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二章
六話 提案
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「あ、お姉さん!」
ベンチに座っていた美久は緒美の姿を見つけると駆け寄ってきた。
日は暮れて、空は夜の帳が下り始めていた。
「遅くなってごめんなさい。お守りってこれよね」
緒美は鞄から水色の紙袋を取り出した。
「そう!懐かしいな…」
美久は思わず手を伸ばした。
しかし指先はそれに触れることはなく、虚しく宙を掻く。
美久は「あはは、死んでるからね」と苦笑した。
「あ…あとは弟さんにこれを渡せばいいのね!」
緒美は取り繕う様に慌てて声を掛けた。
「うん、でもどうやって?」
「多分…私、美久ちゃんの弟さん知ってると思うの」
「え?」
美久は途端に目を丸くした。
「でも…どうやってこの状況を伝えたらいいか」
美久はもう死んだ人間であり、霊感でもなければ姿を見ることは出来ない。
緒美とて霊感はまったくないが、おそらく縁に引き寄せられたから美久の姿が見えるのだろう。
美久の弟に事情を話したところで、きっと信じてもらえない。
むしろ頭のおかしな奴と警戒されてしまう。
「戻ったか」
頭を巡らしていると、頭上から声がした。
見上げると黒猫が木の枝に乗っていた。
「猫神様」
緒美が声をかけると黒猫はトンっと地面に降り立った。
「お前が心配していることの解決法はあるにはある」
「本当ですか!」
緒美の表情が明るくなった。
「まぁ、お前には多少の負担がかかるがな」
猫神から説明を聞いた緒美はすぐに納得して深く頷いた。
「分かりました、やります」
◇ ◇ ◇
時刻は日付が変わり、広場に人の姿はまったくない。
コツコツと自身の革靴の音を聞きながら、黒羽根は言われた場所に立った。
「どうしてこんな所に…」
黒羽根は思わず呟いた。
微かに指先が震えているのを気づかないふりをして辺りを見る。
ここは黒羽根にとっては、忌まわしき場所だ。
その街灯の下、一人の女性が佇んでいた。
少し寂しげな横顔に、何故か息が止まるようだった。
「……忽那さん?」
張り付くような喉の乾きを覚えつつ、黒羽根は声をかけた。
すると振り向いた緒美が、こう言う。
「久しぶり、友成」
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日は暮れて、空は夜の帳が下り始めていた。
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美久は思わず手を伸ばした。
しかし指先はそれに触れることはなく、虚しく宙を掻く。
美久は「あはは、死んでるからね」と苦笑した。
「あ…あとは弟さんにこれを渡せばいいのね!」
緒美は取り繕う様に慌てて声を掛けた。
「うん、でもどうやって?」
「多分…私、美久ちゃんの弟さん知ってると思うの」
「え?」
美久は途端に目を丸くした。
「でも…どうやってこの状況を伝えたらいいか」
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緒美とて霊感はまったくないが、おそらく縁に引き寄せられたから美久の姿が見えるのだろう。
美久の弟に事情を話したところで、きっと信じてもらえない。
むしろ頭のおかしな奴と警戒されてしまう。
「戻ったか」
頭を巡らしていると、頭上から声がした。
見上げると黒猫が木の枝に乗っていた。
「猫神様」
緒美が声をかけると黒猫はトンっと地面に降り立った。
「お前が心配していることの解決法はあるにはある」
「本当ですか!」
緒美の表情が明るくなった。
「まぁ、お前には多少の負担がかかるがな」
猫神から説明を聞いた緒美はすぐに納得して深く頷いた。
「分かりました、やります」
◇ ◇ ◇
時刻は日付が変わり、広場に人の姿はまったくない。
コツコツと自身の革靴の音を聞きながら、黒羽根は言われた場所に立った。
「どうしてこんな所に…」
黒羽根は思わず呟いた。
微かに指先が震えているのを気づかないふりをして辺りを見る。
ここは黒羽根にとっては、忌まわしき場所だ。
その街灯の下、一人の女性が佇んでいた。
少し寂しげな横顔に、何故か息が止まるようだった。
「……忽那さん?」
張り付くような喉の乾きを覚えつつ、黒羽根は声をかけた。
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「久しぶり、友成」
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