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そしてケモノは愛される
11.気まずさ
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「最近、シロちゃんは来ないねぇ」
病院の待合室の受付に座りながら、祖母が呟いた。
最後の患者が帰り、志狼が来るならこれくらいの時間だと待ち侘びている。穂積と同じで、祖母も志狼が来ないことをとても寂しく感じているのだ。
「納品もなく怪我もなけりゃ、来ないだろ」
受付に祖母が飾った花を見ながら、穂積は何でもないように答えた。
志狼が祖母にプレゼントした花は、十日と長く保っていたが、最近少し弱り始めていた。
志狼が病院へ来ない理由は、間違いなく穂積のした行為が原因だ。
別れ際の態度から嫌われたとは感じなかったが、愛想はつかされているに違いない。
もしかしたら、もう来ないという可能性もあった。
帰り支度を始める祖母を見ながら、穂積はふと視界に入ったものに気付く。窓の外に何かがちらりと見えた。
診察室に戻るふりをしてちらりと視線を窓に向けると、茶色の犬の耳がちらちらと動いている。
「………」
穂積は診察室へと戻った。
カーテンを開け外に誰もいないことを確かめると、窓を乗り越え外に飛び降りる。元ハンターだからこそ、まだ窓を乗り越えるくらいはできる。
病院の外側から表に行き、窓の外から中をこそこそと覗いている獣人を見つけた。
「コラ。入ってくるならとっとと入って来い。ばあさんが会いたがってるぞ」
「ふわぁっ」
突然背後から大きな声を掛けられ、志狼が飛び上がった。
あんなことをされても、頼まれごとが気になって来てくれたらしい。律儀な奴だ。
「え? え?」
何故穂積が後ろから現れるのだと混乱する志狼の横で、入れとばかりに入り口の扉を開けた。
「まあ、シロちゃん。久しぶりねぇ」
「こ、こんばんは。ばあちゃん」
中に入ると祖母に嬉しそうに出迎えられ、志狼はようやくいつもの笑顔を見せた。
「シロちゃんが納品に来ないから、腕が鈍ってしまうところだったわよぉ」
「最近、シャクリョウと遭遇しなかったから。鈍る前に採って来れて良かったよ」
そう言いながらも、いつもより多めの納品だった。
そもそも、ついででいいからと頼んだにも関わらず、わざわざシャクリョウを探しに別行動をとったことで、インバスに襲われたのだ。
顔を合わせづらくして来ない間も、気にかけて採って溜めていたのだ。
「お前はいい子だなぁ」
思わず志狼の頭を撫でる。柔らかな耳に触れると、その体温が妙に微笑ましく感じた。
ほぼ同じくらいの身長の志狼は、子供のように頭を撫でられ穂積を軽く睨み返す。
「ガキ扱いすんなよ」
怒っているというより照れているようにも見える。むしろそういう反応をされる方が、志狼が年相応に見えない原因なのに。
目つきの悪い目で睨まれているはずなのだが、それすら可愛いだけにしか見えず、思わず穂積は口元を緩ませた。
病院の待合室の受付に座りながら、祖母が呟いた。
最後の患者が帰り、志狼が来るならこれくらいの時間だと待ち侘びている。穂積と同じで、祖母も志狼が来ないことをとても寂しく感じているのだ。
「納品もなく怪我もなけりゃ、来ないだろ」
受付に祖母が飾った花を見ながら、穂積は何でもないように答えた。
志狼が祖母にプレゼントした花は、十日と長く保っていたが、最近少し弱り始めていた。
志狼が病院へ来ない理由は、間違いなく穂積のした行為が原因だ。
別れ際の態度から嫌われたとは感じなかったが、愛想はつかされているに違いない。
もしかしたら、もう来ないという可能性もあった。
帰り支度を始める祖母を見ながら、穂積はふと視界に入ったものに気付く。窓の外に何かがちらりと見えた。
診察室に戻るふりをしてちらりと視線を窓に向けると、茶色の犬の耳がちらちらと動いている。
「………」
穂積は診察室へと戻った。
カーテンを開け外に誰もいないことを確かめると、窓を乗り越え外に飛び降りる。元ハンターだからこそ、まだ窓を乗り越えるくらいはできる。
病院の外側から表に行き、窓の外から中をこそこそと覗いている獣人を見つけた。
「コラ。入ってくるならとっとと入って来い。ばあさんが会いたがってるぞ」
「ふわぁっ」
突然背後から大きな声を掛けられ、志狼が飛び上がった。
あんなことをされても、頼まれごとが気になって来てくれたらしい。律儀な奴だ。
「え? え?」
何故穂積が後ろから現れるのだと混乱する志狼の横で、入れとばかりに入り口の扉を開けた。
「まあ、シロちゃん。久しぶりねぇ」
「こ、こんばんは。ばあちゃん」
中に入ると祖母に嬉しそうに出迎えられ、志狼はようやくいつもの笑顔を見せた。
「シロちゃんが納品に来ないから、腕が鈍ってしまうところだったわよぉ」
「最近、シャクリョウと遭遇しなかったから。鈍る前に採って来れて良かったよ」
そう言いながらも、いつもより多めの納品だった。
そもそも、ついででいいからと頼んだにも関わらず、わざわざシャクリョウを探しに別行動をとったことで、インバスに襲われたのだ。
顔を合わせづらくして来ない間も、気にかけて採って溜めていたのだ。
「お前はいい子だなぁ」
思わず志狼の頭を撫でる。柔らかな耳に触れると、その体温が妙に微笑ましく感じた。
ほぼ同じくらいの身長の志狼は、子供のように頭を撫でられ穂積を軽く睨み返す。
「ガキ扱いすんなよ」
怒っているというより照れているようにも見える。むしろそういう反応をされる方が、志狼が年相応に見えない原因なのに。
目つきの悪い目で睨まれているはずなのだが、それすら可愛いだけにしか見えず、思わず穂積は口元を緩ませた。
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