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カシス領へ向かう馬車の中はナディシアとシュトーレンのふたりだけだった。
侍女は荷物と別の馬車に乗り、護衛騎士は馬車の周りを囲んで進んでいる。
「シュトーレン様。」
「何ですか?」
「これから夫婦です。敬語はやめませんか?」
「…善処します。」
「ふふっ。」
「おかしいですか?」
「いつかも聞いた答えですね。…そうだ。それもです。」
「?」
「今は夫婦です。愛称で呼んでください。ではなく、呼んで欲しいわ。」
「ナディシア様。」
「私、愛称で呼ばれたことがないので、シュトーレン様に決めて欲しいの。」
「!」
「呼んでくれる人がいなかったから、ちょっと寂しかったのよね。ちょっとよ、ちょっとだけよ?!……駄目?」
ナディシアは、不安そうにシュトーレンを見る。
「…駄目ではありません。」
「敬語…。」
「……愛想がなく、口が悪い事を自覚しているので。」
「大丈夫よ。私も口の悪さなら負けていないわ。」
「そうは思えませんが。」
ナディシアはシュトーレンをジッと見る。
「………思えないが。」
シュトーレンが負けた。
「それで、愛称だけれど。シュトーレン様は、なんと呼ばれているの?」
「『レン』と。」
「私もそう呼んでいいかしら?」
「どうぞ。」
「レン様、レンさん、レン。どれ?」
嬉しそうに名前を呼ぶナディシアを見て、シュトーレンは胸が高鳴り、痛みで胸を抑えた。
「イッ。」
「レン様!胸が痛むのですか?!」
「いや、大丈夫だ。」
「でも……あ、サイラなら分かるかも。」
「サイラとは侍女でしたよね?」
「ええ。あの子も胸の持病があるの。」
「それは、領までの移動は大丈夫なのか?」
「問題ないそうよ。そうだわ。対処法など聞いてみましょう。」
「いや、もう治ったから。」
「そうなの?」
「ああ。」
「それなら良いのだけれど。」
本当に心配していたのが分かるくらい、安心した様な微笑みを浮かべたナディシアをシュトーレンはかわいいと思った。
「…シア。シアはどうだろうか?」
「?」
「愛称。」
「シア…。はい。『シア』でお願いします!」
「敬語。」
「あ、思わず。私も人の事言えないわね。ふふっ。」
1日目に泊まる宿に着くまでにシュトーレンの胸の痛みは何度か訪れた。
しかし、自分の中で恋が始まっている事を未だ自覚していなかったシュトーレンは、ナディシアの話に出た侍女サイラに相談しようと決めた。
そして、話を聞いた侍女ふたりに残念そうな顔で見られるのだった。
侍女は荷物と別の馬車に乗り、護衛騎士は馬車の周りを囲んで進んでいる。
「シュトーレン様。」
「何ですか?」
「これから夫婦です。敬語はやめませんか?」
「…善処します。」
「ふふっ。」
「おかしいですか?」
「いつかも聞いた答えですね。…そうだ。それもです。」
「?」
「今は夫婦です。愛称で呼んでください。ではなく、呼んで欲しいわ。」
「ナディシア様。」
「私、愛称で呼ばれたことがないので、シュトーレン様に決めて欲しいの。」
「!」
「呼んでくれる人がいなかったから、ちょっと寂しかったのよね。ちょっとよ、ちょっとだけよ?!……駄目?」
ナディシアは、不安そうにシュトーレンを見る。
「…駄目ではありません。」
「敬語…。」
「……愛想がなく、口が悪い事を自覚しているので。」
「大丈夫よ。私も口の悪さなら負けていないわ。」
「そうは思えませんが。」
ナディシアはシュトーレンをジッと見る。
「………思えないが。」
シュトーレンが負けた。
「それで、愛称だけれど。シュトーレン様は、なんと呼ばれているの?」
「『レン』と。」
「私もそう呼んでいいかしら?」
「どうぞ。」
「レン様、レンさん、レン。どれ?」
嬉しそうに名前を呼ぶナディシアを見て、シュトーレンは胸が高鳴り、痛みで胸を抑えた。
「イッ。」
「レン様!胸が痛むのですか?!」
「いや、大丈夫だ。」
「でも……あ、サイラなら分かるかも。」
「サイラとは侍女でしたよね?」
「ええ。あの子も胸の持病があるの。」
「それは、領までの移動は大丈夫なのか?」
「問題ないそうよ。そうだわ。対処法など聞いてみましょう。」
「いや、もう治ったから。」
「そうなの?」
「ああ。」
「それなら良いのだけれど。」
本当に心配していたのが分かるくらい、安心した様な微笑みを浮かべたナディシアをシュトーレンはかわいいと思った。
「…シア。シアはどうだろうか?」
「?」
「愛称。」
「シア…。はい。『シア』でお願いします!」
「敬語。」
「あ、思わず。私も人の事言えないわね。ふふっ。」
1日目に泊まる宿に着くまでにシュトーレンの胸の痛みは何度か訪れた。
しかし、自分の中で恋が始まっている事を未だ自覚していなかったシュトーレンは、ナディシアの話に出た侍女サイラに相談しようと決めた。
そして、話を聞いた侍女ふたりに残念そうな顔で見られるのだった。
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