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鬼畜変態野郎と拘束プレイ
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ベッドをともに……という約束から六日がたった。特に何かあるわけでもなく、毎日をのんびり過ごしている。
鬼畜変態野郎も、勇者のくせに、特に目立った行動をしていない。世界を混沌に陥れている張本人とは思えないほど、普通の日常を過ごしている。
今日もそう。
朝は私より先に起きて、ご飯を作って、それを一緒に食べて、食後のコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。
本当にこいつが勇者?って疑うほど、勇者らしくない。
でも、能あるタカは爪を隠すっていうから、勇者らしくない勇者を演じて、キツネ様の目をごまかしている可能性もある。
キツネ様は決してだまされない。
勇者討伐のために何でもするって決めた。魔族の勝利で世界に平和を取り戻すのだ。
「今日のフルーツはおいしいね。特にパイナップルとか、みずみずしくて甘くてサイコーにおいしい」
「果物屋のおすすめ」
「イチゴも甘くておいしい」
「果物屋のおすすめ」
「でもオレンジはダメだね。みずみずしさが足りないし、何か味が変だよ」
「2週間前のやつ」
「キツネ様になんてものを食わせてるのよ!」
「残飯処理」
「きいいいいいっ!!」
朝から騒がしい会話をしていると、テレビから最近の魔族の動向っていう物騒な音声が聞こえてきた。今すぐほしい情報だからテレビに集中した。
「魔族は人間界へ侵入し、野蛮な行為を繰り返しています。これを止める勇者様ですが、現在も行方不明とのことです。魔族が現れた町や周辺の地域は十分に警」
プツンとテレビが消えた。それをしたのは鬼畜変態野郎だ。行方不明なの?って質問をしたかったけど、鬼畜変態野郎のモラルや性癖が行方不明みたいなもんだから、そこに踏み込んでいいものか戸惑う。
どうしたもんかと思いながらフルーツを口に運んでたら、鬼畜変態野郎の方から声を掛けてきた。
「何も聞かねぇのか?」
「気になるけど、あんたなりに何か思うことがあるのかなって」
「そうか」
「でもひどいニュースだね。魔族が野蛮な行為をしてるってウソの情報を流してるよ」
「ウソ?」
「大ウソだよ。大昔の戦争以降、人間界に手を出してないからね。お互いの世界に侵入したらいけません、争いません、っていう約束を王家が守ってるの。王が守れば下も守る。繋がりが強いからね、魔族って」
「そこんところがよく分からん。おまえらがそれを守ってるのなら、何で物騒な話に発展してるんだ?戦争が始まるって話も出てるだろ」
「人間が約束を守ってくれないの。約束は代々受け継がれているはずなんだけど、勇者側は違うみたいなんだよね」
「違う、だと?」
「勇者側の代が変われば、代変わりした後継者が魔界に現れて好き勝って暴れ回り、なぜか魔王と対決を望んでくるの。手を出すと大昔の約束を違えてしまうからって、魔王は反撃しないでそれを受け入れる。それで死んだ魔王もいるんだよ。勇者のせいで魔界も王家も大ダメージ。いい加減プッツンしちゃうぞって話に発展するのも当然なの」
「……聞いてた話と全く違うな」
「そりゃそうよ。聞いてた通り、ウソの情報しか出回って……」
しまった! コイツ勇者だった!
失態に気づいても、もう遅い。今の説明じゃ勇者は敵だと言ってるようなもんだ。
鬼畜変態野郎の様子を伺うと、特に変わった反応もなく、相も変わらず無表情で新聞を読んでいる。どっちつかずの反応が恐ろしいけど、これ以上話しても墓穴を掘りそうだ。しばらく黙っていようと、黙々とご飯を口に運んだ。
しかし勇者のくせに、魔界のことも大昔の約束のことも本当に何も知らないんだ。もしかして代々受け継がれている約束って、ウソで固められてる? それなら真実を知らないことに納得出来るけど。
でも、仮にそうだとして、何で勇者のご先祖様はウソをついたんだろう。世界の平和が同じ願いだったのに、どうして裏切るようなことをしているんだろう。何で下等生物って言って魔界に攻め込んでくるんだろう。
分からないことだらけの私も勇者と同じかもしれない。
でも、今は、勇者討伐に集中しよう。雑念はすきを生むのだ。
「ってか、いつになったらベッドで一緒に寝てくれるのよ! ずっと待ってんだけど!? 早く殺りたくてウズウズするの我慢する身にもなりなさいよ!」
「ああ?やりてぇだと?一体何の話をしてやがる」
殺したい想いが強すぎて口からポロリしてしまっていたようだ。
「べっ、別に! えっと、ごちそうさま。今日もおいしかった。じゃあ、私はゴロゴロしてるね」
何か言いたげだったけど、そそくさと洗面所へ行き、丁寧に歯を磨いた。
これでゴロゴロ出来ると、ルンルン気分でベッドでのんびりしてると、朝ごはんの片付けを終わらせた鬼畜変態野郎が、ものすごく偉そうにベッドに腰掛けた。
「手伝いくらいしろ、クソキツネ」
手伝いしなきゃいけないなら朝ごはんは要らないし、ご飯の支度はメイドや執事の仕事で、キツネ様は食べる専門だって文句を言ってやりたかったけど、さっきの失態の事もあるし、ヘタに機嫌を損なわせるワケにもいかず、ニコニコ笑顔でヘーコラと対応した。
「いやぁ、お疲れさまです! 今日の朝ごはんも最高においしかったですね!」
「あっそ」
「パンケーキも最初の頃と比べて焦げてないし、ふわふわだし! メープルシロップも変えました? カフェのやつよりもすんごいおいしかったですよ!」
「別に」
「それになんといってもエプロン姿! 今までご主人様に、全く、微じんも、興味がなかったけど、男のエプロン姿っていいですよね。何かこう……、例えるなら、死ぬ間際の心音図くらいドキドキましたぁ」
「おい」
「ご主人様、なんざましょう。肩もみでもしましょうか」
調子に乗った鬼畜変態野郎には、ズボンのポケットから手錠を取り出した。
「うつ伏せになれ」
ニコニコ笑顔のまま一時停止した。
極々自然にとんでもないモノを取り出しましたよ、この人。もうイヤだ。鬼畜変態のポケット超コワイ。ってかいきなり何なの。何のスイッチが入ったの。
「命令だぜ。うつ伏せになれ」
「あー……」
うつ伏せになりたくない。危険だと思う。どう考えても手錠がキーポイントだもの。あの手錠で何かされるに決まってるもの。
何でまた難易度上がってんの。変態プレイをこなせばこなすほど、レベルアップしてるんだけど。望んでもないのに大人の階段を登ってくんだけど。
ムリだよ、絶対にムリ。全裸で四足歩行も野外でおしっこもムリだったけど、手錠って。
手錠……手錠で何するの? もしかしたら、ただ単に手錠を持ってるだけ? 鬼畜変態野郎専用知恵の輪的な?
