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〈5〉度重なる不幸
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路面電車。俺はらにゃを連れて、二両編成の電車に乗っている。実は、今日はらにゃと初デートしている。中はかなり人混みで、らにゃはビクビクしていた。怖いのだろう。
「らにゃ、大丈夫だ……俺がずっと捕まえているから」
俺はらにゃを力強く、捕まえる。すると、聴力が人間の六倍良いらにゃが何かの音をキャッチする。
ーーにゃに? この音……すごくはにゃ息荒いニャ……。
すると、らにゃのお尻が誰かに触られた。すぐ分かったらにゃは、その犯人の顔を爪で引っ掻いた。
「うおっ!」
犯人が倒れた。乗客全員が驚く。
「らにゃ? 何かあったのか?」
次に気付いたのは、俺だ。俺のすぐ隣で犯人が倒れたんだ。
「あの人、ミャーのお尻を……」
らにゃは倒れた犯人を指差す。
「皆さん! 倒れた人痴漢です!」
すると、乗客全員がざわつき始める。
「何だって!」
や
「痴漢だと!」
などの声が聞こえる。すると、痴漢野郎は顔を隠したまま電車の一両目へ行こうとする。
「捕まえて下さい! 逃げています!」
俺は、呼びかける。
「おい! 逃げるな!」
優先席に乗っていた男性が、痴漢野郎を抑える。
「引き摺り下ろすぞ!」
吊り革二つ独占男性も、痴漢野郎の確保に協力する。
「一時停車します!」
電車の運転手も協力し、電車は停まり痴漢野郎を電車から引き摺り下ろす。すると、電車の中から数名の女子高生が出てきて痴漢野郎に罵声を浴びせていた。俺は警察に通報し、なぜか痴漢野郎と共に連行されてしまった。
取調室。痴漢野郎が警察官に事情聞き取りをする。
「名前は?」
「半在桃太……」
「ご職業は?」
「偽サラリーマン」
「犯行動機は?」
「俺は女子高生が大好きなんだ! そして尻触った後にパンティ盗むのが習慣なんだぁ、なのに、今回の奴は俺の頬に傷を負わせやがった! 俺は被害者なんだ!」
痴漢野郎こと半在桃太は、痴漢の常習犯のクソ野郎で女子高生の下着を盗んでノーパン女子を増やすことを習慣にしていたみたいだ。しかし、今回のターゲットにしたのがらにゃで、らにゃに引っ掻かれたことを良いことに被害者ヅラしている。
別の取調室。今度は、らにゃが警察官に事情聞き取りしている。
「容疑者が、君が頬を引っ掻いたことを供述しているが?」
警察官がらにゃに問いかけるが、らにゃは口を開かない。らにゃには、言ってる意味がわからないみたいだ。
「共犯者を連れて来い!」
警察官がもう一人の警察官を呼び、俺が連れて来られた。
「彼女が口を開かないから、君から当時の状況を詳しく聞きたいんだが……」
警察官が聞く。
「当時の状況を話しますが、まずらにゃが猫の擬人化だという事を念頭に置いて聞いてくれませんか?」
俺は警察官に言うと
「君の目は大丈夫か? ゲームのやりすぎじゃないのか?」
警察官は前代未聞の供述をした俺に対して言った。
「至って、俺は真剣に言っています……証明すれば良いですか?」
俺はポケットに幾つか猫がやみつきになるおやつ、チュールを数本持ち歩いていた。
「証明できる物なら、証明しなさい!」
警察官から了承が出たので、証明することにした。俺は席を立ち、らにゃにチュールをチラつかせる。
「らにゃあ? 大好きなチュールだよー?」
俺はチュールの袋を開けて、らにゃの喰らい付きを警察官の前で披露する。だが、警察官は
「最初から信用する気はない……刑務所行き」
という。理不尽な対応で俺らは冤罪で刑務所に入れられた。
刑務所。
「こんなの不公平だ!」
俺はらにゃと共に、牢屋にぶち込まれた。不公平だと叫んだ。俺が、理不尽な警察官に叫んでいると
「ハクション!」
隣の牢屋の人がくしゃみをし出した。
「ゲホゲホ……」
そして、咳もしだす。
「君、猫飼っているのか?」
くしゃみと咳をしている囚人が俺に話しかける。
「俺の隣の彼女が元猫なんだけど?」
俺はらにゃを指差す。
「新入りさんよ……俺は猫アレルギーなんだよ」
囚人が俺に言う。そんなのさっきの止まらぬ咳とくしゃみで分かる。
「理不尽な警察官が牢屋変えない限り、無理ですね」
俺は牢屋を見回っている警察官を睨む。
数分後。俺の証明を最初から信じなかった警察官が、半在を連れて来た。
「君ら二人は釈放だ」
と。俺たちは釈放が認められた。そして代わりに半在が牢屋に入れられた。
「お前らいつか殺してやるぅ!」
半在は、肥満体型でアフロヘアーだった。
「その時は、俺が殺人罪で捕まえてやるからな!」
警察官が言う。俺は半在の戯言なんて無視し、本来のデート場所へ向かった。
猫カフェ茉莉支店。
「いらっにゃいませー♪」
メイド服来た沢山の擬人化した猫がいた。
「何で、ここのお店の猫擬人化してるんですか?」
俺は猫カフェの店長に聞くと
「昨日までは、猫だったのだけど……朝起きたらこうなっていた」
猫カフェの店長も俺と一緒みたいだ。その後は、俺はカフェオレを飲みながら、らにゃが他と猫と戯れているのを見ていた。どの猫も可愛かった。らにゃの猫種、スキフトイボブテイルは人懐っこくて、他の猫とも仲良くなれる性格。その一面嫉妬深い性格でもある。らにゃが服を脱ぎだすと、他の猫も脱ぎだし全裸で戯れていた。
「店長、あれは大丈夫なのか?」
俺は店長に聞くと
「元が猫だから仕方ない」
と。答えた。俺はらにゃと猫カフェの猫たちの写真を沢山撮った。猫の視力は人間の十分の一と言われている。フラッシュは大丈夫であろう。猫は視力や味覚は劣っている反面、聴覚や臭覚は優れている。その後は、特に警察のお世話にもならず帰って来れた。
翌日、松本家。
「あぁ、吐き気がする」
俺は、出席停止の怨念が来てしまったのか本当に風邪を引いてしまった。咳と喉の痛みと鼻詰まりと高熱でもう死にそうだ。すると、らにゃが
ーーガチャ!
玄関のドアを開けた。
《らにゃ! 出て行かないでくれ! 今は動けなくて追いかける気分じゃない!》
俺の心の叫びは、らにゃには響かなかった。そして、喋ることが出来ない。喉が痛いなら、喋らない方が有効的だと思っている。唾を飲み込むことさえ、痛いのに。
数分後。
「おいおい! 袖を噛むな! 何なんだね、君は!」
隣に住んでいる、人野太助がらにゃに強制連行された。
「ご主人様を……助けて……」
らにゃは、初めて俺の事を呼んだ。らにゃは俺の事を『ご主人様』と呼ぶんだ。大体『下僕』か『奴隷』と呼ばれると思っていた。
「飼い主を助けて欲しいと」
太助さんは、状況を把握した。太助さんは、俺に歩み寄る。
「大丈夫か? 熱冷ますシートはあるか?」
太助さんの応答に、俺は機械音声を使って答える。
『キッチンの調理器具の中にあると思います』
俺が答えると、太助さんはキッチンを物色して熱を冷ますシートを俺のおでこに貼ってくれた。
「薬を飲む必要があるから、ご飯でも作るが……何が良い?」
太助さんは、食事も作ってくれるらしい。
『じゃあ、お茶漬けの鮭を』
俺は食事を注文する。
数分後。太助さんは、お茶漬けを出してくれた。
「熱いと思うから、冷やしといた……薬を飲み込めるための水も近くに置いとくからね」
太助さんは、部屋に戻った。俺はベッドから落っこちるように降りて、机を使いながら、起き上がった。お茶漬けを一口口に入れるが、咳で咽せてしまう。
数十分後。
「侑晏! 風邪で動けないと聞いたぞ!」
賢次が来てくれた。
『お見舞いに、来てくれたのか?』
俺は機械音声で返答する。
「いや、まぁ今日ここに泊まる予定だったが」
賢次の返答に
『今日は俺が風邪引いているから帰る事を推奨する』
と返事した。
「そうするつもりだ……で、侑晏の膝に寝ている女の子は誰なんだ?」
賢次の質問に俺は下を向く。すると、らにゃが俺の膝に頭を置いて寝ている。
『俺が最近飼い始めた猫だよ』
俺が猫と答えると
「はぁ? 猫なわけねぇだろ? どう見ても猫耳つけた女の子じゃねぇか」
賢次は信じてくれない。スキフトイボブテイルの猫の尻尾は、短くて『ポンポンテイル』と呼ばれている。だから、スカートで隠れて見えないのだろう。
『俺が猫と言えば、猫なんだ!』
俺は自己主張で猫と言い張った。賢次は、俺からかなり離れて少し雑談して帰った。その後は、らにゃが付きっきりで看病してくれた。看病と言っても、そばにいてくれただけだったけど。だが、猫のゴロゴロには治癒の効果があると聞いたことがある。後に調べると、メンタルや骨折、ケガに効果的だった。風邪には効果的では無かった。
翌日。俺は少し体調が良くなった。そして、らにゃを見るとなんか元気が無い。らにゃは下着を脱いで、お尻の穴を頻繁に舐めている。俺が覗き込むと
「なんだよ……これ……」
俺は、全身の毛があの有名アニメの如く逆立った。らにゃのお尻の穴から出て来たのは、猫回虫と呼ばれている寄生虫だった。俺は獣医師と医者どちらも呼んだ。擬人化動物はどちらを呼んで良いか分からない時は、どちらも呼ぶとネットに書いてあった。その後、らにゃには寄生虫に寄生されない薬を処方された。
三日後。
ーードンドンドン!
突然、ドアを激しく叩く音が聞こえた。俺はドアを開く。
「あの、インターホンがあるので……それを鳴らしてください」
俺がドアを叩く人に言うと
「猫はどこにいる?」
と。言われた。尋ねて来た人は、グラサンにタバコを咥えた怖い人だった。
「あの、ウチは猫飼っていませんが?」
俺は嘘をつく。なぜか分からないが俺はこの怖い人にらにゃを渡しちゃいけない気がする。
「じゃあ、あそこに転がっているおもちゃはなんだ?」
俺が部屋を見ると、猫じゃらしやまたたび入りのぬいぐるみやらが転がっていた。
「あの、玄関で話すのも何ですから一回外で話しましょう」
俺は、ジャンパーの内ポケットにスマホを忍ばせ録音を開始した。
「まずは、お名前を……」
俺は怖い人にインタビューする。見た目は怖いが根はいい人かもしれない。
「猫屋敷速雄」
怖い人は猫屋敷速雄という人らしい。
「なぜ、猫を取り返しに来たのですか?」
俺は猫屋敷に問いかける。
「息子の猛がな、猫が欲しいと言ってな……だが、大きいやつ飼うとなったら金がかかるからあまり大きくならない猫を選んだんだ……まぁ、金は腐るほどあるから奮発してスキフトイボブテイルを飼ったらよ、いきなり出産して次々と子供産みやがって、沢山は育てられないから一匹ずつ去勢、避妊前に殺したんだよ」
俺の直感は合っていた。この人にらにゃを渡しちゃいけない。俺は録音を終えて、ある人に電話をかける。
数分後。
「速雄という奴はどこのドイツだぁ?」
賢次が来た。実は、賢次は動物を虐待する奴がこの世で一番嫌いなんだ。それで空手やら柔道やらをやって体力を付けていた。今回の猫屋敷はらにゃの親と兄姉を殺した。これには賢次が黙っているわけがない。
「何だ? テメェは……」
猫屋敷は賢次の存在に気づいた。
「俺は 動物虐待撲滅連盟の連盟長……松本賢次だ」
賢次は続けて
「猫屋敷速雄……テメェは動物保護法違反で現行犯逮捕する!」
賢次は猫屋敷の瞬発力を遥かに上回り、背負い投げをする。そして俺がネタのためだけに買った手錠を渡し、取り押さえた。
数分後。警察が来て、連行されていった。その後、猫屋敷は
「俺は過去に動物を殺した! だからもう時効だ!」
と。騒いでいたらしい。俺の録音も証拠となり、猫屋敷は五年以下の懲役と五百万円以下の罰金が科された。
「らにゃ、大丈夫だ……俺がずっと捕まえているから」
俺はらにゃを力強く、捕まえる。すると、聴力が人間の六倍良いらにゃが何かの音をキャッチする。
ーーにゃに? この音……すごくはにゃ息荒いニャ……。
すると、らにゃのお尻が誰かに触られた。すぐ分かったらにゃは、その犯人の顔を爪で引っ掻いた。
「うおっ!」
犯人が倒れた。乗客全員が驚く。
「らにゃ? 何かあったのか?」
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「あの人、ミャーのお尻を……」
らにゃは倒れた犯人を指差す。
「皆さん! 倒れた人痴漢です!」
すると、乗客全員がざわつき始める。
「何だって!」
や
「痴漢だと!」
などの声が聞こえる。すると、痴漢野郎は顔を隠したまま電車の一両目へ行こうとする。
「捕まえて下さい! 逃げています!」
俺は、呼びかける。
「おい! 逃げるな!」
優先席に乗っていた男性が、痴漢野郎を抑える。
「引き摺り下ろすぞ!」
吊り革二つ独占男性も、痴漢野郎の確保に協力する。
「一時停車します!」
電車の運転手も協力し、電車は停まり痴漢野郎を電車から引き摺り下ろす。すると、電車の中から数名の女子高生が出てきて痴漢野郎に罵声を浴びせていた。俺は警察に通報し、なぜか痴漢野郎と共に連行されてしまった。
取調室。痴漢野郎が警察官に事情聞き取りをする。
「名前は?」
「半在桃太……」
「ご職業は?」
「偽サラリーマン」
「犯行動機は?」
「俺は女子高生が大好きなんだ! そして尻触った後にパンティ盗むのが習慣なんだぁ、なのに、今回の奴は俺の頬に傷を負わせやがった! 俺は被害者なんだ!」
痴漢野郎こと半在桃太は、痴漢の常習犯のクソ野郎で女子高生の下着を盗んでノーパン女子を増やすことを習慣にしていたみたいだ。しかし、今回のターゲットにしたのがらにゃで、らにゃに引っ掻かれたことを良いことに被害者ヅラしている。
別の取調室。今度は、らにゃが警察官に事情聞き取りしている。
「容疑者が、君が頬を引っ掻いたことを供述しているが?」
警察官がらにゃに問いかけるが、らにゃは口を開かない。らにゃには、言ってる意味がわからないみたいだ。
「共犯者を連れて来い!」
警察官がもう一人の警察官を呼び、俺が連れて来られた。
「彼女が口を開かないから、君から当時の状況を詳しく聞きたいんだが……」
警察官が聞く。
「当時の状況を話しますが、まずらにゃが猫の擬人化だという事を念頭に置いて聞いてくれませんか?」
俺は警察官に言うと
「君の目は大丈夫か? ゲームのやりすぎじゃないのか?」
警察官は前代未聞の供述をした俺に対して言った。
「至って、俺は真剣に言っています……証明すれば良いですか?」
俺はポケットに幾つか猫がやみつきになるおやつ、チュールを数本持ち歩いていた。
「証明できる物なら、証明しなさい!」
警察官から了承が出たので、証明することにした。俺は席を立ち、らにゃにチュールをチラつかせる。
「らにゃあ? 大好きなチュールだよー?」
俺はチュールの袋を開けて、らにゃの喰らい付きを警察官の前で披露する。だが、警察官は
「最初から信用する気はない……刑務所行き」
という。理不尽な対応で俺らは冤罪で刑務所に入れられた。
刑務所。
「こんなの不公平だ!」
俺はらにゃと共に、牢屋にぶち込まれた。不公平だと叫んだ。俺が、理不尽な警察官に叫んでいると
「ハクション!」
隣の牢屋の人がくしゃみをし出した。
「ゲホゲホ……」
そして、咳もしだす。
「君、猫飼っているのか?」
くしゃみと咳をしている囚人が俺に話しかける。
「俺の隣の彼女が元猫なんだけど?」
俺はらにゃを指差す。
「新入りさんよ……俺は猫アレルギーなんだよ」
囚人が俺に言う。そんなのさっきの止まらぬ咳とくしゃみで分かる。
「理不尽な警察官が牢屋変えない限り、無理ですね」
俺は牢屋を見回っている警察官を睨む。
数分後。俺の証明を最初から信じなかった警察官が、半在を連れて来た。
「君ら二人は釈放だ」
と。俺たちは釈放が認められた。そして代わりに半在が牢屋に入れられた。
「お前らいつか殺してやるぅ!」
半在は、肥満体型でアフロヘアーだった。
「その時は、俺が殺人罪で捕まえてやるからな!」
警察官が言う。俺は半在の戯言なんて無視し、本来のデート場所へ向かった。
猫カフェ茉莉支店。
「いらっにゃいませー♪」
メイド服来た沢山の擬人化した猫がいた。
「何で、ここのお店の猫擬人化してるんですか?」
俺は猫カフェの店長に聞くと
「昨日までは、猫だったのだけど……朝起きたらこうなっていた」
猫カフェの店長も俺と一緒みたいだ。その後は、俺はカフェオレを飲みながら、らにゃが他と猫と戯れているのを見ていた。どの猫も可愛かった。らにゃの猫種、スキフトイボブテイルは人懐っこくて、他の猫とも仲良くなれる性格。その一面嫉妬深い性格でもある。らにゃが服を脱ぎだすと、他の猫も脱ぎだし全裸で戯れていた。
「店長、あれは大丈夫なのか?」
俺は店長に聞くと
「元が猫だから仕方ない」
と。答えた。俺はらにゃと猫カフェの猫たちの写真を沢山撮った。猫の視力は人間の十分の一と言われている。フラッシュは大丈夫であろう。猫は視力や味覚は劣っている反面、聴覚や臭覚は優れている。その後は、特に警察のお世話にもならず帰って来れた。
翌日、松本家。
「あぁ、吐き気がする」
俺は、出席停止の怨念が来てしまったのか本当に風邪を引いてしまった。咳と喉の痛みと鼻詰まりと高熱でもう死にそうだ。すると、らにゃが
ーーガチャ!
玄関のドアを開けた。
《らにゃ! 出て行かないでくれ! 今は動けなくて追いかける気分じゃない!》
俺の心の叫びは、らにゃには響かなかった。そして、喋ることが出来ない。喉が痛いなら、喋らない方が有効的だと思っている。唾を飲み込むことさえ、痛いのに。
数分後。
「おいおい! 袖を噛むな! 何なんだね、君は!」
隣に住んでいる、人野太助がらにゃに強制連行された。
「ご主人様を……助けて……」
らにゃは、初めて俺の事を呼んだ。らにゃは俺の事を『ご主人様』と呼ぶんだ。大体『下僕』か『奴隷』と呼ばれると思っていた。
「飼い主を助けて欲しいと」
太助さんは、状況を把握した。太助さんは、俺に歩み寄る。
「大丈夫か? 熱冷ますシートはあるか?」
太助さんの応答に、俺は機械音声を使って答える。
『キッチンの調理器具の中にあると思います』
俺が答えると、太助さんはキッチンを物色して熱を冷ますシートを俺のおでこに貼ってくれた。
「薬を飲む必要があるから、ご飯でも作るが……何が良い?」
太助さんは、食事も作ってくれるらしい。
『じゃあ、お茶漬けの鮭を』
俺は食事を注文する。
数分後。太助さんは、お茶漬けを出してくれた。
「熱いと思うから、冷やしといた……薬を飲み込めるための水も近くに置いとくからね」
太助さんは、部屋に戻った。俺はベッドから落っこちるように降りて、机を使いながら、起き上がった。お茶漬けを一口口に入れるが、咳で咽せてしまう。
数十分後。
「侑晏! 風邪で動けないと聞いたぞ!」
賢次が来てくれた。
『お見舞いに、来てくれたのか?』
俺は機械音声で返答する。
「いや、まぁ今日ここに泊まる予定だったが」
賢次の返答に
『今日は俺が風邪引いているから帰る事を推奨する』
と返事した。
