上 下
47 / 68
わたしとアイツとアイツ

 3話②

しおりを挟む
 なぜこうなったとか、これは浮気になるんじゃないかとか、不安に思う所はいっぱいあるけども、今、私はラブホにいる。
 何やら西条透の手を振り払った際に、めまいを起こして倒れたらしい。私の記憶にない辺りがヤバイし、普通なら病院に連れて行くところなのに、西条透は貧血だろうとの判断を下し、ラブホに連れ込んだというわけだ。
 まったくもってヒドい男である。
 兎にも角にも逃げ場なし。目を覚まして無事だと分かるや否や収拾のつかない話し合いが幕を開けた……のだけども。
「そういう自分勝手な所が勇樹に劣ってるのよ! 勇樹だったら、無理すんな。また改めて話そうなって言ってくれるわよ!」
「それは咲希ちゃんが逃げない前提の話だろ!? 僕だと逃げるじゃんか!」
「当たり前じゃない! 収拾のつかない話し合いなんて時間の無駄だもの!」
「だから彼氏の僕が別れないって言ってるんだから、咲希ちゃんは僕の彼女だって何回も言ってるだろ!」
「あんたは元カレで、私の彼氏は勇樹! 何回言えば理解すんのよ!」
「別れてない!」
「別れたの!」
 最初こそ冷静に話し合ってたけども、話にならない話し合いでお互いにイライラがヒートアップ。結果、ケンカが始まるという最悪の流れになった。
「あんたがちゃんとしないからこんなことになったんでしょ!」
 イライラ任せにクッションを投げつけたら西条透の顔面に当たった。ざまぁって笑ってやったら私の顔面にクッションが当たった。
 どうやら殺されたいらしい。
「なんてことすんのよ、このストーカー野郎!」
「はああ!? 誰がストーカーだって!」
「これは立派な暴力よ! 精神的暴力と肉体的暴力で訴えてやる!」
「先にクッション投げつけてきたのはそっちだろ!? それと言葉の暴力が酷すぎる! もっと上品な言葉を学ぶべき……ごめん、今のは僕が悪かった。学んでもオールニの知能が……ごめんね」
「遠回しにバカって言った!?」
「ううん、遠回しに言ってないよ。直接的に言ったつもりだけど」
「ニャッフウウーッ!!」
 珍しく怒りの沸点を越えたけど、知能が低いからニャッフウウーッ!!って言葉しか出てこなかった。
 余計に腹が立ったのでまたクッションを投げつけたけど、それを避けた西条透をすり抜けて部屋の隅にあったスタンドライトに当たる。運悪くそれが倒れてガシャンと砕け散った。
「どうしてくれんのよ!? これ弁償物よ!」
 怒りのボルテージは収まらないので、別のクッションを投げつけた。せめて一回当たるまでは止められないと思った。
「僕のせい!? こんな物を投げる咲希が悪いんだろ!」
「ぼふっ!!?」
「はっ、ザマァ」
 西条透の投げたクッションがまた顔面に当たった。ここまで来たらもう私達のケンカは止まらない。
 我、覚悟を決めた。
 西条透も覚悟を決めたようだった。
 再び、クッションと暴言の投げ合いのケンカが始まった。
「私の彼氏になりたいんなら過去に戻って出直して来なさいよ!」
「出来るもんならそうしてるよ! そもそも勘違いしてたのは咲希だろ!? 僕だけ責めるなんてお門違いだ!」
「どうもそこだけはすみませんでした」
「なっ、なんて生意気な女なんだ!」
「私には勇樹っていうかわいい彼氏が居るんだからあんたは用なしなのよ! 一人でオナニーでもしてらっしゃい!」
「僕がそんなことをするわけないだろ!? 咲希こそ僕に開発されたからって性欲に耐えきれずに勇樹君を襲ったんじゃないのか!?」
「……そんなことない、デス」
「もしかしてって思ってたけどやっぱりそうだったんだね! 心底最低だ! 僕の彼女のクセに他の男に身体を許して……咲希はいつから浮気者になったんだ、この変態淫乱ドM女!」
 クッションを投げ付けようとしてた手が止まった。そして西条透の投げ付けてきたクッションが顔面に当たった。
 西条透の口から変態淫乱ドM女っていう卑猥なワードが出てくるなんて、何百回と想像してたことがようやく現実になった。
「……ぐっ……」
「何のダメージ受けてるの!?」
 心の奥底に眠るドM的感情が喜んでしまったみたいだ。思わず「やっぷーもっと罵って」って言葉が出そうだったので、口を塞いで何とか耐えた。
 いかんいかん、勇樹の教育のせいで言葉責めにめっぽう弱くなってるや。
 少し冷静になれたのでソファーに座った。逆に西条透は戦闘モードに入ったらしく、クッションを手に握り締めながら睨んでくる。
「浮気者っていうけど、別れたと思ってたんだから仕方ないっつーか、彼氏と夜の営みをして何が悪いの?」
「僕が居るのに彼氏を作るなんておかしいだろ!」
「いや、あんたと別れてるんだけど」
「別れてない!」
「でも……そうね、浮気者の私だもの、あなたに相応しくないわね。ほら、あなたが掘ったトンネルは現在勇樹専用トンネルと化してるし。見知った仲で穴兄弟は嫌でしょ?」
「それは、その……また掘れば……出来なくも……」
「さいってい!」
 もごもごと口ごもる西条透にクッションを投げ付けた。すかさずお返しのクッションが顔面に飛んできた。
 クッションと暴言の投げ合いが再開した。
「怖い怖い怖い怖い! もうすでに私のトンネル掘ること考えてる! だからこんな所に連れ込んだのね! 汚らわしいわ! レッツゴー穴兄弟がいいとかマジモンの変態だわ!」
「いやもう何でそうなるの!? 真面目に話し合う気ある!?」
「あるわよ! あるから話し合おうとしてるんじゃない! それなのになんで下ネタで誤魔化そうとするの!?」
「下ネタを振ってきたのは咲希だよ! そうやって何でもかんでも僕のせいにするの止めてくれよ!」
「せいになんかしてないわよ! 全部あんたが悪いの! 早く謝って! 今すぐ私に謝りなさい!」
「ご、ごめん……?……??……何でだよ! だから元々は咲希が!」
 バコンと何かを殴り付ける音が聞こえて間髪入れずに怒声が部屋に響いた。
「やかましい!」
 すぐさまクッションと暴言の投げ合いを止めた。
 先程とうって変わってシーンと静まり返る。
 冷静になって辺りを見渡せば、クッションと暴言の投げ合いのせいで、備え付けの小物等は床に落ち、ライトの破片が散乱。部屋はグチャグチャに荒れ果てていた。
「これ、どうしよう」
「謝るしかないわよ」
「謝罪で済むの?」
「うっさいわね。なるようにしかならないんだから腹を括りなさい」
 怒鳴り続けて本当に疲れたからベッドに横になった。一昨日まで寝込んでたってのに、何でゆっくり寝かせてくれないんだ。トラブルなく人生を謳歌したいだけなのに。
「眠い」
 ゴワゴワしたシーツも、不特定多数の人が使ってる布団も、今の状況の何もかもが不快だけども、目を閉じれば猛烈な睡魔に襲われる。
「……咲希? 寝るの?」
 勝手に呼び捨てにしてんじゃないわよって言ってやりたかったけど、久しぶりに感じた西条透の体温に力が抜けていく。
 ああ、それが好きだったな。
 もう少し早く迎えに来てくれてたら……なんて、やっぱり私はズルい女だ。

