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2章 呪いの首輪と呪いのおパンツ

番外編/それはまるで星のように/リビア視点

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俺の家族は別の家にいる。

あることがあって家族と呼べる者は引っ越してしまった、それだけのこと。

それからはあの家でジョニーと二人で暮らしていた。だから寂しくはなかった。

ジョニーの呪いを早く解く、それだけを夢見て生きていた。そんな時に出会った……というか、拾ったのがハルだ。

成り行きと言えばそうだけど、【呪いの首輪】【くそエロい呪いのパンツ】【半猫半人間】という呪いを三つも引っ提げてる辺り、もはや同種というか、放っておけないというか、むしろ【呪いの首輪】が喉から手が出るほど欲しい俺たちにとっては、アイツの存在そのものがお宝だ。

元々の性格なのか神経が図太いのか遠慮知らずなのか、アイツは俺たちの生活にすぐに慣れたし、俺たちもクソネコのいる生活に馴染むのが早かった。ネコ好きのジョニーは別として、本当にすぐに打ち解けた。

くそエロいパンツの事でいろいろあったからかもしれないけど、それでもクソネコの居る空気は嫌いじゃない。好きか嫌いかでいえば好きだと思う。恋愛って意味で?って聞かれたらよく分からん。でも、何をしていてもクソネコの声は耳に届く。いや、心に届くといった方が正しいかもしれない。

「キーラーキーラーひーかーるー」

あの家に居たくないという俺のワガママに付き合わせて、駅から家、家から駅のとんぼ返り。疲れたと喚いたくせに、帰りの足取りは軽やかに見える。

しかし首輪が本物だったとは、マジでいい拾いものをした。しかも呪いから解放させたら首輪をくれるという最高の取引済み。

問題は、首輪の外し方だ。

今からギュスリーで一番の骨董屋に行く予定だが、果たして骨董屋の店主はそれを知ってるのだろうか。超一級品の伝説にも等しい【呪いの首輪】だ。知らなくて当然で、知っていたらめちゃくちゃラッキー。

めちゃくちゃラッキーな方だったら、あとは簡単だ。クソネコの首輪を外し、俺たちの願いを叶えてハッピーエンド。あとは【くそエロい呪われたパンツ】を脱がせて売れば一攫千金も夢じゃない。その金を元手にグフフな人生の幕開け。

だが、知らなくて当然の方だったら……。

「……なんとか、なるか……」

自分に言い聞かせる。言い聞かせないと止まってしまいそうだった。

希望があるのに、進まない。

願いがあるのに、叶わない。

掴み掛けたと思ったらすり抜ける。

あの日と同じ。

あの日と、同じ。

あの日は、何があったっけ。

何を掴もうとしたんだっけ。

アノヒ、オレハ……

オレノテハ……

「星がいっぱいだね」
「おっ、おう」
「私ね、星空も好きなの。何でだろう、とても懐かしい気持ちになるの」
「おう」

コイツはスルーでいいとして、骨董屋が開店するまでに、知らなくて当然の方だった場合を考えなければ。

止まっている暇も時間もない。

俺にそんな余裕なんてないんだ。

それだけのことをやったのだから。

ソレダケノコトヲ。

オレハ、ナニヲ、シタンダ。

無意識に足が止まった。足元が黒い闇に縛られたように動かない。

ウゴキタクナイ。

ウゴカセナイ。

ダレカ、オレヲ……

「……どしたの?お腹減ったの?」

のんきに俯く俺の顔を覗き込んできた。手で顔を隠せば、鼻唄歌いながら歩き始めた。

コイツも大変なのにそんなこと微塵も見せねぇのな。呪いまみれの上に記憶喪失の時点で、良い人生は歩んでなさそうだ。

「まーばーたーきーしーてーはー」

記憶がないからこんなにのんきなのか、もともとの性格なのか、まだ知り合ったばかりだから判断出来ねぇけど。

「みーんーなーをーみーてーるー……うおっ!!?」

クソネコの歩く姿は嫌いじゃない。躓いて転んだ姿も、クルッと振り向いて「見るな」って叫ぶコイツの姿も、そして立ち上がってまたゆっくりと歩く姿も。

「何やってんだ」って思うと、固くなっていた頬が弛んだ。ちょっとだけ重りが軽くなって、やっと足が動きだした。

そうだ、立ち止まる暇も時間もないんだ。次の手掛かりを考えろ。考えるのを止めるのだけは絶対に駄目だ。

歩きを止めずに、地面を見ながらいろいろな可能性を考える。考えてたんだけど、「どーん!」という声と共に背中を押された。

そのまま倒れる俺の体。何とか手を着いて回避した。四つん這いの俺を見て爆笑してる犯人を本気で睨めば、口笛を吹いて誤魔化してた。

「二番の歌詞、忘れちゃったなぁ」

このクソネコは俺をイライラさせるのがやはり上手だ。そこだけは褒めてやってもいい。ただ今は相手にする暇もない、ってか相手にしたら負けだ。

「ごめん、ごめん!はい、起こしてあげるね!」

本気で謝る気が無いみたいだ。ニヤニヤしながら手を差し出してきた。これは絶対に起こす途中で手を放して俺がまた倒れるってパターンだろ。付き合ってられるか。

差し出された手に自分のを重ねる。意地悪のつもりでグッと手を引っ張れば、コイツごと倒れてきやがった。足ぐらい踏ん張れよって言う前に倒れてくるから、考える前にコイツを抱き止めた。

「ふぅ、焦った!でも他人に体を委ねるのも楽しいね!」
「楽しくねぇよ!怪我でもしたらどうすんだ!」
「あはは!」

クソネコは反省という言葉を知らないらしい。ヒヤヒヤした俺を見て爆笑。そのまま押し倒してきた。

「いっ!?」

背中が地面に着く衝撃で目を閉じる。地味な痛みに顔をしかめた。いい加減にキレた俺は犯人を睨んだ。

目に映る光景に言葉を失った。

見慣れた夜空、でもいつもと違う夜空に見える。

満点の星空と、空を裂くように流れる星天の川。

それを背負っている、コイツ。

みとれてしまうほど、美しい。

「眉間に皺を寄せて下ばっかり向いてたよ。そんなんじゃダメ。人生にしたらほんの一瞬の今だけの光景だよ。見ないと勿体ないよ。この景色が変わるまで、ちょっと休憩しましょう!真面目人間にも休息も必要でーす!はい、考えることやーめた!」

そう言ってコイツは隣に寝転んだ。

「あは、……あはは!あはははは!」

いつも休息してそうなやつがなに言ってんだって思ったら笑いが出た。久しぶりに笑った気がした。

さっきまで焦って考えてた俺自身がアホらしくなって、笑うだけ笑ったあと、また夜空を見た。

キラキラ光る。

暗闇の中を光輝く。

コイツと同じ。

変なステップを刻みながら前へと進むその姿、さっきの「家族」と言ってくれた言葉。

俺の真っ暗な心に、ほんの少しだけ鈍い光を与えてくれた。

鈍く光るキラキラ星。

俺が気づけないだけで、世界は美しいものかもしれない。

「休憩出来た?」
「おう、久しぶりに頭の中が空っぽだ」
「良かった!」

夜空には満点の星、空を裂くように流れる天の川。

儚げに、でも、凛と輝いている。

それはまるでお前みたいだと、口から出そうになった言葉を飲み込んで。

それでも沸き上がるこの気持ちをきっと、アレと呼ぶんだろう。

「恋、なぁ」
「鯉?釣るの?」
「なるほど、俺が釣られそうなのか」
「鯉に釣られるの?そいつ大物だね!」
「本当だ!?大物すぎるだろ!」

でもやっぱり、恋と呼ぶにはまだ早いような気がした。



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