そしてケモノは愛される + ケモノはシーツの上で啼く

藤沢ひろみ

文字の大きさ
上 下
109 / 123
ケモノはシーツの上で啼く Ⅲ

16.啼かないケモノ

しおりを挟む
「く……っ」
 十分解したつもりだが、それでも苦しいに違いない。斎賀がくぐもった声を出した。

「大丈夫ですか? 斎賀様」
 柴尾は心配して動きを止めた。

「いちいち、確認せずとも良い。好きに動け」
 少し素っ気ないくらいの返事が返ってきた。
 この状況で体の心配をされるというのは、斎賀にとってはあまり好ましくないようだ。

 柴尾はゆっくりと腰を動かした。
 熱い斎賀の内壁に包み込まれる。気持ちの良さに、思わず息を零した。

「斎賀様……。凄く、締め付けられます」
「だから、いちいち言わずとも良いっ」
 今度は少し怒り気味で言われた。

 柴尾が今どんなに気持ち良いかを、斎賀にも伝えたいのに残念だ。
 もう少し動きますね、と今度は口に出さずに動きを速めた。

「……っん」
 奥の感じる部分を突かれて、斎賀が小さく声を上げた。

 右手の甲で唇を押さえ、声が漏れないようにする。斎賀はどうしてもそこにこだわる。

 日に焼けていない肌は少し赤く色付き、斎賀をより美味そうに見せる。
 柴尾はごくりと喉を鳴らした。

 自分の体が一つしかないのが惜しい。

 斎賀を突き上げながら、口付けし、胸の尖りに吸い付き、なめらかな肌を舐めまわし、昂りを頬張りたい。

 やはり柴尾は、変態だ。

「ふ……っ」
 漏れ出る斎賀の息を聞き漏らすまいと、耳をピンと立てる。

 腰の動きに合わせ、呼吸も早くなる。どうしても口にせずにはいられず、吐息と一緒に吐き出した。
「斎賀様、綺麗です……」

 静かな、けれど熱のこもった瞳が柴尾を見上げる。
「………」
 しかしすぐに、見るなとばかりに斎賀は顔を逸らせた。
 顔は見づらくなったが、頬から鎖骨にかけてうっすらと色付いているのが淫らに見えた。

「酒も飲まずに男とこんなこと……正気の沙汰じゃない」

 独り言のように斎賀は呟いた。
 こんな行為を許している自分が、信じられないようだ。

 それでも、柴尾を受け入れてくれようとしている。男らしくあり、優しくもあった。
 だが、少し諦めが悪いところがあるようだ。

「斎賀様。こっち向いて下さい」
 いつまで経っても顔を逸らしたままの斎賀を呼ぶ。

「……」
 しかし、斎賀は柴尾を見てくれない。視線すら向けてくれなかった。

「斎賀様に気持ちよくしてもらっている僕の顔、見たくないですか?」
 訊ねると、ようやく視線だけが向けられる。

 柴尾はにこりと微笑んだ。
 ゆっくりと、斎賀の顔が向けられた。

「そういう言い方は、ずるいぞ」
 観念したように、斎賀がぼやく。

 男としては、好きな相手が感じている顔を見たくないはずがない。

 斎賀の視線を確認してから、再び腰を動かす。
 感じている顔を、幸せな顔を、斎賀に見てほしい。そして、斎賀が感じている顔も見せてほしい。

「好きです……大好きです」
 溢れ出す想いを抑えきれず、柴尾は繰り返した。
「好き……愛してます、斎賀様……。愛してます」

 言葉で、体で、すべてで斎賀への愛を伝えたい。

「んっ……」
 少し熱を帯びた瞳が見上げてくる。降り注ぐ愛の言葉を、斎賀はしっかりと受け止めているようだった。

「……斎賀様は、言って……くれないんですか?」
 少し身を屈め、斎賀からも口にして欲しいとねだる。

 認めるだの、愛すると決めただのは聞いたが、まだ肝心な言葉を斎賀から貰っていない。

 疑っているわけではない。
 ただ、本当に同じ気持ちであると、柴尾を安心させてほしかった。

「……」
 口を抑えていた手を外すと、斎賀は長い腕をゆっくりと伸ばした。少し引き寄せるように、柴尾の体に触れる。

「愛している。……こんなことを許せるほどにな」
 少しばかり苦い笑みを浮かべ、斎賀は愛を告げた。

 優しく触れる斎賀に引き寄せられるように、柴尾は斎賀に唇を寄せた。
「僕は幸せです……斎賀様」

 今、誰かが柴尾の顔を見たら、きっと蕩けそうだと言っただろう。

「あ……。斎賀様……っ」
 急速に追い上げていき、斎賀の奥を激しく穿った。柴尾の動きに合わせて、斎賀の体が揺れる。

「……っ」
 内壁に締め付けられ、斎賀が達したことが分かった。

 斎賀自身にも指を絡め上下に扱くと、中に残ったものが腹の上に零れる。
「ん……っ」
 斎賀の引き締まった腹筋が、震えた。

 二度目は先に達してほしい。柴尾は息をつく間もなく、続けて中に擦りつける。

「少しは、落ち着け……!」
 休む間もなく立て続けに攻められ、斎賀が制止の声を上げた。

「私はもう若くはない。お前のペースでされたら、身が持たん……っ」

 たかだか三十七歳で何を言ってるのかと、驚く。
 そもそも、柴尾はもっと激しくすることだってできる。最初のうちだから、今はまだ斎賀の体を気遣っているくらいだ。

「都合の悪い時だけ年寄りにならないで下さい。こんなに鍛えられた若々しい体のくせして」

 たるみのない絞り込まれた体。輪郭も美しい。
 どうしてこんなに美しくバランスの良い体が作り込めるのかと、誰もが思うはずだ。

 呆れた顔で斎賀を見てから、柴尾は視線を下へ下げた。
「それに、十分お若いですよ」
「下半身を見て言うんじゃない」
 まるで蹴ろうとするように、膝を動かされた。柴尾の体に軽く当たる。

「むしろ、インバスの時はもっと凄く感じていらっしゃったから、物足りないんじゃないかと心配なくらいです」

 あの日の斎賀は、何をしても敏感に反応し、全身が性感帯になったようだった。
 声を抑えるのも両手が必要なくらいで、今は右手の甲で事足りる程度ということだ。

「冗談じゃない。二度とごめんだ」
 忌々しそうに呟く斎賀に、気になっていたことを訊ねた。

「どうして、声を抑えようとするんですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

お人好しは無愛想ポメガを拾う

蔵持ひろ
BL
弟である夏樹の営むトリミングサロンを手伝う斎藤雪隆は、体格が人より大きい以外は平凡なサラリーマンだった。 ある日、黒毛のポメラニアンを拾って自宅に迎え入れた雪隆。そのポメラニアンはなんとポメガバース(疲労が限界に達すると人型からポメラニアンになってしまう)だったのだ。 拾われた彼は少しふてくされて、人間に戻った後もたびたび雪隆のもとを訪れる。不遜で遠慮の無いようにみえる態度に振り回される雪隆。 だけど、その生活も心地よく感じ始めて…… (無愛想なポメガ×体格大きめリーマンのお話です)

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

処理中です...