3 / 28
第3話「オレンジのダンスショー」
しおりを挟む
「アオイちゃ~ん! オレンジジュース一つおなしゃ~す!」
「は~い、今お持ちしまーす」
金髪の若い女性客からオレンジジュースの注文が入り、それを受けたアオイが厨房の中へと消える。
「お待たせしました~」
戻ってきたアオイがそういって出したのは、氷だけが入ったグラスだった。
「って、アオイちゃんこれ氷だけじゃん? だいじょぶ? 働き過ぎで疲れてんじゃない? わーかほりっくってやつ?」
独特な口調の女性客から、わざとらしいツッコミが入る。
「あら、私ったら? 申し訳ありません。只今ご用意しますね」
釣られてアオイもわざとらしく返し、指先を厨房の方向へ向けて呪文を唱える。
すると、オレンジ色の球体がアオイの指先に向かってゆらゆらと近づいてきた。アオイが指揮者のように指先を動かすと、球体もその指示通りに空中を踊り始めた。
たまに通行人にぶつかりそうになるのを慌てて制御しながら、アオイのタクトによるオレンジジュースのダンスショーは1分ほど続いた。
フィナーレを前に、球体はアオイの指先付近へと戻ってくる。アオイは指先でギリギリ触れない程度の距離間で、それをちょんとつつくような動作をする。すると、アオイの合図に呼応して、球体は星型・ハートマーク・三角形などに次々姿を変えていく。
最後にアオイが手のひらを返してグラスの方へ向けると、先ほどまで踊っていたそれは自らグラスへと流れこんでいき、グラスのオレンジジュースとして女性客の前に提供された。
「オレンジジュース、お待たせしました~」
「アオイちゃんスッゲ~! いつ見てもチョー映えんね!?」
女性客からのオーバーな拍手と賛辞を受け、アオイは照れ笑いを浮かべる。
「あ、そうだ! さっきの動画ブルバに上げよっと! アオイちゃんも一緒に撮ろっ?」
アオイの返事も待たず、女性客はキメ顔でSNS用の写真撮影の構えに入る。
「え? いつの間に撮ってたんですか? いや、SNSは遠慮しておきます……ってもう撮ってるじゃないですかあぁぁぁ~!? 待って、待って、載せないでくださ、あぁぁぁ~!」
慌てふためくアオイの断末魔のような叫びが店中に響き渡った。
「あはは! アオイちゃんチョーカワイイ。マジウケるんですけど」
女性客は悪びれもせず、そんなアオイの様子を見て笑っていた。
***
「私の客も大概だけど、アオイも大変ね……」
そんな騒ぎを尻目に、厨房前でカリンが同情の目を向ける。
「まあ一番人気の代償ってやつ? 人気者は大変だよね」
「アンタはもう少し頑張りなさいよ……」
冷めたコメントのノアに対して、呆れて言うカリン。
「はーい」
やる気のない返事をして、ノアはホールの方へ向かって行った。
その手には、レモンが一つ握られていた。
***
アオイの得意魔法は「水流操作」。任意の液体を視認し、呪文を当てることで、それを自由に移動・変形させることができる。しかし、操れる質量は300ミリリットルが限界だ。
その能力を活かし、「コルボ」では彼女がジュース類を操り、様々な姿に変えるパフォーマンスが行われる。見た目的にも映え、危険性も低いことから、一番人気のパフォーマンスとなっている。
***
とあるお客様へのアンケートより。
「この前、ヤー系のイカツイおっちゃんに、うっかりトマトジュースぶち当てちゃってたときのアオイちゃん、慌てふためき過ぎでチョーカワイかった! マジサイコー! また今度やってね、お願い!」
「は~い、今お持ちしまーす」
金髪の若い女性客からオレンジジュースの注文が入り、それを受けたアオイが厨房の中へと消える。
「お待たせしました~」
戻ってきたアオイがそういって出したのは、氷だけが入ったグラスだった。
「って、アオイちゃんこれ氷だけじゃん? だいじょぶ? 働き過ぎで疲れてんじゃない? わーかほりっくってやつ?」
独特な口調の女性客から、わざとらしいツッコミが入る。
「あら、私ったら? 申し訳ありません。只今ご用意しますね」
釣られてアオイもわざとらしく返し、指先を厨房の方向へ向けて呪文を唱える。
すると、オレンジ色の球体がアオイの指先に向かってゆらゆらと近づいてきた。アオイが指揮者のように指先を動かすと、球体もその指示通りに空中を踊り始めた。
たまに通行人にぶつかりそうになるのを慌てて制御しながら、アオイのタクトによるオレンジジュースのダンスショーは1分ほど続いた。
フィナーレを前に、球体はアオイの指先付近へと戻ってくる。アオイは指先でギリギリ触れない程度の距離間で、それをちょんとつつくような動作をする。すると、アオイの合図に呼応して、球体は星型・ハートマーク・三角形などに次々姿を変えていく。
