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プロローグ
ミレクシア・アルノー②
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<前書き>――――――――――――――――――
本編は第15話までゆっくりと進む展開になっています。
テンポよく物語を追いたい方は、『王子護衛騎士編』の『ここまでの人物紹介』を先に読んでから続きを進めるのがおすすめです。
人物や関係性を把握した状態で読めるので、スムーズに物語に入り込めます。
じっくり読みたい方はそのままどうぞ。お好みのスタイルでお楽しみください!
<前書き>――――――――――――――――――
ミレクシアがまだ幼い頃、彼女の生活の中で欠かせない存在が二人いた。
一人は乳母のエルナ。
もう一人は護衛騎士のアーヴィング。
エルナはミレクシアが生まれた時から世話をしてくれた、実の母のような存在だった。
朗らかで優しく、どんな時もミレクシアの成長を見守ってくれる。
「ミレクシアお嬢様、今日も元気ですね」
「ええ! だって今度、シス様と騎士ごっこをするんです!」
「まあまあ、それは楽しみですね。でも転んだりしないように、気をつけるんですよ」
エルナはいつもミレクシアを心配し、優しく注意を促した。
だがミレクシアはまだ幼く、注意を聞くよりも、自由に遊びまわることの方が大事だった。
「転ぶわけありません! 私、剣が上手になってきましたから!」
「それは頼もしいですが、あまり無茶をしないように」
エルナはそう言って、優しくミレクシアの頬を撫でる
。
そして、そんなミレクシアを一歩引いたところで見守っていたのが、護衛騎士のアーヴィングだった。
寡黙で厳格な騎士であり、アルノー家の忠臣。
ミレクシアの護衛を務める彼は、幼い彼女がどんなに無邪気に振る舞っても、その姿勢を崩さなかった。
「お嬢様、そろそろ戻る時間です」
「えー、まだ遊びたいのに!」
「護衛の身としては、貴族の令嬢が無防備に外にいる時間が長いのは好ましくない」
「つまらないこと言わないでくださいよ、アーヴィング!」
「つまらないことではありません」
アーヴィングはどこまでも真面目だった。
それがミレクシアにとっては、時々鬱陶しくも思えた。
「そんなに堅くならないで、アーヴィング」
エルナが微笑みながら口を挟む。
「ミレクシアお嬢様が元気なのは、いいことじゃありませんか」
「……それはそうですが」
アーヴィングはため息をつきながら、剣の柄に手を添えた。
「私はお嬢様の安全を守ることが最優先です」
「でもね、アーヴィング。ミレクシアお嬢様は、あなたが言わなくても賢い子です。いざという時に自分で考えて動けるようになりますよ」
「……それならば良いのですが」
アーヴィングは納得がいかないようだったが、エルナの言葉には逆らえなかった。
ミレクシアはそんな二人のやり取りを聞きながら、ふと思う。
(エルナは私のことを信じてくれてるんだ)
その安心感が、どこか嬉しかった。
アーヴィングは厳しかったけれど、彼なりに自分を守ってくれているのも分かっていた。
そしてこの二人が、自分の大切な居場所の一部であることも――。
この何気ないやり取りが、ミレクシアにとってかけがえのない日常だった。
それが、彼女の目指す未来だった。
そんな彼女が最も楽しい時間を過ごしたのは、王都の庭園で王子と過ごす日々だった。
王子アレクシス・エドワルド・ヴァルトハイトとは、父同士の親交を通じて幼い頃から顔を合わせていた。
同世代の貴族の子供たちが"王子には畏れ多い"と遠巻きにしている中、ミレクシアだけは気にせず、対等に接していた。
