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鬼畜変態野郎に首輪
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○月○日
縛りプレイで女の輪郭を浮き彫りにされました。最後は生々しい女の声までも、ポロッと出ちゃいました。まだ処女なのに、どんどん大人の階段を登ってます。しかもこの階段は登りっぱなしで降りることができません。
私ってキモチイイことにスゴく弱いみたいです。
変態ドMだからですか?
あのあと、縄がほどかれたとき、肉に食い込んでた縄が緩んだ瞬間、イクのと同じくらい気持ち良かったです。すっと入ってくる空気、血が通う感じ、解放感、心も体も真っ白になるほどの脱力感。それがとても良かったんです。
力が抜けた体を、あの人はギュッとキツく抱きしめてくれました。縄で縛った時と同じくらいの強さと、体の芯まで熱くなるほどの温もりで、あやふやでドロドロに溶けた体の輪郭を、また作ってくれたのです。
今回のご主人様なりの褒め方なんだと思うんだけど、あの温もりは、心までも包み込むような、……勘違いかもしれないんですけど、あの人の想いが届いた気がしました。
何の想いなのか、それを私が言葉にするのは、違う気もします。
あの人の問題であって、私の問題じゃないのです。
それに私の使命は勇者討伐。これは勇者をぶっ殺す作戦であって、決して飼い慣らされたワケじゃないのです。
そう胸を張って言えるのに、もう一人の変態ドMな私が、この人を手放すな、素直になれと訴えてくるのです。
どうしてですか?
やっぱりキモチイイことにスゴく弱いからですか?
変態ドMだからですか?
あの日の夜、考えました。どうしてこうなってしまったのかを考えて、考えまくった結果、すべての元凶は勇者であるという結論に至りました。
そもそもの始まりは、勇者が大昔の約束を破ったことです。魔界にけんかを吹っ掛けてきて、終いには戦争の火種まで作って。こっちが何百年我慢しても、勇者の後継者は湧いて出てきます。
あの人が今の代の勇者なんですよね。
やっぱり勇者らしくないです。
魔族よりも【魔】な性格をしていますし、すべてを分かったつもりはないですが、でもイイ人だと思います。
鬼畜で変態ではありますが。
……はて、待てよ。
キツネ様を徹底的に飼い慣らして、魔界を手に入れようって作戦なんじゃ……ありえる。だってキツネ様のパパは魔王だもの。魔王の後継者はお婿さんかキツネ様のどちらかで、それで少し身の回りの人間関係が荒れてたりしてるもの。
危なかったです。もう少してキモチイイことに洗脳されて、あの人を信用するところでした。こうやって洗脳って始まるんですね。深みにハマる前に初心に戻れて良かったと思います。
私の敵は勇者である男、つまり、鬼畜変態野郎です。
キモチイイことをされようが、敵は敵です。 世界を混沌に導く勇者を討伐することがキツネ様の使命なのです。
それを忘れずに頑張りたいと思います。
でも、不安です。
これ以上の変態プレイをされちゃうと、もう初心にも戻れない気がします。でも、それを望んでるもう一人の自分が
ーーピンポーーン
「ふぎゃう!?」
寝る前の日記をさぼっていたので、まとめて書いていたら、チャイムが鳴った。鬼畜変態野郎はお出掛け中だ。誰かが来ても居留守を使えって言われてるから、知らん顔して日記に目を落とした。
ーーピンポーン ピンポーン
でも何度もしつっこいくらい鳴るチャイムにいい加減腹が立って、文句と一緒に玄関の扉をバンッと開けました。
「新聞は要りません!」
大きくて立派な剣を私に向けてる男の人が立っていた。
「おまっ、おまえ、魔族だなっ!」
いろいろバレてる。
これはまずいことになったと思い、玄関の扉を閉めようとしたけど、男の人も一緒に家の中に入ってきた。
これは不法侵入という犯罪だ。
「ころ、ころっ、殺されたくなかったら俺に従え!」
「はい」
「まっ、まずは、リビングに案内しろ! そこで、おまっ、おまえを、こっ、こっ、ころっ殺してやる!」
「はいはい」
しかしこの男の人、かみ過ぎだ。緊張してるってことは、こういうことに慣れてないってこと。何かに逆上しない限り、変なことはしないと思う。
そこら辺を気を付けながら、鬼畜変態野郎の帰りを大人しく待ってることが、私に出来る生への道だ。
「ほっ、ほら脱げよ! ころっ、殺す前に、あそっ、遊んでやる!」
これだから人間って興醒めなんだ。ママがいってたとおりだ。「魔族に対して上からモノを言う。ゴブリン以下の粗末なもんしか持ってないくせにって、魔界に生きる、生きとし生きるすべてのものに笑われてるの知らないの? カワイソウに」って。
今にも出したいため息を堪えて、慣れた手付きで服を脱いだ。
裸くらいどうってこともない。敵である勇者と変態プレイしてるから、このくらいじゃキツネ様はめげないのだ。
「でっ、次は何をするの? 尻尾でも振ってあげようか?」
素っ裸でソファーに手を着いた。わざとらしくお尻を持ち上げて尻尾をフリフリ。それを見た男の人は真っ赤だった。
「ねぇ、どうしたの? 何もしないの?」
今度はソファーに腰掛けた。それでも突っ立ったままの男の人に、クスクスと小さな笑いが出てしまう。
「俺を笑うなっ!」
「ごめんね?でも、だって、それ」
男の人に指さした。その異変に気づいたようで気づいてない男の人は、股間を押さえて座り込んだ。ここまでくればキツネ様の勝利だ。もう何も怖くない。
「おっきくなっちゃったね?」
「うっうるっうるさい!」
「ねっ、……したいの?」
「っ!?」
足を伸ばして男の人の肩に触れた。戸惑っている様子が面白くてニヤニヤが止まらない。
「私を裸にさせたのは、あんたよ。……どうしたいの?」
男の人の呼吸が荒くなっている。欲情に染まった顔を私に向けた。気持ち悪くて鳥肌が立ったけど、ウソの笑顔を張り付けて、足先で男の人の喉仏に触れた。
「……やらっ、せろ」
「やらせろ、ですって? ここがそう言ったの?」
喉仏をぐいぐい押した。それを拒否しないってことは、こいつも同類。いいね、喉を押し潰されるってどんな感じだろう。
「……やらせて、くださいっ」
「あらっ、イイコね。でもダメよ」
「へっ!?」
