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1.再会
しおりを挟む『先輩のこと―――ずっと嫌いでした』
好意しか向けられていないと思っていた後輩にそう告げられたのは、裕也が大学を卒業する日の桜の樹の下だった。
ただの先輩に対する以上の感情を寄せられているとばかり思っていた裕也は、そう告げて去っていく後輩の後ろ姿を見ながら何の言葉も出ず立ち尽くしていた。
最後に声を掛けられ、卒業するのを機に告白でもされのではないかと思っていた自分が馬鹿だった。
そもそも男相手に告白されたところで、どう返事をするつもりだったのかは決めていなかった。
あれだけ可愛がっていた後輩に最後の最後で裏切られたようで、後味が悪い卒業となった。
色々思うところはあったけれども、もうあいつのことは考えるまいと裕也はこれからの現実に目を向けることにした。
それでもしばらくは、瘡蓋のように忘れかけた頃にふと思い出して自分で傷口を抉るようなこともあった。あの最後の言葉は、どうやら自分が思う以上に裕也の心を傷つけていたらしい。
しかし、慣れない社会人として忙しい日々を送るうちにそんな瘡蓋にも気付かぬようになり、新しい彼女と付き合うようになる頃にはそんなこともすっかり忘れていった。
裕也も二十七歳になり、二年前に付き合い始めた彼女と結婚のことを考えるようになった。
婚約者の名前は、大里和美。両親の離婚で母と二人で暮らしている。彼女の母親へは、半年ほど前に紹介され済みだ。
そして今日、両親は離婚したが今も仲良くしているという、父親側に引き取られた弟を紹介されることになり、食事のセッティングをしたのがこのフレンチレストランだった。
「紹介するわね。弟の龍二よ」
少し遅れてやってきた弟を和美が紹介した時、その運命のいたずらのような再会に裕也の瞼にあの日の桜色が広がった。苦い思い出が、鮮明に脳裏によみがえる。
「……どーも」
愛想のない挨拶をしながら、男は和美の隣の席に腰掛けた。続いて和美が裕也の向かいの席に着くと、隣の弟に話しかける。
「龍ちゃん。婚約者の高城裕也さん。出版社にお勤めしてるの。私より二つ下だから、龍ちゃんとも二つ違いね。そうそう、高校と大学が……」
「知ってる」
姉の言葉を弟が遮った。
「高校と大学が同じ。ついでにクラブも一緒。……ね、先輩」
最初に来た時から、ようやく二回目の視線が合う。だが、どこか冷めた目だった。
裕也が知っている、明るい笑顔が似合うあの後輩とは印象が違いすぎる。
すらりとした長身と、女性の視線を奪うルックスは相変わらずだ。いや、色気を纏ってさらに人目を惹く容姿とも言える。
服装は派手なわけでもないのに以前よりも華やかな雰囲気で、どこか近寄りがたいオーラすら感じられた。けれど先輩と呼ばれたことで、やはり自分の知る後輩なのだと確信させられる。
「あ、ああ。そうだな。……驚いたよ、まさか和美の弟が浅沼だなんて」
本当に、驚いた。
裕也と浅沼が出会った高校生の頃はすでに父子家庭だったので、てっきり一人っ子だとばかり思っていた。姓も違うし、まさか二人が姉弟だなんて思いつくはずもない。
あんなに懐いて可愛がってた後輩とあんな気まずい別れ方をしたのに、こんな展開で再会することになろうとは思ってもいなかった。
「えっ、そうなの? 龍ちゃん、教えてくれればいいのに」
「名前聞いても気付かなかったんだって。俺も今、顔見て思い出した。先輩、変わってないですね」
浅沼の視線が、和美から裕也へと移る。
忘れられていたと聞いて、裕也の胸が痛んだ。
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