上 下
9 / 28

第9話「まつり縫いのリサ」

しおりを挟む
「カリン氏? その格好はいったいどうしたんでござるか?」

 女児向けアニメの魔法少女が書かれたTシャツを着た目の前の客が、魔女のハロウィンコスプレをしたカリンに問いかける。

「ま、まあ……いろいろあったのよ……。あはは……」

「まさかカリン氏にコスプレ趣味があったとは。人は見かけによりませんな」

「趣味でやってるわけないでしょ……」

 目の前の客による絶妙に腹立つ言動に対しても、いちいち噛みつく気力すら起きない。

「またまたぁ。隠さなくてもいいんでござるよ?」

「いい加減にしないとぶっ飛ばすわよ……?」

 そんなやりとりをしている間も、カリンの格好は自ずと店中の注目を一心に集めていた。

「何であの子だけコスプレ……?」
「カワイイ~。こっち向いて~」
「アオイちゃんとノアちゃんのも見たかった~」

 敢えて聞かないように努めても、否が応でも耳に入ってくる。完全に穴があったら入りたい。

「しかし、その衣装はこの店とはミスマッチですな? いったいどこで選んできたんですかな?」

「私じゃないわよ……。店長が『セルバンテス』で買ってきたの」

 触れて欲しくない質問にしぶしぶ答えながら、チーズフォンデュの火付けのため指先へ火を灯す。

「どうせ『セルバンテス』で買うなら、もっと際どい衣装がよかったですぞ」

「ふざけたことぬかしてると、アンタの服に『うっかり』火点けるわよ……?」

 くだらない冗談を流している余裕など、今のカリンには当然あるわけもなかった。

「冗談はさておき、それならイメージに合うものを自作してみてはいいのではないですかな? あ、ガサツなカリン氏では無理でござ……すみませんでした! 謝りますからどうか、拙者の『ぷりてぃ☆うぃっち マジカル☆フェアリー』のロゼちゃんTシャツに火を点けるのだけはお許しを!」