「あんたは夢中で気づいてないけど、居るわよ、うしろに。こわい鬼さんが」
笑顔で男の人の後ろを指さした。おずおずと振り返って、それを見た瞬間、「ぎゃあああああ!!」と盛大な叫び声を上げた。
「ほーう、立派な剣だ。でもダメだな、これは。俺を斬るには安物過ぎるぜ」
鬼畜変態野郎は、目映い光をまとった手でその剣をへし折った。パキッと簡単に、レタスでも千切るように。
私も男の人も、この人に二度と反抗しないと心に決めた。
「発情期のキツネとセックスしてぇだけなら別の場所でやってくれ」
おおっとまさかの展開だ。
偉そうにソファーに腰掛けて、くそみたいなことを言った鬼畜変態野郎に詰め寄った。
「何でそうなんのよ! こいつ私を犯そうとしたのよ! 早く取っ捕まえてボコボコにしなさいよ!」
「ああ? おまえが誘ってただろ。良かったじゃねぇか、子種をもらえて。これで将来は安泰だな」
「こんなくそみたいな男の遺伝子なんて要らないわよ!」
「やかましいぜ、まったく。あとはおまえらで仲良く話し合えよ」
本当にめんどくさいって態度で、今度は近くにあった新聞を開いた。確かに朝に読んでなかったけど、だからって今ここで読むものじゃないと思う。
「ぐぬぬぅ!」
猛烈に腹が立つのはどうしてだろう。素っ裸でうなっても滑稽なだけなのに、それでも怒りが優先されてしまう。
「あっ、あの」
「うっさいわね! 黙りなさいよ!」
「ひえええっ」
男の人に一喝したものの、とても良い案を思い付いて、服を着ながら話し掛けた。
「あんた他に武器とかないの?」
「えっと、……これです」
差し出してきた物は手錠だった。見る限り、猛獣とか魔族とか捕まえる用のやつ。
ニヤリと笑う私の素晴らしき作戦に気づいたのか、男の人はうんうんと首を縦に振った。
この瞬間、くそみたいな遺伝子を持つ男の人と想いを一つにした。
「そっ、そこまでだぜ!」
「キャウ!」
男の人が私に手錠を付けてきた。
へし折られた剣を手に持ち、その刃を喉仏に押し当ててきた。
これは鬼畜変態野郎を捕まえるための演技である。
「へっへし折られても、こいつの喉を斬るくらいわけないぜ!」
「痛いっ!」
「死ねよ、このくそ魔族! おまえらのせいでこっちは大変なんだよ!おまえらがいるから、おまえらのせいで!」
「おい、そいつに何をしてやがる。俺は仲良く話し合えと言ったんだぜ」
鬼畜変態野郎がようやく新聞から顔を上げた。その顔はまさしく鬼で、思わず目をそらしてしまった。
「なっ、なんだよ! 俺がこいつに何しても興味がないんだろ!?」
「まぁ、それもそう……だな」
「じゃ、じゃあ引っ込んでろよ! おまえには関係ねえ!」
「まぁ、確かに……関係ない」
「ちょっと何で押し負けてんのよ! 目の前で女の子が殺されかけてんのよ! 助けなさいよ!」
「まぁ、それも……そうなんだが、……実に参った。おまえらの話の意図が見えねえ。新聞じゃなく状況を読むんだったぜ」
「読むとか関係ないの! 助けろってお願いしてるの! 何でもしてあげるから早く助けてよ!」
「まぁ、……だな」
何を渋る必要があるのかこっちも全然分からないけど、ようやく鬼畜変態野郎が動き出した。
「おおっと、それ以上近づくなよ! こいつの喉を斬っちまうぜ!」
多少の犠牲は必要だけど、ピリッと喉に痛みが走った。生暖かい何かが垂れてるのが嫌でも分かる。でも、差し引いても、今が大チャンスだ。
「そいつは離してやれ。死んだら元も子もないんだぜ」
「じゃあおまえが代わりに人質になれ!」
「……わかった。いいだろう。俺が人質になる」
「ほっ、ほらよ!手錠だ!」
「これを付けりゃ解放するんだな」
すんなりと手錠を付けたおかげで、鬼畜変態野郎を捕まえることが出来た。
作戦通りだ。
「こ、こいつ、どっ、どうしてやるよ」
「フンッ!」
「ぐぎゃあああ!?」
男の人のみぞおちを殴った。
「な、なぜ……!?」
「くそみたいな遺伝子のくせにキツネ様に対してなれなれしいわ! タメ口が気に入らないの! ちゃんと言い直して!」
「すみません! こいつをどうしてやりましょうか!キツネ様の命令に従います!」
「うむ、よかろう!」
「ははっ、ありがたき幸せ!」
自ら土下座してるコイツを、「情けないわね」と鼻で笑って見下して、それを見てた鬼畜変態野郎が、「憎き魔族に土下座かよ」とコイツを鼻で笑って見下して、それに気づいたコイツが、「ああ?調子に乗ってんじゃあねーぞ」と、鬼畜変態野郎をののしった。
つまり順位を付けるなら、一番はキツネ様だ。あとの二人は二位の座を争ってるにすぎない。
キツネ様が一番偉いのだ。
「キツネ様もどうですか!? 調子に乗ってるこいつを殴って、スッキリしちゃっていいっすよ!」
くそみたいな遺伝子を持ってるだけあって、くそみたいなことを言ってる。でもこいつの名前を知らないから、返事をする前に名前を聞くことにした。
「あんた名前は?」
「ユウタと申します! キツネ様のためなら何でもしますよ!」
ユウタは自分より上の者にヘーコラするのがとても好きなんだなと思った。かの有名なユウタを見習うべきだ。あいつは上の者に対しても敬う心を知らずクレクレ要求がすごかった。
「ほ、ほら! どうっすか!?」
「私ね、殴るのキライなの。自分の手まで痛くなるでしょ?」
「た、確かにそうっすね! えっと、……今ならコイツ何でもいうことをききますよ! 好きなように命令をしてください!」
「……鬼畜変態野郎が私の命令を?」
「イエス!」
「うむ、よかろう!」
何だかとても楽しい状況なので、近くにあったキツネ様専用ボックスを漁り、いつか絶対に付けてやるって買っていた首輪を持って、鬼畜変態野郎の前に堂々とドヤ顔で仁王立ち。
好きなように命令出来る権利をもらった。
数々の変態的な命令をしてきた鬼畜変態野郎に今度は私が命令出来るのだ。
「オスワリ!」
「何言ってんだおまえバカか」
「オスワリしなさい!」
「嫌だね」
好きなように命令出来るって言ったのに命令をきいてくれない。
ユウタをみると、ユウタは鬼畜変態野郎を蹴ってグリグリと踏みつけた。
「キツネ様がオスワリって言ってんだぞ! オスワリしろ!」
「何だよ、おまえら。この俺を怒らせて何がしたいのか、サッパリ分かんねぇんだが」
「うるせえ! 言うことを聞け! キツネ様がやれって言ってんだろうが!」