「三回目を言われる前に、やれ」
その前に一応手錠について聞いてみようと思って、鬼畜変態野郎をチラッと見た。手錠片手につまんなそうにしてた。
「その手錠を使うの?」
「さぁ」
「何するの?」
「何だろな」
「怖いこと?」
「ひどいことをするつもりはねぇよ」
「ホント?」
「うつ伏せにならないのならベッドの件もナシだ。俺は出掛けるぜ。おまえは留守番してろ」
「やる! やります! やってみせます!」
ホントはやりたくないけど、ベッドに入ってグサリのためだ。手錠ごときで今さら引けるか。
「うつ伏せになれとしか言ってねぇが、何をするつもりだ」
「拘束プレイでしょ?」
「……その答え、気に入ったぜ。うつ伏せになれ」
「はい! 頑張ります!」
また転がされてるってことに気づいてない私は、命令に従ってうつ伏せになった。
鬼畜変態野郎は、私の左手首と右足首を手錠でガチャンと繋いで、右手首を左足首をガチャンと繋いだ。二つの手錠で手足を拘束された。手錠を二つも持ってたなんて思いもしなかった。ある意味詐欺である。
でも、後ろで手足を拘束するだけじゃ飽きたらず、穴の開いたプラスチックボールが付いたベルトみたいなのを、わざとらしく見せつけてきた。
「それなに?」
「口枷」
「くちかんぐう!」
口枷というものを口の中に押し込んで、顔にピッタリフィットするように、ベルトで固定してきた。丸いボールが口の中いっぱいにあるせいで、あごが閉じれない。
「手足の自由を奪われて、言葉の自由も奪われる。……どんな気分だ?」
「ふぐぅ! はう!」
「まるでケモノの声だな。おまえにピッタリだ」
手足を後ろで一つに拘束されて、エビ反りのような体勢がキツいってのに、口の中にボールがあるという異物感……そう、奪われたんだ。
体の自由と言葉を奪われた。
手足を、そこにじゃない位置にムリヤリ収められて、体中が叫んで、軋んでる。
言葉すらケモノみたいに……
「ッッ! ふがああ!?」
口の中に押し込められたボールの穴から、ヨダレがダラァっと垂れてきた。
止めようとしても止まらない。
ボールの穴から次々とヨダレが出て、首を伝って垂れていく。
「……ッ! はぅ、……ふぁ」
「排泄の次はヨダレかよ」
「ふあがう!」
ヨダレまみれの汚い姿を見られたくなくて、枕に顔を埋めようとしたけど、自由を奪われた体が、それを許してくれない。
動かしたいのに、隠したいのに、こんな姿をみられたくないのに、自分の体なのに自由に出来ない。
歯痒いほど、不自由だ。
「ふぐぅ!」
抵抗出来ないのをいいことに、鬼畜変態野郎が服を脱がしてきた。すべてを脱がすんじゃなくて、はだける程度だけど。
それでも隠しようがないし、今の姿格好が恥ずかしいワケで。これは約束というか、プレイ違反だ。
「……こうしてマジマジと見ると、いやらしいな、おまえの体」
「ふっ!?」
手足を後ろで拘束されて、ヨダレにまみれてる汚い姿を見て、恥ずかしいことを口にしてきた。
「背は小せぇけど肉付きがいい。体のラインがキレイだと思うよ。ケツもキレイな形をしてやがる」
「ッ」
鬼畜変態野郎の視線が私の体を這う。
その言葉で、視線で、私の【すべて】を見ている。
むず痒いほどに分かる。
見られてると意識すると、体がカッと熱くなって、ジワリと涙がたまって、自然と息が荒くなっていった。
(恥ずかしい! 見ないでほしい! 曲げられた関節が痛い! ヨダレを拭きたい! 自由がほしい! 言葉で今を止めたい!)
