無償で段ボール二つ分貰った御返しは、するべきだ。作った物をリリースすることで、均衡は保たれる。持ちつ持たれつ、良好な関係を保持するには必要不可欠である。
「後で関さんの御自宅に一緒に行って下さるのなら……」
「ええ?! 交換条件出すなって……!」
「忠さん、近隣の方と仲良くするのも地域貢献の一つです。特に過疎化と高齢化が進んでいるので」
「あの……俺よりも、関ばーさんと仲良くないか?」
「最賀先生の評判を落とさない為にも、忠さんとして此処に住む上にも必要な交流ですから」
最賀は関のマシンガントークは苦手らしい。
服を整えて、隣家まで徒歩三分。昼過ぎの時間なので、昼食は既に摂ってしまっただろう。
夕食にでも、と思ってインターホンを鳴らす。外観は古びた一軒家で、築四十年の風貌だ。軽トラックが二台あり、離れの小屋は作業場スペースらしい。
「山藤です。急にお訪ねしてしまい、申し訳ございません。夏野菜カレーを作ったのですが、どうでしょう……。お口に合うか分かりませんが」
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