そしてケモノは愛される + ケモノはシーツの上で啼く

藤沢ひろみ

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【おまけ】ケモノの育ち方

2.少年時代

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「長い睫毛が震えて可愛いなぁ。肌も触り心地が良くてきれいだ。男にしとくのが勿体ない」
 頭上で腕を拘束している男が、覗き込むように斎賀を見た。

 興奮したその表情に、男が欲情するとこういう顔をするのだと知った。

「たんまりと、可愛がってあげるからな」
 ゆっくりと、斎賀の足が割り開かれる。
 下卑た二人の視線が、その中心に集中する。恐怖で体が強張った。

 なんという屈辱か。

 男のくせに、強姦されようとしているなんて情けない。
 恐怖とともに、抵抗する力のない自分に対する悔しさが沸き起こってくる。

 これまで斎賀は、将来の為に勉強ばかりしてきた。当然、武術など学んだことがないし、学ぶ必要もなかった。

 だからこんな時に、何もできない。
 来る当てのない誰かに、助けを願うしかできない。
 子供とはいえ、あまりに無力だった。

 足を掴む男の手が、膝裏から太腿へとゆっくりと這うように動く。

 金持ちの子息といえども甘やかされずに育った斎賀は、年相応らしからぬ誇りを持っていた。
 だから、こんなことで屈するものかという思いからだったのか、恐怖からだったのかは分からない。斎賀は瞼を閉じ、ぎゅっと唇を噛んだ。

「ぐっ」
 呻くような声がして、足を掴む力が緩んだ。
 咄嗟に斎賀は目を開けた。割り開かれた足の間に、男の上体が倒れこんだ。

「なんだ、お前!?」
 腕を拘束している男が叫び、仰向けになった斎賀の顔の上を足が振り払われるのが見えた。

「くそっ」
 二回蹴りを食らった男は、もう一人の男を置き去りにしてその場から逃げ出した。

 呆然としていた斎賀は、身の危険が去ったことに我に返り身を起こした。

 斎賀より少し年上くらいだろうか、黒髪の人間の青年が倒れた男の背中に足を乗せていた。

 どうやら助けてくれたらしい。
 背後からの不意打ちとはいえ、大人を相手に勝つなんて凄い。

 斎賀は口に突っ込まれていた布を地面に投げ捨てた。体に力が入らないのか、少しふらつきながら立ち上がる。

「あ、ありがとうございます。助かりました……」
 斎賀は青年に丁寧に礼を述べ、頭を下げた。

 感謝の気持ちが溢れた。青年が現れなかったらと思うと、恐怖しかない。

「いやいや、これくらい朝飯前ってな。物陰からランタンの明かりが見えて、何か変だと思って覗いて良かったよ。大丈夫か、お嬢さ……ん?」

 ランタンに照らされた青年の笑みが止まる。
 斎賀に向き直った青年は腕を伸ばし、斎賀の上着の裾をぴらりと捲り上げた。

「…!?」

 あまりにも突然のことで、声も出ない。
 下着を脱がされていた斎賀は、突然見知らぬ相手に下半身を剥き出しにされたのだ。

「あ。なんだ。男か」

「……っ」
 羞恥で顔が赤くなり、尾がぶるぶると震えた。

 助けてもらったとはいえ、何て無礼な男だ。

「あいつらも女の子と勘違いしたみたいだな。馬鹿な奴ら」
 足元に倒れた男に向けて軽く笑った後、青年は背中を向けた。
「自分の身を最後に守れるのは自分なんだから、もうちっと力をつけたらどうだ?」

 そう言い残し立ち去った青年を、斎賀は呆然と見送った。

 しばらくして我に返り、傍に落ちていた下着とズボンを拾い上げる。
「私がもし本当に女性だったら、あんなことされたら嫁に行けないところだぞ……!」

 斎賀は、失礼極まりない青年を恨んだ。
 最悪の事態を避けられたものの、恥ずかしい目に合わされたことには変わりない。

 しかし、彼の言う通りだと思った。

 町中での攻撃魔法は禁止されている。魔法で抵抗できるわけではない。
 例え暴漢に襲われようと多少なりとも腕が立つならば、こんな目にも合わなかったはずだ。

 もっと自分に抵抗できる力があれば―――。

 悔しい気持ちで、斎賀はそっと瞼を閉じた。
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