おまえ死ぬ気か!? 相手は鬼畜だぞ、返り討ちに遭うぞ!って思ってたけど、鬼畜変態野郎は特に何を言うわけでも、するわけでもなかった。すました顔でそれを受け入れていた。
「スッゲー! ユウタスッゲー! あの鬼畜変態を黙らせるなんて、マジで最強!」
「キツネ様も踏みますか? なかなかの踏み心地ですよ」
「鬼畜変態野郎、踏むぅ」
こんなにも愉快な気持ちになったのは久しぶりだ。ワクワク気分で鬼畜変態野郎に足を乗せようとしたら、鬼畜変態野郎がしゃべった。
「止めろ、これ以上は止めろ。……どうなるか分からんぞ。だから、止めとけ」
「ガタガタうるせーんだよ! 変態野郎は黙ってろ!」
「ッ」
ユウタは鬼畜変態野郎の背中をグリグリと踏みつけたあと、丁寧にお辞儀をしてきた。
「さぁ、どうぞ、キツネ様。お好きなだけ踏みつけてください」
「はーい!」
これまでの想いを込めて、鬼畜変態野郎の手に、がんっと足を乗せた。
そのまましゃがんで笑顔で話し掛けた。
「私は今、踏み心地サイコーって気分なんだけど、……どんな気分?」
「……愉快ではないな」
「首輪、付けていい?」
「……好きにしろ」
「わーい!」
本人の許可をもらったので、持っていた首輪を付けた。支配するものと支配されるものを分からせるための首輪。その首輪にリードをつけた。
まさか自分が首輪をつけられる日が来ようとは思ってもなかっただろう。
これでこいつは私のペット。
私のもの。
私だけのものだ。
愉快だ、天晴れだ。
「今から私がご主人様だよ」
「あっそ」
「返事は、にゃー、です。分かりましたか?」
「あっそ」
「返事は?」
「知るか」
いうことをききなさいの意味で、リードをグッと引っ張ってみると、ギロッとにらまれた。
首輪に繋がれてるドM男ににらまれても少しも怖くないので、笑顔で言った。
「返事は?」
「……」
「へ、ん、じ」
「……にゃー」
小さく返事をした憎き敵に何かこうキュンっとした。
「キツネ様、次の命令はどうします?」
「うーん」
好きなように命令出来る権利をもらったのに、次が思い付かない。でも何か命令したいから、自分が言われた今までの変態的な命令をやってもらうことにした。
「おしっこしろ!」
「ぶへぁ!?」
ユウタが盛大にずっこけた。
「おしっ、おし、おしっ!!?」
とてもビックリしてる。
「いいぜ、別に」
「いいの!?」
「返事は、にゃー、でしょ」
「キツネ様、違う! そういうことじゃない!」
「にゃー」
「おまえ少しは嫌がれよ! なにノリノリで返事してんだ!」
ギャンギャン騒ぐユウタを残して、トイレまで引っ張っていく。トイレの扉を開けると中に入った。もちろん扉は開けている。
「ちょっと何してるんですか!? マジでやるつもりですか!?」
ユウタが慌ててやって来た。
ユウタの前でおしっこをするのは恥ずかしくないのだろうか。そう思ってると、鬼畜変態野郎が振り向いて、私を見ながらこう言った。
「おい、ゴシュジンサマ、手伝えよ」
「手伝う?」
「ファスナーを下ろせ」
「そんなの自分でやってよ」
「何だよ、ペットの世話もロクに出来ねーのかよ、俺のゴシュジンサマは」
バカにした感じでそう言ってきた鬼畜変態野郎にモヤッとした。
「このまま垂れ流してもいいんだぜ。汚したモノをキレイにするのはゴシュジンサマの役目だからな」
「何で私の役目なのよ!」
「おまえはペットにトイレの世話させんのかよ。逆だろ、普通に考えて。飼い主がペットの世話すんのが当たり前だぜ」
「いや普通に考えて、人前で、ましてや女の子の前で排泄しないのが当たり前だと思うんですが……」
「ユウタは黙ってなさい!」
「ひえええっ」
「ほら、どうしたよ、ゴシュジンサマ。おまえの命令次第で俺はどうとでもなるんだぜ」
言い返してやりたいけど、鬼畜変態野郎の言う通りだ。鬼畜変態野郎もプレイのあとは、汚れたモノをキレイに処理してくれてた。外でおしっこしたときも、わざわざ水で流してた。
こいつにできて私にできないとか、そういうのはダメだ。
ファスナーを下ろせば勝手におしっこするわけだし、今までやってきたプレイに比べれば、ファスナーを下ろすくらい、なんてこともない。
「分かったわよ」
「ダメです! 手のひらで転がされ過ぎですよ! これから先はNGです!」
「あんたはこいつがおしっこするところを見てなさい!」
「いや、それは見たくないですね」
鬼畜変態野郎のファスナーに手を伸ばす。それを下ろして、「できたよ!」と笑顔で見ると、「取り出せ」と言ってきた。意味が分かんなくて首をかしげると、「アレを取り出せ」と。
「アレ?」
「男のアレ」
「あれれれ!!?」
言わんことがやっと分かって、カッと顔が熱くなってしまう。それは無理だと首をブンブン振って拒否すると、私の手首をつかんで股間に押し付けてきた。
「やっ!? やだ! 離して!」
「おいおい、手伝ってくれねーとあとで困るのはおまえだぜ」
「もうおしっこしなくていいから! 謝るから! 手を離して! 当たってるの!」
「当たる? 何が? 言ったら離してやるよ。ほら、おまえの手に、何が、当たってんだ?」
「いやあああ!」
「もう止めろ! おまえマジの変態だな!」
限界値を突破して泣き叫んでると、ユウタが助けてくれた。
「そういうことを命令するからこんな目に遭うんです! 女の子なんですから気をつけてください!」
「なんだよ、もう終わりかよ」
「おまえは黙ってろ、この変態野郎! いいですか、キツネ様。コイツへの命令は俺がやりますから、キツネ様はそのリードを離さず持っててください。それがキツネ様のお仕事です。お願いですから、勝手な行動は慎んでください」
「うん、分かった! お仕事頑張る!」
「……かわっ、かわいいっ!」
「……それ、俺のキツネだぜ」
「やかましい! おまえはこっちだ、この鬼畜変態野郎! 警察につきだしてやる!」
リードをしっかりと手に持って、ユウタに連れられて外に出た。鬼畜変態野郎は文句も言わずに、黙って後ろからついてきてる。
しかし、鬼畜変態野郎ってことは知ってたけど、まさか手にアレを押し付けてくるなんて思わなかった。
生まれて初めて触った。柔くてフニフニだった。もっと固いモノって聞いて想像してたのに全然違った。でも、大きかった気もする。比較対象が居ないから比べようがないけど。
もっとサンプルがあれば……あっ、そうだ!
「ユウタのユウタは大きいの?」
「ぶふっ!?」
ユウタが盛大にずっこけた。
「比較したいから触らせて」
「い、いやです! 絶対にいやです!」
「私に反抗するの?」
「したくないですけどこればかりはダメです! 触らないのが人間のマナーなんです!」
「気をつけッ!」
「は、はいィィ!」
ビシィィッと気をつけをしたユウタの股間に向けて、スゥッと手を伸ばす。サワサワッとアレを確かめた後、鬼畜変態野郎の隣に立って手首をつかんだ。
「勝者、鬼畜変態野郎!」
「まっ、当然だな。俺がこんな野郎なんかに負けるわけがねえ」
「何だこの屈辱! とんだとばっちりじゃあねぇか! つーか、なに勝手にしゃべってんだ、この鬼畜変態野郎!」
「にゃー」
「はーらーたーつー!!!!」
さすがに男の勲章を比べるのはダメだったようで、ユウタが荒れてしまった。原因は私なので、ユウタの背中をポンポンと叩き、親指を立てて、ドヤ顔で慰めの言葉を贈った。
「問題は大きさじゃあねえ。腰使いと、女の本質を見抜くことさ!」
「処女のキツネが何を偉そうに言ってんの!?」
「キツネの言う通りだ。大きさはある程度あれば十分。あとは、女が何を求めてるか見抜けるようになればいい。……まっ、おまえに分かるわけねぇな」
「今の状況分かってて言ってる!? おまえ今から警察に行くんだよ!? ってか俺の許可なくしゃべるんじゃねえ!」
「にゃー」
「あああああ!!!!!」
言葉にならないほどの感情と戦ってるみたいで、ユウタはその場で地団駄を踏んだ。あまりにも壊れかけてるからフォローしようとしたけど、もういいと言ってトボトボと歩き出した。
もういいなら別にいいやと、鬼畜変態野郎を繋いでるリードを持って、黙ってユウタに着いていくことに。
すると、さっきまで落ち込んでたユウタが元気になった。
「見て! キツネ様、見てください!」
ユウタの指さした先は交番だった。その交番の出入り口に、鬼畜変態野郎と知り合いのお兄さんが制服を着て立っていた。
すべてを察したので、急いで首輪を外そうとしたけど、鬼畜変態野郎が私の手を力強くつかんできた。
「プレイはまだ終わりじゃねぇ」
死んだと思った。
「おーい!」
鬼畜変態野郎の存在に気づいたお兄さんが元気よく声を掛けてきた。
もう逃げられないなと思った。
「どうした……ほんとにおまえどうしたの!?」
「いや、別に」
「別にって格好じゃねーんだけど!? 何で首輪を付けてんの!? おまえは真性の鬼畜だろ!?」
「コイツらと遊んでた」
「コイツらって……ああ、コイツらね」
居心地の悪さにうつ向くしかなく。ユウタもいろいろと察してしまったのか、うつ向いてた。
お兄さんも鬼畜変態野郎だって知ってたんだ。しかも真性って認めた上で知り合いやってたんだね。友情パワーってやつ?そりゃすごいや。
「この組み合わせも大概だろ。何がどうなってこうなってんの」
「俺もサッパリ分からん。でも二人で仲良く俺で遊んでたぜ。昔のしがらみを忘れて仲良くなったんじゃねぇのか」
「絶対に違う。つーか、お互いのことを知ってんの?」
「知らないとは言わせねぇぜ。コイツらが仲良く遊んで平和になるならと、踏まれても何されても我慢してやったんだ」
「ねぇ、キツネちゃん。この男の人、知ってる?」
お兄さんがユウタを指差しながらに質問してきた。ブンブンと首を横に振ったら、ユウタが「えええ!?」と叫んだ。
「さ、さすが魔族! 人間界の情報について無知だ!」
「おまえは黙ってろ」
鬼畜変態野郎がユウタにそう言うと、ユウタは黙ってしまった。
「あのね、キツネちゃん。この人ね、勇者だよ。人間界の勇者様」
ありえないことを言われて顔を上げた。
お兄さんは苦笑いで、「ほんとだよ」と言ってきた。
信じられなくて鬼畜変態野郎を見た。鬼畜変態野郎は相も変わらず無表情だけど、「本当だぜ」と言った。
それでも信じられなくてユウタを見た。ユウタは申し訳なさそうに、「勇者です」と名乗った。
「えっ、でも! だって! 鬼畜変態野郎が勇者だって!」
「俺が一言でも、勇者だと名乗ったか?」
確かに……言ってない。ってことは、ずっと勇者だと勘違いしてたってこと?勇者だと思い込んで、勇者討伐するべく変態的なプレイまで……
「……うああああああ!!」
何かもういろいろと考えられなくなって大声で叫んだ。
「あと、勇者様。このキツネちゃんね、魔族は魔族でも、魔王の一人娘だよ」
「……へ?」
「魔王の娘のキツネ様」
「……うああああああ!!」
ユウタも同じだった。二人で目を合わせて精一杯叫んだ。叫ぶ以外のことが思い付かなかった。
「見ろよ、勇者も魔族も仲良しだろ」
「そんでこの二人、おまえのことは何も知らないってわけね」
「聞かれてねぇから言ってねえ」
「まぁ、それもそうか。それよりどうすんの、この二人。勇者様と魔王の娘が仲良く叫んでるけど、世界は平和になったってことでいいの?」
「別にいいだろ」
「いや、ダメでしょ。二人が落ち着いたら改めて話し合いをしようか。間違いなく行き違いになってるよ、これ」
「あとは任せた」
「おまえも参加だ、この鬼畜変態野郎。魔王の娘に手を出しやがって!」
「出してねーよ、まだな」
ーーーーー
縛りプレイで女の輪郭を浮き彫りにされました。最後は生々しい女の声までも、ポロッと出ちゃいました。まだ処女なのに、どんどん大人の階段を登ってます。しかもこの階段は登りっぱなしで降りることができません。
私ってキモチイイことにスゴく弱いみたいです。
変態ドMだからですか?
