パーティを定年退職させられましたがまだまだ冒険者やってます

さくら書院(葛城真実・妻良木美笠・他)

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女魔王イブリータの奸計

同い年のララノア

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 ガストン爺さんは槍しか使えない。若い頃から、いろんな得物を試してみたのだけれど、槍しか身につかなかったのだ。
 魔法のことを勉強しようと思った時期もあった。だけども、文字は読めても魔法理論のことはさっぱり理解できなかった。そして、若い頃から入っていたパーティにはいつも、無詠唱でなんでもできるクラスの魔法使いがいたものだから、自分がゼロから勉強するのはバカバカしく思えてもいたのだった。
「とはいえ、槍ばかりでは大したことはできんわな」
 殺風景な部屋でガストン爺さんは独りごちる。彼の部屋はいつも片付いている。常敗の丁半博打のため、売れるものはなんでも質屋に持ってくからだ。
 残っているのは、褒美としてもらった売ってはいけない魔道具だけであった。王様から賜ったオリハルコンの槍を筆頭に、錬金術都市で作られた「お尻を洗ってくれる魔法のトイレ」やら「床が起き上がって無理やり目覚めさせてくれる魔法のベッド」、「ハンドルをひねると水が出てくる管」、「勝手に震えて歯がきれいになる歯ブラシと定期的に届く歯磨き用チューブ」など……。すべてガストンの槍の技に感嘆した王族や貴族たちが褒美としてくれたものである。すごく便利だし、ガストンには買えないほど高価なものばかりだが、王族やら貴族からの賜り物を売ると生命がない。
 ああ、今日も無一文。だけども、腹が減ってきたことにガストン爺さんは気づく。腹が減ってはドラゴンは捕れぬとのことわざもこの世界にはある。
「ララノア婆さんに無心するしかねぇな…」
 ガストン爺さんは言って、家を後にした。蜥蜴の革で穂先を覆った槍を手にして道を行く。
 歩いてあるいて、町外れの丘の上にあるのが無心の相手の家だった。表札には読めない文字で家主の名前が書いてある。
「ララノアいるかい?」
 声をかけたが返事はない。
「婆さん、達者かい? それとも…」
「縁起でもない。わたしは元気よ! 人間!!」
 その声は若々しい。出てきたのは金髪で耳の長い女だった。そう、ララノアはエルフだったのである。
「ガストン! 私を年寄り扱いするのはやめて。まだたった60年しか生きてない。小娘と言ってもいい年頃よ」
 ララノアは言う。エルフは千年生きると言われるほど長命だ。人間とは年のとり方が違うと言っているのだった。
「わかったよララノア」
「今日は何の用。だいたい分かってるけど」
「同い年のよしみで金を貸してくれ。今度の冒険が終わったら必ず返す」
 ガストン爺さんとララノアは若い自分に同じパーティにいたことがある。ララノアはその頃と容姿がいささかも変わらず、ガストンだけが老いぼれた。人間だからしょうがない。
「わかった。そして、すぐに全額返せそうよ。クエストが出てた」
「クエスト?」
「魔王大戦墓苑に骸骨戦士スケルトンが湧いて、その討伐クエストが出てる」
 ララノアは言う。先の大戦の死者たちをまとめて封印・・した場所だが、魔王の死体から湧き立つ瘴気のせいで死者が動き出すことがあった。
「ザコだな。たいした稼ぎにならん」
 ガストン爺さんは眉間に縦シワを寄せる。小遣い銭がほしいわけではなかった。
「でも、数がある。200体以上」
「ほお。でも他のやつが狩ってるんじゃないか」
「クエストは今朝出たばかり」
「ふむ。では相場レイトによるな。幾らだ?」
「そこまでは知らない。あああっ、もう面倒ね。ギルドの告知板を見てきたら。書いてあるから。老眼のあんたでも読めるおっきな字でね」
「ああん。ああ、まあ、そうしよう。すまないが、その前に銭を頼むよ」
 ガストン爺さんは金を受け取る。エルフという生き物は金がほとんどかからないものらしい。ガストンが用立てを頼んで断られたことがない。いつもすっと金が出てくる。
「ああ、弓の名手のお前さんも一緒に来てくれたら、楽しい冒険になるんだがな」
 爺さんは言う。しかし、ララノアはいつものように誘いを断った。
「私はもう人間と一緒には行かないって決めたの」
「ははん。やっぱりエルフってやつはお高くとまってるもんだな」
 諦めて、きびすを返しギルド会館に向かうガストン。その背中が豆粒くらい小さくなるまでララノアは見送り、最後につぶやいた。
「あんたが殺されるのを見るなんて耐えられないよ…」
 ララノアは若き日のガストンを思い出す。全身これ筋肉の屈強な冒険者。あの頃に比べてなんと彼の身体は小さくなったことか。
 一方、ガストン爺さんは自分の家のすぐ近くにあるギルド会館にやってきた。
 ここにも彼の古い馴染みがいるのだ。
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