居酒屋店主の恋

メタボ戦士

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第12話 別れ

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 朝に目覚めたら菊太郎が隣で寝ていた。

 ·····帰ってたんだ。
 あっそういえば昨日あったこと言わないと。
 でも遅くに帰って来てまだ寝ているようだから朝餉あさげの後に言おう。
 まずは作らないと。

 その後、作っているときに菊太郎が目覚めたので出来たら一緒に食べた。

 食べ終わったら昨日あったことを伝えて、もらった紙を渡した。

 菊太郎はそれを持って何も言わずに出て行った。

 もう戻って来ない、そんな気がした。

 それから1年が経過した。

 菊太郎は戻って来なかった。

 ·····まぁこれで良かったのだ。
 元々主君に仕える立派な武士だったのだから。
 こんな居酒屋の用心棒や店員をするよりもずっと幸せだろう。
 それにこの関係はいつか終わるものだったのだから。

 でも『さらば』ぐらいは言って欲しかった。

 だってお別れを言わないとまた戻って来るかもしれないと思うから。

 まぁこんなことを考えたところで過去は変えられないから今を生きよう。

「よし。」と気合を入れて夜営業の仕入れをするために出掛けた。
 
 その後、仕入れを終わらせて仕込みをした。

 そして仕込みが終わった後、お店の準備をして開店した。

 それから時間が経過してお店を閉めて片付けをして帰った。
 家に帰る途中に誰かが私の跡をつけている人の気配がした。

 通り魔や辻斬りだと怖いので走った。

 すると跡をつけている人も走って、どんどん近づいて来た。
 
 それから少しして私の跡をつけている人が私の右腕を掴んだ。
 
 振り解こうしても取れなかった。

「キャー。」

 こんな真夜中だから誰も助けに来ないだろうけど悪あがきで叫んだ。

 すると私の口を抑えて後ろから「それがしだ。」という聞き覚えのある声が聞こえた。

 すぐに口を抑えている手をどけた。

「菊太郎、何でここにいるの?前の生活に戻ったんじゃないの?」

「その話はそなたの家に戻ったら話すから落ち着け。」

「わかった。」

 家に帰った。

「さぁ話してもらおうじゃないの。」

「実はあの朝、断るために前の職場の同僚に会いに行ったんだ。」
 
「そうだったの?じゃあどうして今日まで戻ってこなかったの?」

「前の職場の同僚に無理だと断ったら、『そうか、だが主がお前に会いたがっていたから顔見せに来い。武士に戻らなくてもいいから。』と言われて行ったら、主が『戻ってこないか?』と引き止めてきて、断るのに時間がかかってこんなことになった。」

「そうだったの····でもこんな生活よりも前の方が裕福だったんじゃないの?」

「そうだが、この生活が気に入ったのだ。そなたとお店を切り盛りする生活が。」

「変わってますよ。武士だったらお給金もいいから遊女とたくさん遊べて楽しいだろうにこの生活を選ぶなんて。」

「某が決めたことだ。それにこの生活も悪くないぞ。」

「何でですか?」

「そなたがいるから。」

「はっ?どうしてですか?」

「そなたがいるところはみんなを明るくし、元気になる。某は初めの頃は城から追い出されて絶望していたが、明るいそなたが傍にいてくれたから立ち直れた。」
 
「そう言っていただけて嬉しいです。ありがとうございます。」

「唐突なんだが、これはそなたへの気持ちだもらってくれ。」
 
 菊太郎は着物の懐からかんざしを出した。

「急に何ですか?かんざしの意味わかっています?」

「あ···わかった上でだ。そなたと1年離れて気付いた。某はそなたのことを好いている。夫婦めおとにならないか?」

「ちょっと待ってください。私よりも若くてきれいな娘はたくさんいるじゃないですか。どうしてこんな年増で地味な私と。」

「見た目なんてどうでもいい!そなたの内面で好いたのだ。」
 
「本当ですか?それは。まぁわかりました、その言葉を信じます。あなたと夫婦になりましょう。」
 
「そうか。」

 それから色々とあったが私達は夫婦になった。

 

 

 

 
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