戀の再燃〜笑わぬ循環器内科医は幸薄ワンコを永久に手離さない

暁月蛍火

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第3部 あの恋の続きを始める

7-4 ※

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「だめ、ですっ、窓、開いてるから!」

 前の家主はクーラーが嫌いだったらしい。扇風機と換気の為窓を若干開けていた。声が大きくて、外に漏れないか不安になる。

「ほら、閉めて欲しい?」

「うぅ……はい……お願い、します」

「どうして?」

 霰もない声を晒して、響かせてしまえば噂が瞬く間に広まってしまう。我慢が出来ずに、手首を掴まれたままでは口も塞げない。陽菜は高揚感を諌めて、それでも全てを曝け出したいのに勇気が無くて恐々としか言い出せなかった。

「声、が……」

「ああ、聞かれる? それともセックスしているところを見られたくないから?」

 びく、と膣壁が締まる。体は本能に抗わず、陽菜を素直にさせた。こんな田舎で、地域密着型の飯田診療所副院長と逢瀬が暴かれれば噂は忽ち広がり。どうなってしまうのか、と怖くなる。

 それよりも、最賀の評価が覆ることの方が一番恐怖を感じた。またキャリアを根刮ぎ奪って、貶める行為に直結するのであれば今すぐにでも中断すべきだ。

 しかし、最賀は陽菜へ態と尋ねる。どうしたいか、と。

「ちが、違います。忠さんにしか、見られたくないから……」

 陽菜は本心をぽろりと溢した。この体や陽菜の弱い部分、そして無様な姿も含めて最賀忠にしか明かしたくないのだ。

「俺だって陽菜のこんな可愛い姿見られたくないな」

 窓と戸がゆっくり閉められる。悪戯っ子の様にクスクスと笑みを浮かべている。確信犯だ。

「少し意地悪だったか?」

「あ………」

「これで心置きなく声も、体も全部俺に晒せる、な?」

 深く、深く陽菜の最深部を暴かれる。

 ぐちゅりとだらしなく零れる蜜液が淫靡な音を立てて衣擦れと重なって響く。

 全部晒したくて仕方が無いのに、嫌がらせを受けていることだとか、元見合い相手の田嶋から五年間社交的に付き纏われているだとか。

 そんな世間的には詰まらなくて、味気ない話を聞いてもらいたくはなかった。田嶋は陽菜の実家や、行く先々に偶然を装って話し掛けては仲睦まじさを見せびらかせて居なくなる。

 噂の種になるように、行動しているのだ。山藤家が再度頭を下げて、田嶋家に入ることを間接的に仕立て上げるのが狙いである。

 ただ、陽菜の母が床に臥して緊急手術や長期入院、介護と度重なる不幸もあってか、熱も冷めたのだろうと思った束の間。母が急逝した途端に、再発したかのように息を吹き返し陽菜の周りをうろちょろし始めた。

 陽菜は、こんなどうでも良い話をする時間があれば、正直最賀に己の生育歴すら打ち明けたかった。

 何が好きで、幼少期どう過ごしたか等、全部晒してしまえば誤解すら招く要因が無いからだ。体を晒すと言うことは、心の隙間すら明け透けにするのと同等な行いなのだから。

「あッ……ひ、ィ……ッん、あぁ……っ!」

 切なく感極まった声で喉を後屈すると、愛潮が噴き出した。びしゃっ、びしゃっと最賀の太腿に吐き出されようと動きは止まらなかった。

「……夜通し、したら嫌いになるか?」

「きら、いになんか…なりません。もっと、教えて……ほしいです」

 吐息を漏らして、陽菜は抽挿を再度始めた最賀の熱をただ、受け入れる。最賀が与えてくれるものならば、それが痛みや苦しみだろうと良かった。
 愉悦に浸るだけのセックスだけでは物足りず、最賀の本音も汚い部分も受け止めたいのだ。

「達するときは、なんて言うんだったか?」

「はあ、達く、……達きます……ッ、漏れちゃう、いっぱい、出る……」

「舌出してごらん?」

「え……」

 ちら、と控え目に出すとにゅるりと差し込まれ絡め取られる。唾液を飲むのを忘れるくらい、深くて濃厚な口付けに陶酔する。最賀が密着して抽挿を激しくすると、その強い刺激に目を見開く。

 口も、蜜路も同時に犯され、視界が点滅する。チカチカと火花が散って、顎に唾液が伝っても余裕がない。

 食べ尽くされる、と陽菜は酩酊したかのような目紛しい快感に身を預ける。首に腕を回してしがみ付いて、陽菜は舌を吸い付かれるとビクリと膣壁が収斂をする。
 腰を押し付けて何度か震える。眦から涙が溢れ、切なく最賀の名前を呼んだ。

「聞き、たいことが……ぁ、あるんです」

「うん、なんだ?」

「あ………」

 高揚感でぐずぐずだった思考で、陽菜は好意の有無だとか交際を仄めかす内容を聞こうとした。だが、瞬時にひやりと冷静さを取り戻して、やっぱり躊躇する。

 最賀との距離を急激に詰めるのは、また同じ過ちを繰り返さない為に出来る唯一の努力である。
 互いの知り得ない、初歩的な質問で答えやすいものから始めるべきだ。陽菜は咄嗟に思いついたことを、呟いた。

「血液型……」

「血液型? AO+型だが……深刻そうな顔するから……」

「あと……」

「良し、何でも聞きなさい?」

 直ぐにその様子を悟ったのか、最賀は律動を止めて陽菜の汗で張り付いた髪を耳にかけてくれる。

「出身地?」

「兵庫県明石市。赤道近く。大学は静岡。本当は血管外科を目指していたが壊死デブリ四肢切断アンプタを繰り返す上級医師のせいで砕け散った」

「サイコパス……?」

「俺もそう思った」

 外傷として交通事故で足を失うケースはある。腫瘍が悪性の物だったり、先天性障害も要因として挙げられる。

 けれども、糖尿病で足の切断なんて一般人ではピンとこないだろうが、医療現場では珍しくは無いのである。

 糖尿病を悪化させ、血糖値コントロール不良で足先の感覚を鈍らせた挙句壊疽していた患者もいる。
 糖尿病は生活習慣病の一種だが、合併症である血管障害・神経障害により足の壊疽を引き起こす。最悪、壊疽は治りにくく足を切断せざるを得ない状況に発展するのだ。

 中々染み付いた生活習慣は変えられない。身内や本人が症状に気が付かなかったり、栄養指導を施しても改善されず暴飲暴食を繰り返すことも実際危惧されている。

 血管外科とは、人工透析が必要な患者に対してシャントと言う動脈と静脈を繋ぎ合わせて作られた血管を手術も行う。他にも深部静脈血栓症と言って、太腿や膝周辺に出来た血の塊が出来る疾患の治療や手術も担っている。

 要するに、心臓や脳以外の全身の血管に対する疾患へのプロフェッショナルである。


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