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2章 呪いの首輪と呪いのおパンツ

拾われたネコと呪いのおパンツ③

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少年たちの元気は止まらない。反して私の元気は急降下中。

「ネコくらい飼ってもいいじゃん!」
「猫は猫でも半分人間だからダメだっつってんの!存在しない人間、存在しない猫、この意味が分かる!?」
「……でもっ、かわいいっ!」
「……それは認める、けど、ダメだ!化け猫と関わっても何一つ良いことないって!」

いい加減に嫌みの一つでも言い返したいが、今はそれどころじゃない。なんせ私のおパンツが変なことになっているのだ。

革っぽい生地にT型的なおパンツを履いている。それだけなら別にいいのだけど、南京錠みたいなネコの型をした南京錠があって脱げない仕様になっている。

アダルティーグッズにありそうなユニーク商品なのだが、無理矢理引っ張っても破れない仕様で、全然ユニークじゃない。

本気を出しても、爪で引っ掻いてみても、破れる意志がまるでない超タフネスストレッチおパンツ。

生地じゃなくて南京錠を壊そうと馬鹿力を発揮しても壊れない。本気で力を出しても、壊れる意志がまるでない超タフネスネコ型南京錠おパンツ。

記憶を失くす前の私は一体何者なんだ。

なぜこのおパンツを履こうと決意したのか、そこにどんなやり取りがあったのか。

まさか喜んでおパンツを履いてたり……もしそうだとしても、ただ一つ分かったことがある。相手はとんでもない変態野郎だ。せめてイケメンであってほしいと願わずにいられない。

「ぼくの貯金をあげるから!だから捨ててこいなんて言わないで!」
「……おい、何で万年無職のお前がご立派に貯金してるんだよ。しかも……俺より持ってんじゃん!何でだよ!」
「ちょっと……町行く人のお手伝いとかして小銭を稼いでた」
「ちょっと!?これちょっとの額じゃなくねーか!?」
「そんなことより!ね、これで少しは余裕出来たでしょ?飼ってもいい!?」
「いや、だからさ、金とかの問題じゃないって言ってんじゃん……」

心底どうでもいい会話を聞きながら、どうにかこうにかおパンツを壊そうと必死になる私。でも無惨にも時はたつわけで。

トイレに行きたいからトイレに入った、それだけなんだ。おしっこがしたい、それだけのことなのに、おパンツが私の尿意を邪魔してくるっ!

「くそっ!壊れろよ!壊れちまえよ!お前のせいでとんでもねえ事件が起きようとしてんだよ!」
「おい、お前の拾ってきた猫が暴言はいてんぞ」
「リビアがひどいことを言うからでしょ。謝りなよ」
「俺は当然のことを言ったまでだろ!?」
「自覚がないんだね。だからモテないっていう自覚もあるの?」
「……俺ってモテないの?」
「むしろモテると思ってたの?顔も収入も平均以下なのに?性格くらい良くないと彼女を作るなんて無理だよ」
「……無理」
「無理だよ、一生ね」
「これ以上トドメを刺すなぁぁ!!」

黒髪少年の嘆きがトイレにまで伝わる。今のはゾンビ少年が言い過ぎだと思うの。可能性がないわけじゃないもの。つーか、そんなことどうでもいいの。黒髪少年に彼女が出来ない理由よりもおパンツを壊すやり方を教えてよ。

「ああっ、あああ!あああっ!」

急がなければ、急いでこのパンツを破らなければ、本当にヤバイ。どのくらいヤバイかというと、トイレくらい自由にしたいとか、そのためなら何でもするとか、あ、ああああ!うああああ!!ト、トイレ、トイレプリーズ!!

