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45,幻影に縋る者
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養母はその後は陛下を完全に無視して料理を楽しんだり、やって来る友人達との会話に興じられて、陛下には一切目を向けることもありませんでした。
王族席の辺りでは侍従や文官達が行き来して忙しそうなのに対し、夜会に出席する貴族は陛下の方をチラチラと見るくらいです。
王女様と入れ替わっている私は勿論ですが、第1王子殿下方、陛下の子供は、陛下に誰も駆け寄りません。それを誰も咎めません。
何でしょうか、この状況は。
事前に説明しても混乱したり整理できないと判断されたのか、今回も私に説明はございませんでした。
「ねぇ、ディナ……」
背後に控えているディル(仮名)さんに呼びかけようとして、一瞬「ディル」と言い間違えかけました。
気を緩めてはいけませんね。ここは気の抜けない場所です。
「ここで私をディルと呼んでも普通に愛称だと思われるでしょうから、気を付けなくても大丈夫ですよ」
なら、何故別の名前を用意したの?
いえいえ、今まで聞いたことのない女性の声で応えたことなど、疑問をいちいち口にしていてはこの方との会話は進みませんね。そこは無視して重要なことだけを訊きます。
「これはいつもの事かしら?」
「他国出身の私にお尋ねになるとは焼きが回りましたか」
すっごく小声で指摘されました。
「でも知ってるでしょ」
「これはいつもの事です。公爵の夫婦同伴姿を見て憤慨する王と宥める王妃と眺めるだけの側妃は、他国でもよく知られておりますよ」
国の醜聞が既に他国に知れ渡っていることに目眩を覚えました。
「もう10年以上この状態らしいですよ。貴族にしても慣れてしまったのでしょう」
全くもって信じられません。
よく考えると、養母が陛下の婚約者を降りたのは当然フレイ兄様が生まれる前ですよね。一番年上の第1王子殿下がお生まれになった頃には既に現在の王妃殿下とご結婚されている訳で……実質かれこれ20年くらい前から続いている可能性もありますね。
誰も今まで止められなかったのでしょうか。
楽しそうに友達とおしゃべりしておられる養母を見ましたが、恐らく今訊いたところで答えをはぐらかすだけでしょうね。明らかに養母は陛下の態度に気分を害しておられることは、身内なので分かります。
そう言えば、夜会が始まる前にレイが『かつての婚約者に未練タラタラなんだよ。公爵家を継いだ後も、結婚を承認しなかった程だ』と仰っておりましたね。もし私が同じ状況だったとして、相手に愛がないと分かっていたのならば……やはり養母のようにきっぱり拒絶するでしょうね。
「そう言えば、フレイ兄……フレイは、今日は仕事だとか?」
少し気になっていたことを、養母達女性達の会話から離れて聞いている養父に尋ねてみました。
王家主催の夜会がある日に、一貴族でしかないフレイ兄様が仕事なんてあり得ない気がしていたのです。
「夜会が元々苦手な子ですから、喜んで仕事に出かけましたよ」
その様子は手に取るように分かります。
ただ、普通は出席して当たり前な夜会に喜んで欠席するオラージュ公爵家の子息も、色々と問題山積みのような気がします。
そのまま私が養父と他愛のない会話をしていると、私達の集まっているテーブルに1人の女性が近付いていらっしゃいました。
「今晩は。オラージュ公爵様、お久し振りですね」
「あら、メイローズ侯爵夫人じゃない。直接会うのは本当に久し振りね」
名前から察するに、もしや謎の復縁希望の手紙を残して消えてしまった『なりきり2号』の母親に当たる方でしょうか。
見た目は普通に綺麗な常識がありそうな貴族女性ですよね。何だか母とも親しそうな様子に見えます。
「王女殿下。こちらは私の古くからの友人で、イルザ・メイローズ侯爵夫人です」
「王女殿下におかれましてはご機嫌麗しく。私はメイローズ侯爵の妻、イルザと申します」
挨拶も早々に直ぐに深々とメイローズ侯爵夫人は頭を下げ、
「先日は愚かな娘が大変失礼をいたしまして、誠に申し訳ありませんでした。夜会の場以外はお目にかかれる機会がなく、失礼を承知で謝罪に参りました」
私が直ぐに「気になさらないで下さい」と言いかけたとき、ディル(仮名)さんに座っていた椅子を蹴られました。
え? 何で?
