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第23話「異世界転生、始めました」
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「……ここは?……いったい?」
巨大な岩の上のようなところで目が覚める。まだ脳の理解が状況に追いつかない。
「町……なのか?」
俺が寝そべっていた岩の上には、民家と呼ぶには仰々しい石づくりの建物が、これでもかとばかりに建ち並んでいる。
とりあえず立ち上がろうとしたその時、全身に痛みが走る。その痛みにより、俺は自らの使命を思い出した。
「そうか……。俺は確か……ネトール四天王が一人『劫火のイサベラ』にやられて……」
俺の名はユーリ=ハサマール。魔皇帝ネトールを討つべく立ち上がった勇者だ。
しかし、俺の使命は道半ば。ネトール四天王が一人『劫火のイサベラ』。その強大な力を前に、俺は全身を焼き尽くされ、あの時、死んだ……はずだった。
何の因果か。俺はこうして今も生きている。
実はあの時仕留めそこなっていて、何処か最果ての地に島流しにした……? いや、それにしては全身の痛みこそあれど、焼かれた痕跡一つないのは不自然か……?
死後の世界……か。自分の中でそう結論をつける。
それにしても、この世界の住人はやけに軽装の者ばかりだ。魔法使いのローブにしても短いものが目立つ。
俺みたいに全身を鎧で固めている者は誰一人としていない。あろうことか、道行く者に何故か笑われている気がする。
あんな装備で魔物に襲われでもしたらひとたまりもないだろう。あるいは、強大な結界でも張られているのか?
なにはともあれ、こうして一方的に笑われるのは気分のいいものではない。どこかで、この世界用の装備を整えねばな……。
ん? あそこにあるのは酒場か?
ちょうどいい。この世界のことについて何か聞き出せるかもしれない。
……よく見ると、あの酒場だけところどころに焼かれたような痕があるな。
敵襲にでも遭ったのだろうか……? わざわざ酒場を狙うとは、卑怯な輩もいたものだ。
まあ、そんなことは今の俺には関係のないことか……。この世界では勇者でもなんでもないんだ。市民として生活に溶け込めるよう、必要なことを教えてもらおう……。
***
「おーい、カリン。役所からこれ貼るように言われたから、テキトーにどっか貼っといてくれ」
そう言って店長から渡されたチラシには「暴力団関係者立ち入り禁止」と書かれていた。
「姐御! 今日もお願いします!」
「……いったいどこからツッコめばいいのかしらね?」
店の奥のボックス席へ陣取る常連客の姿と、手元のチラシに書かれた内容とを見比べ、カリンは苦笑いを浮かべる。
「……まあ、いいわ。入口にでも貼っておくわね」
そう言うと、カリンは店の外へと向かった。
***
酒場へと足を進める最中、ふとその扉が開いた。
中から出てきたのは店員の女性か……? しかし、その姿をはっきりと見据えた刹那、俺の中に衝撃が走る。
バカな!? なぜ!? どうしてヤツがこんなところにいる!? ありえない!
もう一度、その姿を観察し直す。
いや、間違いない。
……劫火のイサベラ!
まったくもって理屈はわからないが、神はまだ俺を見放した訳ではないらしい。こうしてヤツへのリベンジのチャンスが転がりこんでくるとはな……。
前の世界では果たせなかった勇者としての使命。今度こそこの手で果たしてみせる!
俺は昂ぶる気持ちを抑えるべく深く一呼吸をつき、背中の剣へと手をかける。
チャンスは一瞬。
ヤツが油断している隙に、一瞬で仕留める!
「うおぉぉぉ!!!」
俺は一気に間合いを詰め、渾身の力でヤツへと斬り掛かった。
巨大な岩の上のようなところで目が覚める。まだ脳の理解が状況に追いつかない。
「町……なのか?」
俺が寝そべっていた岩の上には、民家と呼ぶには仰々しい石づくりの建物が、これでもかとばかりに建ち並んでいる。
とりあえず立ち上がろうとしたその時、全身に痛みが走る。その痛みにより、俺は自らの使命を思い出した。
「そうか……。俺は確か……ネトール四天王が一人『劫火のイサベラ』にやられて……」
俺の名はユーリ=ハサマール。魔皇帝ネトールを討つべく立ち上がった勇者だ。
しかし、俺の使命は道半ば。ネトール四天王が一人『劫火のイサベラ』。その強大な力を前に、俺は全身を焼き尽くされ、あの時、死んだ……はずだった。
何の因果か。俺はこうして今も生きている。
実はあの時仕留めそこなっていて、何処か最果ての地に島流しにした……? いや、それにしては全身の痛みこそあれど、焼かれた痕跡一つないのは不自然か……?
死後の世界……か。自分の中でそう結論をつける。
それにしても、この世界の住人はやけに軽装の者ばかりだ。魔法使いのローブにしても短いものが目立つ。
俺みたいに全身を鎧で固めている者は誰一人としていない。あろうことか、道行く者に何故か笑われている気がする。
あんな装備で魔物に襲われでもしたらひとたまりもないだろう。あるいは、強大な結界でも張られているのか?
なにはともあれ、こうして一方的に笑われるのは気分のいいものではない。どこかで、この世界用の装備を整えねばな……。
ん? あそこにあるのは酒場か?
ちょうどいい。この世界のことについて何か聞き出せるかもしれない。
……よく見ると、あの酒場だけところどころに焼かれたような痕があるな。
敵襲にでも遭ったのだろうか……? わざわざ酒場を狙うとは、卑怯な輩もいたものだ。
まあ、そんなことは今の俺には関係のないことか……。この世界では勇者でもなんでもないんだ。市民として生活に溶け込めるよう、必要なことを教えてもらおう……。
***
「おーい、カリン。役所からこれ貼るように言われたから、テキトーにどっか貼っといてくれ」
そう言って店長から渡されたチラシには「暴力団関係者立ち入り禁止」と書かれていた。
「姐御! 今日もお願いします!」
「……いったいどこからツッコめばいいのかしらね?」
店の奥のボックス席へ陣取る常連客の姿と、手元のチラシに書かれた内容とを見比べ、カリンは苦笑いを浮かべる。
「……まあ、いいわ。入口にでも貼っておくわね」
そう言うと、カリンは店の外へと向かった。
***
酒場へと足を進める最中、ふとその扉が開いた。
中から出てきたのは店員の女性か……? しかし、その姿をはっきりと見据えた刹那、俺の中に衝撃が走る。
バカな!? なぜ!? どうしてヤツがこんなところにいる!? ありえない!
もう一度、その姿を観察し直す。
いや、間違いない。
……劫火のイサベラ!
まったくもって理屈はわからないが、神はまだ俺を見放した訳ではないらしい。こうしてヤツへのリベンジのチャンスが転がりこんでくるとはな……。
前の世界では果たせなかった勇者としての使命。今度こそこの手で果たしてみせる!
俺は昂ぶる気持ちを抑えるべく深く一呼吸をつき、背中の剣へと手をかける。
チャンスは一瞬。
ヤツが油断している隙に、一瞬で仕留める!
「うおぉぉぉ!!!」
俺は一気に間合いを詰め、渾身の力でヤツへと斬り掛かった。
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