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32.異世界少女は上を見ない

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 飽きてきたなと思いながら、魔物の頭を握りつぶす。

『リーダー・ウルフ。世界樹に住むフロアボスの一体。リーダーの名前の通り、群れと共に現れる』

 落ちたのは肉だった。今の魔物のように、まだ手に入れていない食材がどんどん出てくるならいいが、目新しいのはフロアボスという個体だけ。他に出てくるのはウサギばかりだ。
 今回のフロアボスも、ウルフのリーダーかと思ったら、一緒に出現したのはウサギの群れだった。

 樹の中の通路を進み、扉を開ければフロアボスという魔物。フロアボスだけは別の魔物とはいえ、それが何回も続けば、飽きてもくる。
 落ちる食材もウサギの肉ばかりで、フロアボスの落す食材が一つづつしか拾えていないのも大きい。
 そろそろダンジョンから出ようかという気持ちと、この先に何か面白いものがあるかという期待は、徐々の前者に傾いてゆく。

 半ば惰性で階段を上ると、次のフロアの様子は少しだけ変わっていた。
 木をくり抜いたような通路には変わりがないが、その表面は随分と凹凸が多い。
 床は平坦だったものが、阪があり、段差があり、穴があるものに変わっていた。そして通路の壁も直線的なものから、根がはみ出たような障害物の多いものに変わっている。
 歩き難いだけではなく、魔物が潜んでいても分かり難い通路だ。

「面倒ね」

 変化がないことを嘆いていたところから、面倒な方向への変化だ。思わず愚痴が口から出る。
 マナの動きを見れば、視界の通らない物陰でも、魔物がいるかどうかを判断することは出来る。だが、常時となるとそれなりに負担も大きい。

 そんな面倒なことはしてられないと、収納から仮初の従者ガーゴイルを取り出して先行させる。街を出るときに持ってきたうちの一体だ。
 今まで出会った魔物の行動は二種類。こちらが攻撃するまで何もしないか、出会った途端に襲ってくるかだ。仮初の従者ガーゴイルを先行させているだけで、襲ってくるタイプの魔物は釣れるだろう。

 穴を迂回し、阪を登り、段差を飛び降りながら進むと、仮初の従者ガーゴイルに襲い掛かってくる魔物が出た。

『ツリー・ホッパー。世界樹に住む、侵入者に襲い掛かる獰猛なバッタ。その身は食用に、触覚はポーションの材料になる』

 茶色い魔物は、ウサギよりも前後に細長く、毛がない。そして目立つのは、頭の先から飛び出ている突起。長く伸びたそれは、角などとは違って固くはなさそうだ。ツリー・ホッパーの動きに合わせて上下に揺れている。

 仮初の従者ガーゴイルに命じて攻撃させると、魔物は消えて、頭の先にあった突起だけが残った。
 どうやらこの部分が鑑定のいう触覚らしい。
 ポーションは、屋台に並んでいるのを見たことはある。回復や解毒を行う霊薬という説明が貼り付けられていた。
 ポーションには多少の興味はある。後回しになっているが。
 今日のところはポーションよりも食材だと、触覚は収納の放り込むだけにして進む。

 その後も何度か魔物に遭遇した。出てくるのはツリー・ホッパーばかりで、前の階まで延々と出続けたウサギの姿はない。ウサギの階層を抜けたのは確かなようだ。

 歩き難い通路を延々と進み、扉の前に出る。
 階を進むにつれて、プレイヤーの姿も見かけなくなってきている。正しい道が分からないまま、思いつきで道を選んでいるから、扉の前に辿り着くまでの時間も増えていく。

 扉を開けた先は、前の階と同じような広さの部屋だった。
 流石に部屋の中までは凹凸はない。平らな床と、真っ直ぐな壁の部屋だ。

『キング・ホッパー。世界樹に住むフロアボスの一体。キングの名を冠しているが、部下はいない。裸の王様』

 現れたのは通路で出て来た魔物そっくりの、もう一回り大きい個体だった。

 即座に仮初の従者ガーゴイルに攻撃をさせる。
 キング・ホッパーは垂直に飛び跳ねて攻撃を躱す。

我は宣言するアサーション。風よ運べ。『姿なき運びて』」

 空中にいるキング・ホッパーを風の手が掴む。
 羽を出してなんとか動こうとするキング・ホッパーは、風の手から逃げることが出来ないまま、仮初の従者ガーゴイルに倒された。