私が振り返るのを待たず、身を寄せたディル(仮名)さんは王女の侍女として耳打ちします。
「その話はフレイ様が王女殿下の婚約者になられる前の話ですよ。わざわざ後から婚約者になった『王女殿下』を捕まえてまで仰る内容ですか?」
そうですよ。なりきり2号にお会いしたのは飽くまでオラージュ公爵令嬢であった私で、王女様ではありません。
すかさずフォローして下さったディル(仮名)さんは、どうしようもなくミステリアスな人間ですが有能です。
……ミステリアスなので、ディル(仮名)さんに出会う前の私にあった出来事を何故知っておられるのか、きっと考えてもいけないのでしょう。ええ、恐ろしい事実が待っていそうな気がしなくもないから蓋をしておくべきですね。
でも、ならどうやって返答すべきなのでしょう。
「……オラージュ公爵令嬢も気にしておられませんし、その場にはいなかった私にも迷惑などかかっておりませんわ」
「え?」
え?
疑問の声はメイローズ侯爵夫人です。
何か驚かれるようなことはあったのか考えておりましたら、母が困ったように、
「すみません。夫人は少しそそっかしいところがあるのですよ。イルザ、王女殿下がうちの愚息の婚約者になられたのは貴女の娘が事を起こした後よ。しっかりして頂戴」
間違えたと知って更にしきりに頭を下げるメイローズ侯爵夫人と、仕方ない困った人ねと優しい目で見ている養母。
入れ替わりを知っていると誤解しかけ、メイローズ侯爵夫人は警戒すべき人かと警戒しましたが、この様子だと単に勘違いが多いだけの方のようです。
「夫を連れてこれば良かった……」
恥ずかしいとばかりに手で顔を隠している夫人は、実年齢よりかなり若いというか幼いように見受けられました。
なりきり2号とは顔立ち自体はともかく、親と娘で、そう言えばメイローズ侯爵とも雰囲気の方は全然似ても似つきませんね。性格の問題でしょうか。
「そう言えばメイローズ侯爵は? 一緒に夜会に来たのでしょう?」
「あの人は仕事関係で人に会いに行ったわ。私は折角だし友達に会っておしゃべりを楽しもうとしたのだけど……」
おっちょこちょい、私には怒れません。私も同類ですね。
「夫人もこちらの席で食事を楽しみませんか? オラージュ公爵とも久し振りなのでしょう」
私が誘うとメイローズ侯爵夫人は養母を振り返りました。
「ほら、私を見なくても王女様の誘いなのだから断ってはいけないわよ。さあ、席に座って」
「ありがとう、ベル」
嬉しそうに微笑むメイローズ侯爵夫人は、養母にとって愛称を呼ばせるほど親しい方のようですね。
親しいからこそフレイ兄様と御息女が婚約を結ぶ流れになったのでしょうね。
「でも、ベルには申し訳ないと思っているの。うちの娘がフレイ君にやったことって、あんまり非常識過ぎて今でも私は信じられないわ」
フレイ兄様達の間に何かあったのか、私は多くは聞いておりません。取り敢えず最後の復縁の手紙は読ませて頂きましたが、完全なる代筆で復縁を望みながら別に婚約者をお持ちだったことが印象深いですね。
隣のディル(仮名)さんも「あの恋文すら代筆で済ますマナー違反の人……」と呟かれたので私とほぼ同じ事を考えていたことが分かりました。でも、何故知って……いいえ、疑問に思っては駄目ですね。
「貴女の娘、私からしたら結構面白かったわよ。フレイからの手紙はきちんと内容を読んでチェックしているけど誘いは無視。贈り物はその時の流行や自分の会話から欲しいものを気付いて贈らないと駄目。自分が愛を向けなくても、自分にだけ愛を注いで溺愛してくれないと嫌って、結局あの子ってフレイのことが滅茶苦茶好きだったのよね」
そうですね。恋愛初心者の私でも、なりきり2号は物凄くフレイ兄様のことが好きなのだと丸わかりでした。