あのあと、縄がほどかれたとき、肉に食い込んでた縄が緩んだ瞬間、イクのと同じくらい気持ち良かったです。すっと入ってくる空気、血が通う感じ、解放感、心も体も真っ白になるほどの脱力感。それがとても良かったんです。
力が抜けた体を、あの人はギュッとキツく抱きしめてくれました。縄で縛った時と同じくらいの強さと、体の芯まで熱くなるほどの温もりで、あやふやでドロドロに溶けた体の輪郭を、また作ってくれたのです。
今回のご主人様なりの褒め方なんだと思うんだけど、あの温もりは、心までも包み込むような、……勘違いかもしれないんですけど、あの人の想いが届いた気がしました。
何の想いなのか、それを私が言葉にするのは、違う気もします。
あの人の問題であって、私の問題じゃないのです。
それに私の使命は勇者討伐。これは勇者をぶっ殺す作戦であって、決して飼い慣らされたワケじゃないのです。
そう胸を張って言えるのに、もう一人の変態ドMな私が、この人を手放すな、素直になれと訴えてくるのです。
どうしてですか?
やっぱりキモチイイことにスゴく弱いからですか?
変態ドMだからですか?
あの日の夜、考えました。どうしてこうなってしまったのかを考えて、考えまくった結果、すべての元凶は勇者であるという結論に至りました。
そもそもの始まりは、勇者が大昔の約束を破ったことです。魔界にけんかを吹っ掛けてきて、終いには戦争の火種まで作って。こっちが何百年我慢しても、勇者の後継者は湧いて出てきます。
あの人が今の代の勇者なんですよね。
やっぱり勇者らしくないです。
魔族よりも【魔】な性格をしていますし、すべてを分かったつもりはないですが、でもイイ人だと思います。
鬼畜で変態ではありますが。
……はて、待てよ。
キツネ様を徹底的に飼い慣らして、魔界を手に入れようって作戦なんじゃ……ありえる。だってキツネ様のパパは魔王だもの。魔王の後継者はお婿さんかキツネ様のどちらかで、それで少し身の回りの人間関係が荒れてたりしてるもの。
危なかったです。もう少してキモチイイことに洗脳されて、あの人を信用するところでした。こうやって洗脳って始まるんですね。深みにハマる前に初心に戻れて良かったと思います。
私の敵は勇者である男、つまり、鬼畜変態野郎です。
キモチイイことをされようが、敵は敵です。 世界を混沌に導く勇者を討伐することがキツネ様の使命なのです。
それを忘れずに頑張りたいと思います。
でも、不安です。
これ以上の変態プレイをされちゃうと、もう初心にも戻れない気がします。でも、それを望んでるもう一人の自分が
ーーピンポーーン
「ふぎゃう!?」
寝る前の日記をさぼっていたので、まとめて書いていたら、チャイムが鳴った。鬼畜変態野郎はお出掛け中だ。誰かが来ても居留守を使えって言われてるから、知らん顔して日記に目を落とした。
ーーピンポーン ピンポーン
でも何度もしつっこいくらい鳴るチャイムにいい加減腹が立って、文句と一緒に玄関の扉をバンッと開けました。
「新聞は要りません!」
大きくて立派な剣を私に向けてる男の人が立っていた。
「おまっ、おまえ、魔族だなっ!」
いろいろバレてる。
これはまずいことになったと思い、玄関の扉を閉めようとしたけど、男の人も一緒に家の中に入ってきた。
これは不法侵入という犯罪だ。
「ころ、ころっ、殺されたくなかったら俺に従え!」
「はい」
「まっ、まずは、リビングに案内しろ! そこで、おまっ、おまえを、こっ、こっ、ころっ殺してやる!」
「はいはい」
しかしこの男の人、かみ過ぎだ。緊張してるってことは、こういうことに慣れてないってこと。何かに逆上しない限り、変なことはしないと思う。
そこら辺を気を付けながら、鬼畜変態野郎の帰りを大人しく待ってることが、私に出来る生への道だ。
「ほっ、ほら脱げよ! ころっ、殺す前に、あそっ、遊んでやる!」
これだから人間って興醒めなんだ。ママがいってたとおりだ。「魔族に対して上からモノを言う。ゴブリン以下の粗末なもんしか持ってないくせにって、魔界に生きる、生きとし生きるすべてのものに笑われてるの知らないの? カワイソウに」って。
今にも出したいため息を堪えて、慣れた手付きで服を脱いだ。
裸くらいどうってこともない。敵である勇者と変態プレイしてるから、このくらいじゃキツネ様はめげないのだ。
「でっ、次は何をするの? 尻尾でも振ってあげようか?」
素っ裸でソファーに手を着いた。わざとらしくお尻を持ち上げて尻尾をフリフリ。それを見た男の人は真っ赤だった。
「ねぇ、どうしたの? 何もしないの?」
今度はソファーに腰掛けた。それでも突っ立ったままの男の人に、クスクスと小さな笑いが出てしまう。
「俺を笑うなっ!」
「ごめんね?でも、だって、それ」
男の人に指さした。その異変に気づいたようで気づいてない男の人は、股間を押さえて座り込んだ。ここまでくればキツネ様の勝利だ。もう何も怖くない。
「おっきくなっちゃったね?」
「うっうるっうるさい!」
「ねっ、……したいの?」
「っ!?」
足を伸ばして男の人の肩に触れた。戸惑っている様子が面白くてニヤニヤが止まらない。
「私を裸にさせたのは、あんたよ。……どうしたいの?」
男の人の呼吸が荒くなっている。欲情に染まった顔を私に向けた。気持ち悪くて鳥肌が立ったけど、ウソの笑顔を張り付けて、足先で男の人の喉仏に触れた。
「……やらっ、せろ」
「やらせろ、ですって? ここがそう言ったの?」
喉仏をぐいぐい押した。それを拒否しないってことは、こいつも同類。いいね、喉を押し潰されるってどんな感じだろう。
「……やらせて、くださいっ」
「あらっ、イイコね。でもダメよ」
「へっ!?」
「あんたは夢中で気づいてないけど、居るわよ、うしろに。こわい鬼さんが」
笑顔で男の人の後ろを指さした。おずおずと振り返って、それを見た瞬間、「ぎゃあああああ!!」と盛大な叫び声を上げた。
「ほーう、立派な剣だ。でもダメだな、これは。俺を斬るには安物過ぎるぜ」
鬼畜変態野郎は、目映い光をまとった手でその剣をへし折った。パキッと簡単に、レタスでも千切るように。
私も男の人も、この人に二度と反抗しないと心に決めた。
「発情期のキツネとセックスしてぇだけなら別の場所でやってくれ」
おおっとまさかの展開だ。
偉そうにソファーに腰掛けて、くそみたいなことを言った鬼畜変態野郎に詰め寄った。
「何でそうなんのよ! こいつ私を犯そうとしたのよ! 早く取っ捕まえてボコボコにしなさいよ!」
「ああ? おまえが誘ってただろ。良かったじゃねぇか、子種をもらえて。これで将来は安泰だな」
「こんなくそみたいな男の遺伝子なんて要らないわよ!」
「やかましいぜ、まったく。あとはおまえらで仲良く話し合えよ」
本当にめんどくさいって態度で、今度は近くにあった新聞を開いた。確かに朝に読んでなかったけど、だからって今ここで読むものじゃないと思う。
「ぐぬぬぅ!」
猛烈に腹が立つのはどうしてだろう。素っ裸でうなっても滑稽なだけなのに、それでも怒りが優先されてしまう。
「あっ、あの」
「うっさいわね! 黙りなさいよ!」
「ひえええっ」
男の人に一喝したものの、とても良い案を思い付いて、服を着ながら話し掛けた。
「あんた他に武器とかないの?」
「えっと、……これです」
差し出してきた物は手錠だった。見る限り、猛獣とか魔族とか捕まえる用のやつ。
ニヤリと笑う私の素晴らしき作戦に気づいたのか、男の人はうんうんと首を縦に振った。
この瞬間、くそみたいな遺伝子を持つ男の人と想いを一つにした。
「そっ、そこまでだぜ!」
「キャウ!」
男の人が私に手錠を付けてきた。
へし折られた剣を手に持ち、その刃を喉仏に押し当ててきた。
これは鬼畜変態野郎を捕まえるための演技である。
「へっへし折られても、こいつの喉を斬るくらいわけないぜ!」
「痛いっ!」
「死ねよ、このくそ魔族! おまえらのせいでこっちは大変なんだよ!おまえらがいるから、おまえらのせいで!」
「おい、そいつに何をしてやがる。俺は仲良く話し合えと言ったんだぜ」
鬼畜変態野郎がようやく新聞から顔を上げた。その顔はまさしく鬼で、思わず目をそらしてしまった。
「なっ、なんだよ! 俺がこいつに何しても興味がないんだろ!?」
「まぁ、それもそう……だな」
「じゃ、じゃあ引っ込んでろよ! おまえには関係ねえ!」
「まぁ、確かに……関係ない」
「ちょっと何で押し負けてんのよ! 目の前で女の子が殺されかけてんのよ! 助けなさいよ!」
「まぁ、それも……そうなんだが、……実に参った。おまえらの話の意図が見えねえ。新聞じゃなく状況を読むんだったぜ」
「読むとか関係ないの! 助けろってお願いしてるの! 何でもしてあげるから早く助けてよ!」
「まぁ、……だな」
何を渋る必要があるのかこっちも全然分からないけど、ようやく鬼畜変態野郎が動き出した。
「おおっと、それ以上近づくなよ! こいつの喉を斬っちまうぜ!」
多少の犠牲は必要だけど、ピリッと喉に痛みが走った。生暖かい何かが垂れてるのが嫌でも分かる。でも、差し引いても、今が大チャンスだ。
「そいつは離してやれ。死んだら元も子もないんだぜ」
「じゃあおまえが代わりに人質になれ!」
「……わかった。いいだろう。俺が人質になる」
「ほっ、ほらよ!手錠だ!」
「これを付けりゃ解放するんだな」
すんなりと手錠を付けたおかげで、鬼畜変態野郎を捕まえることが出来た。
作戦通りだ。
「こ、こいつ、どっ、どうしてやるよ」
「フンッ!」
「ぐぎゃあああ!?」
男の人のみぞおちを殴った。
「な、なぜ……!?」
「くそみたいな遺伝子のくせにキツネ様に対してなれなれしいわ! タメ口が気に入らないの! ちゃんと言い直して!」
「すみません! こいつをどうしてやりましょうか!キツネ様の命令に従います!」
「うむ、よかろう!」
「ははっ、ありがたき幸せ!」
自ら土下座してるコイツを、「情けないわね」と鼻で笑って見下して、それを見てた鬼畜変態野郎が、「憎き魔族に土下座かよ」とコイツを鼻で笑って見下して、それに気づいたコイツが、「ああ?調子に乗ってんじゃあねーぞ」と、鬼畜変態野郎をののしった。
つまり順位を付けるなら、一番はキツネ様だ。あとの二人は二位の座を争ってるにすぎない。
キツネ様が一番偉いのだ。
「キツネ様もどうですか!? 調子に乗ってるこいつを殴って、スッキリしちゃっていいっすよ!」
くそみたいな遺伝子を持ってるだけあって、くそみたいなことを言ってる。でもこいつの名前を知らないから、返事をする前に名前を聞くことにした。
「あんた名前は?」
「ユウタと申します! キツネ様のためなら何でもしますよ!」
ユウタは自分より上の者にヘーコラするのがとても好きなんだなと思った。かの有名なユウタを見習うべきだ。あいつは上の者に対しても敬う心を知らずクレクレ要求がすごかった。
「ほ、ほら! どうっすか!?」
「私ね、殴るのキライなの。自分の手まで痛くなるでしょ?」
「た、確かにそうっすね! えっと、……今ならコイツ何でもいうことをききますよ! 好きなように命令をしてください!」
「……鬼畜変態野郎が私の命令を?」
「イエス!」
「うむ、よかろう!」
何だかとても楽しい状況なので、近くにあったキツネ様専用ボックスを漁り、いつか絶対に付けてやるって買っていた首輪を持って、鬼畜変態野郎の前に堂々とドヤ顔で仁王立ち。
好きなように命令出来る権利をもらった。
数々の変態的な命令をしてきた鬼畜変態野郎に今度は私が命令出来るのだ。
「オスワリ!」
「何言ってんだおまえバカか」
「オスワリしなさい!」
「嫌だね」
好きなように命令出来るって言ったのに命令をきいてくれない。
ユウタをみると、ユウタは鬼畜変態野郎を蹴ってグリグリと踏みつけた。
「キツネ様がオスワリって言ってんだぞ! オスワリしろ!」
「何だよ、おまえら。この俺を怒らせて何がしたいのか、サッパリ分かんねぇんだが」
「うるせえ! 言うことを聞け! キツネ様がやれって言ってんだろうが!」
おまえ死ぬ気か!? 相手は鬼畜だぞ、返り討ちに遭うぞ!って思ってたけど、鬼畜変態野郎は特に何を言うわけでも、するわけでもなかった。すました顔でそれを受け入れていた。