どれもこれも奪われて、何も出来ないもどかしさが体中をグルグル駆け回る。そして熱と疼きを生み出していく。
こんなにも恥ずかしくいびつな姿、ヨダレが垂れっぱなしの汚い姿。【すべて】を見られてるのに、熱く疼いてるもう一人の自分がここに居る。
「背中も、うなじも、とてもキレイだ。足首、太もも、おまえのすべて、……触りたくなるほど、官能的だぜ」
見られてる場所に視線を感じる。そこに何かがビリビリと刺さる。それが皮ふの奥まで刺さってきそうで、コワイ。
でも【すべて】を見て触ってほしいとも思う。
今すぐ止めてほしいのに、こんなのあり得ないのに、熱く疼いてるもう一人の自分が、もっともっと何かを欲してるのだ。
汗ばんだ体を触ってほしい。
いびつな姿をもっといびつに変えて、辱しめてほしい。
一人じゃどうにもならない不自由さ、不安と恐怖、そこから生まれる痛み。背徳感。涙と汗、女である実感。
【すべて】が甘く疼いてしょうがない。
もっとぎゅっとキツく引っ掻いて……
(違う! そんなことを思ってない! だってそれ変態ドMの思考! 私は違う! 命令されてやってるだけでどれもこれも作戦の一部! 違う、違うの!)
「……体が赤く染まってるぜ。……興奮してんのか?」
「ふああ!」
鬼畜変態野郎の指先が背中に着地して、ビクッと揺れた。それだけでビリビリした感覚が体中に走ったのだ。
「さすが変態キツネ、敏感で何より」
またも恥ずかしいことを口にしながら、私の体をなでてきた。
「ひゃふぇ!」
止めてと言いたいけど言えないから、尻尾でバシッとベッドを叩く。
鬼畜変態野郎はそんなこと気にしないで、ツツッと指先で、皮ふの表面を、滑らせるようになでてきた。
「んっ」
意識しないと気づけない、小さい感覚。それを探してむさぼって、見つけた刺激に反応してビクビクと震えてしまう。
アソコが熱くなって疼いて、もどかしい。指先だけで、痺れるほどの何かがアソコにクルなんて。
我慢しても、止まらないモノは止まらない。熱く疼いてたもう一人の自分がまた何かを欲し始めるんだ。
もっとほしい、と。
そんな自分が嫌で、でも、甘く疼く熱を拒否出来ない自分がいる。認めたくないけどここに居るのだ。
恥ずかしくて情けなくて汚い自分が、もっと欲して、求めてる。
でも、それでも……認めたくない。
「今さらだな。おまえは変態なんだよ。それもドの付くほどのマゾヒスト。酷いことをされて悦ぶ淫乱だ」
「……ひふぁう……」
「いいや、違わねぇよ」
揺れ動く私を見透かすように、鬼畜変態野郎の指がお尻の肉をギュッと摘まんだ。
「ふああ!」
「ほらな」
その痛みで、ゴチャゴチャ考えてた脳内が真っ白になった。
ビリビリきていた何かが一気に膨れ上がってくる。すごく痛いのに、子宮を揺さぶられるほど、甘くて熱くて。
それを意識すればするほど、もう少しで、あと少しで何かが弾けてしまう。
それなのに、スッと離れた痛み。摘ままれた場所がジンジンと熱い。物足りなさで疼く体。
その体に覆い被さってきた鬼畜変態野郎が首筋をそっと撫でてきた。あまりのゾワゾワに鳥肌が立った。
これ以上はダメだと首を振ったけど、大きい手が首を固定した。それにアソコがヒクリと疼いた。
「噛むぜ」
「……ひゃへふぇ……」
首を噛まれたことなんてない。絶対に痛いはずなのに、それを体が待っている。
そこは甘く疼く場所だと、それをされたらもっともっとよくなると、その痛みは甘美な疼きだと、期待しているのだ。
鬼畜変態野郎の荒い息が首にかかる。それだけでなでられたような感覚が体中を駆け巡る。
大きく開いた口が首筋に。歯が皮ふに当たる感覚を感じた。ゾクゥッとした甘い疼きが背筋に走って、アソコと繋がった。
それはすぐにキタ。
すごい痛みが私を襲う。
ただの痛みじゃない。
ずっとほしがってた何かを甘く引っ掻いて、脳内をドロドロに溶かして、フワフワにさせるほどの、甘い痛み。
「ッああう! うッ!」
甘過ぎる何かに耐えられなくて、私のナカから【すべて】が漏れ出す。
イッてしまったのだ。
認めたくなかったのに、体が【すべて】をさらけ出した。
「痛みでイキやがった。どうしようもねぇ変態ドMだな」
「……ふが……う……」
「違う、だと?……まぁ、いい。おまえがどう感じてるのか、顔を見れば分かる」
表情だけは見られないように俯いてたけど、大きなの手があごをつかんできた。
今の私を見られたくない。涙と汗とヨダレでグチャグチャになってる。
でも、見られたい。
汚い私をもっと見てほしい。
多分きっと……
「……ああ、やっぱり、……おまえは最高にキレイだ」
こんな私を認めてくれると思うから。
ーーーーー
ヨダレまみれで、自由を奪われて、痛みでイク姿、私の【すべて】を見られた。
でも、お互いさまだ。
目があった時、私の【すべて】を見られたように、私もこの人の【すべて】を見た。
アブノーマルな事をしてるのに、恍惚に染まった表情、歪んだ口元、もっと何かをほしがる瞳、興奮してる姿、私と同じみっともなく汚い姿を【すべて】見た。
同じ気持ちだと思った。
「……外すぜ」
しばらく目を合わせた後、口を解放してくれた。ボールがカポッと外れても、うまく閉まらない口から、ヨダレがタラリと垂れた。
