そしてケモノは愛される + ケモノはシーツの上で啼く

藤沢ひろみ

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【おまけ】ケモノの育ち方

1.少年時代

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「連弾!」
 斎賀は右腕を正面に差し出し、五指から小さな炎を生み出した。それを一斉に、二十歩離れた位置に立てられた的に向けて放つ。
 的は遠く、炎は掠る程度に当たっただけで、木版が焦げることすらなかった。

 まだまだだな、と斎賀は息を吐き出した。傍にいた講師が手を叩く。
「凄いじゃないか。もう届くまでになったとは」

「いえ。掠った程度では、まだまだです。それに、威力が弱いです」
 斎賀は自分の指先を見た。

「いや。たった半年で、しかも頻繁に通っているわけでもないのに。君は才能があるから成長が早い。自信を持っていい」
「ありがとうございます」
 斎賀が丁寧に頭を下げると、銀の髪が揺れた。

 十四歳になってから、斎賀は魔法を学び始めた。
 ハンターを志す者は、もっと早くから学び始めることが多く、斎賀は遅い方である。


 斎賀の家は、祖父の代で商いを始めた、町でも有数の金持ちである。
 その跡取りの斎賀は、元々ハンターを志していたわけではなかった。魔力が高く魔法士の素質があるという判定を受け、才能があるのならば無駄にしたくないと、自ら魔法を学ぶことを志願した。それはあくまでハンターになることが目的ではなく、自己満足の為だ。

 父は、魔法など使えずとも良いという考えではあったものの、何事も学ぶのは良いことだと賛成してくれた。

 だが、反対したのは母親だ。

 斎賀の母は自身の美貌もさることながら、斎賀が美しく育つことを願う人だった。斎賀が髪を伸ばしているのも、母の言いつけだ。
 魔法を習って怪我をしたらどうするのだと、心配のあまりなかなか首を縦に振ってもらえなかった。

 時間をかけ説得した結果、今は魔法を学ばせてもらえている。
 ただし、あくまで跡継ぎの為の教育が優先である為、週に一度しか学ぶことができない。本格的に魔法士になるつもりではない斎賀には、ちょうど良いペースだともいえる。

 斎賀が魔法を学んでいるのは、ハンターを引退した魔法士が魔法を教えてくれる魔法訓練場と呼ばれる場だった。広い練習場が必要な為、町外れにある。

 空が薄暗くなり始めた頃、斎賀は練習を終えた。

 講師に挨拶をすると、斎賀は一人門を出た。
 まだそれほど暗いわけではないが、持参したランタンに魔法で火を点す。

「ハンターになるのでないなら、いくら練習したところで活躍の場はこの程度かもしれないな」
 少し苦笑いをして、斎賀はランタンの中の小さな炎を見た。

 ハンターになるという目標があるわけではないので、斎賀のやりがいは中途半端だった。

 空は徐々に薄暗くなり始める。
 斎賀はランタンを手にしながら、町に向かって一人歩き続けた。

 ふいに小屋の陰から人影が現れた。人間の男が二人だった。
 斎賀が男たちを避けて道を進もうとした時、すれ違いざまに予想だにしないことが起こった。

「んうっ」
 体が違う方向に引っ張られ、口を布で塞がれる。

 大した力のない斎賀が物陰に引きずり込まれるのは、あっという間だった。

 ランタンが地面に転がった。
 仰向けにさせられ、頭の方にいる男に両手をひとまとめにされる。もう一人の男に、ばたばたと動かす足を押さえつけられた。

「んー!」
 丸めた布を口に突っ込まれ、声を上げることすらできない。

 斎賀は怯えながら、足を押さえる男を見た。三十歳くらいの男は、いやらしい笑みを浮かべ、へへっと声を漏らす。

「前から町で見かけては、綺麗な坊ちゃんだって目ぇ付けてたんだ。こんな人気のない場所まで来てくれてありがとよ。おとなしくしてりゃ、怪我はさせない」

「!?」
 腰紐に手が掛けられたかと思うと、こともあろうにズボンを引き下ろされる。続いて下着まで下ろされ、傍に放り投げられた。

 男たちの目的が分かった。

 男相手に信じられないことだが、どうやらこの男たちは斎賀を犯そうとしているらしい。
 坊ちゃんと言っていたから、斎賀が女性に見えているわけではなさそうだ。

 確かにこれまで、男から冷やかされるような言葉を投げかけられたことはある。だが、こんな暴挙に出るような男たちはいなかった。
 それは当然、何だかんだ言いながらも斎賀が男だと分かっているからだと思っていた。

「んんっ、うーっ」
 斎賀は首を振って、抵抗の意思を見せた。

 拘束された腕は動かない。男を蹴ろうとして振り上げた足は、空しくも掴まれた。

「色白で、きれいなあんよだ」
 男の舌が、斎賀の足の指を舐めた。

 ぞわりと背筋が粟立つ。
 恐怖のあまり、斎賀の耳と尾はすっかり下がりきっていた。
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