「スッゲー! ユウタスッゲー! あの鬼畜変態を黙らせるなんて、マジで最強!」
「キツネ様も踏みますか? なかなかの踏み心地ですよ」
「鬼畜変態野郎、踏むぅ」
こんなにも愉快な気持ちになったのは久しぶりだ。ワクワク気分で鬼畜変態野郎に足を乗せようとしたら、鬼畜変態野郎がしゃべった。
「止めろ、これ以上は止めろ。……どうなるか分からんぞ。だから、止めとけ」
「ガタガタうるせーんだよ! 変態野郎は黙ってろ!」
「ッ」
ユウタは鬼畜変態野郎の背中をグリグリと踏みつけたあと、丁寧にお辞儀をしてきた。
「さぁ、どうぞ、キツネ様。お好きなだけ踏みつけてください」
「はーい!」
これまでの想いを込めて、鬼畜変態野郎の手に、がんっと足を乗せた。
そのまましゃがんで笑顔で話し掛けた。
「私は今、踏み心地サイコーって気分なんだけど、……どんな気分?」
「……愉快ではないな」
「首輪、付けていい?」
「……好きにしろ」
「わーい!」
本人の許可をもらったので、持っていた首輪を付けた。支配するものと支配されるものを分からせるための首輪。その首輪にリードをつけた。
まさか自分が首輪をつけられる日が来ようとは思ってもなかっただろう。
これでこいつは私のペット。
私のもの。
私だけのものだ。
愉快だ、天晴れだ。
「今から私がご主人様だよ」
「あっそ」
「返事は、にゃー、です。分かりましたか?」
「あっそ」
「返事は?」
「知るか」
いうことをききなさいの意味で、リードをグッと引っ張ってみると、ギロッとにらまれた。
首輪に繋がれてるドM男ににらまれても少しも怖くないので、笑顔で言った。
「返事は?」
「……」
「へ、ん、じ」
「……にゃー」
小さく返事をした憎き敵に何かこうキュンっとした。
「キツネ様、次の命令はどうします?」
「うーん」
好きなように命令出来る権利をもらったのに、次が思い付かない。でも何か命令したいから、自分が言われた今までの変態的な命令をやってもらうことにした。
「おしっこしろ!」
「ぶへぁ!?」
ユウタが盛大にずっこけた。
「おしっ、おし、おしっ!!?」
とてもビックリしてる。
「いいぜ、別に」
「いいの!?」
「返事は、にゃー、でしょ」
「キツネ様、違う! そういうことじゃない!」
「にゃー」
「おまえ少しは嫌がれよ! なにノリノリで返事してんだ!」
ギャンギャン騒ぐユウタを残して、トイレまで引っ張っていく。トイレの扉を開けると中に入った。もちろん扉は開けている。
「ちょっと何してるんですか!? マジでやるつもりですか!?」
ユウタが慌ててやって来た。
ユウタの前でおしっこをするのは恥ずかしくないのだろうか。そう思ってると、鬼畜変態野郎が振り向いて、私を見ながらこう言った。
「おい、ゴシュジンサマ、手伝えよ」
「手伝う?」
「ファスナーを下ろせ」
「そんなの自分でやってよ」
「何だよ、ペットの世話もロクに出来ねーのかよ、俺のゴシュジンサマは」
バカにした感じでそう言ってきた鬼畜変態野郎にモヤッとした。
「このまま垂れ流してもいいんだぜ。汚したモノをキレイにするのはゴシュジンサマの役目だからな」
「何で私の役目なのよ!」
「おまえはペットにトイレの世話させんのかよ。逆だろ、普通に考えて。飼い主がペットの世話すんのが当たり前だぜ」
「いや普通に考えて、人前で、ましてや女の子の前で排泄しないのが当たり前だと思うんですが……」
「ユウタは黙ってなさい!」
「ひえええっ」
「ほら、どうしたよ、ゴシュジンサマ。おまえの命令次第で俺はどうとでもなるんだぜ」
言い返してやりたいけど、鬼畜変態野郎の言う通りだ。鬼畜変態野郎もプレイのあとは、汚れたモノをキレイに処理してくれてた。外でおしっこしたときも、わざわざ水で流してた。
こいつにできて私にできないとか、そういうのはダメだ。
ファスナーを下ろせば勝手におしっこするわけだし、今までやってきたプレイに比べれば、ファスナーを下ろすくらい、なんてこともない。
「分かったわよ」
「ダメです! 手のひらで転がされ過ぎですよ! これから先はNGです!」
「あんたはこいつがおしっこするところを見てなさい!」
「いや、それは見たくないですね」
鬼畜変態野郎のファスナーに手を伸ばす。それを下ろして、「できたよ!」と笑顔で見ると、「取り出せ」と言ってきた。意味が分かんなくて首をかしげると、「アレを取り出せ」と。
「アレ?」
「男のアレ」
「あれれれ!!?」
言わんことがやっと分かって、カッと顔が熱くなってしまう。それは無理だと首をブンブン振って拒否すると、私の手首をつかんで股間に押し付けてきた。
「やっ!? やだ! 離して!」
「おいおい、手伝ってくれねーとあとで困るのはおまえだぜ」
「もうおしっこしなくていいから! 謝るから! 手を離して! 当たってるの!」
「当たる? 何が? 言ったら離してやるよ。ほら、おまえの手に、何が、当たってんだ?」
「いやあああ!」
「もう止めろ! おまえマジの変態だな!」
限界値を突破して泣き叫んでると、ユウタが助けてくれた。
「そういうことを命令するからこんな目に遭うんです! 女の子なんですから気をつけてください!」
「なんだよ、もう終わりかよ」
「おまえは黙ってろ、この変態野郎! いいですか、キツネ様。コイツへの命令は俺がやりますから、キツネ様はそのリードを離さず持っててください。それがキツネ様のお仕事です。お願いですから、勝手な行動は慎んでください」
「うん、分かった! お仕事頑張る!」
「……かわっ、かわいいっ!」
「……それ、俺のキツネだぜ」
「やかましい! おまえはこっちだ、この鬼畜変態野郎! 警察につきだしてやる!」
リードをしっかりと手に持って、ユウタに連れられて外に出た。鬼畜変態野郎は文句も言わずに、黙って後ろからついてきてる。
しかし、鬼畜変態野郎ってことは知ってたけど、まさか手にアレを押し付けてくるなんて思わなかった。
生まれて初めて触った。柔くてフニフニだった。もっと固いモノって聞いて想像してたのに全然違った。でも、大きかった気もする。比較対象が居ないから比べようがないけど。
もっとサンプルがあれば……あっ、そうだ!
