[完結]加護持ち令嬢は聞いてはおりません

夏見颯一

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62,こちらを見る黒い犬

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 私達は、すれ違いたくなかった。
 母達がすれ違って秘密を抱えて拗れている姿を見たからこそ、私は自分から手を伸ばす方向を選びました。
「ありがとう、私の所に来てくれて」
 もし、レイノスが元婚約者のように手紙だけで済ませる人だったら、私はレイを選ばなかったでしょう。
 私の事情も何もかも知っていた人、知り得た人はいるけれど、私に本当に会いたいと思って会いに来てくれたのは、レイだけです。
「ずっと会いたいかったんだ……」
「第2王子殿下と入れ替わってまで?」
 私が笑うと、レイも笑いました。
「そうだね。先に向こうが入れ替わって欲しいって言い出したんだけど、私にも都合が良かったからね」
「そうなの? 第2王子殿下と繋がりがあったのね」
「レイディスは十代の中頃頃からうちの国に留学していたんだ。自分の国は息が詰まる、おかしいって口癖のように言っていたな。私が隣国からこちらの国に行くには難しいから、自分と入れ替わったら良いって提案されたんだよ」
 よくバレなかった、とは思いませんよ。
 陛下がまず自分の子供達に無関心ですものね。公務に携わるようになる前の年齢の王子達の中でも成長期に長期間留学していた第2王子に、大勢の文官や侍女、侍従達などが、何処まで以前との差に気付けるか。難しいことだと思います。
「王妃殿下さえ話を通しておけば、簡単だったよ」
 この王城の関係者は、一部を除いて何もかもが本当に笊ですよね。
 かなり穢れで国として傾いていたから、何処からも狙われることもなく維持できていた?
 そんな都合がいい訳はないでしょうね。
「ディルさんみたいな方もたくさん入れやすかったのね」
「それは言わない方がいいよ」
 随分と王城は隣国に飲み込まれているようです。
 仕方ありません。
 女にいつまでも現を抜かしている王が治める国など、古今東西見てもボロボロになって滅んでおりますよね。
「ねぇ、『黒い犬の群れ』は本当は貴方達みたいなのを警戒すべきではないの?」
 国を憂い、国を乱す者を粛正しようとしているのに、本当に国を乗っ取ろうとしている相手には牙を剥いていないなんて。
「所詮野良犬達だからね。統率する知恵者もいなければ、誰が敵かも分からないのさ。尤もリーダーもいない所為で、何をするか、誰を襲うか分からないのが怖いんだけど」
「今も?」
「今は……どうだろうな。私も流石にこんなことになるとは思っていなかった」
 軽い気持ちで現状確認をしてみたのですが、何だかレイの歯切れが悪いですね。
 先程のガラスの割れる大きな音といい、なのに周囲は静かなことといい、何か様子がおかしいのではないでしょうか。
 騎士の姿も少なく、文官はもっといない。
「こんなこと?」
「本物の『黒い犬』が現れて人を監視している。君は……見ていないだろうね」
 聞いておりませんし、見ておりません。
「犬?」
「犬だよ。本当に黒い犬」
 犬。
 本物の、犬。
 モッフモフ。
「城にも番犬はおりますよね? それなら前からずっと見ております」
「この王城では番犬は特定の場所でしか飼っていないよ。王族のいる場所、通る場所ではいない筈だけど」
「初めて登城したときから見ておりますよ。最近増えたとは思っていましたが」
 自然に目に入っておりましたが、ずっと目に入っているとそれは当たり前の光景の一部だと思い込みますよね。
「離宮の中庭で夜におやつをあげていたのは……実はやらない方が良かったでしょうか」
 最初は一匹だけの癒やしだったのですが、最近特に増えておりました。全部黒い犬なので何匹いるか夜ではよく見えないので、最近は数えておりません。
 もふもふで可愛いのですよ。
 時間になると尻尾を振って集まってくるのは、私の夜のお楽しみでした。
「……そっか。いや、君が無事なら……いいんだ」
 もしかして、早くに言うべきことでしたでしょうか。
 無害そうな顔で私に寄ってくるのですよ。
 多分、レイが仰る黒い犬とは別の犬でしょうね。
 ……多分。
「そうか、黒い犬は加護持ちのこと好きだよな……」

 ごめんなさい。黒い犬の生態は私には分かりません。

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