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【おまけ】ケモノの育ち方
3.再会
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それから斎賀は、魔法だけではなく体も鍛え始めた。
わざわざ怪我をするようなことをしなくてもと、母には反対され泣きつかれた。
それでも、斎賀の決意は変わらなかった。
体を鍛えるという目標ができてから、それまでの甘い考え方は切り捨てた。
厳しい鍛錬を重ねるうちに意識も変わり、常に冷静に物事を見極められるようになった。
数年後には背丈も伸び、顔だちも男らしくなった。そして、もう斎賀のことを女性だと間違う者はいなくなった。
ただし、男だと分かったうえで絡んでくる輩は稀にいたけれど。
そして斎賀は、成人したのを機にフリーのハンターになった。
魔法力を高め、体も鍛えると、今度はそれを活かしたくなったのだ。
母にはもちろん反対され、顔に傷を作ったらすぐに辞めさせるということを条件に、何とか認めてもらった。
あくまで、父の仕事の手伝いが本業の為、狩りへ出掛けるのは休日だけだった。
二十四歳になる頃には、斎賀はフリーのハンターとしてはそこそこの知名度となっていた。
上級者しか扱えない回復魔法も使えるのはもちろんのこと、武術もできるのだ。色んなハンターたちが仲間になってくれと誘いをかけてきた。
しかし、ハンターは斎賀の本業ではなく、誰と組むこともなく斎賀はフリーのハンターとして活動を続けた。
仕事が休みの日は、大抵狩りに出かけるようになっていた。
その日も斎賀は、役所へと向かった。
フリーのハンターが仲間を募りたい時は、役所で探す。
すでに決まった仲間で活動している者たちは来ることがないが、そうでない者は毎回役所でその日限りの仲間を探すのだ。
手強い魔族が出る場所へ行きたいと考えながら、斎賀は役所の扉を開いた。
ハンターたちは大抵、魔族から得られる価値のあるものを売って生活している。また、水晶などのある洞窟には魔族がいることが多く、採掘しに行く為にハンターになっている者もいる。
斎賀の場合は、家が金持ちなせいかあまり物欲がなかった。かといって、高値で売れると分かっているものをみすみす置いて帰ってくるわけでもない。
あくまで、魔族の数を減らし、人々が過ごしやすい世界になること―――それが斎賀の目的と言える。
「あんたが斎賀さん?」
ふいに名を呼ばれ、斎賀は声のした方を振り返った。
背中に斧を背負った大きな熊科の男と、腰に剣を下げた背の高い人間の男の二人組だ。二人とも斎賀より五歳ほど年上のようなので、ハンター歴も長いと思えた。
声を掛けたのは剣士の方のようで、続けて話しかけられた。
「俺たち、普段は四人で活動してるんだが、難易度の高い場所へ行きたいと思ってる。そこで、回復魔法士を探してる。もしまだ今日の予定が決まっていないなら、俺たちと一緒にどうだい」
悪くはない誘いだった。ちょうど斎賀も、同じことを考えていたからだ。
ふむ、と斎賀は少し思案する。さらりと銀の髪が揺れた。
しかし、斎賀と彼らの目的とする場所が一致するとは限らない。彼らの力量が斎賀と同等もしくは近ければ、彼らと今日一日組むとしよう。
「おーい。待たせたな」
どうやら遅れてやってきた仲間のようで、男が二人、手を振りながら近づいてきた。
人間の、剣士と魔法士のようだ。先に声を掛けてきた二人よりは若い。
すぐ傍まで来ると、黒髪の剣士が斎賀の顔をじっと見た。
「へえ。めっぽう強い麗しの獣人ってこいつ?」
初対面の相手に、何とも失礼な態度だ。
「見た目は男なのに、確かに噂通り綺麗な面だな」
「こらっ。穂積、失礼だろ!」
剣士の男が、黒髪の男をたしなめる。さらに魔法士が横から小突いた。
「すみません。失礼な奴で……」
「いえ」
内心は少し不愉快だった。斎賀は、顔だけで判断されるのが嫌なのだ。
お前も謝れとせっつかれて、穂積と呼ばれた男は後頭部を掻いた後、頭を下げた。
「悪い。褒めたつもりだったんだが、気分を害したなら謝る。すまん」
あれが褒めていたのかと、斎賀は内心呆れた。
穂積は顔を上げると、にかっと笑った。
「でも、あんた回復魔法士なのに腕っぷしもあるんだってな。町の男たちをボッコボコにしたって話も聞いたぞ」
斎賀が二十歳くらいの頃に、複数人で不貞を働こうとした連中のことだと分かった。
その話を知っているということは、どういう経緯でのことかも知られているのだと思える。
「魔法だけに頼ってないなんて、見た目綺麗なわりにしっかり男らしいじゃねえか。こいつなんて足しか鍛えてなくて、逃げ足だけなんだ」
穂積は隣の魔法士を小突き返した。
「何かあった時、最後に身を守るのは自分自身だからな。そういう考え方、俺は賛成だ」
にっと笑った穂積に、斎賀は思わず目を瞠る。
今の言葉、どこかで―――。
目の前の男の顔が、十年前に出会った青年と重なる。
「……。お前、まさか……」
思わず口から零れた。
「え? 知り合いなのか?」
だったら話は早いと言いたげに、剣士が穂積に訊ねる。
斎賀は穂積が答える前に即座に答えた。
「いや。まったくもって初対面だ」
反論は許さないとばかりに、ぴしりと言い放つ。
あんな恥ずかしい出来事を思い出されてたまるか―――。
斎賀は心の中で舌打ちした。
それから時折、斎賀は彼らと組んで狩りに出掛けることが増えた。
彼らとの相性は良く、斎賀にとって彼らは気を許せる存在になっていった。
出会って三年ほどして、彼らは魔族討伐の旅に出ると斎賀を誘った。
気を許せる者たちからの誘いを断る理由もない。
旅から戻ればハンターを引退して家の事業に専念することを両親と約束し、斎賀は彼らとともに魔族討伐の旅に出た。
それから最後の時を過ごすまで―――彼らは斎賀の大切な仲間となった。
わざわざ怪我をするようなことをしなくてもと、母には反対され泣きつかれた。
それでも、斎賀の決意は変わらなかった。
体を鍛えるという目標ができてから、それまでの甘い考え方は切り捨てた。
厳しい鍛錬を重ねるうちに意識も変わり、常に冷静に物事を見極められるようになった。
数年後には背丈も伸び、顔だちも男らしくなった。そして、もう斎賀のことを女性だと間違う者はいなくなった。
ただし、男だと分かったうえで絡んでくる輩は稀にいたけれど。
そして斎賀は、成人したのを機にフリーのハンターになった。
魔法力を高め、体も鍛えると、今度はそれを活かしたくなったのだ。
母にはもちろん反対され、顔に傷を作ったらすぐに辞めさせるということを条件に、何とか認めてもらった。
あくまで、父の仕事の手伝いが本業の為、狩りへ出掛けるのは休日だけだった。
二十四歳になる頃には、斎賀はフリーのハンターとしてはそこそこの知名度となっていた。
上級者しか扱えない回復魔法も使えるのはもちろんのこと、武術もできるのだ。色んなハンターたちが仲間になってくれと誘いをかけてきた。
しかし、ハンターは斎賀の本業ではなく、誰と組むこともなく斎賀はフリーのハンターとして活動を続けた。
仕事が休みの日は、大抵狩りに出かけるようになっていた。
その日も斎賀は、役所へと向かった。
フリーのハンターが仲間を募りたい時は、役所で探す。
すでに決まった仲間で活動している者たちは来ることがないが、そうでない者は毎回役所でその日限りの仲間を探すのだ。
手強い魔族が出る場所へ行きたいと考えながら、斎賀は役所の扉を開いた。
ハンターたちは大抵、魔族から得られる価値のあるものを売って生活している。また、水晶などのある洞窟には魔族がいることが多く、採掘しに行く為にハンターになっている者もいる。
斎賀の場合は、家が金持ちなせいかあまり物欲がなかった。かといって、高値で売れると分かっているものをみすみす置いて帰ってくるわけでもない。
あくまで、魔族の数を減らし、人々が過ごしやすい世界になること―――それが斎賀の目的と言える。
「あんたが斎賀さん?」
ふいに名を呼ばれ、斎賀は声のした方を振り返った。
背中に斧を背負った大きな熊科の男と、腰に剣を下げた背の高い人間の男の二人組だ。二人とも斎賀より五歳ほど年上のようなので、ハンター歴も長いと思えた。
声を掛けたのは剣士の方のようで、続けて話しかけられた。
「俺たち、普段は四人で活動してるんだが、難易度の高い場所へ行きたいと思ってる。そこで、回復魔法士を探してる。もしまだ今日の予定が決まっていないなら、俺たちと一緒にどうだい」
悪くはない誘いだった。ちょうど斎賀も、同じことを考えていたからだ。
ふむ、と斎賀は少し思案する。さらりと銀の髪が揺れた。
しかし、斎賀と彼らの目的とする場所が一致するとは限らない。彼らの力量が斎賀と同等もしくは近ければ、彼らと今日一日組むとしよう。
「おーい。待たせたな」
どうやら遅れてやってきた仲間のようで、男が二人、手を振りながら近づいてきた。
人間の、剣士と魔法士のようだ。先に声を掛けてきた二人よりは若い。
すぐ傍まで来ると、黒髪の剣士が斎賀の顔をじっと見た。
「へえ。めっぽう強い麗しの獣人ってこいつ?」
初対面の相手に、何とも失礼な態度だ。
「見た目は男なのに、確かに噂通り綺麗な面だな」
「こらっ。穂積、失礼だろ!」
剣士の男が、黒髪の男をたしなめる。さらに魔法士が横から小突いた。
「すみません。失礼な奴で……」
「いえ」
内心は少し不愉快だった。斎賀は、顔だけで判断されるのが嫌なのだ。
お前も謝れとせっつかれて、穂積と呼ばれた男は後頭部を掻いた後、頭を下げた。
「悪い。褒めたつもりだったんだが、気分を害したなら謝る。すまん」
あれが褒めていたのかと、斎賀は内心呆れた。
穂積は顔を上げると、にかっと笑った。
「でも、あんた回復魔法士なのに腕っぷしもあるんだってな。町の男たちをボッコボコにしたって話も聞いたぞ」
斎賀が二十歳くらいの頃に、複数人で不貞を働こうとした連中のことだと分かった。
その話を知っているということは、どういう経緯でのことかも知られているのだと思える。
「魔法だけに頼ってないなんて、見た目綺麗なわりにしっかり男らしいじゃねえか。こいつなんて足しか鍛えてなくて、逃げ足だけなんだ」
穂積は隣の魔法士を小突き返した。
「何かあった時、最後に身を守るのは自分自身だからな。そういう考え方、俺は賛成だ」
にっと笑った穂積に、斎賀は思わず目を瞠る。
今の言葉、どこかで―――。
目の前の男の顔が、十年前に出会った青年と重なる。
「……。お前、まさか……」
思わず口から零れた。
「え? 知り合いなのか?」
だったら話は早いと言いたげに、剣士が穂積に訊ねる。
斎賀は穂積が答える前に即座に答えた。
「いや。まったくもって初対面だ」
反論は許さないとばかりに、ぴしりと言い放つ。
あんな恥ずかしい出来事を思い出されてたまるか―――。
斎賀は心の中で舌打ちした。
それから時折、斎賀は彼らと組んで狩りに出掛けることが増えた。
彼らとの相性は良く、斎賀にとって彼らは気を許せる存在になっていった。
出会って三年ほどして、彼らは魔族討伐の旅に出ると斎賀を誘った。
気を許せる者たちからの誘いを断る理由もない。
旅から戻ればハンターを引退して家の事業に専念することを両親と約束し、斎賀は彼らとともに魔族討伐の旅に出た。
それから最後の時を過ごすまで―――彼らは斎賀の大切な仲間となった。
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