戀の再燃〜笑わぬ循環器内科医は幸薄ワンコを永久に手離さない

暁月蛍火

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第2部 空白の五年間

5-5【男の悪夢と重ねる篇 上】※

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 夢の中の男は五年を迎えると、段々と人間味が増してきたせいか。陽菜が知るやさしい男とはかけ離れていった。

 乱暴な手付きとは裏腹に、男しか記憶していないこの肢体は悦びを意図も簡単に得る。そう仕組まれている。夥しくも細胞一つ一つが活性化して、指数が上昇するのは男の篭もる熱や、欲情した匂いが影響したからかもしれない。

 通算二十八回目の夢。情交中に、境目が曖昧なくらいに鮮明な夢で、リアルな感触で実感する。

 白い天井を遮る様にして、陽菜の体を隈無く詮索するのは愛しい男である。服は乱雑に床に放り落とされて、へたっている。性急さに拍車をかけて、陽菜はシーツに体を沈めていた。

 その場所は広々と清潔感のある白を基調とした煉瓦模様の壁、床は柔らかな手触りの良さそうなシャギーラグが敷かれている。
 部屋の真ん中にベッドが置かれ、周囲にはサイドテーブルは見当たらず、そこでは体を休める為だけに用意された部屋だった。

 酸素を取り入れる為に胸を上下する。荒い呼吸を繰り返しては、夢だろうと与えられるものが本物の快感であると流石に戦々恐々するものだ。

「少しボーッとしてるな、弱過ぎたか?」

 きっと、今までは手加減をしていたのだろうか。

 それだけではない。陽菜へ優しく、労わり慈しむように抱く男は本当に陽菜を気遣っていたのだ。

 だから、二十回目を超えてからの夢では己の欲求を、本当の凶暴さが滲んだ男が目の前に立ちはだかる。今夜までの八回は、ただただ、男に翻弄されて屈服し、一方的な愛情と欲望を陽菜は押し付けられていた。

「ひぃ……ッ、つよ、強いですからぁッ! お願い、ぐりぐりしちゃダメ!」

「ああ、やっぱり。潮出るくらい気持ち良いのに、嘘を吐くのは良くないぞ」

「ちが、違います……っだって」

「だって? 言い訳するなら聞くが……俺の手を見てもそう言えるか?」

 ぐっと顎を掴んで、陽菜の視線を逸らすのを妨害した男は慈愛の顔をしていなかった。
 獣欲を映した鋭い双眸と、反対に口角が下がった面持ちで濡れた腕を差し出す。

 男は笑みを浮かべたりはしない。

 多分、これが本来の男の姿なのだろう。

 陽菜の前では紳士的で優しい姿しか見せず、心の奥底には獣を飼っていたのだと。

 温厚だった男はすっかり隠れてしまい、目の前にいるのはただ欲情するただの男だ。
 額に汗が滲み、前髪が張り付くと鬱陶しそうにかき上げて、溜息を漏らした。白髪が疎にあり、気怠そうなところは官能的で、男の色香を漂わせている。

「俺の腕までぐっしょり濡らして、それでもまだ気持ち良いって認めない?」

「う……ぅっ、怖い、先生ぇ……ッ」

 堪らず、陽菜は目尻から涙が溢れた。喉を震わせて啜り泣いていると、男は怪訝そうに首を傾げる。
 別人とも言えるが、男そのものだ。
 恐怖を覚えたのは、ひんやりとする声の低さや視線が正に獰猛な獣と同じで、捕食どころか骨の髄まで貪られると思ったからである。

 夢は願望が具現化したもの、なんて言う習わしはは全く的外れにしては良いところだろう。

「アンタが好きな男が目の前にいるのに、怖いなんて……どういうことだ?」

 そう、目の前にいるのは陽菜が好きな男だ。

 姿形変わらず、陽菜が愛した男である。

「俺がアンタに怒鳴ったり、大きな声を出して咎めたりしないのは陽菜が一番分かっているだろうに。そんな卑劣なことをする男は、人じゃない」

 男に怒鳴られたり、大声で威圧されたことは一度だって、無い。
 例え叱責したとしても、頭ごなしに否定はしないからだ。間違いを犯しても、必ず穏やかな声音で相手を律してくれる。