ただ、フレイ兄様にしたら所詮は親が決めた婚約者でしかなく、気持ちと信頼を時間をかけて積み上げていこうとしているところに、全ての過程を省略して溺愛を求められても無理な話でしたようです。破綻していたところにフレイ兄様は幻覚系の方と出会われて……。
「優先して欲しい、尽くして欲しい、愛して欲しい……いつまでも子供みたいに夢ばかりの娘には、母親である私も愛想が尽きてしまったわ。貴女は何を返せるのって私達が注意しても、私は溺愛されなければ嫌だって言い張るばかり」
恋愛物語の溺愛も、結局相手には溺愛されるだけの理由がありますものね。
「新しい婚約者に溺愛されていたのにね。本当、馬鹿な娘よ」
なりきり2号についてはまだ隠れていた情報があったのですか……。
つまり一言で片付けるなら『溺愛してくれる婚約者付きなりきり夢見がち傷物奇行令嬢加護も持っているよ』ですか。とっても長い一言になりました。
溺愛されることを一番望んでおられ、溺愛してくれる念願の婚約者をお持ちであったのなら、それで全てが丸く収まっていた筈なのに……結局は自分が好きだったフレイ兄様に溺愛して貰いたかったということでしょうか。
何というか、フレイ兄様相手に物語のような溺愛を求めたのがまず間違いであったとしか思えませんね。
「フレイも子供でしかなかった時点で婚約を結んだのは早過ぎたのよ。私はそう結論づけたわ」
「そうね……私がどうしてもって頼んだのが悪かったわ。フレイ君はライナス様に似ているから拘ってしまったから……」
ライナスという方は、私が生まれる前に亡くなった伯父の事ですよね。
「私もライナス様と結婚していたら、フレイ君のような息子が生まれたかしら?」
メイローズ侯爵夫人の表情は夢見心地で、酷く危なげな、
「私は今でもライナス様が事故死だとは思っていないわ」
その視線の先には、王族達の……
「イルザ」
背後から夫人の肩を叩く男性がおられました。
「今晩は。メイローズ侯爵」
「今晩はオラージュ公爵」
以前なりきり2号の父親にしては少し年配とも思いましたメイローズ侯爵は、そもそも夫人とも夫婦にしては少々年齢が離れておられるようです。
メイローズ侯爵が現れたことに、夫人は夢見る少女の顔でとても嬉しそうにされました。
「王女殿下におかれましてはお初にお目にかかります。私はマイルス・メイローズと申します。我が妻が少し疲れたようですので、ここで我々は一旦別室で休憩を取らせて頂きます」
堅苦しいまでにきっちりとした礼すると、メイローズ侯爵は少々ぼんやりしている夫人を支えながら去って行かれました。
ため息をついた養母は、
「イルザは私の弟のライナスの婚約者だったの。弟が亡くなって、年が離れた侯爵のところに嫁いでいったのよ。夫婦仲は上手くは行っているんだけどね」
時折判明する過去が重くありませんか。
「どこか精神的に不安定な方ですね。本当に休憩ですか?」
ディル(仮名)さんの言葉に母は笑うだけでした。
……他人の私達には関わるべきではないことでしょうね。
王族席の辺りでは侍従や文官達が行き来して忙しそうなのに対し、夜会に出席する貴族は陛下の方をチラチラと見るくらいです。
王女様と入れ替わっている私は勿論ですが、第1王子殿下方、陛下の子供は、陛下に誰も駆け寄りません。それを誰も咎めません。
何でしょうか、この状況は。
事前に説明しても混乱したり整理できないと判断されたのか、今回も私に説明はございませんでした。
「ねぇ、ディナ……」
背後に控えているディル(仮名)さんに呼びかけようとして、一瞬「ディル」と言い間違えかけました。
気を緩めてはいけませんね。ここは気の抜けない場所です。
「ここで私をディルと呼んでも普通に愛称だと思われるでしょうから、気を付けなくても大丈夫ですよ」
なら、何故別の名前を用意したの?