次に手錠を外してくれた。やっと自由になった手足を動かそうとしたけど、力が抜けて動かせなかった。
ヨダレまみれの口元を拭きたいけど、体を動かせない。もう動きたくない。思ってた以上に体力の消耗が激しい。
頭も体もまっ白だ。
「あうー……」
うまくしゃべれない。
うつ伏せのままダラッとしてると、ぬれたタオルを用意してくれた。口元を拭ってキレイにしたあと、ふくらはぎをグニグニと揉んできた。
「ちゃんとマッサージしろ。拘束っつーのは、思ってる以上に体への負担が大きいんだぜ」
「こーしょく……」
これは思ってるよりもあごにダメージがあった。全然しゃべれる気がしない。
「ゆっくりしてろ。無理してしゃべるな」
返事の変わりにうなずく。鬼畜変態野郎は、拘束されていた腕と足を、よく揉みほぐしてくれた。ギッチギチに固まっていたのが伸びていく。
皮ふから感じるこの人の手の温もり、それが気持ち良かった。もっと触られたいなんて思ってしまう。
知り合ったばかり、しかも敵なのに、こんなにも近くに感じる。繋がりを感じる。
お互いに【すべて】を見られたから?何だか変な感じだ。
「……あっ、あー、ああー、あー、いー、うー」
固くなっていたあごを動かした。声も上手く出ている。ようやく動いた。
「そもそも拘束したの自分じゃん。責任をもってあんたがマッサージするのが普通じゃん」
「俺は拘束するなんて言ってねぇよ。おまえが手錠を見て拘束プレイするって言ったんだぜ」
「……はっ!」
「ご期待に応えられたようで何よりだったけどな。噛まれてイク姿はかわいかったぜ、この変態キツネ」
「うぬぬぬぅ!!」
うなる私を鼻で笑う辺りが腹立つけど、何だかんだでマッサージをしてくれる。優しいのか鬼畜なのか分かんない人だ。変態ではあるけど。
よく分かんないやつで、敵である勇者とアブノーマルなことを……いや、首輪もオモラシも四足歩行も相当か。
ただ今回は、新しい扉をこじ開けられたというか、自覚させられたというか、ここまでハッキリとマゾヒストって示されたら認めるしかないと思う。
この人には【すべて】お見通しで、【すべて】を見られたけど、でも、みっともなくて汚い私を受け止めてくれたから、それはそれで嬉しいのかも……あれ? 嬉しいの? 敵なのに? 何かよく分かんなくなってきたぞ。
でもあの時、目が合った瞬間の、【すべて】を見せあった感覚はキライじゃなかった。一方的にそう感じただけかもしれないけど、でも、それでも……やっぱり嬉しかったんだ。
自分を認めて受け止めてくれる人が居るという安心感がひどく心地よかった。きっとそれはこの人も同じだと思う。
「痛くて酷いことをして楽しい?」
「まぁ、それなりに」
「それなりって!」
「醜く歪んだおまえに興奮するし、同じくらい安心する」
「……そう、なの?」
「……なんつって」
「もう! なんなのよ!」
「じゃ、俺は行くぜ」
ベッドに寝転んだまま、部屋の扉まで歩いて行く鬼畜変態野郎の背中を見送る。さっきまでの安心感はどこへやら、何だか物足りなくて、今すぐ埋めてほしい何かがあるんだけど、それが分からない。
さっきは体だったのに、次は心の何かが足りない。
寂しいようなチクチク痛むような、変な気持ちがわああって沸き上がって、いじけるように寝返りを打って、枕に顔を埋めた。
「悪い。忘れ物」
「なーにー?」
もう一度寝返りを打って鬼畜変態野郎の方に寝返りを打てば、ベッドの脇にしゃがんで、頭をワシャワシャとなでてきた。
「今回も頑張ったな」
「……へへッ! 褒められた!」
「よしよし、イイコだ」
さっきまで感じてた心の物足りなさがなくなって、何かが埋まっていくのが分かる。
今までもあった。
頑張ったって褒めてくれた時のそれだ。とてもくすぐったくて、嬉しくて、心がじんわり気持ちよくなる。
一番好きなヤツだ。
「えへへ! へへへ!」
「ニヤニヤしてんじゃねえ、変態ドMキツネめ」
「今の嬉しい感情を返してよ! 何で台無しにするの!」
「カワイイカワイイ、キツネデスネ」
「棒読み止めい!」
「あーハイハイ、それじゃ、イイコに留守番してろよ」
鬼畜変態野郎は手をヒラヒラ振って、今度こそ部屋を出て行った。私も心が満足してるので、手を振って行ってらっしゃいをした。
バタンッと扉が閉まった。ふっと一気に力が抜けて、次に襲ってくるのは、猛烈な睡魔。シャワーを浴びたいけど、体を動かすのがしんどい。もういいや、寝ちゃおうと、シーツにくるまってまぶたを閉じた。
「……はっ! してやられた!」
結果的に、ベッドでグサリ作戦が何一つ進んでないことに気づいて、思わず飛び起きた。
ーーーーーー
○月○日
自分がドMだってことを自覚しました。お漏らしプレイ辺りから、変態ドMって思ってたけど、こんな自分を認めたくなかったのです。
でも、変態ドMな自分を認めるとすごく楽になりました。拘束されるのも噛まれるのも最高です。どれもこれも変態ドMを認めてくれた鬼畜変態野郎のおかげですね。
相手は敵なのに何をやってるんだろう。勇者である男を殺したいのであって、下系な新発見がしたいわけじゃないのに。このままだと勇者である男に、身も心も飼い慣らされそうでコワイです。
強い意思を保つにはどうしたらよいのですか?
でも、あの人、本当に勇者?