「ユウタのユウタは大きいの?」
「ぶふっ!?」
ユウタが盛大にずっこけた。
「比較したいから触らせて」
「い、いやです! 絶対にいやです!」
「私に反抗するの?」
「したくないですけどこればかりはダメです! 触らないのが人間のマナーなんです!」
「気をつけッ!」
「は、はいィィ!」
ビシィィッと気をつけをしたユウタの股間に向けて、スゥッと手を伸ばす。サワサワッとアレを確かめた後、鬼畜変態野郎の隣に立って手首をつかんだ。
「勝者、鬼畜変態野郎!」
「まっ、当然だな。俺がこんな野郎なんかに負けるわけがねえ」
「何だこの屈辱! とんだとばっちりじゃあねぇか! つーか、なに勝手にしゃべってんだ、この鬼畜変態野郎!」
「にゃー」
「はーらーたーつー!!!!」
さすがに男の勲章を比べるのはダメだったようで、ユウタが荒れてしまった。原因は私なので、ユウタの背中をポンポンと叩き、親指を立てて、ドヤ顔で慰めの言葉を贈った。
「問題は大きさじゃあねえ。腰使いと、女の本質を見抜くことさ!」
「処女のキツネが何を偉そうに言ってんの!?」
「キツネの言う通りだ。大きさはある程度あれば十分。あとは、女が何を求めてるか見抜けるようになればいい。……まっ、おまえに分かるわけねぇな」
「今の状況分かってて言ってる!? おまえ今から警察に行くんだよ!? ってか俺の許可なくしゃべるんじゃねえ!」
「にゃー」
「あああああ!!!!!」
言葉にならないほどの感情と戦ってるみたいで、ユウタはその場で地団駄を踏んだ。あまりにも壊れかけてるからフォローしようとしたけど、もういいと言ってトボトボと歩き出した。
もういいなら別にいいやと、鬼畜変態野郎を繋いでるリードを持って、黙ってユウタに着いていくことに。
すると、さっきまで落ち込んでたユウタが元気になった。
「見て! キツネ様、見てください!」
ユウタの指さした先は交番だった。その交番の出入り口に、鬼畜変態野郎と知り合いのお兄さんが制服を着て立っていた。
すべてを察したので、急いで首輪を外そうとしたけど、鬼畜変態野郎が私の手を力強くつかんできた。
「プレイはまだ終わりじゃねぇ」
死んだと思った。
「おーい!」
鬼畜変態野郎の存在に気づいたお兄さんが元気よく声を掛けてきた。
もう逃げられないなと思った。
「どうした……ほんとにおまえどうしたの!?」
「いや、別に」
「別にって格好じゃねーんだけど!? 何で首輪を付けてんの!? おまえは真性の鬼畜だろ!?」
「コイツらと遊んでた」
「コイツらって……ああ、コイツらね」
居心地の悪さにうつ向くしかなく。ユウタもいろいろと察してしまったのか、うつ向いてた。
お兄さんも鬼畜変態野郎だって知ってたんだ。しかも真性って認めた上で知り合いやってたんだね。友情パワーってやつ?そりゃすごいや。
「この組み合わせも大概だろ。何がどうなってこうなってんの」
「俺もサッパリ分からん。でも二人で仲良く俺で遊んでたぜ。昔のしがらみを忘れて仲良くなったんじゃねぇのか」
「絶対に違う。つーか、お互いのことを知ってんの?」
「知らないとは言わせねぇぜ。コイツらが仲良く遊んで平和になるならと、踏まれても何されても我慢してやったんだ」
「ねぇ、キツネちゃん。この男の人、知ってる?」
お兄さんがユウタを指差しながらに質問してきた。ブンブンと首を横に振ったら、ユウタが「えええ!?」と叫んだ。
「さ、さすが魔族! 人間界の情報について無知だ!」
「おまえは黙ってろ」
鬼畜変態野郎がユウタにそう言うと、ユウタは黙ってしまった。
「あのね、キツネちゃん。この人ね、勇者だよ。人間界の勇者様」
ありえないことを言われて顔を上げた。
お兄さんは苦笑いで、「ほんとだよ」と言ってきた。
信じられなくて鬼畜変態野郎を見た。鬼畜変態野郎は相も変わらず無表情だけど、「本当だぜ」と言った。
それでも信じられなくてユウタを見た。ユウタは申し訳なさそうに、「勇者です」と名乗った。
「えっ、でも! だって! 鬼畜変態野郎が勇者だって!」
「俺が一言でも、勇者だと名乗ったか?」
確かに……言ってない。ってことは、ずっと勇者だと勘違いしてたってこと?勇者だと思い込んで、勇者討伐するべく変態的なプレイまで……
「……うああああああ!!」
何かもういろいろと考えられなくなって大声で叫んだ。
「あと、勇者様。このキツネちゃんね、魔族は魔族でも、魔王の一人娘だよ」
「……へ?」
「魔王の娘のキツネ様」
「……うああああああ!!」
ユウタも同じだった。二人で目を合わせて精一杯叫んだ。叫ぶ以外のことが思い付かなかった。
「見ろよ、勇者も魔族も仲良しだろ」
「そんでこの二人、おまえのことは何も知らないってわけね」
「聞かれてねぇから言ってねえ」
「まぁ、それもそうか。それよりどうすんの、この二人。勇者様と魔王の娘が仲良く叫んでるけど、世界は平和になったってことでいいの?」
「別にいいだろ」
「いや、ダメでしょ。二人が落ち着いたら改めて話し合いをしようか。間違いなく行き違いになってるよ、これ」
「あとは任せた」
「おまえも参加だ、この鬼畜変態野郎。魔王の娘に手を出しやがって!」
「出してねーよ、まだな」
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