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第三十話 塩浜葉子 その二

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そちらの方に視線を向けると、そこには塩浜さんが立っていた。

「あら……な~んだ、またおどかすの失敗しちゃった」

 塩浜さんは俺の顔を見ると、ぺろっとおどけたように舌先を出した。

「それは残念でしたね。俺を背後から驚かせたかったら、せめて地面の上の葉っぱは踏まない方が良いですよ」

 メロウたちの隠密能力と比べると塩浜さんのソレは気配を殺している、と表現するのも生温い。

 というか、何なら俺の超強化された五感は、湖からずっと後を付けてきていた彼女の気配を感じ取っていた。

 塩浜さんも本気で言っていたわけではないのだろう。クスクスと笑うと、俺の隣に腰を下ろした。

「ねっ、この場所が好きなの? もしかしてぇ……黒羽君の秘密のスポットだったりするのぉ?」

「んなわけないでしょう。ただ、疲れたから湖から、離れたくなっただけですよ。
そういう塩浜さんこそ、なぜここに?
 夜に一人で出歩くのは危険ですよ……」

 特に、塩浜さんは……な。

 空を見上げれば、もうすでに陽は完全に沈み込んでいて、周囲には夜のとばりが降りている。

「いえね、黒羽君が一人で森の奥へと消えて行っちゃったから……お姉さん、気になってついて来ちゃった」

「……そうっスか。
 じゃあ、心配要らないんで、帰ってもらえます?」

「あらま、嫌われちゃった? お姉さん、何かボクちゃんに嫌われるようなことしちゃったかしら」

 いけしゃあしゃあと、よく言う。
 昼間のことがあるというのに、この女はよく平然とした顔で話しかけられるな。

 俺は無言のまま塩浜さんを睨み付けた。けれど、目の前の女は堪えた様子もなく、ニッコリと微笑み返してくる。

「…………」

 分からない。
 目の前の女の目的がまるで読めない。

 いや、もしかしたらという推測はできる。だが、まさかそんな……。

「あら? どうしたの?」

「疲れた。もう寝ようかと思ってね」

 俺は立ち上がると、塩浜さんにごゆっくりどうぞと声をかけると、森の中へ歩き始めた。けれど、なぜか塩浜さんまでついてくる。

「……あの、何でついてくるんですか?」

「ん~~~? だってぇ、こっちは樹海が広がっているだけで何もない場所でしょ?
ボクちゃんは今夜どこで寝るのかなぁって心配しているの」

「心配ご無用です。ちゃんと、こうして……」

 俺は茂みを掻き分けて、その先の開けた場所に出る。そこには、小さいが木材で作られたログハウスが建っていた。

「…………嘘」

 俺のログハウスを見た塩浜さんは口を開けたままぽかーんと立ち尽くしている。

 俺はログハウスに入ろうとして、ふとあることに気づいて塩浜さんに忠告しようと振り向いた。

「ちなみに……」

「きゃぁっ!? ちょっ、何っ!? 何か、ブヨブヨしたものを踏んじゃったっ!?」

 塩浜さんは、地面の上に転がっていたブルズトロルの顔を踏んづけて、ビックリして飛び上がっている。

 ……丸太に混じって、時々ブルズトロルが転がっているから、気を付けて、と言おうとしたのだがどうやら遅かったらしい。

「ブシュルゥゥ……ブシュルルゥゥゥ……」

 塩浜さんに顔面を踏んづけられたというのに、ブルズトロルは微動だにしない。気持ちよさそうにいびきを掻いて眠っている。

「……気を付けてくださいね。丸太に混じって、コイツらが数体転がってるんで」

「え、ええっと……ヒィィっ!? コッチにもいるっ!?」

 塩浜さんは、また別のところに丸太と一緒に転がっていたブルズトロルを見て悲鳴を上げている。

 あっ、それグンダだ。
