忠誠か復讐か――滅びの貴族令嬢、王子の剣となる

案山子十六号

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プロローグ

ミレクシア・アルノー②

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<前書き>――――――――――――――――――

本編は第15話までゆっくりと進む展開になっています。
テンポよく物語を追いたい方は、『王子護衛騎士編』の『ここまでの人物紹介』を先に読んでから続きを進めるのがおすすめです。

人物や関係性を把握した状態で読めるので、スムーズに物語に入り込めます。

じっくり読みたい方はそのままどうぞ。お好みのスタイルでお楽しみください!

<前書き>――――――――――――――――――





 ミレクシアがまだ幼い頃、彼女の生活の中で欠かせない存在が二人いた。
 一人は乳母のエルナ。
 もう一人は護衛騎士のアーヴィング。
 エルナはミレクシアが生まれた時から世話をしてくれた、実の母のような存在だった。
 朗らかで優しく、どんな時もミレクシアの成長を見守ってくれる。

「ミレクシアお嬢様、今日も元気ですね」

「ええ!  だって今度、シス様と騎士ごっこをするんです!」

「まあまあ、それは楽しみですね。でも転んだりしないように、気をつけるんですよ」

 エルナはいつもミレクシアを心配し、優しく注意を促した。
 だがミレクシアはまだ幼く、注意を聞くよりも、自由に遊びまわることの方が大事だった。

「転ぶわけありません!  私、剣が上手になってきましたから!」

「それは頼もしいですが、あまり無茶をしないように」
 エルナはそう言って、優しくミレクシアの頬を撫でる

 そして、そんなミレクシアを一歩引いたところで見守っていたのが、護衛騎士のアーヴィングだった。
 寡黙で厳格な騎士であり、アルノー家の忠臣。
 ミレクシアの護衛を務める彼は、幼い彼女がどんなに無邪気に振る舞っても、その姿勢を崩さなかった。

「お嬢様、そろそろ戻る時間です」
「えー、まだ遊びたいのに!」

「護衛の身としては、貴族の令嬢が無防備に外にいる時間が長いのは好ましくない」

「つまらないこと言わないでくださいよ、アーヴィング!」

「つまらないことではありません」
 アーヴィングはどこまでも真面目だった。

 それがミレクシアにとっては、時々鬱陶しくも思えた。

「そんなに堅くならないで、アーヴィング」
 エルナが微笑みながら口を挟む。

「ミレクシアお嬢様が元気なのは、いいことじゃありませんか」
「……それはそうですが」

 アーヴィングはため息をつきながら、剣の柄に手を添えた。

「私はお嬢様の安全を守ることが最優先です」

「でもね、アーヴィング。ミレクシアお嬢様は、あなたが言わなくても賢い子です。いざという時に自分で考えて動けるようになりますよ」

「……それならば良いのですが」

 アーヴィングは納得がいかないようだったが、エルナの言葉には逆らえなかった。
 ミレクシアはそんな二人のやり取りを聞きながら、ふと思う。
(エルナは私のことを信じてくれてるんだ)
 その安心感が、どこか嬉しかった。
 アーヴィングは厳しかったけれど、彼なりに自分を守ってくれているのも分かっていた。
 そしてこの二人が、自分の大切な居場所の一部であることも――。

 この何気ないやり取りが、ミレクシアにとってかけがえのない日常だった。
 それが、彼女の目指す未来だった。



 そんな彼女が最も楽しい時間を過ごしたのは、王都の庭園で王子と過ごす日々だった。 
 王子アレクシス・エドワルド・ヴァルトハイトとは、父同士の親交を通じて幼い頃から顔を合わせていた。
 同世代の貴族の子供たちが"王子には畏れ多い"と遠巻きにしている中、ミレクシアだけは気にせず、対等に接していた。

「シス様、今日も騎士ごっこをしましょう!」

「だから"様"はいらないと何度言えば……まあいい、やろう」
 王子はため息をつきながらも、どこか楽しげだった。

 ミレクシアに誘われるたび、彼もまた木剣を手に取り、"騎士ごっこ"に興じた。
 王子が"王"の役を務め、ミレクシアが"騎士"となって守る。
 そんな遊びを繰り返すうちに、ミレクシアの剣技はどんどん上達し、王子を軽く打ち負かすようになった。

「……よし、始めよう!」

 王子が木剣を構える。
 ミレクシアも笑顔で構えた。
「では、いきますよ!」

 木剣が交わる。
 最初は王子が攻めるが――。
 ミレクシアの方が圧倒的に速く、強かった。

「……ッ、まだだ!」

 王子は必死に踏ん張るも、数手のうちに剣を弾かれ、無様に地面に転がった。

「勝負あり!」

 ミレクシアが木剣を突きつけ、得意げに笑う。

「また負けましたね、シス様」
「ぐっ……!」
 王子は顔を赤くし、地面を拳で叩く。

「おかしいだろ、貴族の娘がここまで強いのは……!」

「私はアルノー家の人間ですから! 剣術の稽古は日常なんですよ」
 ミレクシアが誇らしげに胸を張る。

 王子は悔しそうに唇を噛んだ。
「……くそっ、俺は王族なのに、お前にすら勝てないのか」
 王子の悔しさは、本物だった。

 ミレクシアに負けた後、彼は何度も挑んだ。
 だが、そのたびに負けた。

「……俺は、これでいいのか?」

 王子は、ある夜、一人で庭に出た。
 星の光の下、木剣を握りしめ、何度も素振りをする。

「俺は"王"になる人間だ。誰かに守られてばかりじゃなく、自分の力で戦えなければならない」

「次こそ、ミレクシアに勝つ!」

 その日から、王子は本気で剣の鍛錬を始めた。
 ミレクシアと遊ぶための"騎士ごっこ"ではなく、"真剣に戦う"ために。

 それが、やがて彼の人生を決める道へと繋がることを、まだ知らずに――。

 そして、アルノー家が滅ぶ夜は、すぐそこまで迫っていた。



<あとがき>
ここまで読んでくれてありがとうございます! 応援してくれると嬉しいです!
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