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13.思い出のカメラ <龍二>
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『あ。もしもし、裕也? 明日なんだけどね、母さんが久しぶりに夕飯食べに来たらって言ってるんだけど、どう?』
高城にも聞こえるように電話をスピーカーにすると、明るい姉の声が聞こえてきた。
まさか弟が婚約者を襲っている最中だなんて想像もしない、あまりにもいつも通りなその声を耳にして、龍二が今していることの罪深さが一気に押し寄せた。
高城は一瞬だけ龍二を見てから、電話の向こうの姉に向かって返事をした。
「え? いいよ……大丈夫。うん。仕事終わったら電話する」
少しの会話の後、それじゃ、と高城が言ったのを合図に龍二は通話を切った。
龍二はさっきとは真逆の、冷めた目で高城を見下ろした。明日は姉との約束があり、母の誘いで姉の家で食事をすることになったようだ。
これが現実なのだ。
どれだけ足掻こうとこの恋は報われないのだから熱くなるだけ無駄だと、わざわざ神様が龍二に教えてくれているようだ。
龍二は高城の手から携帯電話を奪うと、フローリングの上に放り投げた。
自分が持ってきた紙袋を手に取ると、中からカメラを取り出す。それを見た高城が、懐かしむような顔をした。
「それ……」
大学の頃に龍二が使っていたアナログカメラだ。
高校時代は父が昔使っていた古いカメラを使っていたのだが、大学でも写真部に入ったので自分のカメラを買ったのだ。
カメラは高城に一緒に選んでもらった。このカメラは龍二にとって、とても大切な高城との思い出の一つだった。
本当は、今日ここへ忘れ物を届けにきたというのは嘘なんですと、正直に言うつもりだった。高城ならば、住所を知るための嘘でも許してくれる気がした。
一方的に想いを押し付けるだけの話にならないよう、写真部の頃の思い出話もできればと思いカメラを持ってきたのだ。
だから、こういう形でカメラを使うことになるとは思いもしていなかった。
「先輩。いつもみたいに、先輩の素敵な姿撮ってあげますね」
部屋の中にフラッシュが閃いた。目を見開き高城が龍二を見上げる。
「……な、何撮って……っ」
「今までで一番いい写真になるかもしれないですね」
龍二はカメラを撫でた。
「安心して下さい。暗室くらいツテで借りられますから、誰かにこんな姿見られる心配しなくても大丈夫です」
「!」
高城の顔が青褪める。股間部だけを曝け出した自分の姿が一枚の写真になることを、想像してしまったのだ。
龍二は高城の上から立ち上がった。
「……帰ります」
高城の手首を縛ったベルトを外し、後ろから呼ぶ声を無視して龍二は高城の部屋を出た。万一にも追いかけられないよう、早足で駅に向かって歩く。
こんな風に脅すようなことをするつもりはなかった。姉からの電話さえなければ。
あの電話で、龍二の中の悪魔が目醒めたのだ。
こんな卑怯なことをするなんて、自分でも信じられなかった。高城は大切な人なのに、脅すような真似をしてしまった。
龍二の高城への気持ちは、会えなかった期間の反動で抑えられなくなってきているように思えた。
執念ともいえるような、片想い。
また暴走してしまい、高城にひどいことをしてしまうかもしれない。
龍二は自分が怖くなった。こんな風に感情を押し付けたところで、ずっと心に抱いていたような関係になれるわけではない。これでは、高城に嫌われてしまうだけだ。
姉と高城の間に割り入る邪魔者だということくらい、よく分かっている。
高城の住所を姉に訊き出した時、心の中で龍二は何度も姉に詫びた。誓って、姉の幸せを邪魔するつもりはない。
ただ、二人が結婚するまでの間だけでも高城に触れたいなどと、不届きなことを夢見ているだけだ。現実にはありえないからこその、願望ともいえる。
結婚するまでの間だけだ。二人の障害にだけはならないから、どうか許してほしい。
龍二の勝手な言い分なのは分かっている。欲張りで身勝手で、姉にはこんな自分を知られるわけにはいかない。