 父のように、親友のように、時として母のように。

 陽菜の恋人だった男は、まるで菩薩の心でも持ち合わせているのかとすら幻想を抱いてしまう。
 淡々と話したと思えば、今度は穏やかな声音で陽菜を懐柔させようとする。

「話してごらん?」

 陽菜はひくひくと喉を鳴らして、けれども何とか震えた声を振り絞った。
 愛情に飢えた陽菜を、湯水の如く大きな愛を注いでくれたのに、性急な行為にを拒もうとしている。
 それは何だか不誠実だ、とグルグル頭の中で混乱した糸が絡み合って解けない。

「先生、なんだか……怒ってる、みたいで」

 怒気すら孕んでいないものの、男は心底では怒りを抱えている空気を纏っている。
 ぞわぞわと鳥肌が立ち、怒られそうと言う危険信号が永遠と陽菜へサイレンを駆け巡らせていたからだ。

「──ああ、俺はいつも怒ってるぞ。自覚はあるし、制御している。だから安心してくれ、アンタに八つ当たりしたり、拳を奮ったりはしないよ」

「え……っ、うぁ、あっ……ッ!?」

 ぬるぬると蜜液で濡れた掌が、男の屹立へ塗ったくられる。
 潤滑液代わりにして、湿り気を増してから足の間へ体を入れ込む。嵌入されると、質量の大きさに陽菜は全身を身震いさせて、息を張り詰めた。

「俺は自分がこうやって好きな女性を困らせて、挙句の果てこんなひどいことして泣き叫んでも愉悦に浸る自分に怒りを覚えているんだよ」

 陽菜の腰に指が食い込む程の力で掴み、打ち付ける。
 猛烈な快楽の波が襲って来て、息絶え絶えに陽菜はもがいた。シーツを掴んで荒波に耐えようとすると、その彷徨う細い手首を簡単に捕らえられてしまう。

「それに……弱者に優しくない社会とか、人を踏み台にしてもへっちゃらりんな奴等が心底憎いし」

 訝しげな表情で、逃げるのか?と尋ねたそうな様子だ。

 違う、と陽菜が息を呑んでからそれだけ発すると、目を一度だけ瞬きしただけだった。

「未完成な家族で育ったのに、理想的な家族を作ろうとして失敗を重ねて子供を不幸にする姉も」

 ──姉?

 男の家族構成が急に浮き彫りになって、陽菜は断続的な動きの中で身悶えながら考えた。姉の存在は、初耳なのである。
 てっきり、男は一人っ子か長男だと思っていたが、違うのかもしれない。男の与える印象とは相反するのならば、陽菜が感じていたものは作り上げられた優しさなのだろう。

「勝手な人間に飽き飽きして、仕事だって……」

「ふぅ、ぁ……あっ、ァあ……ッな、なんで」

 胎内を蹂躙する芯熱は、陽菜を攻め立てる。
 独り言の様に続く男の言葉とは裏腹に、律動は止まることは無かった。陽菜は大粒の汗を流して、肌に滴が乗る程に体は沸騰して、熱を帯びていた。
 身体中がふつふつと熱を生み出して放出したがっている。暑くて仕方がないのに、離れたくなかった。

 男が与える快楽へ愉悦を得て、蜜液と撹拌する淫靡な水音は次第に大きくなる。
 ぐちゅぐちゅと卑猥さが増して、陽菜を辱めるのだ。粘り気のある音が重なるのは、悦びを感じているのを具現化しているようなものである。

「笑うのも怒るのも諦めて、海月みたいに流されて生きた空っぽな男なんだよ俺は」

「い、ッあ、ぁあっ……だ、めっ、ダメッ、奥、来ちゃダメッ!」

「俺を満たしたのは、アンタだ。責任を持って、欲しい。俺に人を愛し慈しむ心を教えたのは……陽菜なんだから」

 責任が生じるのならば、それで良い。一生分縛り付けてくれる理由であれば、陽菜は喜んで受容する。

 あの麗しき誰もが振り向く婚約者との間に、仮に体の関係があったとしても、だ。

 いや、それは語弊がある。
 男が彼女に触れて、隅々まで味わい尽くしていたら、陽菜は許せないだろう。性別は関係無い、醜い嫉妬の炎で陽菜を焼き尽くしてしまうかもしれない。
 あの長くて枝毛一つ無い綺麗な黒髪を指で梳くなんて、想像しただけでも気が狂いそうだった。