「そうするつもりだ……で、侑晏の膝に寝ている女の子は誰なんだ?」
賢次の質問に俺は下を向く。すると、らにゃが俺の膝に頭を置いて寝ている。
『俺が最近飼い始めた猫だよ』
俺が猫と答えると
「はぁ? 猫なわけねぇだろ? どう見ても猫耳つけた女の子じゃねぇか」
賢次は信じてくれない。スキフトイボブテイルの猫の尻尾は、短くて『ポンポンテイル』と呼ばれている。だから、スカートで隠れて見えないのだろう。
『俺が猫と言えば、猫なんだ!』
俺は自己主張で猫と言い張った。賢次は、俺からかなり離れて少し雑談して帰った。その後は、らにゃが付きっきりで看病してくれた。看病と言っても、そばにいてくれただけだったけど。だが、猫のゴロゴロには治癒の効果があると聞いたことがある。後に調べると、メンタルや骨折、ケガに効果的だった。風邪には効果的では無かった。
翌日。俺は少し体調が良くなった。そして、らにゃを見るとなんか元気が無い。らにゃは下着を脱いで、お尻の穴を頻繁に舐めている。俺が覗き込むと
「なんだよ……これ……」
俺は、全身の毛があの有名アニメの如く逆立った。らにゃのお尻の穴から出て来たのは、猫回虫と呼ばれている寄生虫だった。俺は獣医師と医者どちらも呼んだ。擬人化動物はどちらを呼んで良いか分からない時は、どちらも呼ぶとネットに書いてあった。その後、らにゃには寄生虫に寄生されない薬を処方された。
三日後。
ーードンドンドン!
突然、ドアを激しく叩く音が聞こえた。俺はドアを開く。
「あの、インターホンがあるので……それを鳴らしてください」
俺がドアを叩く人に言うと
「猫はどこにいる?」
と。言われた。尋ねて来た人は、グラサンにタバコを咥えた怖い人だった。
「あの、ウチは猫飼っていませんが?」
俺は嘘をつく。なぜか分からないが俺はこの怖い人にらにゃを渡しちゃいけない気がする。
「じゃあ、あそこに転がっているおもちゃはなんだ?」
俺が部屋を見ると、猫じゃらしやまたたび入りのぬいぐるみやらが転がっていた。
「あの、玄関で話すのも何ですから一回外で話しましょう」
俺は、ジャンパーの内ポケットにスマホを忍ばせ録音を開始した。
「まずは、お名前を……」
俺は怖い人にインタビューする。見た目は怖いが根はいい人かもしれない。
「猫屋敷速雄」
怖い人は猫屋敷速雄という人らしい。
「なぜ、猫を取り返しに来たのですか?」
俺は猫屋敷に問いかける。
「息子の猛がな、猫が欲しいと言ってな……だが、大きいやつ飼うとなったら金がかかるからあまり大きくならない猫を選んだんだ……まぁ、金は腐るほどあるから奮発してスキフトイボブテイルを飼ったらよ、いきなり出産して次々と子供産みやがって、沢山は育てられないから一匹ずつ去勢、避妊前に殺したんだよ」
俺の直感は合っていた。この人にらにゃを渡しちゃいけない。俺は録音を終えて、ある人に電話をかける。
数分後。
「速雄という奴はどこのドイツだぁ?」
賢次が来た。実は、賢次は動物を虐待する奴がこの世で一番嫌いなんだ。それで空手やら柔道やらをやって体力を付けていた。今回の猫屋敷はらにゃの親と兄姉を殺した。これには賢次が黙っているわけがない。
「何だ? テメェは……」
猫屋敷は賢次の存在に気づいた。
「俺は 動物虐待撲滅連盟の連盟長……松本賢次だ」
賢次は続けて
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賢次は猫屋敷の瞬発力を遥かに上回り、背負い投げをする。そして俺がネタのためだけに買った手錠を渡し、取り押さえた。
数分後。警察が来て、連行されていった。その後、猫屋敷は
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