愛を知らずに愛を乞う

藤沢ひろみ

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28.外出

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「噂通り、凄くかっこいいね。俺、興奮するなぁ」

 ベッドに那岐と一緒に飛び乗った男は、祥月よりも若い。こういう場に慣れているようで、周りの目も気にせずに仰向けで首に腕を回されキスをされる。

 求められるままに、那岐は男の服を脱がせた。

 遊華楼を出てから、男を抱いたことがない。

 それどころか、前を使うこと自体が三ヶ月ぶりだった。
 祥月は、後ろしか使わない。自分で触ることすら許されない。久しぶりに受ける口淫に、気分は高揚した。

 橘宮で毎日していたことだ。久しぶりでも、感覚はすぐに甦る。ここは遊華楼ではないが、客だと思えばいい。
 香の匂いも相まって、営業用の“遊華楼の那岐”のスイッチはすぐ入った。

 再び男を抱く機会があるとは、思いもしなかった。

 まだ那岐は、“男”として求められている。

 久しぶりの挿入と訪れる圧迫感に、自分は男なのだと実感することができた。
 相手が歓喜するまま、那岐は男を抱いた。

 途中、祥月の視線を感じた。
 自分の愛人が他の男を抱くのを見て祥月が何を思うのか、那岐にはまったく想像もつかなかった。

「那岐、スゴかった……」

 とろんとした目をして一人目の男が達すると、すぐに二人目の男が来た。まだ達していなかった那岐は、二人目の男をベッドに招いた。

「あ、あっ。那岐、気持ちいいよぉ」
 うつ伏せで尻を高く上げた男の後ろから激しく腰を動かすと、男は喘いだ。

 遊華楼で達するのを制限していた癖が残っているのか、前での刺激ではなかなか達しない。

 那岐は男の体を仰向け、再び自身を埋め込んだ。腰を揺さぶると男は可愛く声を上げる。
「あっ、いい、もっとぉ」
「いいよ。お望みのままに」
 求められ、笑む。男の足を広げ尻を浮かせると、那岐はさらに深く自身を捻じ込んだ。

 懐かしい感覚が戻ってきた。

 可愛くねだる男たちを、たっぷりと可愛がってきたことを。七年も働いていたのだから、体が覚えているのだ。

 多くの男たちに、抱かれたいと求められた。それは男として自信になり、例えそれが遊華楼内のことであっても、外の世界に出ても上手くやっていけるという自信にも繋がった。

 最近自信を失うことばかりで、久しぶりに自信に満ちていた時のことを思い出した。

 そろそろ那岐も達したいと、動きを速めていく。
 ぎしぎしとベッドが揺れ、誰かがベッドに乗ったことにも気付かなかった。

 突然尻に濡れた感触があり、那岐はぎくりとして振り返った。
「え!?」

 いつの間に近付いたのか、背後に祥月がいた。
 濡れた感触は、ローションだと分かった。ベッドの至る所に置かれている。

 何故、と思うと同時に、まさかと思った。

 ローションで濡らした手を、祥月が那岐の尻に宛がっていた。指は那岐の尻の蕾の周囲を撫でるように触る。

「何す……」
 硬直して動きを止めた那岐は、信じられない顔で祥月を見返す。

 衝撃はすぐに訪れた。

「うっ、く、あ……あ!」
 服を着たまま、ズボンの前だけをくつろげた祥月に貫かれた。

「く……っ、う、嘘……っだろ、こんな……っ」
 声が震えた。こんな場所で抱かれたことが信じられず、驚愕する。

 男を抱きながら、さらに祥月に抱かれている。

 “遊華楼の那岐”である状態で、大勢のいる前で犯されている。
 なんという恥晒しだと、顔がかっと熱くなった。

 ひゅう、と冷やかすような口笛が聞こえた。
「何だ。珍しく参加したと思ったら、いきなり連結かよ」

 ソファにいた男たちが、面白がってベッドの傍に立ち三人を見下ろしていた。にやにやと下品な笑いを浮かべる男たちの態度に、屈辱を感じた。

 後ろからの激しい動きに、挿入している男ごと揺さぶられる。

「あ、ああっ、那岐……!」
 那岐が抱いていた男が達した。

 だが、那岐がイカせたわけではなかった。後ろから那岐を貫く祥月によって、達したのだ。

 男が達した途端、後ろに体を引っ張られ男の体から出される。つい先程まで抱いていた男の隣に那岐は仰向けにされ、足を開けられ挿入された。

「やっ、やめ……あ……っ」
 祥月のものが、深く入ってくる。いつもと同じなのに、状況が違うだけで逃げたくなった。

 服で下半身が隠れているのをいいことに、祥月は遠慮なく那岐を揺さぶる。
「んっ、あっ。しょ……うっ、や……っ」
 男たちの視線に刺激されるように、全身がぞくぞくと粟立つ。

 見られたくない。男に抱かれている姿を見られたくない。嫌だ―――。

 那岐は首を横に振りながら、縋るように祥月の服の裾を掴んだ。
「頼……む……っ、もう放……っ」

「く……っ」
 祥月が小さく呻いた。最後の一突きで、那岐は体を痙攣させた。
「あ……っあ……!」

 大勢の男に見られながら、尻を貫かれ那岐は達した。

 辱めを受けたとしか思えなかった。

「信じ……られない……」
 悔しさで少し目が潤む。祥月を睨み上げると、綺麗な顔が那岐を見下ろした。

 酷い男だと思った。

 男に抱かれることになった境遇に未だ身を委ね切れていない那岐に、まるでとどめを刺すようだ。

 久しぶりに男を抱かせ喜ばせておいて、その場で現実を叩きつける。
 ちっぽけなプライドなど捨ててしまえ、と言うように。

 屈辱だの羞恥だのが那岐の中に渦巻き、感情が行き着く先は、愛人という立場は主人に逆らえないのだということだった。

「く……」
 悔しさで唇を噛むと、那岐は小さく声を漏らした。
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