「逃したり、しない。今度はどんな手を使っても、例え何年、何十年かかっても、アンタの手を掴んでやる」

 けれども、痛いくらい気持ち良い快楽の狭間で朦朧とした頭では男の言葉は、残念ながら陽菜には届いていなかった。
 何十年?と断片的に鼓膜に響いた言葉に、呂律が回らない舌で聞き返す。

「俺に約束、したもんなあ。来世でも俺と出会ってくれるって。俺はそれを聞いた時、鳥肌が立つくらい嬉しかったんだよ」

 そうだ、来世ではきっと幸せになれるのだと、儚い願いを胸に仕舞い込んでいたのだ。

 輪廻転生が存在するのであれば、陽菜は世界中を探し回って男を見付けるだろう。子供の考える発想だと指を差されようが、お構い無しに遂行する。

「陽菜……、俺たち何を間違えたんだろうな」

 抽挿が速まる。亀頭が入り口付近に停滞した途端、深く奥にめり込むくらいに突き動かされる。

「はぁあ……ッ、ぁ、あ……イヤ、いやです……ッそんな、私……たちっ何も、なにも間違えてなんか……」

「でも、俺達は夢でしか、こうやって塩を塗ることも出来ないじゃないか……」

 男の悲壮感とは真逆に、激しく腰を押し付けて陽菜を高みへと強制的に連れて行った。爪先を丸めて、びくりと陽菜は視界に稲妻が走ると、甲高く甘い声を上げる。
 膣壁が収縮して、呼吸が浅くなって、それから甘美なチョコレートの様に揺蕩う。

「あ…………ッ」

 同時に、とぷとぷと注がれる生暖かい白濁は胎内を満たしてくれる。
 一滴残らず膣壁が収縮して生理的に搾り取る。隔たりを無くしたいから、と心の叫びが聞こえた気がした。陽菜は呆然と、ただ内腿までしっとりと流れ落ちる体液の感触に身を震わせた。

 夢の中だと頭では分かっているのに、思考回路は追いついていない。戸惑いと、本音でぶつかってくれたと言う歓喜に苛まれる。

 ──私、どうして、こんな夢見るの?

 初めてこの強烈な印象を与える夢を見た時は、目覚めた日はもう布団がぐちゃぐちゃに散乱していた。
 衝撃的な夢に、汗をびっしょりかいて、涙と鼻水で顔が濡れて悲惨だったくらいだ。ベッドで無理矢理手篭められて、落ちそうになっても足首を掴み引き摺られた時は夢なら早く醒めてくれと悲痛な叫びを上げた。


 だが、ある一定の何かに到達しなければ醒めないことに気が付いた。


 男が納得するか、陽菜が陥落するかの究極の二択である。


 それでも、八度目となれば、男の真意を知りたくなった。
 こんなひどいことをしなくても、陽菜の心は決まっている。

 どんなに痛くて無理矢理押さえ付けられたとしても、男を愛しているからだ。

「──怖いおとこだろう?」

 男は低く掠れた声で、そう呟いた。睫毛が伏せられて、表情は重々しい。

「優しくしたいのに、優しくできない……」

 そう言って、陽菜の体に覆い被さった。
 一度だけじゃなく、何度か男の嘆きに近い夢を見るようになったのは二年前からである。

 男は最後陽菜へ謝罪して、でも手を止めない。止められない、と表現する方が正しいのだろうか。震える手で陽菜を掻き抱いて、痕跡を辿っては再度上書きをするのである。

 陽菜はこんなにも、男が弱った姿を見たことはなかった。
 男の生育歴はやや掻い摘んで話してもらったことはあったが、家族構成も詳しくなかったからだ。テレビの中の温かい家族とは程遠く、両親は子供に無関心だったとはぼんやりと聞いたことはあったが。

 不穏な空気に、陽菜は物怖じせず男と向き合うのは勇気が必要であった。
 男は陽菜を壊すくらい無茶苦茶にして、理性を根刮ぎ奪って陥落させても手篭めにするつもりだ。それ程までに、冷え切った声音が陽菜を脅している。

 これは、一つのだ。

 痛みに苦悶を現すことは無いが、迷いを浮かべた途端に強く双丘を引っ掻いたり、執拗に弱い秘粒を弾いたりして陽菜を追い込んでいく。
 陽菜の有耶無耶な言葉は聞かなかったことにするらしい。男は陽菜が考える隙を与えずに、このまま根負けさせようと強引な手付きで掌握しようとしている。