 通路にいたツリー・ホッパーよりは強かった。
 仮初の従者ガーゴイルの初撃を躱してみせたし、その後の攻撃にも数発耐えてみせた。
 心なしか、階を登る毎にフロアボスの強さが上がっているような気がする。

 もしかしてこのダンジョンは、どこまで進めるのかを競う類のものだろうか。
 食材が落ちるのは、たまたまそういう魔物が配置されていたからで、本来は何階まで進めるのかを競うもの。そう考えれば、この階に来て通路が凹凸になったのも分かる気がする。障害物を配置することで、戦い難くしているのだろう。

 そして、その仮定が事実だった場合。

「面倒ね」

 この先の階はもっと面倒になる。
 通路は通り難くなり、フロアボスは強くなる。そう予想出来る。
 ならばここで帰るか、それとも、もう少し進んで見るか。

「そう言えば、帰り道ってどこかしらね」

 フロアボスの部屋の、入口側の扉は開かない。進めるのは奥の扉、上へ行く階段だけだ。
 通路を進んでいる途中で、下り階段を見た記憶もない。
 扉のマナを紐解けば開けることは出来るだろうが、全ての階で扉を開けるのも面倒だ。
 扉を開ける面倒さと、先に進んだときの面倒になる可能性。
 それを天秤にかけて、とりあえずは先へ進むことにする。

 次の階も、通路は凸凹で、出て来るのはツリー・ホッパーだった。
 フロアボスならともかく、この敵は仮初の従者ガーゴイルだけでも倒せる。落ちたアイテムを収納しながら先へ進む。

『ブラウン・キャタピラー。世界樹に住むフロアボスの一体。鈍重ではあるが強靭な皮を持つ。何かの幼虫であると言われている』

 茶色い芋虫が、のそのそと歩いてきた。
 仮初の従者ガーゴイルに真上から攻撃させたところ、誰も居ない前方に糸を吹いていた。多分、あれが攻撃手段なのだろう。そのまま攻撃を続けさせたら倒れた。

『ミュート・スパイダー。世界樹に住むフロアボスの一体。糸を張り巡らせた巣で狩りをする。その糸は特殊な効果があるというが……』

 部屋中に糸を張り巡らせた巣があり、その上に出現した。
 仮初の従者ガーゴイルでは糸に絡まりそうだったので、魔法で火を点けた。よく燃えた。

『サップ・ワーム。世界樹に住むフロアボスの一体。土の中に住むと言われるワームが、なぜ世界樹に居るのか、謎は深まるばかりだ』

 身を捩るだけの動きで、なぜかとても素早く動く。
 仮初の従者ガーゴイルを食べようとしたので、そのまま口の中に入れて中から攻撃させた。倒すまでに時間がかかったので、別の攻撃方法が良かったかもしれない。

 階を進む毎にフロアボスが強くなっている。
 通路は凹凸があるだけで、歩き難いのを我慢すれば変化のない地形が続いていた。
 先の階ほど面倒になるという予想は、半分当たりという所か。

 そして、鑑定で返ってくる情報が、段々と適当になっているように見える。
 下のほうの階では、倒すと……、外見に似合わず……、と多少なりとも情報があったのに、今は名前以外は分からないに等しい。

『スラッシュ・ビートル。世界樹に住むフロアボスの一体。甲虫に近い何か、ちょー強い』

 そして、このフロアボスと戦ったことで、仮初の従者ガーゴイルが壊れてしまった。
 魔物の角で壊されたのだ。
 固い甲羅に攻撃が通らずに、手間取っている間に攻撃を受けてしまった。
 残った魔物は、甲羅の隙間から燃やすことで倒した。壊れた仮初の従者ガーゴイルの破片を収納の仕舞う。仮初の従者ガーゴイルの見た目が気に入っていただけに残念だ。
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