「だずげでー!だずげでぐだざいー!」

リミットブレイクした私はトイレから飛び出して、たまたま目が合った黒髪少年にすがり付いた。

「うるせえ!」
「ごれ、ごれを!どうにがじでーっ!」

ワンピースをたくしあげておパンツを見せた。

「脱げないの!壊れないの!トイレ行きたいの!」
「な、ななななんつーモン履いてんのぉ!?」
「お願いだからおパンツ脱がして!何でもしてあげるから、早くおパンツ脱がしてよぉ!」
「お、おおお落ち着け!パンツ脱がしてやるから!ちょっとやめて、チャックに触るな、やめろよ!」
「一緒にっ、トイレ行こう!どっちが先にする!?私が最後……うああああ!最後なんてムリィィ!!」
「お前が先でいいから!だから何で俺のを脱がそうとしてんだああ!」
「はい、ストーーップ」

冷静でなくなった私と黒髪少年は、まるで相撲を取ってるかのようにお互いの腰を掴み合ってた。でも唯一冷静でいてくれたゾンビ少年が間に入ってくれたおかげで、ほんの少し冷静になれた。

「ったく、もう!」

恥ずかしげもなくゾンビ少年がおパンツに手を掛ける。これで解放されると思ったのもつかの間、ゾンビ少年は目を丸くした。

「……リビア、どうしよう。この下着、びくともしない……」
「まっさかぁ、んなことは……」

同じく下着に手をかけた黒髪少年も目を丸くした。

「マジだ」

二人は目を合わせ、そして、両サイドをありったけの力で引っ張り合った。なんだこのおパンツ綱引きwwとか冗談言えないくらい、おパンツはびくともしない。

「も、れちゃう!」
「ふ、ふんばれっ!」
「まだ我慢だよ!」
「……むりぃ、……もぅ、でちゃ……」
「出すなーっ!」
「出しちゃダメー!」
「は!そうだ、ハサミで切れば!」
「そうだね!その手があったね!」

黒髪少年がどこからかハサミを取り出す。生地を挟んでチョッキンどころかバッキンってな感じでハサミが壊れた。

「……は?」
「……ウソでしょ」

壊れたハサミとおパンツをあり得ないモノを見る目で見ている。もちろん私も同じく。

「刃物すら……通用しないって……どんなおパンツよ……」

私の言葉に二人は頷いた。

しかし本当に通用しなんて……このおパンツは一体何なんだ。どんな生地なんだ。何だってこんなものを作ろうと思ったんだ。

「南京錠は……」

あと怪しいのはネコ型の南京錠くらいなんだけど、どっか押して開いたり……いや押して開くとかどんな錠だよ!ってかどこが開くんだよ!もはや錠の意味をなしてない……ああああ、もう!トイレに行きたい!

冷静さを取り戻そうと頭を横に振って再度二人に目をやった。

ゾンビ少年は首を傾げつつも冷静におパンツを観察中。黒髪少年は……もうこいつはダメだ、ぐるぐると目が回ってる。

「お、おお、おおお」

黒髪少年が奇声を発しつつネコ型の南京錠を人差し指でポチっと……ちょっと待て、押そうとしてるの!?どっかにボタンでもあったの!?ってかそもそもどこが開くの!?

ーーポチッ

突っ込みたい言葉が口から出る前にネコ型の南京錠を押した。それはなにかのスイッチかのようにポチッと音を立てて開いた。

いや、開いたというより、消えたといった方が正しいかもしれない。収納されたというか、すぅっとなくなったというか、つまりおパンツの下は裸なわけだ。

「おおお、おお、お……」
「あっ!?」

ゾンビ少年はすぐに顔をそらしてくれたが、黒髪少年は露になった股間をじっくり観察。いやん!初お披露目!と冗談言ってあげたいが、驚いたのは私も同じなわけでして。

「……消え、た」

突然現れた股間を見て、次にゾンビ少年と目が合って、そして黒髪少年と目が合って……

「いやああああ!!」
「あだああああ!」
「いたーーい!」

ゾンビ少年と黒髪少年に拳骨を落とした。


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