「わ、たしは……」

 ──あの時、私が全部捨てても貴方だけを、と言えていたら。

 そんな、過ぎ去った後悔が脳裏を掠める。

 蕩けて揺らいだ瞳の視線は、男の情欲に向けられた。

 舌舐めずりをして、獲物を捕食する獣は陽菜へ容赦無く組み敷いた。
 声は枯れるくらい泣き叫んだし、シーツは愛潮と他の体液でベタベタだった。痛いことはない、ただ……辛いくらい気持ち良くて意識が飛んでも引き戻される。終わりが見えない快楽の渦に堕とされて行く。

 やっと終わった、と思えば軟らかく男の形を記憶した秘烈にまた無骨な指が掻い潜って、掻き回す。
 ジュプジュプと混ざり合う卑猥な音を大きく立てて、腹側を摩るのだ。腰をくねらせて、逃げようとするも捕まえられる。

「あ……ッ、う、そ、……なん、でっ……ひ、ぃっ?!」

 丸い臀をやんわりと揉まれてから、軽く叩かれて。その軽い衝撃に小さく悲鳴を上げた。痛みよりも、じんわりと広がる熱に吃驚したのだ。

 咎められたせいで、陽菜はそこに留まった。
 抵抗することを止めて、男を受け入れることだけを考えた。腰を高く上げられて、ぬぷりと芯熱が穿つ。腹を突き破るくらいに激しく、奥深くを抉ってはマーキングするかのように擦り付ける男の轟に陽菜は咽び泣いた。
 顔も見えないし、肘裏を持たれているお陰で訴えることも出来ない。

「もう、やめて……ッ」

「こんなに中畝って、離したがらないのに?」

 男が遠い。隙間すら感じないくらい、密着して、離したくないのだと心の底から安堵したかった。背中はひんやりと曝け出されたままで、熱すら感じない。

 時折、熱い吐息がかかるだけで、それなら肩だろうと首筋だろうと噛み付いて所有印を付けてくれた方が良かった。

「……遠い、から……私のこと、滅茶苦茶にしても良いから……ぎゅってしてぇ」

 陽菜は目尻からぼろぼろと涙の雫を落として、男へ懇願した。切実な思いをぶつけるしか、今の陽菜には物理的にも不可能だったから。

 すると。ぴたりと肘を掴む力が緩んだ。
 男はあっさりと体勢を変えて、陽菜を仰向けにする。繋がったまま器用に体位を変えるなんて、と挿入の角度も異なるので陽菜はうう、と呻いた。

「涎と涙と汗でくしゃくしゃになってて……可愛いなあ、陽菜」

 舌でべろりと掬う。陽菜は紅潮した頬のまま、じっと男を見上げた。

「忠、さんの馬鹿……」

 目を細めて睨むと、くつくつと喉を鳴らして笑う男がいる。

「頭のネジ飛ぶくらいには、狂おしい程に愛してるんだが」

「乱暴に、しても良いです……。だから、キスして……」

「キス?」

「そうしたら、正面から……ッ、好きなだけ、沢山此処に注いで下さい」

 薄い腹を摩る。

 もう、ヤケクソだ。

 正面から抱き潰されて中に放たれるなら本望である。甘く深い口付けと、抱擁をされながら、女の悦びを得られるのであれば。
 陽菜の言葉に連動して、男はくすりとやっと柔らかい笑みを浮かべた。

「……ああ、そうだったな。たっぷりのキスと、愛で溺れさせるよ」

 上手く息継ぎが出来なくても、男性の喜ばせ方すら未熟だろうと男は嫌がったり、咎めたり、面倒臭がったりしない。
 少なくとも、そんなテクニックは必要ないよと宥めるから陽菜は未だにコラムで大々的に書かれる飽きさせない方法と言うものには無知であった。

 男の深い口付けは、陽菜の不安な憤りを刈り取ってくれる。そこだけを抉って紙を切る様な要領で陽菜の蟠りすら無に返す。無限な愛を注がれて行くと、陽菜は満たされるどころか喉の渇きを覚え始めた。
 男にぴったりと肌を合わせて、体温を感じ取ると胸の支えが取れる。不思議な感覚なのだ。これは、一生陽菜が付き合うべき障害だと瞬時に悟った。

 男が全ての障壁を解決するだけでは、決して良い道には辿り着けないことは、もう分かっている。

 陽菜が大人の階段と言う不確かな踏み台を確実に登るべきなのも。
 登り切った先に、果たして男が待っているかは神のみが知り得るのである。

 だから、男を繋ぎ止める為の愚行ばかりを模索してしまって、感情の赴くままに行動をするのは人間本来の生き方であることを自覚したのだった。

「あ、し……開いちゃ、見えちゃうよお」

 ぴく、と陽菜の膝が震える。男は湿潤に満ちた秘所に傾注しており、膝裏を持ったままでいた。

「隅々まで見せてくれるって、言ったのはアンタだぞ?」

 大きく開かれた足の中心部には男の象徴とも言える熱杭が灼熱の如く直接、再度食い込んできた。
 陽菜は耐え難い排尿感に似た、下腹部の違和感に泪ぐむ。絶対、出てしまうと堰き止めていた水の制御が不可能の地点まで差し迫っていたからだ。

「ぁあっ、やだッ、奥とんとんしたらッ、また出ちゃう!」

「出しちゃうのクセになったか?」

「止まらない、からっ、ぃくの止まらないのッ」

 陽菜は赤い短い舌をちらちらと覗かせながら、必死で拙い口調でも訴えた。
 男が聞きいる素振りは見せなくとも、もしも霰もなく漏出しても止めたのにと言う大事な言い訳だけは有効にしたかった。

 陽菜は、秘密にしていたが男の愛撫が激しく的確に快い場所を狙われれば容易く愛潮を出すのが癖になっていた。陽菜の意思とは関係無く、体は出したがって必ず男の腕や腿を濡らしてシーツに水溜まりを作ってしまう。

 それが、とても恥ずかしくて、でも男に見てもらいたかった。男の愛撫で陽菜は弱い女になったし、何より嘘偽りなく曝け出せると言う開放感もあったからだ。

「さっきまで舌で嬲られてよがってたのに」

「弱い所ばっかり、攻めちゃ……ッひ、ぃんっ、ぁあ……あ、あ……ッ」

「尖らせてるぞ、気持ち良く無いなら、こうならないのに……」

 膨らんだ胸元の先端をきゅ、と摘み上げてから摩る。元々尖っており、期待に満ちた刺激に心臓が高鳴った。咀嚼された男茎を根本から咥え込んで、奥を度々ノックされる。
 上も、下も、男の思うままに操られて陽菜は臍の下がきゅんきゅんと疼いてしまう。

「摘んじゃ、ダメ、ぃ……ッぁあ……」

「中、締まったな。お気に入りなのに、イヤイヤ言ったらもう触らなくなるぞ?」

「あ…………」

 陽菜は言葉に詰まった。触らない、と手が引いて行くので切なくなる。桃色に染まった尖りを避けて、やんわり腋窩から膨らみを撫で上げて、男は陽菜に本音を言わせようとする。

「ん?正直に言ったら、気持ち良いこと、もっとするぞ?」

 皮膚越しに伝わる籠った熱が掌を通して、陽菜の肌に乗る。触れられた部分がじわじわと痺れと共に熱伝導を起こし、再び刺激されることを求めている。

 観念して、陽菜はおずおずと男へ吐露した。額に口付けた男は陽菜の素直な気持ちを明かすのを待っている。汗ばんだ額から滲む滴を唇で受け止めて、男が何処を?と再度尋ねた。

「こ、こ……舐め、てほしい」

「ここ?」

 とうとう、その頂点に舌が這う。生き物の様に蠢いて、口唇が敏感な場所を挟んで吸い付く。
 じゅ、とたっぷりの唾液に包まれて滑りが良くなれば、羞恥さえも凌駕する快楽に陽菜はあっという間に飲み込まれていった。
 喉から込み上がった甘い声で啼くと、腰をくねらせる陽菜を男は捕まえては目を細めただけだった。

「あっ?! あ、きも、ちぃ……ッびりびりきちゃうからぁ……ッ」

 煌めいた閃光が、陽菜を忽ち襲う。ギラリと光った瞬間に双丘の執拗な舐りだけで達してしまった。産毛が逆立ち白い喉を曝け出して反り返って余韻を噛み締める。
 ひくひくと媚肉が畝ると、男はにんまりと口元へ弧を描く。

 これ以上のない悦びは、永遠に続く気がした。

「はあ、アンタはなんでこんな可愛いんだろうな……加減を忘れてしまいそうだ」

「か、げんしたら……許しません、から」

「──そう。それなら、俺はアンタが忘れないようにしっかりと刻むからな?」


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