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第五話・ピアノ部屋
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(…あ、そう言えば俺、今日講義だった)
昨日お嬢にあぁは言ったものの、まさか自分で行こうと決めていた講義を忘れるなんて…浮かれ過ぎてたな。
「お嬢になんて言おう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…紅茶も飲んだし、そろそろ食堂に顔を出しに行こうかな…丸一日ピアノ部屋にとじこもるつもりだし」
コップを皿の上に置き、それを持ったまま台へと近づく。置いておけば、新やリサが部屋に来た時に持って行ってくれるのだ。
「さて、行こうかな!」
「おはようございます、お嬢さま」
「田中さん、おはよう。今日はパンにしたいんだけど…」
「相変わらず少食ですね。ですが、奥様からの言いつけで『朝は必ずご飯を食べさせてあげて!きっと集中してお昼が抜けちゃうかもしれないから』となっておりますので、必ず白米をお召し上がりください」
ニコッという効果音がつきそうなほどな作り笑いで、思わずこちらも「ははは……」なんて言った乾いた笑いがおきる。
(お母さん…ありがたいけど…!!)
「おはよ~」
「兄さん!おはよう」
「おう、珍しいじゃんか、お前がこんな時間にいるなんて」
「昨日話した練習をしようと思ってね。いくら部活入ってないからって、課題は沢山あるし、委員会の仕事もあるしで、平日は厳しそうだから」
兄さんは、確かにな、と納得したような顔で私の向かいの席に腰掛けた。
(そう言えば、新のことを誰かに相談しようと思ってたけど…さすがに兄さんには話せないかな…)
ここはやはりリサやお母さんに…いや、リサはともかくお母さんに相談は違うよね。
「お待たせしました。今日の朝ごはんは和食ですよ」
「ありがとう田中。それじゃあ…いただきます」
「いただきます」
カチャカチャと食器の音がする。
「お父さんはもう仕事?」
「あぁ、ドラマの撮影で朝からいないよ」
「俳優は大変だね…兄さんはいいの?」
「俺はまだ新人だから、仕事なんてねぇよ。講義も来週からまた行くようにするからな」
なんて世間話をしていたら、いつの間にか食事が終わっていた。
「いつもありがとう田中さん。美味しかったです…」
「なんで敬語なんですか、大丈夫ですよ」
「田中さんは何となく敬語の方がいいかな~なんて思って…」
「まぁまぁ……っと、もうこんな時間か。俺少し出かけてくるけど、紫苑はどうするんだ?」
「今日から練習をしようと思ってて。新に見てもらうんだ」
なにか買わないといけないものもないし、早く練習をしてみよう。
「そうか…あれ、今日は新も講義に出るはずだぞ?」
「……え?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「すみません…」
「いいよ別に!誰だって忘れちゃうことくらいあるって。空き時間に少し聞いてくれるだけでいいんだから」
「はい…」
「新、行かねぇの?」
「行くよ!それじゃあお嬢、帰ってきたら聞かせてください」
「うん、行ってらっしゃ~い」
「うげぇ…来てそうそう地学かよ、ついてねぇ…」
休めばよかった、なんてお嬢に言ったら怒られそうだな。
「あ、新君じゃん。おはよ」
「……はよ、翠(すい)」
「新君、なんか元気無いね?どしたよ」
「地学が嫌ってだけだ…ついでに、お嬢と約束してたけど俺が講義あるの忘れてたせいで破った」
「あちゃ…お嬢様怒らなかった?」
「『誰でも忘れることあるよ』って言ってくださった……優しい…好き…」
「嫌な事がこれからあるから現実逃避したがってんね…ま、いい事あるって!」
「おちゃらけがぁ…!!」
翠にあたっても、仕方が無いのに。
「はぁぁぁ~……………」
「ため息は幸せが逃げるぞぉ~?ほら、頭の硬い先生が来たから!さっさと講義受けて終わろ」
翠の言うとうりだ、ため息だけ付いていても変わらない。大人しくしていよう…
「……お、終わった…」
「はいはい、おつかれー…って、新君新君!!音色さん来てるよ!!」
「あ?……おぉ、颯太。学校で会うの久しぶりだな?」
1ヶ月は俺にとってもけっこうながかったらしい。家でもあったはずなのに、久しぶりに感じる。
「あぁ…って言うか翠、いつまで俺のファンなんだよ。慣れろ」
翠は元々、颯太とお嬢の父、輝一様のファンだった。旦那様が颯太を紹介しだした頃から、翠は颯太の応援をするようになった。
「無理……推しが…私はいつでも応援してるからね!!音色さん!!!!!」
「おっと、頭ポンポンしてやろうか?」
「やめてやれ…鼻血出してぶっ倒れるぞ…」
「ははっだろうな。ほら、帰んぞ新、我らが姫様が待ってるからな」
「え何その姫様呼び……ごめん新君、私しぬかも」
「シンプルにやめろ。あと姫様はおじょ…妹様のことだ」
いつの間にか、見物客が集まっていたおかげで「お姫様って…彼女か!?!?」という声が聞こえてきた。そのため、わざと「妹様」を強調した。
「は~…嫉妬深いのも好きだよ、音色くんには劣るけど」
「鼻血しまってから言って貰えるか?」
茶番を終わらせ、さっさと教室をでる。帰ったらピアノ、聞かせてくれるだろうか…。
「ただいまー」
「ただいま帰りました…」
「お前ほんと地学嫌いだよな」
「苦手だからって受けるヤツ全部するんじゃなかった…嫌い度ました…」
「おかえりなさい、2人とも」
俺たちを出迎えてくれたのは、理沙さんではなく執事長の瀬戸さんだった。
「じぃ、ただいま。…りさと紫苑は?」
「理沙さんは田中さんと買い出しへ、お嬢様は休憩を挟んでピアノの練習をしております」
「……それ、ほんとに休憩か?」
颯太の目付きが悪くなる。いや、俺でも同じ質問するな。
「それが…お昼に降りてきてから全く姿が見えず………ずっと篭っていらっしゃるのかと…」
…やはり、か。とりあえず、俺は直行した方が良さそうだ。
「颯太さん、俺は先に行きますね。あとから来て説教してあげてください」
「もちろんだよ。……とりあえず、お前はあいつと会って休めよ。面白いくらい疲れた顔してるからな」
……お前さぁもっと早く言えよ…
「……かしこまりました(*^^*)」
「いやごめんて…」
……すぅ~…はぁ~……
深呼吸をし、ドアに手をかけノックする。
コンコンッ
「お嬢、新です。……お嬢?」
俺がいる扉は防音室。奥様が練習で使う部屋だ。扉も防音なので、中の音はまるっきり聞こえない。
(倒れてたりとか……は、ないか。そうしたら、流石に俺にも連絡は来るだろ)…来るよな?
「……お嬢、入りますよ」
カチャ…少しの隙間から聞こえる音は、俺の心を掴んだ。
~~~♫~…
か細い音だ。とても繊細な、でも、とても力強い……俺が何度も聞いた音。
ギィ……と音を立てて扉が開いた。それでも彼女は気づかない。
「…………………………」
朝、俺達に『行ってらっしゃい』といった綺麗な人は、とても集中していた。冷房が効いた部屋の中で、その人だけは汗だくだった。
「……お嬢」
普段と変わらない音声で呼んだ。ピアノの音に、少し負けるくらいだと思う。
「……お嬢」
もう少しだけ強めて呼んだ。ピアノと同じくらいの声が出ていたと思う。この曲自体、テンポが早いだけであまり強く引かないのがポイントのようだ。
「……お嬢!」
今度は声を張りつめて呼んだ。あまりにも集中しているから。このまま俺の声なんか届かないのでは、なんて考えてしまった。
「!!……あ。新……」
今気づきましたと言わんばかりの驚いた顔。本当に、あなたは集中すると周りが見えない。
「……休憩、しっかり取りましたか?」
「…え、えぇ!もちろんじゃない!」
「……はぁ…」
嘘をついてるのはすぐに分かる。減っていないペットボトルの飲み物、 汗をかいてるのに、着替えられていない服。
「……つくなら、もうちょっと上手くしてください。ほら飲み物飲んで!長く続くのはあんたの長所ですけど、こういう時はもっとしっかりしてください!」
「あ、あはは…ごめんね?…そ、そうだ!新、少し聞いてよ。朝に比べると、結構上手くなったんだ!」
……まだ頭だけなんだけどね…。なんて笑うあなたは、とても愛らしかった。
「……はぁ、全く…聞かせてください。俺、楽しみにしてたんです。」
「!!うん!」
こっちに座ってて、なんて言われ案内されたのは、中庭が見える窓側の席。ついでに、窓を開けて欲しいと頼まれる。
(…あれ、いつの間にか夕方じゃないか……帰ってきたの、二時過ぎ…だよな?)