毎日何もしてないし、何も知らない感じだし、魔族よりも魔族で、鬼畜変態野郎だし。あまり思いたくないのですが、勇者と違う人なんじゃないかって、疑ってしまいます。
でも、もし、鬼畜変態野郎が勇者じゃなかったら、それはそれで嬉しいなと、ちょっぴり変なことを思う自分がいるのも確かです。
何なんでしょう、この気持ち。
鬼畜変態野郎も、勇者のくせに、特に目立った行動をしていない。世界を混沌に陥れている張本人とは思えないほど、普通の日常を過ごしている。
今日もそう。
朝は私より先に起きて、ご飯を作って、それを一緒に食べて、食後のコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。
本当にこいつが勇者?って疑うほど、勇者らしくない。
でも、能あるタカは爪を隠すっていうから、勇者らしくない勇者を演じて、キツネ様の目をごまかしている可能性もある。
キツネ様は決してだまされない。
勇者討伐のために何でもするって決めた。魔族の勝利で世界に平和を取り戻すのだ。
「今日のフルーツはおいしいね。特にパイナップルとか、みずみずしくて甘くてサイコーにおいしい」
「果物屋のおすすめ」
「イチゴも甘くておいしい」
「果物屋のおすすめ」
「でもオレンジはダメだね。みずみずしさが足りないし、何か味が変だよ」
「2週間前のやつ」
「キツネ様になんてものを食わせてるのよ!」
「残飯処理」
「きいいいいいっ!!」
朝から騒がしい会話をしていると、テレビから最近の魔族の動向っていう物騒な音声が聞こえてきた。今すぐほしい情報だからテレビに集中した。
「魔族は人間界へ侵入し、野蛮な行為を繰り返しています。これを止める勇者様ですが、現在も行方不明とのことです。魔族が現れた町や周辺の地域は十分に警」
プツンとテレビが消えた。それをしたのは鬼畜変態野郎だ。行方不明なの?って質問をしたかったけど、鬼畜変態野郎のモラルや性癖が行方不明みたいなもんだから、そこに踏み込んでいいものか戸惑う。
どうしたもんかと思いながらフルーツを口に運んでたら、鬼畜変態野郎の方から声を掛けてきた。
「何も聞かねぇのか?」
「気になるけど、あんたなりに何か思うことがあるのかなって」
「そうか」
「でもひどいニュースだね。魔族が野蛮な行為をしてるってウソの情報を流してるよ」
「ウソ?」
「大ウソだよ。大昔の戦争以降、人間界に手を出してないからね。お互いの世界に侵入したらいけません、争いません、っていう約束を王家が守ってるの。王が守れば下も守る。繋がりが強いからね、魔族って」
「そこんところがよく分からん。おまえらがそれを守ってるのなら、何で物騒な話に発展してるんだ?戦争が始まるって話も出てるだろ」
「人間が約束を守ってくれないの。約束は代々受け継がれているはずなんだけど、勇者側は違うみたいなんだよね」
「違う、だと?」
「勇者側の代が変われば、代変わりした後継者が魔界に現れて好き勝って暴れ回り、なぜか魔王と対決を望んでくるの。手を出すと大昔の約束を違えてしまうからって、魔王は反撃しないでそれを受け入れる。それで死んだ魔王もいるんだよ。勇者のせいで魔界も王家も大ダメージ。いい加減プッツンしちゃうぞって話に発展するのも当然なの」
「……聞いてた話と全く違うな」
「そりゃそうよ。聞いてた通り、ウソの情報しか出回って……」
しまった! コイツ勇者だった!
失態に気づいても、もう遅い。今の説明じゃ勇者は敵だと言ってるようなもんだ。
鬼畜変態野郎の様子を伺うと、特に変わった反応もなく、相も変わらず無表情で新聞を読んでいる。どっちつかずの反応が恐ろしいけど、これ以上話しても墓穴を掘りそうだ。しばらく黙っていようと、黙々とご飯を口に運んだ。
しかし勇者のくせに、魔界のことも大昔の約束のことも本当に何も知らないんだ。もしかして代々受け継がれている約束って、ウソで固められてる? それなら真実を知らないことに納得出来るけど。
でも、仮にそうだとして、何で勇者のご先祖様はウソをついたんだろう。世界の平和が同じ願いだったのに、どうして裏切るようなことをしているんだろう。何で下等生物って言って魔界に攻め込んでくるんだろう。
分からないことだらけの私も勇者と同じかもしれない。
でも、今は、勇者討伐に集中しよう。雑念はすきを生むのだ。
「ってか、いつになったらベッドで一緒に寝てくれるのよ! ずっと待ってんだけど!? 早く殺りたくてウズウズするの我慢する身にもなりなさいよ!」
「ああ?やりてぇだと?一体何の話をしてやがる」
殺したい想いが強すぎて口からポロリしてしまっていたようだ。
「べっ、別に! えっと、ごちそうさま。今日もおいしかった。じゃあ、私はゴロゴロしてるね」
何か言いたげだったけど、そそくさと洗面所へ行き、丁寧に歯を磨いた。
これでゴロゴロ出来ると、ルンルン気分でベッドでのんびりしてると、朝ごはんの片付けを終わらせた鬼畜変態野郎が、ものすごく偉そうにベッドに腰掛けた。
「手伝いくらいしろ、クソキツネ」
手伝いしなきゃいけないなら朝ごはんは要らないし、ご飯の支度はメイドや執事の仕事で、キツネ様は食べる専門だって文句を言ってやりたかったけど、さっきの失態の事もあるし、ヘタに機嫌を損なわせるワケにもいかず、ニコニコ笑顔でヘーコラと対応した。
「いやぁ、お疲れさまです! 今日の朝ごはんも最高においしかったですね!」
「あっそ」
「パンケーキも最初の頃と比べて焦げてないし、ふわふわだし! メープルシロップも変えました? カフェのやつよりもすんごいおいしかったですよ!」
「別に」
「それになんといってもエプロン姿! 今までご主人様に、全く、微じんも、興味がなかったけど、男のエプロン姿っていいですよね。何かこう……、例えるなら、死ぬ間際の心音図くらいドキドキましたぁ」
「おい」
「ご主人様、なんざましょう。肩もみでもしましょうか」
調子に乗った鬼畜変態野郎には、ズボンのポケットから手錠を取り出した。
「うつ伏せになれ」
ニコニコ笑顔のまま一時停止した。
極々自然にとんでもないモノを取り出しましたよ、この人。もうイヤだ。鬼畜変態のポケット超コワイ。ってかいきなり何なの。何のスイッチが入ったの。
「命令だぜ。うつ伏せになれ」
「あー……」
うつ伏せになりたくない。危険だと思う。どう考えても手錠がキーポイントだもの。あの手錠で何かされるに決まってるもの。
何でまた難易度上がってんの。変態プレイをこなせばこなすほど、レベルアップしてるんだけど。望んでもないのに大人の階段を登ってくんだけど。
ムリだよ、絶対にムリ。全裸で四足歩行も野外でおしっこもムリだったけど、手錠って。
手錠……手錠で何するの? もしかしたら、ただ単に手錠を持ってるだけ? 鬼畜変態野郎専用知恵の輪的な?