「シス様、今日も騎士ごっこをしましょう!」
「だから"様"はいらないと何度言えば……まあいい、やろう」
王子はため息をつきながらも、どこか楽しげだった。
ミレクシアに誘われるたび、彼もまた木剣を手に取り、"騎士ごっこ"に興じた。
王子が"王"の役を務め、ミレクシアが"騎士"となって守る。
そんな遊びを繰り返すうちに、ミレクシアの剣技はどんどん上達し、王子を軽く打ち負かすようになった。
「……よし、始めよう!」
王子が木剣を構える。
ミレクシアも笑顔で構えた。
「では、いきますよ!」
木剣が交わる。
最初は王子が攻めるが――。
ミレクシアの方が圧倒的に速く、強かった。
「……ッ、まだだ!」
王子は必死に踏ん張るも、数手のうちに剣を弾かれ、無様に地面に転がった。
「勝負あり!」
ミレクシアが木剣を突きつけ、得意げに笑う。
「また負けましたね、シス様」
「ぐっ……!」
王子は顔を赤くし、地面を拳で叩く。
「おかしいだろ、貴族の娘がここまで強いのは……!」
「私はアルノー家の人間ですから! 剣術の稽古は日常なんですよ」
ミレクシアが誇らしげに胸を張る。
王子は悔しそうに唇を噛んだ。
「……くそっ、俺は王族なのに、お前にすら勝てないのか」
王子の悔しさは、本物だった。
ミレクシアに負けた後、彼は何度も挑んだ。
だが、そのたびに負けた。
「……俺は、これでいいのか?」
王子は、ある夜、一人で庭に出た。
星の光の下、木剣を握りしめ、何度も素振りをする。
「俺は"王"になる人間だ。誰かに守られてばかりじゃなく、自分の力で戦えなければならない」
「次こそ、ミレクシアに勝つ!」
その日から、王子は本気で剣の鍛錬を始めた。
ミレクシアと遊ぶための"騎士ごっこ"ではなく、"真剣に戦う"ために。
それが、やがて彼の人生を決める道へと繋がることを、まだ知らずに――。
そして、アルノー家が滅ぶ夜は、すぐそこまで迫っていた。
<あとがき>
ここまで読んでくれてありがとうございます! 応援してくれると嬉しいです!
本編は第15話までゆっくりと進む展開になっています。
テンポよく物語を追いたい方は、『王子護衛騎士編』の『ここまでの人物紹介』を先に読んでから続きを進めるのがおすすめです。
人物や関係性を把握した状態で読めるので、スムーズに物語に入り込めます。
じっくり読みたい方はそのままどうぞ。お好みのスタイルでお楽しみください!
<前書き>――――――――――――――――――
ミレクシアがまだ幼い頃、彼女の生活の中で欠かせない存在が二人いた。
一人は乳母のエルナ。
もう一人は護衛騎士のアーヴィング。
エルナはミレクシアが生まれた時から世話をしてくれた、実の母のような存在だった。
朗らかで優しく、どんな時もミレクシアの成長を見守ってくれる。
「ミレクシアお嬢様、今日も元気ですね」
「ええ! だって今度、シス様と騎士ごっこをするんです!」
「まあまあ、それは楽しみですね。でも転んだりしないように、気をつけるんですよ」
エルナはいつもミレクシアを心配し、優しく注意を促した。
だがミレクシアはまだ幼く、注意を聞くよりも、自由に遊びまわることの方が大事だった。
「転ぶわけありません! 私、剣が上手になってきましたから!」
「それは頼もしいですが、あまり無茶をしないように」
エルナはそう言って、優しくミレクシアの頬を撫でる
。
そして、そんなミレクシアを一歩引いたところで見守っていたのが、護衛騎士のアーヴィングだった。
寡黙で厳格な騎士であり、アルノー家の忠臣。
ミレクシアの護衛を務める彼は、幼い彼女がどんなに無邪気に振る舞っても、その姿勢を崩さなかった。
「お嬢様、そろそろ戻る時間です」
「えー、まだ遊びたいのに!」