自分も、人のことが言えない身らしい。颯太は、来てはくれなかったようだ。
「……じゃあ頭から聞いててくれる?」
少し不安そうな声が、顔が、こちらに流れてくる。
「はい、いつでもどうぞ」
お嬢の指が動き出す。優しい旋律が部屋に響き、夏の爽やかな風も流れ込んでくる。
(……あぁ、本当に、貴女は……)
「お嬢……好きですよ」
「……そう言うの、弾き終わってからにしてくれない?音外しそう」
「ははっ!大丈夫ですよ。今聴いてるのは、俺だけです」
耳が赤い彼女に、俺はそう告げた。
昨日お嬢にあぁは言ったものの、まさか自分で行こうと決めていた講義を忘れるなんて…浮かれ過ぎてたな。
「お嬢になんて言おう」
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「…紅茶も飲んだし、そろそろ食堂に顔を出しに行こうかな…丸一日ピアノ部屋にとじこもるつもりだし」
コップを皿の上に置き、それを持ったまま台へと近づく。置いておけば、新やリサが部屋に来た時に持って行ってくれるのだ。
「さて、行こうかな!」
「おはようございます、お嬢さま」
「田中さん、おはよう。今日はパンにしたいんだけど…」
「相変わらず少食ですね。ですが、奥様からの言いつけで『朝は必ずご飯を食べさせてあげて!きっと集中してお昼が抜けちゃうかもしれないから』となっておりますので、必ず白米をお召し上がりください」
ニコッという効果音がつきそうなほどな作り笑いで、思わずこちらも「ははは……」なんて言った乾いた笑いがおきる。
(お母さん…ありがたいけど…!!)
「おはよ~」
「兄さん!おはよう」
「おう、珍しいじゃんか、お前がこんな時間にいるなんて」
「昨日話した練習をしようと思ってね。いくら部活入ってないからって、課題は沢山あるし、委員会の仕事もあるしで、平日は厳しそうだから」
兄さんは、確かにな、と納得したような顔で私の向かいの席に腰掛けた。
(そう言えば、新のことを誰かに相談しようと思ってたけど…さすがに兄さんには話せないかな…)
ここはやはりリサやお母さんに…いや、リサはともかくお母さんに相談は違うよね。
「お待たせしました。今日の朝ごはんは和食ですよ」
「ありがとう田中。それじゃあ…いただきます」
「いただきます」
カチャカチャと食器の音がする。
「お父さんはもう仕事?」
「あぁ、ドラマの撮影で朝からいないよ」
「俳優は大変だね…兄さんはいいの?」
「俺はまだ新人だから、仕事なんてねぇよ。講義も来週からまた行くようにするからな」
なんて世間話をしていたら、いつの間にか食事が終わっていた。
「いつもありがとう田中さん。美味しかったです…」
「なんで敬語なんですか、大丈夫ですよ」
「田中さんは何となく敬語の方がいいかな~なんて思って…」
「まぁまぁ……っと、もうこんな時間か。俺少し出かけてくるけど、紫苑はどうするんだ?」
「今日から練習をしようと思ってて。新に見てもらうんだ」
なにか買わないといけないものもないし、早く練習をしてみよう。
「そうか…あれ、今日は新も講義に出るはずだぞ?」
「……え?」
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「すみません…」
「いいよ別に!誰だって忘れちゃうことくらいあるって。空き時間に少し聞いてくれるだけでいいんだから」
「はい…」
「新、行かねぇの?」
「行くよ!それじゃあお嬢、帰ってきたら聞かせてください」
「うん、行ってらっしゃ~い」
「うげぇ…来てそうそう地学かよ、ついてねぇ…」
休めばよかった、なんてお嬢に言ったら怒られそうだな。
「あ、新君じゃん。おはよ」
「……はよ、翠(すい)」
「新君、なんか元気無いね?どしたよ」
「地学が嫌ってだけだ…ついでに、お嬢と約束してたけど俺が講義あるの忘れてたせいで破った」
「あちゃ…お嬢様怒らなかった?」
「『誰でも忘れることあるよ』って言ってくださった……優しい…好き…」
「嫌な事がこれからあるから現実逃避したがってんね…ま、いい事あるって!」
「おちゃらけがぁ…!!」
翠にあたっても、仕方が無いのに。
「はぁぁぁ~……………」
「ため息は幸せが逃げるぞぉ~?ほら、頭の硬い先生が来たから!さっさと講義受けて終わろ」
翠の言うとうりだ、ため息だけ付いていても変わらない。大人しくしていよう…
「……お、終わった…」
「はいはい、おつかれー…って、新君新君!!音色さん来てるよ!!」
「あ?……おぉ、颯太。学校で会うの久しぶりだな?」
1ヶ月は俺にとってもけっこうながかったらしい。家でもあったはずなのに、久しぶりに感じる。
「あぁ…って言うか翠、いつまで俺のファンなんだよ。慣れろ」
