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第1部 まるで初めての恋
6-3 ※
しおりを挟む「……私、十六歳の頃から、泣かないって決めていたんです」
十六歳。髪をベリーショートにしても体は成熟に向かって育って行く。
だから、辞めた。何もかも。
「悲しくて、辛いことを泣いても良いって教えてくれたのは、先生、ですよ」
涙は自然に止まるのを待った。これは、悲しいだとか苦しいからとかそんな、生半可な感情で流れた物ではなかったからだ。
「だから、胸の内に溜まった物が、自然に……」
陽菜が涙を流して、暫く生理的に雫を落としても最賀は拭ったりは決してしなかった。手に力が入って、ぎゅっと拳を握り締めたのが腕の動きで分かる。
「先生…は?」
陽菜の問いかけにも、黙っている。口を噤んで、それでも無かったことにはしない。そんな最賀が陽菜は好きである。
「た、だしさん、泣いても良い…んです」
はらはらと前を見据えたまま、最賀は涙を零していた。拭うことすらせず、ただ過去の苦しみを吐き出している様に受容する過程に入っていた。当時、受け止めきれなかった感情の澱みを、歳を重ねて折り合いをつけようとしていたのだ。
「私、全部受け止めたいんです」
たかだか二十三年しか生きていない陽菜が出来ることなんて少数である。それでも、最賀の重荷や苦しみを一緒に背負いたかったのだ。
「ただし、さん……あ……っ」
露天風呂から上がって、浴衣を簡易的に身に付けてもその後にある行為は双方共に察していた。
一応、パフォーマンスで浴衣を羽織ったものの、結局敷かれた布団の上で肌を晒すなんて分かりきったことだった。
「────なんだよ、そんなに見て」
女の体とは異なる、男の引き締まった筋肉量の違いに陽菜は恐る恐る触れる。浴衣の襟元を手に掛けて、情欲を宿した最賀を脱がせたいとも思った。
服を剥いて、素肌を直接感じで、隔たり無く最賀の熱を受け止めたいなんて、ぬるついた秘所や疼く腹奥が急かすのだ。
「私が、脱がせても良いですか?」
拒否する素振りなく、どうぞとされるがままに陽菜の行動を最賀は受け入れた。縞模様の藍染めされた浴衣は手触りが良くて、つい堪能しがちだったがメインは最賀である。
帯紐を解いて前を寛げて、陽菜は生唾を思わず飲んでしまう。陽菜はそのまま肌を合わせて、はあと吐息を漏らして最賀の熱を帯びた肌を感じ取る。
「先生の肌、凄く気持ち良くて……」
「それはアンタの方だろ」
「忠さん、気持ち良い?」
「もちろん」
「良かったぁ……」
キスを強請れば、最賀は直ぐに陽菜が欲しいものを与えてくれる。くちゅくちゅと口腔内で互いの唾液が撹拌されて、頭の中は最賀を受け入れることだけを考えた。
「でもアンタをもっとどろどろに溶かしてやりたい」
何度も、互いの間違いを正当化したくて、肌に乗った熱さだとか、籠った吐く息を感じ取らなければ消えてしまう。そんな儚さが二人の前に現れて、時間すら忘れて体に刻み、記憶させる。不器用で、浅ましい行為なのにだ。
「はあ、暑いな……」
ばさっと浴衣を肌けて乾いた唇を舐める男に貪られたくて、陽菜はつい期待してしまう。陽菜はどきどきと布団に転がされたまま、最賀を色欲の瞳で見上げて見せる。
「ただ、しさん……」
「寒くないか?」
「……平気、です……忠さんあったかくて」
陽菜がおずおずと秘裂を指で開いて、中に侵入する男根に喉を震わす。0.03ミリの薄さでも体感する熱量が陽菜を満たすから、息を吸う頻度が高くなったまま言う。