「三回目を言われる前に、やれ」
その前に一応手錠について聞いてみようと思って、鬼畜変態野郎をチラッと見た。手錠片手につまんなそうにしてた。
「その手錠を使うの?」
「さぁ」
「何するの?」
「何だろな」
「怖いこと?」
「ひどいことをするつもりはねぇよ」
「ホント?」
「うつ伏せにならないのならベッドの件もナシだ。俺は出掛けるぜ。おまえは留守番してろ」
「やる! やります! やってみせます!」
ホントはやりたくないけど、ベッドに入ってグサリのためだ。手錠ごときで今さら引けるか。
「うつ伏せになれとしか言ってねぇが、何をするつもりだ」
「拘束プレイでしょ?」
「……その答え、気に入ったぜ。うつ伏せになれ」
「はい! 頑張ります!」
また転がされてるってことに気づいてない私は、命令に従ってうつ伏せになった。
鬼畜変態野郎は、私の左手首と右足首を手錠でガチャンと繋いで、右手首を左足首をガチャンと繋いだ。二つの手錠で手足を拘束された。手錠を二つも持ってたなんて思いもしなかった。ある意味詐欺である。
でも、後ろで手足を拘束するだけじゃ飽きたらず、穴の開いたプラスチックボールが付いたベルトみたいなのを、わざとらしく見せつけてきた。
「それなに?」
「口枷」
「くちかんぐう!」
口枷というものを口の中に押し込んで、顔にピッタリフィットするように、ベルトで固定してきた。丸いボールが口の中いっぱいにあるせいで、あごが閉じれない。
「手足の自由を奪われて、言葉の自由も奪われる。……どんな気分だ?」
「ふぐぅ! はう!」
「まるでケモノの声だな。おまえにピッタリだ」
手足を後ろで一つに拘束されて、エビ反りのような体勢がキツいってのに、口の中にボールがあるという異物感……そう、奪われたんだ。
体の自由と言葉を奪われた。
手足を、そこにじゃない位置にムリヤリ収められて、体中が叫んで、軋んでる。
言葉すらケモノみたいに……
「ッッ! ふがああ!?」
口の中に押し込められたボールの穴から、ヨダレがダラァっと垂れてきた。
止めようとしても止まらない。
ボールの穴から次々とヨダレが出て、首を伝って垂れていく。
「……ッ! はぅ、……ふぁ」
「排泄の次はヨダレかよ」
「ふあがう!」
ヨダレまみれの汚い姿を見られたくなくて、枕に顔を埋めようとしたけど、自由を奪われた体が、それを許してくれない。
動かしたいのに、隠したいのに、こんな姿をみられたくないのに、自分の体なのに自由に出来ない。
歯痒いほど、不自由だ。
「ふぐぅ!」
抵抗出来ないのをいいことに、鬼畜変態野郎が服を脱がしてきた。すべてを脱がすんじゃなくて、はだける程度だけど。
それでも隠しようがないし、今の姿格好が恥ずかしいワケで。これは約束というか、プレイ違反だ。
「……こうしてマジマジと見ると、いやらしいな、おまえの体」
「ふっ!?」
手足を後ろで拘束されて、ヨダレにまみれてる汚い姿を見て、恥ずかしいことを口にしてきた。
「背は小せぇけど肉付きがいい。体のラインがキレイだと思うよ。ケツもキレイな形をしてやがる」
「ッ」
鬼畜変態野郎の視線が私の体を這う。
その言葉で、視線で、私の【すべて】を見ている。
むず痒いほどに分かる。
見られてると意識すると、体がカッと熱くなって、ジワリと涙がたまって、自然と息が荒くなっていった。
(恥ずかしい! 見ないでほしい! 曲げられた関節が痛い! ヨダレを拭きたい! 自由がほしい! 言葉で今を止めたい!)
