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第3部 あの恋の続きを始める

7-3 ※

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「悪い。俺は今度会ったら、もう離せないって思ってたぞ」

 住居も職場も確保して、陽菜を迎え入れる環境を整えて颯爽と現れる英雄のように。基盤を作るのも、とても苦労があったはずなのに、平然と努力を隠し陽菜へ振る舞う。
 最賀は肩を竦めて、浴衣の帯を解く手を止めた。

「運命に身を委ねたくせに、運が此方を向くように確率を上げる姑息なことをした」

 大人は狡いんです、と最賀は掠れた声で微かに笑った。

「歳を取ると……一度駄目になったなら、運命を信じたくなる。ジンクスと一緒だ、そんなか細い信憑性のないものにすら縋りたくなるんだよ」

 陽菜の髪を一房取ると、最賀は唇を落とした。ベルベットカラーのリボンをしゅるりと代わりに解いて、視線を落とした。

「そこから動けないから、飛び込んでくるのを待ってる、愚かな男なんだよ俺は」

「……愚か、なら私も……そうです。狡いんです私だって……」

 向き合ったまま、陽菜は最賀の頬を両手で包み、口付ける。何度か触れるだけのキスをして、痛みを共有しようとする。
 最賀はきっかけを作って、陽菜に選ばせたのだ。飛び込む勇気があるのなら、一緒に沈む覚悟だってある。

「先生、五年前の続き……を始めたら駄目ですか?」

「……そうか、俺たちはまだ……そうだよな」

 間違えたのならば、最初からやり直したら良い。 

 五年前の続きを、今日から始めるのだ。

 陽菜は最賀の甚兵衛の紐を緩めた。あっさりと解けるから、不得手の人間に代わって自分がすれば双方共に楽だろう。
 薄くなった肌は肋骨すら浮き出ていなかったものの、痩せた気がする。胃潰瘍は体重が激減するらしい。

 陽菜だって、以前は痩せ過ぎて密着すれば骨が当たっていただろう。次は陽菜が最賀を健康的な体に戻す番である。

「俺の体まじまじと見て……何か見付けたか?」

「今度は、私が先生を太らす番です」

「うーん、それは楽しみだ。食事管理してくれるってこと?」

「隠れてお弁当、渡します。全部食べて下さい」

「弁当? 大変じゃないか?負担になるなら大丈夫だからな」

「二人分作るのも大して変わらないので」

「……昼休憩で医局戻る度に、嬉し過ぎてスキップしていたら華麗にスルーしてくれ」

 最賀がスキップをする姿を想像して、陽菜は思わず噴き出した。面白い光景だ。笑いが込み上がって、陽菜は何とか堪えようとする。そんな陽菜を、最賀は笑わないでくれ、と微笑して今度はスムーズに浴衣の紐を解くのだった。



***



「好き、好きです……っ、そこ、はぁ……っ」

 がつがつと獣が飢餓状態で血肉唆る餌が目の前にあるかのように貪る最賀は、葬式で再開した時よりも強引な手付きだった。
 陽菜も、それをずっと望んでいた。力強く、抗えない圧倒的な力で連れ出して欲しかったのだ。

「先生ぇっ、ゆ、び……っ」

 窮屈で、狭まった膣壁を掻い潜ろうと最賀は念入りに弛緩させようと優しく愛撫する。

「はあ……、キツイな。あれからずっとしてなかったのか?」

 あれから仕事に慣れるまで、最賀とは職場でしか顔を合わせていなかった。電話を掛けたって良いのに、まだ踏ん切りがつかず足踏みばかりしていたのだ。

「……私が、どんな、思いで」

「浮かれて、自分本位に喜んでしまいそうなんだよ。陽菜が、俺と同じく……待っていて、くれたとか勘違いしそうになる」

 陽菜の方が、待ち人である。

 最賀のキャリアを根刮ぎ奪った、浅はかな若気の至りとは到底言えない身勝手な行動を取ったのに。最賀を好きで居させて下さいなんて、烏滸がましいくらいだ。

 いや、図々しい女である自覚はあった。

 五年の月日は贖罪を求めて彷徨ったものだ。介護も、結局自身の疎ましい行為が許せず、罪に囚われたから献身的な介護でチャラにしたかったのかもしれない。

 そう、外野に言われてしまったら、陽菜は途端に否定する自信が無くなる。一瞬だけ、脳裏を掠めた狡猾で利己的な思考があったのは事実だからだ。

「勘違い、じゃ、ない」

 陽菜は徐に膝立ちになって、指を濡れた狭隘に誘う。ぬぷりと指を誘導して入れると腰がゆらゆらと揺れる。

「は、ぁあ……、教え、てくれたのに……っ。ここ、お腹の方摩られると、私、何も考えられなくしたの、のせいです」

 擦った先に陽菜は高い声で盛大に腰をひくつかせて達する。最賀が怖気付いているのが、肌の湿り気で感じ取ったから、陽菜が覚悟を示したことを証明するつもりだったが。びしゃびしゃっと最賀に見られて愛潮を出して指を締め付けるくらいには。

「あ……ッ、出ちゃ……う」

 体を捻って内腿を震わせる。最賀の指の動きに合わせてシーツに水溜りが出来る。

「今日は沢山出せたな、陽菜」

 浴衣がはだけて、陽菜の艶かしい肌が露わになる頃には、意識が朦朧としていた。快楽で歪められた視界、獣欲に囚われて、はしたなく喘ぐ。女の悦びを一段と甘美へ変える最賀は、果てしない快感の渦へ陽菜を連れて行った。

 何度目か、もう分からないくらい絶頂へ辿り着くと陽菜の理性は風に吹かれるくらい軽く吹き飛ぶ。最賀は陽菜の体の隅々まで知り尽くし、陽菜が好きな場所を把握している。

「こえ、我慢……でき、ませんッ、奥、怖い……っ!」

「うん、大丈夫……奥好きだったもんな…」

 腕を一纏めにされて、ぱん、と打ちつけられる。胸元がしなやかに揺れて、妖艶だ。乱れた陽菜に対して最賀はうんと優しい声で宥める。

「声沢山出して良いから、気持ち良くなってごらん?」

 今夜は長くなりそうだ。最賀は柔らかい笑みを浮かべているが、ギラギラと眩く鋭さを放つ眼光は獲物を捕らえた獣である。

 腹を波打たせて、腰を擦り付け甲高い声を上げて陽菜は喉を後屈させた。ビクッビクッと体が跳ね上がって、制御出来ない。呼吸が疎になるくらいの強烈な快楽に陽菜は喘ぐ。

「あ、だめ、ッ、イッた、ばっかりだからっ」

「五年越しなんだ、この間は慎重だったが、今日からは手加減しない」

「え……、てかげ、ん、って……ひ、ぃっ、あ、ぁあっ」

 容赦なく剛結を押し付けて律動させる。陽菜は絶頂は何度も居続けられる。
 そのせいか、鼠蹊部がひくひくと動く度に、蓋の隙間から蜜潮が漏れる。じゅぷじゅぷと卑猥な音を立てて突き動かす。


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