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第五話

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 掲示板に親密度が下がるという話を書いてみた。多少のレスは付いたものの、勘違いだとか、そういうゲームシステムにはなっていないというコメントだけで、誰も俺の意見を肯定してはくれなかった。

 俺の書いた親密度の話よりも、少し後に投稿された話が衝撃的だったとも言える。

 それは、VR中に倒れ、意識不明のままの人が複数出たというものだった。
 倒れた人はそれぞれ病院に担ぎ込まれ、入院しているということだが、VRシステムのログによると、このゲームを遊んでいる最中に意識を失った可能性が高いのだと言う。
 掲示板は倒れた人を心配する発言から、ゲームに欠陥があるのではという疑問、果てはゲームのサービス自体が中止になるという憶測まで飛び交った。そんな中では、俺の親密度が下がるという話は、取るに足らない初心者の勘違いとしてスルーされたようだ。

 初心者扱いされたのは気に食わないし、人の話をちゃんと聞けよと思わなくもないが、VRで倒れたという話は他人事ではない。

 家族と暮らしているのなら、倒れたり意識を失ってしまっても助けてもらえるだろう。朝になっても起きてこない。食事の時間に姿を現さない。一緒に暮らしていれば姿を見る機会は多い。何かあればすぐに分かるはずだ。

 だが、俺のように一人暮らしの人間にとっては危険な話だ。仕事がない日は、遊びに出掛けるよりも、部屋に引き籠ってゲームをしているほうが多い。週末は土日共に部屋から出ないことだってままある。
 もし金曜の夜に意識を失ってしまったら、発見されるのは月曜日に無断欠勤した後の話になるだろう。

 それだって、どこかに出掛けて行方不明なのか、部屋の中で倒れているのか。
 アパートの管理会社に話をつけて、部屋の鍵を開けてと手順を踏むのに即日とは思えない。無断欠勤が二、三日続いて、いよいよ事件か事故かと警察にも連絡した後のことかも知れない。

 意識不明で三、四日。その後に病院に連れて行かれたとして、それは助かるものなのか、どちらかと言うと、部屋に踏み込んで来た人が俺の死体を見つけて終わりのように思う。
 今は健康に問題はないから考えなくても良い問題だった。原因不明の話が出て来ると突然不安になってくる。

 オタケさんからお札が飛び、敵の動きを一時阻害する。トリテミウスの魔法で数々のバフがアリスに投影される。そしてアリスの渾身の一撃が敵に突き刺さった。

 やっぱりアリスにバフを乗せまくって強力な一撃を入れるというのは良さそうだ。
 今回はバフ担当にトリテミウスを参加させて見た。このキャラは降霊術士で、普段は中年のおっさんだが、戦闘中だけは二十歳くらいの美青年になるという変わったキャラだ。

 いくつもの補助魔法を使って、アリスの能力を上げる。その役割に一番適していたのがトリテミウスだったのだ。普段は男性キャラを入れないが、今回ばかりは手持ちのキャラで一番バフ性能が高いキャラで試したかった。
 後は、敵の動きを阻害してくれたオタケさんに代わって、もう一人バフ担当を入れるか、それとも防御力を削ぐようなデバフ担当を入れるか、その辺りはもう少し、いろんなキャラを入れて試して見た方が良いだろうか。

 このゲームにも男性キャラも少なくない人数が居て、俺が持っているキャラだけでも十人以上はいる。だが、戦いに連れていくのは女性キャラが多い。
 指示に従ってもらわないと戦いに支障が出るから、男性キャラであっても親密度は最大まで上げてある。だが、それをやると男性キャラであっても馴れ馴れしくなるのだ。
 女性キャラなら抱き着いてきてもまったく問題がないが、男性キャラに抱き着かれる趣味はないし、肩を抱かれるのも御免だ。俺のターゲットは狭いのだ。

 戦いが終わって、主様、主様とくっついて来るアリスを盾に、トリテミウスとの距離を取る。戦闘が終わった今のトリテミウスは中年のおっさんで、降霊術士のせいか、体の周りを白い影がゆらりゆらりと揺らめいている。
 オタケさんは、相変わらず一歩引いた位置で、にこにこと微笑んでいる。

 トリテミウスが距離を詰めるよりも前にパーティーメンバーを変更して、数回の戦闘を熟してみた。
 アリスの一撃は強くて爽快感があるが、バフを大盛にしてもたまにミスが出るのが困りものだ。これなら、同じバフ大盛でもヤセにアタッカーをやってもらったほうが安定するし、鈍器特性あるしで良さそうに思えてしまう。
 見た目に惹かれてがんばって出したけど、アリスは控えキャラの運命、なのかもしれない。
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