どれもこれも奪われて、何も出来ないもどかしさが体中をグルグル駆け回る。そして熱と疼きを生み出していく。
こんなにも恥ずかしくいびつな姿、ヨダレが垂れっぱなしの汚い姿。【すべて】を見られてるのに、熱く疼いてるもう一人の自分がここに居る。
「背中も、うなじも、とてもキレイだ。足首、太もも、おまえのすべて、……触りたくなるほど、官能的だぜ」
見られてる場所に視線を感じる。そこに何かがビリビリと刺さる。それが皮ふの奥まで刺さってきそうで、コワイ。
でも【すべて】を見て触ってほしいとも思う。
今すぐ止めてほしいのに、こんなのあり得ないのに、熱く疼いてるもう一人の自分が、もっともっと何かを欲してるのだ。
汗ばんだ体を触ってほしい。
いびつな姿をもっといびつに変えて、辱しめてほしい。
一人じゃどうにもならない不自由さ、不安と恐怖、そこから生まれる痛み。背徳感。涙と汗、女である実感。
【すべて】が甘く疼いてしょうがない。
もっとぎゅっとキツく引っ掻いて……
(違う! そんなことを思ってない! だってそれ変態ドMの思考! 私は違う! 命令されてやってるだけでどれもこれも作戦の一部! 違う、違うの!)
「……体が赤く染まってるぜ。……興奮してんのか?」
「ふああ!」
鬼畜変態野郎の指先が背中に着地して、ビクッと揺れた。それだけでビリビリした感覚が体中に走ったのだ。
「さすが変態キツネ、敏感で何より」
またも恥ずかしいことを口にしながら、私の体をなでてきた。
「ひゃふぇ!」
止めてと言いたいけど言えないから、尻尾でバシッとベッドを叩く。
鬼畜変態野郎はそんなこと気にしないで、ツツッと指先で、皮ふの表面を、滑らせるようになでてきた。
「んっ」
意識しないと気づけない、小さい感覚。それを探してむさぼって、見つけた刺激に反応してビクビクと震えてしまう。
アソコが熱くなって疼いて、もどかしい。指先だけで、痺れるほどの何かがアソコにクルなんて。
我慢しても、止まらないモノは止まらない。熱く疼いてたもう一人の自分がまた何かを欲し始めるんだ。
もっとほしい、と。
そんな自分が嫌で、でも、甘く疼く熱を拒否出来ない自分がいる。認めたくないけどここに居るのだ。
恥ずかしくて情けなくて汚い自分が、もっと欲して、求めてる。
でも、それでも……認めたくない。
「今さらだな。おまえは変態なんだよ。それもドの付くほどのマゾヒスト。酷いことをされて悦ぶ淫乱だ」
「……ひふぁう……」
「いいや、違わねぇよ」
揺れ動く私を見透かすように、鬼畜変態野郎の指がお尻の肉をギュッと摘まんだ。
「ふああ!」
「ほらな」
その痛みで、ゴチャゴチャ考えてた脳内が真っ白になった。
ビリビリきていた何かが一気に膨れ上がってくる。すごく痛いのに、子宮を揺さぶられるほど、甘くて熱くて。
それを意識すればするほど、もう少しで、あと少しで何かが弾けてしまう。
それなのに、スッと離れた痛み。摘ままれた場所がジンジンと熱い。物足りなさで疼く体。
その体に覆い被さってきた鬼畜変態野郎が首筋をそっと撫でてきた。あまりのゾワゾワに鳥肌が立った。
これ以上はダメだと首を振ったけど、大きい手が首を固定した。それにアソコがヒクリと疼いた。
「噛むぜ」
「……ひゃへふぇ……」
首を噛まれたことなんてない。絶対に痛いはずなのに、それを体が待っている。
そこは甘く疼く場所だと、それをされたらもっともっとよくなると、その痛みは甘美な疼きだと、期待しているのだ。
鬼畜変態野郎の荒い息が首にかかる。それだけでなでられたような感覚が体中を駆け巡る。
大きく開いた口が首筋に。歯が皮ふに当たる感覚を感じた。ゾクゥッとした甘い疼きが背筋に走って、アソコと繋がった。
それはすぐにキタ。
すごい痛みが私を襲う。
ただの痛みじゃない。
ずっとほしがってた何かを甘く引っ掻いて、脳内をドロドロに溶かして、フワフワにさせるほどの、甘い痛み。
「ッああう! うッ!」
甘過ぎる何かに耐えられなくて、私のナカから【すべて】が漏れ出す。
イッてしまったのだ。
認めたくなかったのに、体が【すべて】をさらけ出した。
「痛みでイキやがった。どうしようもねぇ変態ドMだな」
「……ふが……う……」
「違う、だと?……まぁ、いい。おまえがどう感じてるのか、顔を見れば分かる」
表情だけは見られないように俯いてたけど、大きなの手があごをつかんできた。
今の私を見られたくない。涙と汗とヨダレでグチャグチャになってる。
でも、見られたい。
汚い私をもっと見てほしい。
多分きっと……
「……ああ、やっぱり、……おまえは最高にキレイだ」
こんな私を認めてくれると思うから。
ーーーーー
ヨダレまみれで、自由を奪われて、痛みでイク姿、私の【すべて】を見られた。
でも、お互いさまだ。
目があった時、私の【すべて】を見られたように、私もこの人の【すべて】を見た。
アブノーマルな事をしてるのに、恍惚に染まった表情、歪んだ口元、もっと何かをほしがる瞳、興奮してる姿、私と同じみっともなく汚い姿を【すべて】見た。
同じ気持ちだと思った。
「……外すぜ」
しばらく目を合わせた後、口を解放してくれた。ボールがカポッと外れても、うまく閉まらない口から、ヨダレがタラリと垂れた。
次に手錠を外してくれた。やっと自由になった手足を動かそうとしたけど、力が抜けて動かせなかった。
ヨダレまみれの口元を拭きたいけど、体を動かせない。もう動きたくない。思ってた以上に体力の消耗が激しい。
頭も体もまっ白だ。
