14 / 21
二章
五話 訪問
しおりを挟む
(この人…誰かに似てる気がする)
緒美はちらっと隣に座っている美久の父親の横顔を見る。
正面を向いたまま腕を組んでいて、眉間に皺を寄せている姿に既視感を覚えた。
車内に重い沈黙が流れる。
何か話を振ったほうがいいのかと緒美は迷ったが、ボロを出すとまずいので静かに窓の外を眺めることした。
しばらくして住宅街を走っていたタクシーは、とある家の前で停まった。
「え…?」
表札を見た緒美は声を上げていた。
「どうしました?」
美久の父親は立ち止まっている緒美に、不思議そうに声をかけた。
「い、いえ!」
緒美は首をブンブン振って、玄関に入った。
「妻は今パートに出かけていまして、もう時期帰ってくると思いますが…」
そう言って美久の父親は慣れない手つきでお茶を出した。
「ありがとうございます」
仏壇に線香をあげ終わった緒美はテーブルについた。
「急に押しかけてしまってすみませんでした」
改めて謝ると、美久の父親はゆっくりと首を振った。
「いえ、こうやって友人の方が訪ねてくれて、美久もきっと喜んでいるでしょう」
そう言って美久の父親は仏壇に置かれた写真立てを見つめた。
美久は制服姿で人懐こい笑顔を向けていた。
「今はもう訪ねてくる友人はほとんど居ないんですよ。就職や結婚で他県に行ったりして、地元にいる子は少ないですから尚更ですよね」
そう語る表情は寂しげだった。
「…ああ、そうだ。本をお返ししないと」
思い出したように美久の父親は立ち上がった。
「あ…」と緒美は思わず小さな声を出した。
家に来る口実に適当に言ったことだとはいえ、嘘をついたことに申し訳なくなる。
美久の父親の後をついて行き、緒美は2階にあがった。
奥の突き当りの部屋のドアにはローマ字で「MIKU」と書かれたプレートが掛かっていた。
美久の父親がドアノブを回すとタイミングよく、玄関のチャイムが鳴った。
「すみません。先に中に入っていてください」
そう言い残して、美久の父親は階段を降りていった。
緒美は言われた通り部屋に入った。
うさぎが好きだったのか、色んな種類のうさぎのぬいぐるみがそこらかしこに置かれている。
ホコリ臭さはなく、適度に換気をしているようだ。
美久の父親が戻らないうちと、緒美は奥の勉強机に近づいた。
「失礼します」
そう言って机の引き出しを開ける。
(お守り…どこかしら)
すべての引き出しを漁るがそれらしき物は見当たらない。
(美久ちゃんから何処にあるのか聞けばよかったわ)
次に学生鞄を見ることにした。
中は教科書がぎっしりと詰まっている。
内側のポケットを探ると水色の小さな紙袋が入っていた。
中を見るとフェルトで作られたお手製のお守りが出できた。
それと1枚の手紙も一緒に入っていた。
それに目を通した緒美は、自分の鞄にお守りをそっと入れて、学生鞄を元の位置に戻した。
「すみませんでした」
その時、ちょうど美久の父親が部屋に入ってきた。
「い、いいえ!」
緒美は冷や汗をかきながら、首を振った。
「本はありました?」
「あ、いえ。美久さんに貸していたと思っていたんですけど、どうやら私の勘違いだったようです!」
「すみません」と緒美は何度も頭を下げた。
「いえ、お気になさらず」
美久の父親は苦笑いをした。
「なんのお構いもできずに。是非、また来てください」
「はい!失礼します」
緒美は深々と頭を下げて、美久の家を出た。
緒美はちらっと隣に座っている美久の父親の横顔を見る。
正面を向いたまま腕を組んでいて、眉間に皺を寄せている姿に既視感を覚えた。
車内に重い沈黙が流れる。
何か話を振ったほうがいいのかと緒美は迷ったが、ボロを出すとまずいので静かに窓の外を眺めることした。
しばらくして住宅街を走っていたタクシーは、とある家の前で停まった。
「え…?」
表札を見た緒美は声を上げていた。
「どうしました?」
美久の父親は立ち止まっている緒美に、不思議そうに声をかけた。
「い、いえ!」
緒美は首をブンブン振って、玄関に入った。
「妻は今パートに出かけていまして、もう時期帰ってくると思いますが…」
そう言って美久の父親は慣れない手つきでお茶を出した。
「ありがとうございます」
仏壇に線香をあげ終わった緒美はテーブルについた。
「急に押しかけてしまってすみませんでした」
改めて謝ると、美久の父親はゆっくりと首を振った。