 遠慮なく踏んづけちゃって良いですよ、どうせコイツ起きないんで。

 俺は悲鳴を上げている塩浜さんを放っておくと、ログハウスのドアを開けて中に入っていった。

「ちょっ、待って……お姉さんをこんなところに置き去りにしないでっ!」

 俺の後を追って何故か塩浜さんまでログハウスの中に入って来た。

「……貴女を招待した覚えは、ないんですけどね?」

「あぁん、そんなつれないこと言わないで頂戴」

 塩浜さんは、艶やかな仕草を見せつけたまま、ログハウス内に視線を彷徨わせる。

「ふぅん? 結構広くて、良い雰囲気のお家ね」
「そりゃどうも……」

 塩浜さんはニコニコと微笑みながら、ゆっくりと俺の方に近づいてくる。

「ねっ……ところでぇ……」

 塩浜さんはそそっと自然な動きで、お互いの肩先に触れるか触れないかぐらいの距離まで近づいてくる。
 彼女は、そのまま艶やかな唇を、俺の耳元のすぐ傍まで寄せてくる。

「黒羽君はぁ……セックスにご興味は?」

 塩浜さんは、娼婦のような艶めかしい仕草で、俺の太ももに手をやって来る。その動きは、凄く淫らで、見ただけで男の本能的な情動を誘う動きだった。

「……興味はありますよ、人並みぐらいにはね」

 これはヤバいかもしれない。

 昼間は高木さんがいたから追い払ってくれたが、今ここに彼女はいない。
 それに……ここでもし、あの吸血衝動が――――、



 ドクンっ!



「づぅぅ……」

 塩浜さんが近づくたびに甘い匂いが鼻腔を刺激して、俺の体内の深いところで本能的なナニカが強く脈打った。

「……づぅぅ……ったく……ほん、とうに……」

 どうやら、俺の中に刻まれた吸血衝動は相手が処女でなくとも反応してしまうらしい。あるいは、昼間のうちに溜まりに溜まった吸血衝動が、ここにきて溢れてしまったのか。

幸いにも、非処女である塩浜さんに対する吸血衝動はまだギリギリで耐えられる。

 けれど、性的衝動に似た吸血衝動にあてられて、すでに俺の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。

 そんな俺の様子を見た塩浜さんは脈ありだと判断したのか、さらに身体を大胆に密着させて、色仕掛けをしかけてくる。

「あぁ……それにしてもぉ、ここってぇ、熱いわぁ」

 こ、の……女……。

 塩浜さんはわざとらしく呟くと、添乗員の制服を脱ぐと、ワイシャツ姿になる。その姿を見た俺はギョッと目を見開いた。

「ちょっ――アンタ……っ!?」

 塩浜さんはまさかのノーブラだった。

薄い布地のワイシャツの胸元は今にもはち切れんばかりに圧迫されていて、白い布地には塩浜さんの艶やかな乳房の形がくっきりと浮かんでしまっている。

 この女……本気だ。
 本気で俺を堕としにかかってきてやがる。

「ねっ……セックス……してみたくない?」

 塩浜さんは艶めかしい動きで自らのワイシャツの胸元をなぞり上げる。

「……何のつもりだ、アンタ――」

 ヤバいと本能が警鐘を鳴らしている。
 俺はすぐに塩浜さんから距離を取ろうとした。だが、それよりも前に、パサリと何かが床に落ちた。

「あ……?」

 俺は床に落ちた物を見る。白い。確かにそれは塩浜さんが今まさに着ていた筈のワイシャツだった。

「……ぇ?」

 俺はワイシャツから塩浜さんへと視線を移そうとして、何も身に着けていない塩浜さんの裸体を見て、慌て視線を背けた。

「ちょっ――アンタ……馬鹿なのかっ!? 服を着ろよっ!!」

「んふっ。ねっ……エッチなこと、したくない? 
私ぃ、ムラムラしてきちゃった」

 塩浜さんはペロリと艶めかしい仕草で唇を舐めると、上半身裸のままで俺に迫って来る。

 ヤバい。

 ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバいっ!!?

