猫神と縁のお結び

甘灯

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二章

五話 訪問

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(この人…誰かに似てる気がする)

 緒美はちらっと隣に座っている美久の父親の横顔を見る。
 正面を向いたまま腕を組んでいて、眉間に皺を寄せている姿に既視感を覚えた。
 車内に重い沈黙が流れる。
何か話を振ったほうがいいのかと緒美は迷ったが、ボロを出すとまずいので静かに窓の外を眺めることした。
 しばらくして住宅街を走っていたタクシーは、とある家の前で停まった。

「え…?」

 表札を見た緒美は声を上げていた。

「どうしました?」

 美久の父親は立ち止まっている緒美に、不思議そうに声をかけた。

「い、いえ!」

 緒美は首をブンブン振って、玄関に入った。





「妻は今パートに出かけていまして、もう時期帰ってくると思いますが…」

 そう言って美久の父親は慣れない手つきでお茶を出した。

「ありがとうございます」

 仏壇に線香をあげ終わった緒美はテーブルについた。

「急に押しかけてしまってすみませんでした」

 改めて謝ると、美久の父親はゆっくりと首を振った。

「いえ、こうやって友人の方が訪ねてくれて、美久もきっと喜んでいるでしょう」

 そう言って美久の父親は仏壇に置かれた写真立てを見つめた。
美久は制服姿で人懐こい笑顔を向けていた。

「今はもう訪ねてくる友人はほとんど居ないんですよ。就職や結婚で他県に行ったりして、地元にいる子は少ないですから尚更ですよね」

 そう語る表情は寂しげだった。

「…ああ、そうだ。本をお返ししないと」

 思い出したように美久の父親は立ち上がった。

「あ…」と緒美は思わず小さな声を出した。

 家に来る口実に適当に言ったことだとはいえ、嘘をついたことに申し訳なくなる。
 美久の父親の後をついて行き、緒美は2階にあがった。
奥の突き当りの部屋のドアにはローマ字で「MIKU」と書かれたプレートが掛かっていた。
美久の父親がドアノブを回すとタイミングよく、玄関のチャイムが鳴った。

「すみません。先に中に入っていてください」

 そう言い残して、美久の父親は階段を降りていった。
緒美は言われた通り部屋に入った。
うさぎが好きだったのか、色んな種類のうさぎのぬいぐるみがそこらかしこに置かれている。
 ホコリ臭さはなく、適度に換気をしているようだ。
美久の父親が戻らないうちと、緒美は奥の勉強机に近づいた。

「失礼します」

 そう言って机の引き出しを開ける。

(お守り…どこかしら)

 すべての引き出しを漁るがそれらしき物は見当たらない。

(美久ちゃんから何処にあるのか聞けばよかったわ)

 次に学生鞄を見ることにした。
中は教科書がぎっしりと詰まっている。
内側のポケットを探ると水色の小さな紙袋が入っていた。
中を見るとフェルトで作られたお手製のお守りが出できた。
それと1枚の手紙も一緒に入っていた。
それに目を通した緒美は、自分の鞄にお守りをそっと入れて、学生鞄を元の位置に戻した。

「すみませんでした」

 その時、ちょうど美久の父親が部屋に入ってきた。

「い、いいえ!」

 緒美は冷や汗をかきながら、首を振った。

「本はありました?」
「あ、いえ。美久さんに貸していたと思っていたんですけど、どうやら私の勘違いだったようです!」

 「すみません」と緒美は何度も頭を下げた。

「いえ、お気になさらず」

美久の父親は苦笑いをした。



「なんのお構いもできずに。是非、また来てください」
「はい!失礼します」

 緒美は深々と頭を下げて、美久の家を出た。
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