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・アイリスの場合(1)

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十歳になる頃、幼馴染みの男の子と遊んでいる途中で倒れた。そのとき判明したことは、私は【二十歳まで生きられない】こと。ピンとこなかった。でも両親は泣いていて、幼馴染みの男の子は心が悲しみに染まる前に私の前から去って行った。

ほんとの話なんだって、自分のことなのにやけに冷静だったのは覚えてる。

そっから【とことん自由に生きる】ことを信条に、好き勝手やってきた。好きなものを買ってもらった。好きなことばかりしてきた。一応伯爵家だからお金に困ることはなかったし、【死ぬまでにやりたいこと】を叶えた。

ただ、【死ぬまでにやりたいこと】のリストの中に、

・恋をする
・恋人を作る
・キスをする
・セックスをする

というものがあって(書いたのは私だけど)、十五歳になった今、それを実現させるため学校に通うことにした。

病気のこともあって、今までは家庭教師に来てもらっていたから学校に行くのは初めてのこと。両親は反対していた。そりゃ当然だと思う。毎日体の調子が良いならサイコーなんだけど、やっぱり体調にはムラがある。頭が割れるほど痛い日もあれば、心臓が潰されるほど痛む日もあるし、一番酷いときは指一つ動かせない。血だって吐くし、咳だって止まらないときもある。家で過ごしていた方が安心で安全なんだ。それに学校は苦手でもある。

それでも私は学校に通うことを決めた。

学校は、私の性に合わない所だ。建前だらけの裏のあるお喋りも、やれマナーだ教養だとつまんないことを守らないと大事件が起きたように騒ぐことも、勉強も、凝り固まった意識の集合体みたいな、みんながみんな同じで、そこからズレたら人間じゃないような。とにかく気持ちが悪い所にしか思えない。【とことん自由に生きる】ことが信条の私にとって、そこはとても異質だ。まぁ、周りから見たら自由奔放に生きる私の方が異質だろうけど。

「つまんないなぁ。せっかくの初登校日なのに、何かこう、気持ちが高ぶらない」

これから通う学校の門を見上げる。【死ぬまでにやりたいこと】を叶えるために来たのに、これっぽっちもテンションが上がらない。はああっとため息を吐いて、門をくぐる。そこは整理された庭が広がっていた。学校に似つかわしくない庭に、たくさんのバラが咲いてある。その中心には、たくさんの石像と大きい噴水。噴水からたくさんの水が出ていて、それが太陽の光に反射して、キラキラして、とてもキレイで。

「……あっ……」

そこを通る一人の男の子に目を奪われた。光に透けてキラキラしてる金色の髪の毛、澄んだ空のような青い瞳、太陽の光を拒絶してる白い肌にスラッとした体格。この庭のよりも美しいと思った。ばくんって心臓が鳴って、それが痛くてぎゅっと押さえた。

今までそういう経験をしてないから、恋がどういうものか知らない。もしかしたら違うのかも。でも、これがそうだと直感した。

「この人だっ!」

一目散に駆け出した。駆け出さずにいられなかった。一秒でも惜しいと思った。この人じゃないと嫌だと、この人と恋をしたいと、全細胞が私に訴えかけている。

「あのっ!」
「あ?」

走って駆け寄った私を、澄んだ空の瞳で見てくれた。その瞳に写れたことが嬉しくて、楽しくて、もっともっと見てほしくて、想いが口からポロリと出ていた。

「好きです!」

はじめての恋に、はじめての告白、しかも理由は一目ボレ。恥ずかしかった。でも悩む暇も時間もないから、ド直球ストレートでいくしかない。それしかない。

「誰だよお前」

名前も知らない男の子は、まるで不審者の私を疑わしい目で見ている。そりゃそうだ。だって【はじめてまして】だもの。だから私は笑顔で手を差し出した。

「アイリス・ビィ・シュナイゲルと申します。恋人になってください!」

深々と頭を下げてそう言うと、上から拒絶の言葉が降ってきた。

「嫌」

男の子はそう言うと、手を差し出して頭を下げてる私を横切って行ってしまった。人はこれを大失敗と言うんだろうけど、私はそうは思わない。会話が出来たし、目もあった。印象は良くないかもしれないけど、顔は覚えてもらえた……かもっ!

「よしっ!こっから、こっから!」

心に気合いを入れて顔を上げると、男の子のお友達らしき人が私を見て笑ってた。それはもうお腹と口を押さえて、震えながら笑ってた。失礼なヤツだ。

「失礼します」

すっげー嫌な顔をそのままに、その人にお辞儀をしてその場を離れようとした。そして気づいた。今の告白を聞いていた人がたくさんいたことに。私を見てヒソヒソと何かを喋ってる。何かの見世物みたいで嫌だけど、所構わず告白した私が悪いから居心地が悪い。今度こそ、そそくさとその場を離れた。


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