掛け布団を掛けなくても体は熱っぽくて、陽菜は肌に乗る汗がやけに心地良く感じた。
「両方?」
「うん……中、も」
「そう、か」
数え切れない程に互いを求め合って、意識が保てていたのは深夜三時くらいまでだった。陽菜は啜り泣く声音で、最賀に奥まで欲しいと言った。避妊具越しでも、最奥で感じ取りたいと心が叫んでいる。
知らぬ間に足をクロスにして受け止めて、それから掠れた鼻声で最賀の名前を呼ぶ。
どく、どくと胎内で薄い膜越しに放たれると、強い安心感と幸福感に襲われて満たされる。
だらりと腕がシーツに落ちて、繋がったまま睡魔を受諾する。数十分して、徐々に覚醒すればまた振り出しに戻って、再開を果たす。
「あ、そこ、まだ…敏感……だか、ら…っア…」
大きく足を開いて、もう全てを曝け出してしまうのだ。結局少し茂ると下着に擦れて変な違和感が我慢出来ず処理する、と言う負のループを繰り返して結局剃るのである。
それもあってか、最賀は舐めやすいと目を細めて意地悪く言うので、やっぱり獣なのだと思う。
それに、風呂で隠れて処理をし、鏡でチェックする必要も無くなった。最賀が気になるなら俺がする、と申し出たのだ。
勿論、全力で断ったが大きめな立てかけられる鏡が手元に無い状態で隅々まで処理を施すことは至難の業だ。
下手したら、怪我をしてしまう恐れもある。最賀は陽菜の羞恥心を察せず、桶に座った陽菜の足の間を真剣な眼差しで剃刀を手に処理を行ったのだ。
良く聞く話では、下の処理を恋人にさせると、情欲を孕んで時折指を掠めて性的興奮を与えるなんてこともあるらしい。
だが、最賀はそんな素振りや視線すら見せない。達成感で満足したのか、泡を洗い流して出来上がりをチェックしてから、陽菜の足を閉じたからだ。
「やっぱり無い方が、陽菜には楽か?」
「ぅ、……んっ、ぁ……清潔、な感じ…でっ、私は……こっちの方が、好き…です」
「凄く見晴らしが良くて、俺も好きだな」
「そ、れはぁ…っア、ぁあ?! っ、だめっ、グリグリしちゃ、やぁ……っ!」
舌先が容赦無く陽菜を追い詰める。花芯を先端で押し潰すように態と粘って、見せ付けるのだ。その艶かしい行動に目が釘付けになって、足を大きく折り畳まれて羞恥心は頂点にあるのに根刮ぎ奪われてしまう。
何度も行き交いを繰り返して掠めて見たり、けれども緩急付けて攻められる。蜜口からは涙が止まらなくて、下敷きにしているバスタオルはびっしょりと濡れていた。
「腰……無意識に押し付けて、やっぱり陽菜は少し強引なのが好きなのか?」
「そんな……っ、は、ぁ……っん…忠さん、だからぁっ」
強引に、優しく、飴と鞭を上手く使い分けられると陽菜は弱かった。時に強目の愛撫に陥落し、時に懇ろに手厚い前戯の後は(ねんごろ。親切で丁寧)組み敷かれる。
そんな、最賀の巧みな先導に陽菜は順応していった。最賀が快楽を上手に受け止められるように陽菜の全身に教えたのだ。
だから、陽菜は最賀の一つ一つの動きや言葉に反応して、瞬く間に絶頂へ打ち上げられる。
「じゃあ、少し指で開いて見せてみろ」
「ゆ、び……?」
「一番敏感な場所、俺に……陽菜だって見てもらいたいだろ?」
恐る恐る二本の短い指で、襞を開いてぷっくりと充血し顔を出した芽芯を曝け出した。最賀がその状態で、唾液の滴る滑らかな舌が確かめるように這う。
自分で弱い秘所を見せ、まるで舐めてもらいたいと強請る行為は、もう恥ずかしくって仕方がなかった。なのに、陽菜は的確に刺激を与え、気持ち良くさせる最賀の献身さには抗えなかったのだ。
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