 塩浜さんの甘い体臭の匂いを嗅ぐだけで目の前で火花がスパークする。ギリギリで耐えていた吸血衝動に今にも支配されてしまいそうになる。

 激しい吸血衝動に必死に耐えていると、気づくと俺は床の上に押し倒されていた。視線を上に向ければそこには瞳を潤ませた塩浜さんがいた。

 こうして改めて見ると、美しい女性だ。

 肩先まで伸びる栗色の茶髪に、トロンとした特徴的な垂れ目。日本人にしては整った目鼻立ちに、艶やかなリップが塗られたふっくらとした唇。

 普段の塩浜さんは、どこかおっとりとした雰囲気を纏っている。けれど、今の彼女は熟練の娼婦のような淫らで、妖艶な雰囲気を纏っている。

 華奢な体だ。

 筋力の値が25もある俺からすれば、彼女の腕なんて、軽く触れただけで折れてしまう小枝のようなものだ。

 強引に振りほどこうと思えば、いつでも振りほどける、筈だった。

 でも、彼女の妖艶な雰囲気に呑み込まれてしまったせいか、彼女を一向に振りほどくことができない。

「んふふっ……今夜は、男と女になって静かな夜を二人っきりで楽しみましょう」

 塩浜さんは艶めかしい口調でそう言うと、今度は下半身を覆っていたスカートと下着を脱ぎ捨てる。

 全裸になった塩浜さんが、彼女の唇がゆっくりと近づいてくる。

「うっ……ぐっ……」

 俺の中ではもうすでに抗えないほどに激しい吸血衝動が渦巻いている。このまま彼女に1mmでも近づかれたら、多分もう自分を抑えることができなくなってしまう。

「やっ――」

 やめろ、と叫ぶつもりで俺は口を開いた。けれど、俺の口から出たのはまったく違う言葉だった。

「アンタ……無職なんだろっ!? 
だから、焦ってこんなことをしているんだろうっ! だったら、そんなことをしても無駄だッ!!!」

「ッッ!!?」

 効果は劇的だった。

 塩浜さんは極限まで瞳を見開くと、慌てて俺から飛び退いた。そのまま信じられないものでも見るような目で俺を呆然と見つめている。

「嘘……なん、で……。
 何で……私に職業がないことを、知って……」

 た、助かった。
 あのままキスをされていたら、多分今頃は塩浜さんの思うつぼに嵌まってしまっていた。

 俺は胸元を抑えると、今にも破裂してしまいそうな心臓の鼓動をなんとか抑えようとする。

 塩浜さんは表情を引き攣らせたまま後ずさると、部屋の隅に置いてあった鉄の短剣を手に取った。

「答えてよっ! 答えなさいッ!!
 誰から聞いたのっ!!! 貴男の他に知っている人はいるのっ!?」

「おいおい……それは、玩具じゃないぜ……?」

 塩浜さんが手に取った短剣は、以前に俺がメロウに与えていた短剣だ。
 
何かに使えないかと、手入れの為にアイテムボックスから取り出して、そこらに置き忘れていたものだった。

「私の質問に、答えなさいっ!!
 答えないと……こ、殺すわよ」

 塩浜さんは鬼気迫る表情で鉄の短剣を構えて、ジリジリとにじり寄って来る。だが、よく見ればその手元が震えている。

「……そんなものが、脅しになるとでも?」

 俺は塩浜さんに近づいていく。

「こ、来ないでっ!
 いいから答えて、なんで私のステータスの情報を知っているのよっ!! 
ねえ、これ真剣よねっ!? 刺さったら痛いんだから、脅しなんかじゃないんだからッ!!」

