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そしてケモノは愛される

13.気まずさ

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 一度顔を見せた後、志狼は今までのように顔を出すようになった。
 怪我の治療だけをしていくこともあり、すっかり以前のようだ。

 病院に立ち寄る時は、狩りで解体した物の持ち帰りは仲間に頼んできているようで、シャクリョウ以外に荷物を持ってくることはない。
 だが、時折祖母への土産だと言って、木の実や果実を持ち帰ってくれることもあった。
 その手土産で祖母が焼いたパンを診察室で食べながら、志狼は今日戦った魔族の話などをする。

「そしたら柴尾がすっころんじゃってさ。このタイミングかよ!って」
 イスの上で胡坐をかきながら尾を左右に振り、志狼は可笑しそうに笑う。

「怪我はなかったのか?」
「うん。大丈夫。後ろにすってーんて転んだから、ちょうど背中のリュックで守られてた。運がいいのか悪いのか」

 しっかり者のイメージの柴尾の間抜けな姿を想像して、思わず穂積も笑う。
「柴尾とは仲がいいんだな」
 そういえば休日に一緒に出掛けていたこともあったと、穂積は思い出した。

「歳が近いから。俺より一つ上なんだ。一番遊ぶし、自然とチームを組むことも多いかな」
「ファミリーは柴尾の方が古いんだっけ?」
「うん。俺より一年か二年か……前かな」
 葡萄水を飲みながら、志狼は答える。

 穂積は志狼がファミリーに来た頃を思い出した。

 斎賀に初めて紹介された時の志狼は、今よりも目つきが鋭く、それまでの荒んだ生活が想像できてしまうほどだった。人に慣れていない野生の獣のようで、目つきの悪さもあって手を出せば噛みつかれそうな凶暴さすら感じたくらいだ。

 斎賀に可愛がられ、今やすっかり丸くなってしまった。

「髪、伸びたな」
 当時を思い出し、穂積はぽつりと零した。ファミリーに来た頃、志狼は耳が目立つ短髪だった。

「たまに切ってるよ」
「こっちに来た頃は、もっと髪短かっただろ」
 今は、前髪で額も隠れ、襟足も少し首にかかっている。

「ああ……」
 志狼は毛先を摘まんだ。

「斎賀様に、伸ばしてみたらって言われて伸ばしたんだ。……こっちの方が似合うって」
 思い出したのか、照れくさそうに志狼が答えた。

 まるでのろけ話を聞かされたような気分になった。
 穂積はやれやれと小さく溜め息をつく。
「まったく、お前らは……」

 志狼の方は、男同士でも恋愛対象になるということを気付いていないようだが、明らかに二人は相思相愛だ。
 とっととくっついちまえばいいのにと、見ているこちらの方がまどろっこしく感じてしまう。

 だが、斎賀も立場上、きっと言うに言えないのだ。

 斎賀は昔から慎重な男だ。聡い男だから、志狼の気持ちが自分にあることは分かっているだろう。

 だが、理知的がゆえに、自分がファミリーのボスであるという立場も考えてしまう。もし感情のままに想いを告げて、志狼のボスに対する敬愛の気持ちを利用することになったらと思うと、気持ちを伝えることもできないのではないか。

 大事だからこそ、立場を利用したくない。斎賀はそういう真面目さのある男だ。

 そんなに斎賀が大切にしているのを、横から自分が無理矢理に抱いてしまったと思うと、斎賀に対して申し訳なさしかない。

 斎賀の気持ちを知っているくせに、一時の興奮に流されてしまったのだから。

 男同士でも愛し合えることを知らない志狼と、立場を気にして想いを告げられない斎賀。
 これでは、いつまで経っても何も変わらない。

 二人のことを思うと、穂積は同情を禁じえずにはいられなかった。
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