そしてケモノは愛される + ケモノはシーツの上で啼く

藤沢ひろみ

文字の大きさ
上 下
114 / 123
続・ケモノはシーツの上で啼く

3.柴尾の誕生日

しおりを挟む
 その日は柴尾にとって特別な日だった。
 前日、柴尾は二十四歳になった。

 週末は斎賀に誕生日のお願いを聞いてもらう約束をしていたので、自然と朝から上機嫌になる。
 ところが、狩りに行く予定の者が熱を出したため、柴尾は急遽狩りに出ることになった。

 柴尾は体を動かすのが好きだ。狩りでは魔族を何匹も仕留め、自然と気持ちが高ぶってくるのを感じた。
 朝から気分が高まっていたのもあるが、狩りに出てさらに気分が高揚した。

 適度な疲労を携えて、狩りの仲間と共に夕方には屋敷に戻る。斎賀への報告は怪我をした者に任せた。

 狩りに出かけたせいで昼間は斎賀と一緒に過ごすことができず、早く会いたかった。

 しかし、夕食の時間になっても、斎賀は姿を現さなかった。

 子供たちに訊ねると、少しばかり寄り合いに出てくると言って出掛けたらしい。きっと、怪我をした者を治癒するために、出掛けずに待っていたのだ。

 屋敷に戻っても斎賀に会えず、少し残念な気持ちになった。
 不在であれば仕方がない。柴尾は斎賀を待ちながら、子供たちと一緒に時間を過ごした。



 そして、斎賀が屋敷に戻ったのは、子供たちを部屋に戻し、屋敷の戸締りをする少し前になる時刻だった。

 静まり返った夜に玄関から聞こえた音に気付き、部屋に戻ってくる斎賀を廊下で迎えた。
 その姿を見て、柴尾はとんでもなく驚いた。

「え!? 斎賀様、髪が……!」

 耳をぴんと立て、瞬きも忘れ斎賀を見た。
 胸元まであった長い銀髪が、短くなっていた。

 襟足より少し下くらいの長さで切り揃えられた銀髪を見て、柴尾は唖然とした。
 玲華の言いつけもあり、斎賀はずっと出会った頃から髪を短くすることがなかったからだ。

「母上がしばらく来ないというものでな。切っても構わないだろう」
 ふっ、と斎賀は笑んだ。その顔は、ずっと切りたかった髪をようやく切れたとばかりに、満足気だ。

 短くなった分、銀の髪は斎賀が動くとさらりと揺れた。
 綺麗な首筋が見えて、どきりとする。ますます人を魅了してしまうのではないかと思えた。

「首が涼しく感じるのに慣れないが、すっきりした」
 短さを楽しむように、斎賀は毛先を摘まんだ。

「とてもお似合いです……」
 柴尾は、ぽうっとした表情で見惚れた。

 元々、斎賀の美しさは年齢を感じさせないものがあったが、髪を切ったことでさらに若返った。その分、大人の色気が少し減った。

「短いと、さらにお若く見えるんですね。まるで、二十代みたいです!」
 柴尾は大絶賛した。

「………」
 斎賀の表情が、何故か苦いものに変わる。

「やはり伸ばすことにする」

 きっぱりと告げられ、柴尾はきょとんとした。
 褒めたのに、気に入らなかったようだ。

「すっかり遅くなって悪かった。寄り合いに理容師のご婦人が来ていて、話の流れで髪を切ってもらうことになってな。こんな時間になってしまった」

 斎賀が帰るのを待ち侘びていた柴尾は、すぐにでも部屋に行きたいくらいだった。
「戸締りをしたら、すぐにお部屋に行ってもいいですか?」

「シャワーを浴びるから、部屋で待っていてくれ」
「はい」
 満面の笑みで返事すると、柴尾は尾を振りながら急いで戸締りに向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

お人好しは無愛想ポメガを拾う

蔵持ひろ
BL
弟である夏樹の営むトリミングサロンを手伝う斎藤雪隆は、体格が人より大きい以外は平凡なサラリーマンだった。 ある日、黒毛のポメラニアンを拾って自宅に迎え入れた雪隆。そのポメラニアンはなんとポメガバース(疲労が限界に達すると人型からポメラニアンになってしまう)だったのだ。 拾われた彼は少しふてくされて、人間に戻った後もたびたび雪隆のもとを訪れる。不遜で遠慮の無いようにみえる態度に振り回される雪隆。 だけど、その生活も心地よく感じ始めて…… (無愛想なポメガ×体格大きめリーマンのお話です)

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

処理中です...