 この危険な森で四日間も生き延びてきた俺にとって、そんなへっぴり腰で構えられた短剣なんて、脅しにもならない。

 俺は手を伸ばすと、塩浜さんが構えている短剣の刀身を鷲掴みにした。

「……ぇ? う、嘘っ!? な、何でっ!!?」

 塩浜さんは必死に短剣を手元に引き寄せようと力を込めている。だが、俺に掴まれた短剣はビクともしない。
当然だ、俺の馬鹿力を舐めてもらっては困る。

「ぁ……」

 そのまま力づくで塩浜さんから短剣を奪い取る。

「残念だったな。本気で俺を脅したいのなら、殺す気で来いよ」

 俺は鉄の短剣の柄と刀身をわし掴みにすると、そのまま力を込めた。すると、硬質的な音を響かせて、短剣の刀身が真ん中からへし折れた。

「う……嘘……で、しょ」

 素手で短剣をへし折った俺を、塩浜さんは信じられない化け物でも見るような目で見つめている。

素人が構えていたとはいえ、刀身を鷲掴みにしたというのに俺の手のひらには傷一つない。
ま、当然か。

 今の俺は素の防御力の値が300を超えている。

 今の俺の皮膚の硬さは言ってしまえば一種の金属のようなものだ。華奢な女の力で握られた短剣程度では、傷一つ付かない。

「……ば、化け物」

 素手で刀身をへし折っても傷一つない俺を見て、塩浜さんは恐怖で引き攣った表情を見せる。

「かもな。
 まあ、職業を一つも持っていないアンタには、信じられない世界だろうな」

 そう。
 塩浜さんは職業を保有していない。

 クラスメイト達の中には、数人だけだが一つも職業(ジョブ)を持っていない生徒がいる。実は塩浜さんもその中の一人だ。

「俺のスキルの中に【鑑定】ってスキルがある。他人のステータスを勝手に閲覧することができる。
 俺がアンタのステータスを知っているのは、そういう理由だ」

 目の前に表示したステータスは本人以外の誰でも見ることができる。けれど、それは逆に言えば自分からステータスを開示してくれないと、他人のステータスは閲覧できない。

 それがクラスメイトたちの常識であり、現に彼らには秘された他人のステータスを勝手に閲覧する能力はない。

 でも、俺は違う。
 俺には鑑定のスキルがある。

 自分が職業(ジョブ)を一つも保有していないと分かった瞬間に、塩浜さんはその事実を秘匿して、誰にも知られないように自らのステータスを隠してきたのだろう。

 確かに誰にも自分のステータスを見せずに秘匿すれば、ある程度は隠せるだろう。でも、それでも時間の問題だ。

「まさか、ずっと職業を保有していないという事実を隠し通せるとは思っていないよな?」

「――――っ」

 俺の言葉に塩浜さんは悔しげに唇を噛み締めた。その反応を見るに、彼女もずっと隠し通せるとは思っていなかったみたいだな。

 なるほど、だから俺にあんな露骨な色仕掛けのような真似事を仕掛けてきていたわけだ。何のことはない、彼女はただ単に焦っていたのだ。

 いくら彼女たちが自分自身に職業がないことを隠していたとしても、数日もすればバレてしまうことは想像に難くない。

 この世界では自分に宿っている職業(ジョブ)こそが何よりも信じられる心のよりどころだ。

 より強力な職業(ジョブ)を保有しているかの有無はそのまま生死に直結する。まして、無職なのだとしたら、彼女たちにどんな結末が待っているかなど想像に難くない。

「……貴男って、ずいぶんと……性格が悪いのね。
 私の思惑を知っていて、私に職業(ジョブ)の力もスキルの力もないことを知っていて、それで私を揶揄(からか)って遊んでいたってわけ」

「そこまで俺も性格は悪くない。ただ……アンタの目的が掴めなかっただけだ」

 俺はほんの四日前までただの高校生だった。
 
 まさか想像がつかないだろ。塩浜さんのような超絶な美人がただの高校生だった俺にハニートラップを仕掛けてくるなんてさ。

「ただ、それでもアンタの目的を推測することぐらいはできたけどな」

 それもすべて【鑑定】のスキルで色々な情報にアクセスすることができたからだ。
もし、何の情報も得られないままだったら、塩浜さんの思い通りに踊らされてしまっていた可能性すらある。

「一つだけ教えろ」

 俺は逃げらないように塩浜さんの肩を掴むと、俺の方を向かせる。

「何で俺だったんだ?
 強力な職業を持っている人間なら他にもいるだろ」

 その筆頭は蘭子先生だ。

 彼女は一つしか職業(ジョブ)を保有していないが、その一つがまさかの【英雄(ヒーロー)】という職業(ジョブ)だ。

 単体の職業(ジョブ)としての能力だけを見るなら、今回転移したクラスメイトの中で間違いなく最強だ。
 純粋な戦闘能力で比較すれば、俺ですら軽く凌駕する。

 そのことを塩浜さんに次げると、彼女はハッと鼻先で笑った。

「……冗談でしょう? あの楽観論者の女教師が頼りになるとでも? 
彼女、口では自分の生徒が大切だと嘯(うそぶ)いているくせに……自分の生徒の中に無職の人間がいることにすら気づいていないのよ」