「いえ、こうやって友人の方が訪ねてくれて、美久もきっと喜んでいるでしょう」
そう言って美久の父親は仏壇に置かれた写真立てを見つめた。
美久は制服姿で人懐こい笑顔を向けていた。
「今はもう訪ねてくる友人はほとんど居ないんですよ。就職や結婚で他県に行ったりして、地元にいる子は少ないですから尚更ですよね」
そう語る表情は寂しげだった。
「…ああ、そうだ。本をお返ししないと」
思い出したように美久の父親は立ち上がった。
「あ…」と緒美は思わず小さな声を出した。
家に来る口実に適当に言ったことだとはいえ、嘘をついたことに申し訳なくなる。
美久の父親の後をついて行き、緒美は2階にあがった。
奥の突き当りの部屋のドアにはローマ字で「MIKU」と書かれたプレートが掛かっていた。
美久の父親がドアノブを回すとタイミングよく、玄関のチャイムが鳴った。
「すみません。先に中に入っていてください」
そう言い残して、美久の父親は階段を降りていった。
緒美は言われた通り部屋に入った。
うさぎが好きだったのか、色んな種類のうさぎのぬいぐるみがそこらかしこに置かれている。
ホコリ臭さはなく、適度に換気をしているようだ。
美久の父親が戻らないうちと、緒美は奥の勉強机に近づいた。
「失礼します」
そう言って机の引き出しを開ける。
(お守り…どこかしら)
すべての引き出しを漁るがそれらしき物は見当たらない。
(美久ちゃんから何処にあるのか聞けばよかったわ)
次に学生鞄を見ることにした。
中は教科書がぎっしりと詰まっている。
内側のポケットを探ると水色の小さな紙袋が入っていた。
中を見るとフェルトで作られたお手製のお守りが出できた。
それと1枚の手紙も一緒に入っていた。
それに目を通した緒美は、自分の鞄にお守りをそっと入れて、学生鞄を元の位置に戻した。
「すみませんでした」
その時、ちょうど美久の父親が部屋に入ってきた。
「い、いいえ!」
緒美は冷や汗をかきながら、首を振った。
「本はありました?」
「あ、いえ。美久さんに貸していたと思っていたんですけど、どうやら私の勘違いだったようです!」
「すみません」と緒美は何度も頭を下げた。
「いえ、お気になさらず」
美久の父親は苦笑いをした。
「なんのお構いもできずに。是非、また来てください」
「はい!失礼します」
緒美は深々と頭を下げて、美久の家を出た。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
ハピネスカット-葵-
えんびあゆ
キャラ文芸
美容室「ハピネスカット」を舞台に、人々を幸せにするためのカットを得意とする美容師・藤井葵が、訪れるお客様の髪を切りながら心に寄り添い、悩みを解消し新しい一歩を踏み出す手助けをしていく物語。
お客様の個性を大切にしたカットは単なる外見の変化にとどまらず、心の内側にも変化をもたらします。
人生の分岐点に立つ若者、再出発を誓う大人、悩める親子...多様な人々の物語が、葵の手を通じてつながっていく群像劇。
時に笑い、たまに泣いて、稀に怒ったり。
髪を切るその瞬間に、人が持つ新しい自分への期待や勇気を紡ぐ心温まるストーリー。
―――新しい髪型、新しい物語。葵が紡ぐ、幸せのカットはまだまだ続く。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜
紫音@キャラ文芸大賞参加中!
キャラ文芸
【キャラ文芸大賞に参加中です。投票よろしくお願いします!】
やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。
*あらすじ*
人には見えない『あやかし』の姿が見える女子高生・桜はある日、道端で泣いているあやかしの子どもを見つける。
「”ねこがみさま”のところへ行きたいんだ……」
どうやら迷子らしい。桜は道案内を引き受けたものの、”猫神様”の居場所はわからない。
迷いに迷った末に彼女たちが辿り着いたのは、京都先斗町の奥にある不思議なお店(?)だった。
そこにいたのは、美しい青年の姿をした猫又の神様。
彼は現世(うつしよ)に迷い込んだあやかしを幽世(かくりよ)へ送り帰す案内人である。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる