[完結]加護持ち令嬢は聞いてはおりません

夏見颯一

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15,幻想ではなく現実を見ろ

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「後日、貴女達に正式に伝えられると思うけど、騎士団の調査から彼女の正体も分かったわ」

 王子殿下もフレイ兄様も王妃様を振り返りました。

「彼女はレーニア・ミニストラ。ミニストラ男爵家の三女よ。同じレーニアって名前だから意外に襤褸が出にくかったのかしらね」

「……男爵家? 貴族だったんですか」
 王子殿下が信じられないといった様子で呟きました。

 下位貴族が上位貴族を詐称するなど、最低限貴族としての教養があれば絶対にやらない筈ですよね。場合によったら同じ事をした平民より重い罪となるというのは、貴族としては常識です。

「金銭的に後継以外の子に家庭教師をつける余裕のない家の出身で、学園に通うような裕福で教養のある貴族子弟の話について行けなかったから、あまり積極的に会話しなかったそうよ。それでもどうしても話さなくてはいけないときは、慎重に話していたって」

 フレイ兄様が言っていた偽レーニアの話では、確か『物静かで控えめ、話しかけるときは誰にでも優しく、美しいその姿は神秘的な女神の化身のよう』でしたでしょうか。
 前半のカラクリは、どうしようもなく単純な理由だったのですね。
 騙されていた王子殿下とフレイ兄様は、恋した相手の真実の姿に言葉をなくしております。

 そう言えば養母が『肩書き付きならよくモテる』とも言っておりましたが……、
「相手が加護持ちの深窓の令嬢って思い込んでいたなら、それはそれは随分と美しく錯覚したでしょうね。まして冷遇されているとも思い込んでいたから」

 あー、肩書き付きってこういうことでしたか。
 偽レーニア……いえ、彼女の本名もレーニアなので単に偽者って言った方がいいでしょう。とにかく、彼女が王都で話題を席巻するほどになったのは単に美人というより、偽物が偽った結果、周囲の思い込みから謎に作られてしまった肩書きを通して見ていたからですか。
 色眼鏡で見ていたってこういうことなんですね。

「美人だからということではなかったのですね……」
 つい私が零してしまった言葉に、
「あら、美人だったわよ。美人だったから余計に肩書きが効果を発揮して、こんなに大事になったのよね」

 衝撃です。
 どうしようもなく、衝撃です。

 ちょっと待って下さい。では、本物見たいって大騒ぎされているのは、偽者が美人だったから本物も美人ではないのかって思われているからではないですか?
 美人なんて今の今まで私は一度も言われたことがないんですよ!

「本物は肩書きしかない程度の女なのに……」
「何を言っているの。堂々としていたらいいでしょ。貴女も卑下するほど悪い顔ではないわ」
 と仰る王妃様の隣には、人間離れした美貌の王子殿下がいるわけでして。

「美人になる加護が良かったです……」
 王妃様は大笑いしました。
「顔は重要じゃないぞ」
「顔で引っかかったフレイ兄様に言われても……」
 このやりとりで更に王妃様は笑って、
「あー、もう。やっぱりリーンベル達とお茶をしてた頃を思い出すわね」

 その後は王妃様と母達の思い出話や、フレイ兄様達の学園生活を聞きつつお茶とお菓子を楽しみました。


「楽しい時間をありがとう」
 王妃様と王子殿下に見送られながら、私達は退出いたしました。
 本当に楽しい時間でしたが、去り際に私は出かける前に養母が言っていた『狂犬の入ってこられない檻の中』という言葉を思い出していました。
 閉じられて行く扉は、重苦しい音を立てていました。
 檻の中。黒い犬。
 養母は、私に一体何を伝えたかったのでしょう?


 この時の私は、この時点で既に運命の歯車が大きく回っていることに、まだ気付いておりませんでした。
 養母の迷い、王妃の思い、側妃の嘆き。そして、四人目の願い。

 その全てが明るみに出るのは、まだもう少し先のこと。

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