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第1部 まるで初めての恋
5-5 ※
しおりを挟むウエストがキツくて、陽菜は自分の手でスカートのホックを外した。
チャックを下ろして、動きやすいスペースを作り出して最賀とのこれから行われる交合を間接的に誘う。陰核に触れようとした最賀の手を陽菜は止めて、切ない声で最賀へ伝える。
「声、我慢、します……だからっ」
「ほら、その話に乗ったのは俺だぞ?俺とアンタは共犯なんだ」
スカートを捲られ体を差し込まれれば、くぷぷと固くて太い物が陽菜の内側を犯す。
二人分の体重が古びたパイプ式ベッドはギシギシと軋む音が鳴る。意外にも大きな音が響くので、最賀は眉間に皺を寄せて、少し考えてから陽菜を抱き起こした。
「結構年季入ったベッドだからな……良く軋むんで、体勢変えるぞ」
逞しい腕が陽菜の体を軽々と持ち上げて、そのまま壁に背が当たる。
最賀と挿入したまま正面で抱き上げられた状態で、陽菜は慣れない浮遊感に無意識にしなやかな足をクロスしてしがみ付いた。
不安定にも見えたが、がっしりと支えられており、最賀はやっぱり軽いなと呟き抽挿を再開する。
「はあぁ……ふ、……んっ、ぁ……せ、ん、せぇ……っ」
最賀の体にしがみついて、肩口のシャツに噛み付いた。声が抑えられないから、唾液が滲もうがお構い無しに。最賀は熱っぽい声で小さく笑って陽菜の背中を摩る。
熱杭で穿たれ、揺さぶられると泥濘んだ秘蜜が臀を垂れていく。淫靡に撹拌されて、陽菜が悦びを得ているのを体で証明するのだ。
足を開いて最賀を受け入れると、途端にこの時だけは不安も悲しみも、これからの将来への絶望すら払拭されそうで。陽菜は涙をはらはらと流して、今を別の意味で噛み締める。
「……気持ち良い、な……はぁ、辛くない、か?」
「は、い……あったかくて、安心……しま、す」
────我儘になってはならないよ、誰がお前を此処まで育ててやったと思ってるんだ。
────守ってやるから、お前は俺の言うことを聞いてれば良い、簡単なことだろ?!
陽菜へ近付く人間は弱者を食い物にするケダモノばかりだった。
母だって、陽菜を餌にぶら下げて何度か交際相手を誘い出したし、洗脳してダッチワイフとして横に置きたがった男はそう叫んだのも覚えている。
唯一、弟は陽菜が額の傷を負った時に病院へ受診するきっかけを作ってくれたから、その恩を未だに陽菜は返せていない。
弟が地元の診療所へ泣きながら駆け込んでくれたお陰で、その後のインフルエンザの予防接種や、膝の怪我もスムーズに受診する流れを作れたのは弟の悲痛な発信だったからだ。
────弟の、為にも……私、見合い、受けなきゃ、駄目なのに。
「き、もち……い、先生、先生…っ」
「凄く締め付けて、そんなに離れたくなかったか?」
「う、ん……っ少しだけ、でもっ、……居たくて…っ」
「俺も山藤と一分でも長く居たいんだ、そう煽られると…閉じ込めておきたくなる」
挿入が深まる毎に、陽菜は独占欲に蝕まれる。股関節が柔らかくなって、最賀を受け止めたがっている体は従順だ。卑猥な水音と布が擦れ、床に落ちる愛液。
そして、最賀の甘い息が艶かしくて、陽菜の鼓膜に良く響く。煽情的な最賀の顔は汗を滲ませて、鋭い目つきが陽菜を射止める。
潤った秘所の腹側を突かれると、陽菜は頭のてっぺんまで貫く電気に支配される。快楽は遮れず、陽菜を虜にして絶頂へと無情にも連れて行くのだ。
気持ち良い、職場の当直室で逢瀬を堪能するなんて、端ない行為なのに。誘ったのは、陽菜自身であったが、最賀と体を重ねると宇宙空間に飛ばされたような浮遊感に襲われる。
「せ、んせぇ……はぁ、…っ、ぁ…きて、…奥、来てほし…っ」
もう、誰にも奪わせない。
お願いなんて、口にしないからせめて、今だけは。
奥が疼いて、陽菜は最賀の体をきつく抱き締めるとシャツに縫い付けて、出し入れする動きをより早めた。
体が暑くて暑くて、仕方がない。汗が額に滲んで頬を伝う。夢中で互いを貪り合って、誰が来てもおかしくない状況下でのセックスは背徳感の最中燃え上がってしまう。
スリル、とかそんな簡単に言語化するのは困難である。熱量と情欲と存在を確かめ合う行為に理由など要らないのだから。
「達く、……っ、い、……く、ぁあ…っ」
壁に押し潰されそうな重い体が陽菜をより感じさせる。乱れた息を整えず、腰を揺らして最賀の男根が弾けたと同時に、陽菜は背中をしならせて声を殺した。
くっと喉が天井を向いて、何度か痙攣して淫らに腰を擦り付ける。
すると、体が途端に脱力して疲労感と強い眠気に抗う力は一ミリたりとも残されていなかった。手が上がらない程の倦怠感に苛まれて、陽菜は蓄積された疲労には打ち勝てない。
「────山藤?」
人の体温は慣れていないはずなのに、最賀の心地良い温い人肌が陽菜を微睡みに誘った。うつらうつらと船を漕いで、まるで全ての苦しみや悩みから一瞬でも忘却させてくれる。
そんな、強い眠気には抗うことはしなかった。
今はただ、最賀の隣に居られる幸せを噛み締めていたかったし、何より不安で押し潰されそうな気持ちを吐露出来るほど、陽菜は甘えられないのだ。医者として命を救う男の足枷に進んでなる訳には、いかないと。
だから、せめて今だけはこの温もりを独り占めさせて下さい。
神に祈ったところで何も変わらないのは、幼少期から越えられる試練として選ばれ者に与えられた宿命だなんて信じたくはなかったからだ。
未来を変える力や手段、時として性別や年齢すら凌駕する何かが自分にあれば、とすら思った。
けれども神様は意地悪である。
自由気ままに人間の人生を決める。そうして産み落として、勝手に生きろと上から眺めているのだ。
子供の頃はそう考えなければ、不運な生き方を強いられている自分が心底嫌いになりそうだったのである。
「……おやすみ、良い夢を」
とんとんと赤子をあやす様に、優しい声が陽菜を包む。最賀に体重を預けて、陽菜は夢の中に旅立った。
「最賀先生、理事長の娘さんといつ結婚するのかなー」
「笑ったところ見たことないけど、結婚出来るんだあの人」
「婚約してるんでしょう? あの笑わない医者が、出世街道乗るのか! ああ、凄いなあ、お医者様は!」
「理事長の娘さんの担当医らしいよ、綺麗な黒髪でいっつもこれ見よがしに先生に絡み付いてるよ。診療中で患者いるんだし、遠慮してほしいよね」
「理事長の娘と結婚したら、救外循内部長かね? いや、副院長のポストは確定かあ」
ざったの中で聴こえる、嫌な話は重なって耳に入るものだ。
疲れた頭の中には特別に沢山の声の中でも聴き取れる。最賀と言うキーワードは正に検索した時のヒットしたあの瞬間的秒速に近い。
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