最後にアオイが手のひらを返してグラスの方へ向けると、先ほどまで踊っていたそれは自らグラスへと流れこんでいき、グラスのオレンジジュースとして女性客の前に提供された。
「オレンジジュース、お待たせしました~」
「アオイちゃんスッゲ~! いつ見てもチョー映えんね!?」
女性客からのオーバーな拍手と賛辞を受け、アオイは照れ笑いを浮かべる。
「あ、そうだ! さっきの動画ブルバに上げよっと! アオイちゃんも一緒に撮ろっ?」
アオイの返事も待たず、女性客はキメ顔でSNS用の写真撮影の構えに入る。
「え? いつの間に撮ってたんですか? いや、SNSは遠慮しておきます……ってもう撮ってるじゃないですかあぁぁぁ~!? 待って、待って、載せないでくださ、あぁぁぁ~!」
慌てふためくアオイの断末魔のような叫びが店中に響き渡った。
「あはは! アオイちゃんチョーカワイイ。マジウケるんですけど」
女性客は悪びれもせず、そんなアオイの様子を見て笑っていた。
***
「私の客も大概だけど、アオイも大変ね……」
そんな騒ぎを尻目に、厨房前でカリンが同情の目を向ける。
「まあ一番人気の代償ってやつ? 人気者は大変だよね」
「アンタはもう少し頑張りなさいよ……」
冷めたコメントのノアに対して、呆れて言うカリン。
「はーい」
やる気のない返事をして、ノアはホールの方へ向かって行った。
その手には、レモンが一つ握られていた。
***
アオイの得意魔法は「水流操作」。任意の液体を視認し、呪文を当てることで、それを自由に移動・変形させることができる。しかし、操れる質量は300ミリリットルが限界だ。
その能力を活かし、「コルボ」では彼女がジュース類を操り、様々な姿に変えるパフォーマンスが行われる。見た目的にも映え、危険性も低いことから、一番人気のパフォーマンスとなっている。
***
とあるお客様へのアンケートより。
「この前、ヤー系のイカツイおっちゃんに、うっかりトマトジュースぶち当てちゃってたときのアオイちゃん、慌てふためき過ぎでチョーカワイかった! マジサイコー! また今度やってね、お願い!」
10
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
キミに処刑場で告白をする
不来方しい
キャラ文芸
大学一年の夏、英田ハルカは沖縄へ来ていた。祖父が亡くなり、幼なじみとの関係に思い悩む日々を送り、手元に残されたのは祖父の遺品である青い宝石のついた指輪。自暴自棄になったまま、大切な指輪ごと海へ沈もうかと、指輪を投げた瞬間だった。
いとも簡単に海へ飛び込み、指輪を拾おうとする男が現れた。落ちた男を助けようとハルカも海へ飛び込むが、結局は彼に助けられてしまう。
彼はフィンリーと名乗り、アンティーク・ディーラーとして仕事のために沖縄へきたと告げる。
フィンリーはハルカに対し「指輪を鑑定させてほしい」と頼んだ。探しているものがあるようで、何かの縁だとハルカも承諾する。
東京へ戻ってからも縁が重なり、ハルカはフィンリーの店で働くことになった。
アルバイトを始めてからまもなくの頃、大学で舞台の無料チケットをもらえたハルカは、ミュージカル『クレオパトラ』を観にいくことになった。ステージ上で苦しむクレオパトラ役に、何かがおかしいと気づく。亡くなる場面ではないはずなのにもがき苦しむ彼女に、事件が発生したと席を立つ。
そこにはなぜかフィンリーもいて、ふたりは事件に巻き込まれていく。
クレオパトラ役が身につけていたネックレスは、いわくつきのネックレスだという。いろんな劇団を渡り歩いてきては、まとう者の身に不幸が訪れる。
居合わせたフィンリーにアリバイはなく、警察からも疑われることになり、ハルカは無実を晴らすべく独りで動こうと心に誓う。
俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~
美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。
母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。
しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。
「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。
果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる