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〈1〉失恋から新しい出会い

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 茉莉まつり高等学校屋上。俺の名は、松本侑晏まつもとゆあん。普通に青春を謳歌している高校一年生だ。青春を謳歌と言っても、高校に入学してまだ三ヶ月しか経っていないけど。今は、期末試験が終わって二ヶ月間好きだった西村未来にしむらみくに告白するのだ。高校入学の日に話しかけてから丁度三ヶ月経った。無料通話アプリでもたくさん話したし、告白しても良いんじゃないか。俺は昼食時間、西村に
「放課後、伝えたいことがあるから屋上に来て!」
と。伝えた。西村は
「分かった」
と。無愛想な返事だった。そして、俺は今陽が沈む風景に背を向け屋上で西村を待っている。緊張しすぎなのか、背中に滝のような汗が流れている。俺が硬直していると
ーーガチャ!
屋上のドアが開く音がした。
《来た!》
俺はさらに、硬直した。西村が出てくる。
「侑晏くん、伝えたいことって何?」
西村が首を傾げる。その仕草が可愛すぎる。俺は心臓の心拍が速くなる。
「にしむ……いや、未来! 良ければ俺と付き合ってください!」
俺は思い切って、未来に告白した。唇や声がとても震えていた。未来の返事は
「ごめんなさい……」
だった。俺は心臓の心拍が通常に戻った。
「え? どうして?」
俺は未来に問いかけた。
「私はね、今は池面翔馬いけづらしょうまが好きなの」
未来は今好きな人の名前をフルネームで答えた。翔馬は、自称イケメンの俺とは違いガチのイケメンだ。誰もが目を奪われる学校のアイドル的存在。
《学校一イケメンの男子生徒と、学級一キュートな女子生徒のリア充か……》
俺は、鞄を手に取る。
「さようなら」
俺はそっけない態度で校門を目指した。
 午後七時、車大しゃだい塾。俺は現在、塾でバイトをしている。ここの塾は日本のエリート大学『車杏大学しゃあんだいがく』の合格者を毎年叩き出しているという、有名な塾だ。今は、生徒が答えた問題を解答している。
「松本先生……そこ、当たっています」
生徒は俺が誤答した問題を指でさす。
「え? あぁ、ごめんごめん!」
俺はペンの色を変えて解答を書き直す。それを見ていた同僚の浜崎海乙はまざきみお
「侑晏? 今日ヤケにぼーっとしてるけど、何があったの?」
と。俺の顔を覗き込む。
「別に……」
俺は、海乙から顔を背ける。すると、一人の生徒が挙手をする。海乙が向かった。
《失恋を埋める方法無いのかな?》
俺は三時間上の空だった。
 午後十時、車大塾玄関。
「今日も疲れた……明日は祝日だけど、そっか塾があったか」
俺は夜空を見上げる。今日は星が少ない。俺が塾の玄関にある石段に腰を下ろすと
「ミャー!」
可愛い猫の鳴き声が聞こえた。俺は地面に目を向けると、小さい仔猫がいた。猫は人間にしか鳴かないから。俺は頰が火照った。可愛かったから。
《小っちゃい猫……生後二ヶ月ぐらいかな?》
俺が仔猫を見ていると
「やっと、止まってくれた……」
息を切らして、走って来たスーパーの店員さんが、仔猫を抱きあげる。塾の近くにあるジャスミンマーケットの制服を着ている。
「猫、飼っているんですか?」
俺は立ち上がり、店員さんと目線を合わせる。店員さんの名札には『猫羽舞ねこはまい』と書かれていた。ジャスミンマーケットの女性従業員だ。
「いえ、店で一時預かっています……里親が見つかるまで」
猫羽さんが、猫を両腕で抱える。猫はクリクリな目で俺を見つめている。
「小さい猫ですが、生後何ヶ月ぐらいなの?」
俺は猫の年齢を聞く。
「生後九ヶ月です! 人間で言うと十六歳ぐらいでしょうか?」
猫羽さんが年齢を答える。俺は目を疑った。
「え! 九ヶ月! そんなに小さくて!?」
俺は驚いたあまりに静寂なジャスミンマーケットの駐車場で叫んでしまった。
「私も獣医さんに聞いて、ビックリしました……どうやら、スキフトイボブテイルとキジトラ猫のミックスらしいです」
猫羽さんが猫の種類を答える。スキフトイボブテイルとは、世界一小さい猫と言われて、一匹五百万はするという珍しい猫だ。大体シャム猫の毛柄が多いらしい。
「獣医さんに聞いたってことは、手術とかしたんですか?」
俺は、猫羽さんに質問攻める。まだ業務中なのに。
「えぇ、四種混合ワクチンと後、女の子なので避妊手術もしてます……ノミが着かない薬も塗っています」
猫羽さんは、ずっと猫を抱えていて疲れないだろうか? そういや、スキフトイボブテイルのメスは体重一・七キロだったっけ?
「あの……猫、店に置いておいたら色々とお客に迷惑になると思うので……俺がもらってもよろしいでしょうか? 俺、ペットが飼える団地に住んでいるので」
俺は猫羽さんが抱えている可愛くて小さい仔猫に、見惚れた。だって俺に『ミャー』と可愛く鳴いたんだ。俺が気になっているんだろう。
「そうですか? では少し待っていてください」
猫羽さんは、猫を抱えたまま店に戻る。何を取りに来るのだろうか?
 数分後。猫羽さんが猫を入れたキャリーケースと大きな段ボール箱を抱えて来た。
「らにゃは、キャリーケースに入っています……そして必要な物はこの段ボール箱に入っています」
猫羽さんは、さらっと猫の名前を言う。
「らにゃ? 猫の名前ですか?」
俺は聞き返す。
「はい! ラナでも良かったんですけど、店長がファンタジー物が好きで猫のキャラって『な』を『にゃ』って読むんだよ! ってことで『らにゃ』になりました」
猫羽さんはらにゃの名前の由来を聞いた。
「何から何まで、ありがとうございます」
俺は猫用品の入った段ボールと、キャリーケースに入ったらにゃを連れて帰宅する。
 茉莉茶まつりちゃ団地、六階松本家。俺は家に帰ると、キャリーケースかららにゃを出して、まずトイレの準備をした。らにゃは明るいワンルームを探索する。俺の住んでる部屋は風呂とトイレ別でダイニングキッチンとバルコニーが付いている広い部屋となっている。クローゼットは一つしかないけど、収納に困ったことはない。俺は猫用品の入った箱からおまるみたいな物を抜き取った。
《変わった猫トイレだな》
俺は猫砂や、猫砂を掬うスコップなどを取り出してトイレを設置する。猫砂はトイレに流せて、シートも入れれるスペースがある。屋根は付いてないけど。
「らにゃ、今日からここが君のお家だよ!」
俺はらにゃに話しかける。ちなみに、俺は高校進学を期に一人暮らしをしている。塾の給料じゃ生活が厳しいため、、通信制高校(ちゃ高校)に通っている従兄弟いとこ賢次けんじが週に一回は来てくれて、バイト代の半分を宿泊費として払ってくれる。それで寝具は枕しか買っていないけど。俺は日めくりカレンダーをめくって、眠りに着いた。らにゃは、まだ部屋を探索していた。
 深夜三時。
《重い……》
突然、呼吸しにくくなった。なんかお腹に錘が乗っかっている感じがした。俺が息苦しさから目を覚ますと、俺のお腹に自分の腕を枕にして、体を丸めて寝ている全裸の女の子がいた。その女の子は猫耳と短い尻尾をしている。身長は俺と同じくらい。俺は
「えぇ!」
当然の如く驚き、勢いよく起き上がった。猫の仮装した女の子はコテっと床に頭を打つ。だが、起きない。俺は全裸で猫の仮装した女の子を観察する。耳や尻尾は付けているのでは無く、実際に生えていた。俺は猫の仮装した女の子に頭や背中を撫でたが起きない。ちなみに、髪型はハーフツインテール。左側の結んだ髪(?)が腕に乗っかっていて異常に髪が長いということが分かる。俺は、おそらくEぐらいの大きさのあるおっぱいを触ってみた。感覚神経が刺激されたのか、猫の仮装した女の子は俺の手を噛む。あまり痛くない。猫の演技が上手い。猫の仮装した女の子は目を覚ます。
「おはようニャ!」
まだ日が昇っていないのに、おはようという猫に化けた女の子。
「まだ深夜だ……」
俺は猫に化けた女の子の胸を直視する。全く羞恥心が無いのか隠そうとしない。
「君は誰なの?」
俺は名前を聞く。
「らにゃニャ!」
猫に化けた女の子は『らにゃ』と答えた。
《らにゃ? らにゃはスキフトイボブテイルとキジトラの雑種ね……そうだ! キジトラ猫なら虎猫本来の特徴がある!》
猫の祖先に一番近いキジトラや、トルコ付近で突然変異した茶トラ猫等は、三つの特徴がある。一つ目は額にMの模様があること、二つ目が目にアイラインがあること、三つ目が目から耳付近まであるクレオパトララインがあること。この三つの特徴があれば俺は、この猫に化けた女の子がらにゃだと確信する。俺は猫に化けた女の子の顔を直視する。猫に化けた女の子は、Mの文字が着いているヘアピンを額に位置する髪に付けていた。そして化粧していないのにアイラインだけあった。俺はスマホのライト機能で髪を見る。目から猫耳付近までが少し明るい黒色の髪色をしている。クレオパトララインを模したような。
「マジか……」
俺は猫に化けた女の子が、らにゃだと確信した。ちなみに、スキフトイボブテイルは人懐っこい猫のため、直視しても喧嘩売っていると思わないはず。
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