いえいえ、今まで聞いたことのない女性の声で応えたことなど、疑問をいちいち口にしていてはこの方との会話は進みませんね。そこは無視して重要なことだけを訊きます。
「これはいつもの事かしら?」
「他国出身の私にお尋ねになるとは焼きが回りましたか」
すっごく小声で指摘されました。
「でも知ってるでしょ」
「これはいつもの事です。公爵の夫婦同伴姿を見て憤慨する王と宥める王妃と眺めるだけの側妃は、他国でもよく知られておりますよ」
国の醜聞が既に他国に知れ渡っていることに目眩を覚えました。
「もう10年以上この状態らしいですよ。貴族にしても慣れてしまったのでしょう」
全くもって信じられません。
よく考えると、養母が陛下の婚約者を降りたのは当然フレイ兄様が生まれる前ですよね。一番年上の第1王子殿下がお生まれになった頃には既に現在の王妃殿下とご結婚されている訳で……実質かれこれ20年くらい前から続いている可能性もありますね。
誰も今まで止められなかったのでしょうか。
楽しそうに友達とおしゃべりしておられる養母を見ましたが、恐らく今訊いたところで答えをはぐらかすだけでしょうね。明らかに養母は陛下の態度に気分を害しておられることは、身内なので分かります。
そう言えば、夜会が始まる前にレイが『かつての婚約者に未練タラタラなんだよ。公爵家を継いだ後も、結婚を承認しなかった程だ』と仰っておりましたね。もし私が同じ状況だったとして、相手に愛がないと分かっていたのならば……やはり養母のようにきっぱり拒絶するでしょうね。
「そう言えば、フレイ兄……フレイは、今日は仕事だとか?」
少し気になっていたことを、養母達女性達の会話から離れて聞いている養父に尋ねてみました。
王家主催の夜会がある日に、一貴族でしかないフレイ兄様が仕事なんてあり得ない気がしていたのです。
「夜会が元々苦手な子ですから、喜んで仕事に出かけましたよ」
その様子は手に取るように分かります。
ただ、普通は出席して当たり前な夜会に喜んで欠席するオラージュ公爵家の子息も、色々と問題山積みのような気がします。
そのまま私が養父と他愛のない会話をしていると、私達の集まっているテーブルに1人の女性が近付いていらっしゃいました。
「今晩は。オラージュ公爵様、お久し振りですね」
「あら、メイローズ侯爵夫人じゃない。直接会うのは本当に久し振りね」
名前から察するに、もしや謎の復縁希望の手紙を残して消えてしまった『なりきり2号』の母親に当たる方でしょうか。
見た目は普通に綺麗な常識がありそうな貴族女性ですよね。何だか母とも親しそうな様子に見えます。
「王女殿下。こちらは私の古くからの友人で、イルザ・メイローズ侯爵夫人です」
「王女殿下におかれましてはご機嫌麗しく。私はメイローズ侯爵の妻、イルザと申します」
挨拶も早々に直ぐに深々とメイローズ侯爵夫人は頭を下げ、
「先日は愚かな娘が大変失礼をいたしまして、誠に申し訳ありませんでした。夜会の場以外はお目にかかれる機会がなく、失礼を承知で謝罪に参りました」
私が直ぐに「気になさらないで下さい」と言いかけたとき、ディル(仮名)さんに座っていた椅子を蹴られました。
え? 何で?
私が振り返るのを待たず、身を寄せたディル(仮名)さんは王女の侍女として耳打ちします。
「その話はフレイ様が王女殿下の婚約者になられる前の話ですよ。わざわざ後から婚約者になった『王女殿下』を捕まえてまで仰る内容ですか?」
そうですよ。なりきり2号にお会いしたのは飽くまでオラージュ公爵令嬢であった私で、王女様ではありません。
すかさずフォローして下さったディル(仮名)さんは、どうしようもなくミステリアスな人間ですが有能です。
……ミステリアスなので、ディル(仮名)さんに出会う前の私にあった出来事を何故知っておられるのか、きっと考えてもいけないのでしょう。ええ、恐ろしい事実が待っていそうな気がしなくもないから蓋をしておくべきですね。
でも、ならどうやって返答すべきなのでしょう。
「……オラージュ公爵令嬢も気にしておられませんし、その場にはいなかった私にも迷惑などかかっておりませんわ」
「え?」
え?
疑問の声はメイローズ侯爵夫人です。
何か驚かれるようなことはあったのか考えておりましたら、母が困ったように、
「すみません。夫人は少しそそっかしいところがあるのですよ。イルザ、王女殿下がうちの愚息の婚約者になられたのは貴女の娘が事を起こした後よ。しっかりして頂戴」
間違えたと知って更にしきりに頭を下げるメイローズ侯爵夫人と、仕方ない困った人ねと優しい目で見ている養母。
入れ替わりを知っていると誤解しかけ、メイローズ侯爵夫人は警戒すべき人かと警戒しましたが、この様子だと単に勘違いが多いだけの方のようです。
「夫を連れてこれば良かった……」
恥ずかしいとばかりに手で顔を隠している夫人は、実年齢よりかなり若いというか幼いように見受けられました。