「あうー……」
うまくしゃべれない。
うつ伏せのままダラッとしてると、ぬれたタオルを用意してくれた。口元を拭ってキレイにしたあと、ふくらはぎをグニグニと揉んできた。
「ちゃんとマッサージしろ。拘束っつーのは、思ってる以上に体への負担が大きいんだぜ」
「こーしょく……」
これは思ってるよりもあごにダメージがあった。全然しゃべれる気がしない。
「ゆっくりしてろ。無理してしゃべるな」
返事の変わりにうなずく。鬼畜変態野郎は、拘束されていた腕と足を、よく揉みほぐしてくれた。ギッチギチに固まっていたのが伸びていく。
皮ふから感じるこの人の手の温もり、それが気持ち良かった。もっと触られたいなんて思ってしまう。
知り合ったばかり、しかも敵なのに、こんなにも近くに感じる。繋がりを感じる。
お互いに【すべて】を見られたから?何だか変な感じだ。
「……あっ、あー、ああー、あー、いー、うー」
固くなっていたあごを動かした。声も上手く出ている。ようやく動いた。
「そもそも拘束したの自分じゃん。責任をもってあんたがマッサージするのが普通じゃん」
「俺は拘束するなんて言ってねぇよ。おまえが手錠を見て拘束プレイするって言ったんだぜ」
「……はっ!」
「ご期待に応えられたようで何よりだったけどな。噛まれてイク姿はかわいかったぜ、この変態キツネ」
「うぬぬぬぅ!!」
うなる私を鼻で笑う辺りが腹立つけど、何だかんだでマッサージをしてくれる。優しいのか鬼畜なのか分かんない人だ。変態ではあるけど。
よく分かんないやつで、敵である勇者とアブノーマルなことを……いや、首輪もオモラシも四足歩行も相当か。
ただ今回は、新しい扉をこじ開けられたというか、自覚させられたというか、ここまでハッキリとマゾヒストって示されたら認めるしかないと思う。
この人には【すべて】お見通しで、【すべて】を見られたけど、でも、みっともなくて汚い私を受け止めてくれたから、それはそれで嬉しいのかも……あれ? 嬉しいの? 敵なのに? 何かよく分かんなくなってきたぞ。
でもあの時、目が合った瞬間の、【すべて】を見せあった感覚はキライじゃなかった。一方的にそう感じただけかもしれないけど、でも、それでも……やっぱり嬉しかったんだ。
自分を認めて受け止めてくれる人が居るという安心感がひどく心地よかった。きっとそれはこの人も同じだと思う。
「痛くて酷いことをして楽しい?」
「まぁ、それなりに」
「それなりって!」
「醜く歪んだおまえに興奮するし、同じくらい安心する」
「……そう、なの?」
「……なんつって」
「もう! なんなのよ!」
「じゃ、俺は行くぜ」
ベッドに寝転んだまま、部屋の扉まで歩いて行く鬼畜変態野郎の背中を見送る。さっきまでの安心感はどこへやら、何だか物足りなくて、今すぐ埋めてほしい何かがあるんだけど、それが分からない。
さっきは体だったのに、次は心の何かが足りない。
寂しいようなチクチク痛むような、変な気持ちがわああって沸き上がって、いじけるように寝返りを打って、枕に顔を埋めた。
「悪い。忘れ物」
「なーにー?」
もう一度寝返りを打って鬼畜変態野郎の方に寝返りを打てば、ベッドの脇にしゃがんで、頭をワシャワシャとなでてきた。
「今回も頑張ったな」
「……へへッ! 褒められた!」
「よしよし、イイコだ」
さっきまで感じてた心の物足りなさがなくなって、何かが埋まっていくのが分かる。
今までもあった。
頑張ったって褒めてくれた時のそれだ。とてもくすぐったくて、嬉しくて、心がじんわり気持ちよくなる。
一番好きなヤツだ。
「えへへ! へへへ!」
「ニヤニヤしてんじゃねえ、変態ドMキツネめ」
「今の嬉しい感情を返してよ! 何で台無しにするの!」
「カワイイカワイイ、キツネデスネ」
「棒読み止めい!」
「あーハイハイ、それじゃ、イイコに留守番してろよ」
鬼畜変態野郎は手をヒラヒラ振って、今度こそ部屋を出て行った。私も心が満足してるので、手を振って行ってらっしゃいをした。
バタンッと扉が閉まった。ふっと一気に力が抜けて、次に襲ってくるのは、猛烈な睡魔。シャワーを浴びたいけど、体を動かすのがしんどい。もういいや、寝ちゃおうと、シーツにくるまってまぶたを閉じた。
「……はっ! してやられた!」
結果的に、ベッドでグサリ作戦が何一つ進んでないことに気づいて、思わず飛び起きた。
ーーーーーー
○月○日
自分がドMだってことを自覚しました。お漏らしプレイ辺りから、変態ドMって思ってたけど、こんな自分を認めたくなかったのです。
でも、変態ドMな自分を認めるとすごく楽になりました。拘束されるのも噛まれるのも最高です。どれもこれも変態ドMを認めてくれた鬼畜変態野郎のおかげですね。
相手は敵なのに何をやってるんだろう。勇者である男を殺したいのであって、下系な新発見がしたいわけじゃないのに。このままだと勇者である男に、身も心も飼い慣らされそうでコワイです。
強い意思を保つにはどうしたらよいのですか?
でも、あの人、本当に勇者?
毎日何もしてないし、何も知らない感じだし、魔族よりも魔族で、鬼畜変態野郎だし。あまり思いたくないのですが、勇者と違う人なんじゃないかって、疑ってしまいます。
でも、もし、鬼畜変態野郎が勇者じゃなかったら、それはそれで嬉しいなと、ちょっぴり変なことを思う自分がいるのも確かです。
何なんでしょう、この気持ち。
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