 でも、それでも私は……


「あーくそ、全然イケねえ」
 勇樹の声でハッと我に返った。
 あれから何かあったわけでもなく、起きたら夜だったから慌てて家に帰って……そうだった。セックスしてたんだった。一瞬寝てた。
 だめだ、まだ全然寝足りない。
「……勇樹?」
 目をやると酷い顔をしていた。悲しいのか怒ってるのか。そっと手を伸ばして頬っぺたに触れた。いつもの温もりがなくて、ひんやりしてた。それがつらかった。
「浮気じゃないよね?」
「何が」
「アイツと話し合ったけど、まだケジメつけてないの」
「ああ?」
「でも約束してたから」
 まだ話してる途中だけど、勇樹は私から離れた。
「いちいち守んなよ、んな約束。お前にとっちゃ俺は都合がいい男かもしれねぇけど、俺にだって感情っつーのがあんだよ。マジでふざけんな」
 勇樹の言葉が突き刺さる。
 私は勇樹から離れて服を着た。
 勇樹は背中を向けて黙って布団にくるまってた。
「おやすみ」
 この日、初めておやすみの返事をしてもらえなかった。
 それが無性に寂しくて、どう考えても自業自得なのに、ポロリと涙が流れた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子どもを授かったので、幼馴染から逃げ出すことにしました

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライト様にて、日間総合1位、週間総合1位、月間総合2位をいただいた完結作品になります。 ※現在、ムーンライト様では後日談先行投稿、アルファポリス様では各章終了後のsideウィリアム★を先行投稿。 ※最終第37話は、ムーンライト版の最終話とウィリアムとイザベラの選んだ将来が異なります。  伯爵家の嫡男ウィリアムに拾われ、屋敷で使用人として働くイザベラ。互いに惹かれ合う二人だが、ウィリアムに侯爵令嬢アイリーンとの縁談話が上がる。  すれ違ったウィリアムとイザベラ。彼は彼女を無理に手籠めにしてしまう。たった一夜の過ちだったが、ウィリアムの子を妊娠してしまったイザベラ。ちょうどその頃、ウィリアムとアイリーン嬢の婚約が成立してしまう。  我が子を産み育てる決意を固めたイザベラは、ウィリアムには妊娠したことを告げずに伯爵家を出ることにして――。 ※R18に※

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。  でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

奥手なメイドは美貌の腹黒公爵様に狩られました

灰兎
恋愛
「レイチェルは僕のこと好き? 僕はレイチェルのこと大好きだよ。」 没落貴族出身のレイチェルは、13才でシーモア公爵のお屋敷に奉公に出される。 それ以来4年間、勤勉で平穏な毎日を送って来た。 けれどそんな日々は、優しかった公爵夫妻が隠居して、嫡男で7つ年上のオズワルドが即位してから、急激に変化していく。 なぜかエメラルドの瞳にのぞきこまれると、落ち着かない。 あのハスキーで甘い声を聞くと頭と心がしびれたように蕩けてしまう。 奥手なレイチェルが美しくも腹黒い公爵様にどろどろに溺愛されるお話です。

副社長と出張旅行~好きな人にマーキングされた日~【R18】

日下奈緒
恋愛
福住里佳子は、大手企業の副社長の秘書をしている。 いつも紳士の副社長・新田疾風(ハヤテ)の元、好きな気持ちを育てる里佳子だが。 ある日、出張旅行の同行を求められ、ドキドキ。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

処理中です...