「護衛の身としては、貴族の令嬢が無防備に外にいる時間が長いのは好ましくない」
「つまらないこと言わないでくださいよ、アーヴィング!」
「つまらないことではありません」
アーヴィングはどこまでも真面目だった。
それがミレクシアにとっては、時々鬱陶しくも思えた。
「そんなに堅くならないで、アーヴィング」
エルナが微笑みながら口を挟む。
「ミレクシアお嬢様が元気なのは、いいことじゃありませんか」
「……それはそうですが」
アーヴィングはため息をつきながら、剣の柄に手を添えた。
「私はお嬢様の安全を守ることが最優先です」
「でもね、アーヴィング。ミレクシアお嬢様は、あなたが言わなくても賢い子です。いざという時に自分で考えて動けるようになりますよ」
「……それならば良いのですが」
アーヴィングは納得がいかないようだったが、エルナの言葉には逆らえなかった。
ミレクシアはそんな二人のやり取りを聞きながら、ふと思う。
(エルナは私のことを信じてくれてるんだ)
その安心感が、どこか嬉しかった。
アーヴィングは厳しかったけれど、彼なりに自分を守ってくれているのも分かっていた。
そしてこの二人が、自分の大切な居場所の一部であることも――。
この何気ないやり取りが、ミレクシアにとってかけがえのない日常だった。
それが、彼女の目指す未来だった。
そんな彼女が最も楽しい時間を過ごしたのは、王都の庭園で王子と過ごす日々だった。
王子アレクシス・エドワルド・ヴァルトハイトとは、父同士の親交を通じて幼い頃から顔を合わせていた。
同世代の貴族の子供たちが"王子には畏れ多い"と遠巻きにしている中、ミレクシアだけは気にせず、対等に接していた。
「シス様、今日も騎士ごっこをしましょう!」
「だから"様"はいらないと何度言えば……まあいい、やろう」
王子はため息をつきながらも、どこか楽しげだった。
ミレクシアに誘われるたび、彼もまた木剣を手に取り、"騎士ごっこ"に興じた。
王子が"王"の役を務め、ミレクシアが"騎士"となって守る。
そんな遊びを繰り返すうちに、ミレクシアの剣技はどんどん上達し、王子を軽く打ち負かすようになった。
「……よし、始めよう!」
王子が木剣を構える。
ミレクシアも笑顔で構えた。
「では、いきますよ!」
木剣が交わる。
最初は王子が攻めるが――。
ミレクシアの方が圧倒的に速く、強かった。
「……ッ、まだだ!」
王子は必死に踏ん張るも、数手のうちに剣を弾かれ、無様に地面に転がった。
「勝負あり!」
ミレクシアが木剣を突きつけ、得意げに笑う。
「また負けましたね、シス様」
「ぐっ……!」
王子は顔を赤くし、地面を拳で叩く。
「おかしいだろ、貴族の娘がここまで強いのは……!」
「私はアルノー家の人間ですから! 剣術の稽古は日常なんですよ」
ミレクシアが誇らしげに胸を張る。
王子は悔しそうに唇を噛んだ。
「……くそっ、俺は王族なのに、お前にすら勝てないのか」
王子の悔しさは、本物だった。
ミレクシアに負けた後、彼は何度も挑んだ。
だが、そのたびに負けた。
「……俺は、これでいいのか?」
王子は、ある夜、一人で庭に出た。
星の光の下、木剣を握りしめ、何度も素振りをする。
「俺は"王"になる人間だ。誰かに守られてばかりじゃなく、自分の力で戦えなければならない」
「次こそ、ミレクシアに勝つ!」
その日から、王子は本気で剣の鍛錬を始めた。
ミレクシアと遊ぶための"騎士ごっこ"ではなく、"真剣に戦う"ために。
それが、やがて彼の人生を決める道へと繋がることを、まだ知らずに――。
そして、アルノー家が滅ぶ夜は、すぐそこまで迫っていた。
<あとがき>
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