なりきり2号とは顔立ち自体はともかく、親と娘で、そう言えばメイローズ侯爵とも雰囲気の方は全然似ても似つきませんね。性格の問題でしょうか。
「そう言えばメイローズ侯爵は? 一緒に夜会に来たのでしょう?」
「あの人は仕事関係で人に会いに行ったわ。私は折角だし友達に会っておしゃべりを楽しもうとしたのだけど……」
おっちょこちょい、私には怒れません。私も同類ですね。
「夫人もこちらの席で食事を楽しみませんか? オラージュ公爵とも久し振りなのでしょう」
私が誘うとメイローズ侯爵夫人は養母を振り返りました。
「ほら、私を見なくても王女様の誘いなのだから断ってはいけないわよ。さあ、席に座って」
「ありがとう、ベル」
嬉しそうに微笑むメイローズ侯爵夫人は、養母にとって愛称を呼ばせるほど親しい方のようですね。
親しいからこそフレイ兄様と御息女が婚約を結ぶ流れになったのでしょうね。
「でも、ベルには申し訳ないと思っているの。うちの娘がフレイ君にやったことって、あんまり非常識過ぎて今でも私は信じられないわ」
フレイ兄様達の間に何かあったのか、私は多くは聞いておりません。取り敢えず最後の復縁の手紙は読ませて頂きましたが、完全なる代筆で復縁を望みながら別に婚約者をお持ちだったことが印象深いですね。
隣のディル(仮名)さんも「あの恋文すら代筆で済ますマナー違反の人……」と呟かれたので私とほぼ同じ事を考えていたことが分かりました。でも、何故知って……いいえ、疑問に思っては駄目ですね。
「貴女の娘、私からしたら結構面白かったわよ。フレイからの手紙はきちんと内容を読んでチェックしているけど誘いは無視。贈り物はその時の流行や自分の会話から欲しいものを気付いて贈らないと駄目。自分が愛を向けなくても、自分にだけ愛を注いで溺愛してくれないと嫌って、結局あの子ってフレイのことが滅茶苦茶好きだったのよね」
そうですね。恋愛初心者の私でも、なりきり2号は物凄くフレイ兄様のことが好きなのだと丸わかりでした。
ただ、フレイ兄様にしたら所詮は親が決めた婚約者でしかなく、気持ちと信頼を時間をかけて積み上げていこうとしているところに、全ての過程を省略して溺愛を求められても無理な話でしたようです。破綻していたところにフレイ兄様は幻覚系の方と出会われて……。
「優先して欲しい、尽くして欲しい、愛して欲しい……いつまでも子供みたいに夢ばかりの娘には、母親である私も愛想が尽きてしまったわ。貴女は何を返せるのって私達が注意しても、私は溺愛されなければ嫌だって言い張るばかり」
恋愛物語の溺愛も、結局相手には溺愛されるだけの理由がありますものね。
「新しい婚約者に溺愛されていたのにね。本当、馬鹿な娘よ」
なりきり2号についてはまだ隠れていた情報があったのですか……。
つまり一言で片付けるなら『溺愛してくれる婚約者付きなりきり夢見がち傷物奇行令嬢加護も持っているよ』ですか。とっても長い一言になりました。
溺愛されることを一番望んでおられ、溺愛してくれる念願の婚約者をお持ちであったのなら、それで全てが丸く収まっていた筈なのに……結局は自分が好きだったフレイ兄様に溺愛して貰いたかったということでしょうか。
何というか、フレイ兄様相手に物語のような溺愛を求めたのがまず間違いであったとしか思えませんね。
「フレイも子供でしかなかった時点で婚約を結んだのは早過ぎたのよ。私はそう結論づけたわ」
「そうね……私がどうしてもって頼んだのが悪かったわ。フレイ君はライナス様に似ているから拘ってしまったから……」
ライナスという方は、私が生まれる前に亡くなった伯父の事ですよね。
「私もライナス様と結婚していたら、フレイ君のような息子が生まれたかしら?」
メイローズ侯爵夫人の表情は夢見心地で、酷く危なげな、
「私は今でもライナス様が事故死だとは思っていないわ」
その視線の先には、王族達の……
「イルザ」
背後から夫人の肩を叩く男性がおられました。
「今晩は。メイローズ侯爵」
「今晩はオラージュ公爵」
以前なりきり2号の父親にしては少し年配とも思いましたメイローズ侯爵は、そもそも夫人とも夫婦にしては少々年齢が離れておられるようです。
メイローズ侯爵が現れたことに、夫人は夢見る少女の顔でとても嬉しそうにされました。
「王女殿下におかれましてはお初にお目にかかります。私はマイルス・メイローズと申します。我が妻が少し疲れたようですので、ここで我々は一旦別室で休憩を取らせて頂きます」
堅苦しいまでにきっちりとした礼すると、メイローズ侯爵は少々ぼんやりしている夫人を支えながら去って行かれました。
ため息をついた養母は、
「イルザは私の弟のライナスの婚約者だったの。弟が亡くなって、年が離れた侯爵のところに嫁いでいったのよ。夫婦仲は上手くは行っているんだけどね」
時折判明する過去が重くありませんか。
「どこか精神的に不安定な方ですね。本当に休憩ですか?」
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