龍二は強く握り締めていたカメラを見た。力を入れすぎたのか、手が赤く染まっている。
カメラを脅しの道具に使うという行動に、純粋に高城に想いを寄せていた頃の思い出を汚してしまったような気がした。
高城にも聞こえるように電話をスピーカーにすると、明るい姉の声が聞こえてきた。
まさか弟が婚約者を襲っている最中だなんて想像もしない、あまりにもいつも通りなその声を耳にして、龍二が今していることの罪深さが一気に押し寄せた。
高城は一瞬だけ龍二を見てから、電話の向こうの姉に向かって返事をした。
「え? いいよ……大丈夫。うん。仕事終わったら電話する」
少しの会話の後、それじゃ、と高城が言ったのを合図に龍二は通話を切った。
龍二はさっきとは真逆の、冷めた目で高城を見下ろした。明日は姉との約束があり、母の誘いで姉の家で食事をすることになったようだ。
これが現実なのだ。
どれだけ足掻こうとこの恋は報われないのだから熱くなるだけ無駄だと、わざわざ神様が龍二に教えてくれているようだ。
龍二は高城の手から携帯電話を奪うと、フローリングの上に放り投げた。
自分が持ってきた紙袋を手に取ると、中からカメラを取り出す。それを見た高城が、懐かしむような顔をした。
「それ……」
大学の頃に龍二が使っていたアナログカメラだ。
高校時代は父が昔使っていた古いカメラを使っていたのだが、大学でも写真部に入ったので自分のカメラを買ったのだ。
カメラは高城に一緒に選んでもらった。このカメラは龍二にとって、とても大切な高城との思い出の一つだった。
本当は、今日ここへ忘れ物を届けにきたというのは嘘なんですと、正直に言うつもりだった。高城ならば、住所を知るための嘘でも許してくれる気がした。
一方的に想いを押し付けるだけの話にならないよう、写真部の頃の思い出話もできればと思いカメラを持ってきたのだ。
だから、こういう形でカメラを使うことになるとは思いもしていなかった。
「先輩。いつもみたいに、先輩の素敵な姿撮ってあげますね」
部屋の中にフラッシュが閃いた。目を見開き高城が龍二を見上げる。
「……な、何撮って……っ」
「今までで一番いい写真になるかもしれないですね」
龍二はカメラを撫でた。
「安心して下さい。暗室くらいツテで借りられますから、誰かにこんな姿見られる心配しなくても大丈夫です」
「!」
高城の顔が青褪める。股間部だけを曝け出した自分の姿が一枚の写真になることを、想像してしまったのだ。
龍二は高城の上から立ち上がった。
「……帰ります」
高城の手首を縛ったベルトを外し、後ろから呼ぶ声を無視して龍二は高城の部屋を出た。万一にも追いかけられないよう、早足で駅に向かって歩く。
こんな風に脅すようなことをするつもりはなかった。姉からの電話さえなければ。
あの電話で、龍二の中の悪魔が目醒めたのだ。
こんな卑怯なことをするなんて、自分でも信じられなかった。高城は大切な人なのに、脅すような真似をしてしまった。
龍二の高城への気持ちは、会えなかった期間の反動で抑えられなくなってきているように思えた。
執念ともいえるような、片想い。
また暴走してしまい、高城にひどいことをしてしまうかもしれない。
龍二は自分が怖くなった。こんな風に感情を押し付けたところで、ずっと心に抱いていたような関係になれるわけではない。これでは、高城に嫌われてしまうだけだ。
姉と高城の間に割り入る邪魔者だということくらい、よく分かっている。
高城の住所を姉に訊き出した時、心の中で龍二は何度も姉に詫びた。誓って、姉の幸せを邪魔するつもりはない。
ただ、二人が結婚するまでの間だけでも高城に触れたいなどと、不届きなことを夢見ているだけだ。現実にはありえないからこその、願望ともいえる。
結婚するまでの間だけだ。二人の障害にだけはならないから、どうか許してほしい。
龍二の勝手な言い分なのは分かっている。欲張りで身勝手で、姉にはこんな自分を知られるわけにはいかない。
龍二は強く握り締めていたカメラを見た。力を入れすぎたのか、手が赤く染まっている。
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