「それは……」

 確かに彼女言う通りだ。
 蘭子先生は強力な職業(ジョブ)こそ宿しているものの、今のこの状況に対応しきれてない。

 蘭子先生は非常に聡明で頭が良い。けれど、彼女には致命的な弱点がある。それは他人をすぐに信用してしまうその優しさだ。

 彼女は人を疑うということを知らない。それはある意味でこの世界では致命的だ。

確かにクラスメイト達は皆が気の良い連中だ。でも、そんなもの何の保証にもならない。

 人間って奴は、非常事態に陥ったら時にこそ本性を露わにするものだからな。

 それに蘭子先生は、クラスメイト達を守らなければという重圧からか、行動が空回りしてしまうことも多い。

「蘭子先生以外にも、何人か強力な職業(ジョブ)を持っている人間はいるけどな」

 例えば、宗方明乃(むなかたあけの)と天宝院綾華(てんぽういんあやか)の二人だ。

 彼女たちはどちらもその身に三つの職業(ジョブ)を保有しており、俺の次に保有している職業(ジョブ)数が多い。

「それでも真っ先に俺のところに来たってことは……男だから色仕掛けが使えるってことと、現状で俺は他のクラスメイト達よりも抜きんでているからか?
 あるいは……」

 女性経験のない俺なら、自分の身体でどうとでも操れると思ったのか。

「…………」

 俺の言葉に塩浜さんは悔しげに唇を噛み締めて、視線を逸らした。
 どうやら図星だったみたいだな。

「はぁ……参ったわ、降参よ。
 お姉さんの負けっ!」

 塩浜さんは両手を広げて降参のポーズを取ると、挑発的な瞳で俺を見つめてくる。

「童貞坊やのクセに、中々やるじゃない。お姉さん少し見直しちゃったわぁ」

 塩浜さんはクスクスと笑うと、俺ににじり寄って来る。

「じゃあ……交換条件といかない?」

 交換条件……?

「いや、その前にアンタは服を着ろよ」

 さっきから塩浜さんが動くたびに、何も身に着けていない女性の成熟した身体を存分に見せつけられて、俺の股間の方が否応なしに反応してしまう。

「あらぁ、私が差し出すのはこの身体なのだから、もっとじっくりと品定めしても良いのよ?」

「……アンタは自分の身体を差し出して、俺はアンタの安全を守るってことか?」

「流石に察しが良いわね。
ねっ、どうかしら? 自分で言うのもなんだけれど、私って結構顔も良いし、スタイルだって悪くないでしょう?」

 確かに塩浜さんはビックリするほどの美人だ。これほどの美女の身体を想うがままにできるのは、正直言って魅力的過ぎる。

 彼女一人の安全を守るのだって、軍団を保有している俺からすれば容易(たやす)い。

 常に彼女を俺の傍に侍らせておくのでもいいし、なんだったらヒュージゴブリンを数体割いて彼女の専属の護衛にしてもいい。

 それに彼女の身体を手に入れられれば、今まで俺が苦しんでいた吸血衝動も解消させることができる。

 俺の脳裏で彼女を抱え込むことに対するメリットとデメリットが交錯する。そして、俺は結論を出した。

「分かった、良いよ。アンタの条件を呑むよ。
 今から、アンタは俺が命を懸けて守ってやる」

 俺がそう言うと、塩浜さんは少し驚いたような表情を浮かべて、上目遣いで見つめてくる。

「ホントに……? 守ってくれるの……?」

 どうやらここまですんなりと交渉が上手くいくとは思っていなかったのか、塩浜さんは半信半疑で問いかけてくる。

「その代わりとして、アンタはその身体を差し出せ。俺に庇護を求めた以上は、裏切りは許さない。
 今後は他の男に色目を使うな、良いな?」

 これは契約だ。

 彼女はその身体の全てを差し出して、俺は彼女を命を懸けて守る義務を負う。契約である以上、裏切りや契約違反をしたら、その時は容赦しない。

 そういう意味を込めて塩浜さんの瞳を見つめた。塩浜さんは真剣なまなざしで見つめられて、少したじろいでいたが、すぐに顔を近づけてきて、キスをした。

 唇と唇が触れ合って、生温かい感触が触れ合う。

 どれくらいキスしていただろうか。
 塩浜さんの唇がゆっくりと離れて行った。

「誓うわ。今から、私は貴男だけの女になります。だから、だから……絶対に、守ってね」

「俺も誓う。今から塩浜さんのことを命をかけて守るよ。だから……」

 俺と塩浜さんはお互いに熱い視線を躱して、キスをして、硬い床の上にもつれ込んだ。
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