 Tシャツに描かれた女児向けアニメのキャラクターの顔付近に火球が近づいてくると、チーズフォンデュ男は態度を一変させ、必死の形相で平謝りし始めた。

「はぁ……。ただでさえ注目の的なんだから、余計なことで目立たせないで……」

 ため息をつきながら、火球を火付け皿へと戻す。

「いや、カリン氏が勝手に目立っ……いえ、何でもございません」

 今度のはいたって正当な指摘な気もするが、今のカリンにそんなことは関係ない。カリンの右手に灯された炎を見ると、フォンデュ男は発言を取り下げる羽目となった。

「お詫びと言ってはなんですが、知り合いの衣装職人を紹介するでござる」

「いや、アンタの知り合いって時点で不安しかないんだけど……?」

「界隈では『まつり縫いのリサ』の二つ名で恐れられるほど、折り紙つきの実力の有名人なので安心ですぞ?」

「今の説明に安心できる要素なかったんだけど……。なんなのよその二つ名……」

「ちょうどこの今近くにいるらしいので、ちょっと店に来てもらうでござる。30分ぐらいで着くそうですぞ」

 カリンの不安もどこ吹く風で、勝手に話をすすめるフォンデュであった。

 ***

「あ、どうも……。リサといいます……。突然押しかけてすみません……。よろしくお願いします……」

 30分後、フォンデュ男に呼ばれた「まつり縫いのリサ」が来店し、カリンの元へ挨拶に来た。

 リサはその奇抜な二つ名からは想像できないような、何なら少し地味目の印象を受ける女性だった。

「お店の雰囲気に合う衣装が欲しいと彼からお聞きしました……。サイズさえ分かれば、ピッタリの衣装がお作りできるかと思います……」

「そういう訳ですのでカリン氏。早くスリーサイズを言うでござる!」

「アンタねぇ……。今度こそ本当に燃やすわよ? ていうかグラビアアイドルじゃあるまいし、自分のスリーサイズなんかいちいち覚えてないわよ……」

 右手に炎を灯し、セクハラフォンデュ男を睨みつけるカリン。

「大丈夫です……。この場で図らせてもらえれば……」

「いや、店の中で採寸はちょっと……」

 まさか客のいる店内で肌着だけの姿になって測られる訳にもいかない。

「あ、いえ……。そのままの格好で大丈夫です……。すぐに終わりますから……」

 彼女もまた、フォンデュとは別ベクトルで人の話を聞かないタイプだと察するカリン。いっそさっさと終わらせてもらおうと諦めのため息をついた。

「はぁ……。まあいいわ……。こう見えても仕事中だから、手短に頼むわね?」

「では……。失礼します……」

 そう言うと、カリンの背後へと回りこむリサ。まあ今着ている衣装だって相当な薄着だ。大まかなサイズを測るくらいなら問題ないだろう。

 刹那、カリンの感じた違和感。あれ、リサって手ぶらで店に来てたわよね……?

 カリンの両脇の隙間から胸元へと伸びてくるリサの両手。その指はワキワキと艶めかしく妖しい動きをしていた。

 え? まさか? カリンの頭によぎる一抹の不安。

 しかし時すでに遅く、その両手はカリンの胸をおもむろに揉みしだき始めた。

「ぐへへ。姉ちゃんいい身体してんじゃねぇか」

 鼻息荒くよだれを垂らし、耳元で囁くリサ。先ほどまでとは別人のような豹変ぶりだ。

「いやあぁぁぁ~~~~~~!!!」

 カリンの絶叫が店内中に響き渡った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

キミに処刑場で告白をする

不来方しい
キャラ文芸
大学一年の夏、英田ハルカは沖縄へ来ていた。祖父が亡くなり、幼なじみとの関係に思い悩む日々を送り、手元に残されたのは祖父の遺品である青い宝石のついた指輪。自暴自棄になったまま、大切な指輪ごと海へ沈もうかと、指輪を投げた瞬間だった。 いとも簡単に海へ飛び込み、指輪を拾おうとする男が現れた。落ちた男を助けようとハルカも海へ飛び込むが、結局は彼に助けられてしまう。 彼はフィンリーと名乗り、アンティーク・ディーラーとして仕事のために沖縄へきたと告げる。 フィンリーはハルカに対し「指輪を鑑定させてほしい」と頼んだ。探しているものがあるようで、何かの縁だとハルカも承諾する。 東京へ戻ってからも縁が重なり、ハルカはフィンリーの店で働くことになった。 アルバイトを始めてからまもなくの頃、大学で舞台の無料チケットをもらえたハルカは、ミュージカル『クレオパトラ』を観にいくことになった。ステージ上で苦しむクレオパトラ役に、何かがおかしいと気づく。亡くなる場面ではないはずなのにもがき苦しむ彼女に、事件が発生したと席を立つ。 そこにはなぜかフィンリーもいて、ふたりは事件に巻き込まれていく。 クレオパトラ役が身につけていたネックレスは、いわくつきのネックレスだという。いろんな劇団を渡り歩いてきては、まとう者の身に不幸が訪れる。 居合わせたフィンリーにアリバイはなく、警察からも疑われることになり、ハルカは無実を晴らすべく独りで動こうと心に誓う。

俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~

美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。 母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。 しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。 「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。 果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

神様、愛する理由が愛されたいからではだめでしょうか

ゆうひゆかり
キャラ文芸
【不定期投稿です】 退役軍人のラファエル・オスガニフは行きつけのバーで酒を浴びるほど飲んだ帰り、家路の路地裏で子どもがひとりでうずくまっているのをみつけた。 子どもの年の頃は四、五歳。 鳥の巣のような頭にボロボロの服から垣間見える浮き出た骨。 おそらくは土埃で黒くなった顔。 男児とも女児ともつかない哀れな風貌と傍らに親らしき人物がいないという事実に、ラファエルはその子は戦争孤児ではないかという疑念を抱くものの。 戦渦にみまわれ荒れ果てている我が国・アルデルフィアには戦争孤児は何処にでもいる。 だから憐んではいけないと頭ではわかっていたが、その子の顔は二十年前に死に別れた妹に似ていて--。 これは酒浸りおっさんと戦争孤児が織りなす子育てとカウンセリングの記録。 《ガイドライン》 ⚪︎無印…ラファエル視点 ⚪︎※印…ジェニファー視点 ⚪︎◇印…ミシェル視点 ⚪︎☆印…ステニィ視点  

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...