翠は元々、颯太とお嬢の父、輝一様のファンだった。旦那様が颯太を紹介しだした頃から、翠は颯太の応援をするようになった。
「無理……推しが…私はいつでも応援してるからね!!音色さん!!!!!」
「おっと、頭ポンポンしてやろうか?」
「やめてやれ…鼻血出してぶっ倒れるぞ…」
「ははっだろうな。ほら、帰んぞ新、我らが姫様が待ってるからな」
「え何その姫様呼び……ごめん新君、私しぬかも」
「シンプルにやめろ。あと姫様はおじょ…妹様のことだ」
いつの間にか、見物客が集まっていたおかげで「お姫様って…彼女か!?!?」という声が聞こえてきた。そのため、わざと「妹様」を強調した。
「は~…嫉妬深いのも好きだよ、音色くんには劣るけど」
「鼻血しまってから言って貰えるか?」
茶番を終わらせ、さっさと教室をでる。帰ったらピアノ、聞かせてくれるだろうか…。
「ただいまー」
「ただいま帰りました…」
「お前ほんと地学嫌いだよな」
「苦手だからって受けるヤツ全部するんじゃなかった…嫌い度ました…」
「おかえりなさい、2人とも」
俺たちを出迎えてくれたのは、理沙さんではなく執事長の瀬戸さんだった。
「じぃ、ただいま。…りさと紫苑は?」
「理沙さんは田中さんと買い出しへ、お嬢様は休憩を挟んでピアノの練習をしております」
「……それ、ほんとに休憩か?」
颯太の目付きが悪くなる。いや、俺でも同じ質問するな。
「それが…お昼に降りてきてから全く姿が見えず………ずっと篭っていらっしゃるのかと…」
…やはり、か。とりあえず、俺は直行した方が良さそうだ。
「颯太さん、俺は先に行きますね。あとから来て説教してあげてください」
「もちろんだよ。……とりあえず、お前はあいつと会って休めよ。面白いくらい疲れた顔してるからな」
……お前さぁもっと早く言えよ…
「……かしこまりました(*^^*)」
「いやごめんて…」
……すぅ~…はぁ~……
深呼吸をし、ドアに手をかけノックする。
コンコンッ
「お嬢、新です。……お嬢?」
俺がいる扉は防音室。奥様が練習で使う部屋だ。扉も防音なので、中の音はまるっきり聞こえない。
(倒れてたりとか……は、ないか。そうしたら、流石に俺にも連絡は来るだろ)…来るよな?
「……お嬢、入りますよ」
カチャ…少しの隙間から聞こえる音は、俺の心を掴んだ。
~~~♫~…
か細い音だ。とても繊細な、でも、とても力強い……俺が何度も聞いた音。
ギィ……と音を立てて扉が開いた。それでも彼女は気づかない。
「…………………………」
朝、俺達に『行ってらっしゃい』といった綺麗な人は、とても集中していた。冷房が効いた部屋の中で、その人だけは汗だくだった。
「……お嬢」
普段と変わらない音声で呼んだ。ピアノの音に、少し負けるくらいだと思う。
「……お嬢」
もう少しだけ強めて呼んだ。ピアノと同じくらいの声が出ていたと思う。この曲自体、テンポが早いだけであまり強く引かないのがポイントのようだ。
「……お嬢!」
今度は声を張りつめて呼んだ。あまりにも集中しているから。このまま俺の声なんか届かないのでは、なんて考えてしまった。
「!!……あ。新……」
今気づきましたと言わんばかりの驚いた顔。本当に、あなたは集中すると周りが見えない。
「……休憩、しっかり取りましたか?」
「…え、えぇ!もちろんじゃない!」
「……はぁ…」
嘘をついてるのはすぐに分かる。減っていないペットボトルの飲み物、 汗をかいてるのに、着替えられていない服。
「……つくなら、もうちょっと上手くしてください。ほら飲み物飲んで!長く続くのはあんたの長所ですけど、こういう時はもっとしっかりしてください!」
「あ、あはは…ごめんね?…そ、そうだ!新、少し聞いてよ。朝に比べると、結構上手くなったんだ!」
……まだ頭だけなんだけどね…。なんて笑うあなたは、とても愛らしかった。
「……はぁ、全く…聞かせてください。俺、楽しみにしてたんです。」
「!!うん!」
こっちに座ってて、なんて言われ案内されたのは、中庭が見える窓側の席。ついでに、窓を開けて欲しいと頼まれる。
(…あれ、いつの間にか夕方じゃないか……帰ってきたの、二時過ぎ…だよな?)
自分も、人のことが言えない身らしい。颯太は、来てはくれなかったようだ。
「……じゃあ頭から聞いててくれる?」
少し不安そうな声が、顔が、こちらに流れてくる。
「はい、いつでもどうぞ」
お嬢の指が動き出す。優しい旋律が部屋に響き、夏の爽やかな風も流れ込んでくる。
(……あぁ、本当に、貴女は……)
「お嬢……好きですよ」
「……そう言うの、弾き終わってからにしてくれない?音外しそう」
「ははっ!大丈夫ですよ。今聴いてるのは、俺だけです」
耳が赤い彼女に、俺はそう告げた。
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