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そしてケモノは愛される
3.怪我の治療
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穂積は柴尾に訊ねた。
「子供が好きなのか?」
「小さい弟がいたらしいんですよね。だから、小さい子供を見ると面倒見たくなるみたいです」
ファミリーに来るということは、家族を失い一人になったからだ。
志狼の悲しい過去を思い、穂積は小さく息を吐いた。
穂積がハンターをしていた頃、旅先で魔族に襲われた村や町、そして生き残ったものの家族を失い途方に暮れる者たちを幾度となく見てきた。そんな彼らに姿が重なる。
斎賀と一緒にいる時はいつも幸せそうに、常に笑っている。そんな過去を考えることもなかった。
よく見れば、斎賀が傍にいないと年相応の青年に見える。
普段の姿を知らないと、目つきが悪いせいで柴尾の言うとおり悪い男に間違われてしまいそうだ。
「志狼は、何系だ?」
穂積は何となく訊ねる。柴尾は志狼に視線を移した後、肩を竦めた。
「強いて言わなくても、オラオラ系ですかね」
は?と穂積が見返すと、柴尾はプッと笑う。
「というのは冗談で、攻撃特化系剣士です」
「ああ、なるほど。そんな感じだな」
ハンターのタイプは攻撃に特化した者、防御が得意な者、魔法を扱う者などがいる。攻撃タイプでも、剣を使う者もいれば斧を使う者もいる。元気いっぱいの様子から予想した通り、志狼は剣士のようだった。
「でも、オラオラ系ってのもホントですよ」
柴尾が軽く笑う。
「志狼、魔族に恨み持ってるから、それはもうギッタギタのボッコボコにやっつけるんで。あの顔で町歩いてたら、絶対人殺しに間違われます」
「……はは」
穂積は苦い笑みを浮かべた。
斎賀の傍らでにこにこしているのとは随分違うようだ。本当にギャップがある奴だ。
話をしていると、少女と母親に挨拶をし終えた志狼が周囲を見回した。柴尾に気付くと、こちらに向かって来る。
陽の光が当たり、明るい茶色の髪がまるで金色のように輝いてキレイだ。いつもガキっぽい雰囲気の志狼しか知らなかったので、年相応の顔つきをした大人っぽい志狼が不思議に思えた。
「あ、穂積先生っ」
穂積に気付くと、ぱっと表情が変わる。少女をあやしていた時の兄のような表情は、見慣れた元気いっぱいの笑顔になった。
「こんにちは」
「よう。見てたぞ。やるじゃねえか」
少女の救出劇のことを言うと、志狼はへへっと照れくさそうに頭を掻いた。その腕には擦り傷がある。
「おい、怪我してるじゃねえか」
少女を助ける時に、道路に滑り込むように走ってきたことを思い出す。
怪我をして当然だ。しかも出血している。
「平気平気。こんなのかすり傷」
へらへらと笑う志狼に、穂積は溜め息をついた。
「うちはすぐそこだ。来い」
「えっ。これくらい、ほっとけば治るよ」
ぶんぶんと振る志狼の手を掴んだ。
「暇だから暇つぶしさせろ。来い」
もう一度言うと、今度は志狼も断らなかった。
隣にいた柴尾が、穂積に頭を下げる。
「先生、よろしくお願いします。志狼、僕は先に帰ってるから」
買い物の紙袋を抱え直し、柴尾はその場を後にした。
病院に戻ると、診察室のイスに志狼を座らせる。清潔な木綿布を水で濡らし血の滲んだ腕を軽く拭くと、傷口に消毒を塗布していく。
志狼は周りの様子を物珍し気に見ていた。
外で顔を合わしたことはあるが、こうして穂積の病院に来るのは初めてだからだ。
「子供が好きなのか?」
「小さい弟がいたらしいんですよね。だから、小さい子供を見ると面倒見たくなるみたいです」
ファミリーに来るということは、家族を失い一人になったからだ。
志狼の悲しい過去を思い、穂積は小さく息を吐いた。
穂積がハンターをしていた頃、旅先で魔族に襲われた村や町、そして生き残ったものの家族を失い途方に暮れる者たちを幾度となく見てきた。そんな彼らに姿が重なる。
斎賀と一緒にいる時はいつも幸せそうに、常に笑っている。そんな過去を考えることもなかった。
よく見れば、斎賀が傍にいないと年相応の青年に見える。
普段の姿を知らないと、目つきが悪いせいで柴尾の言うとおり悪い男に間違われてしまいそうだ。
「志狼は、何系だ?」
穂積は何となく訊ねる。柴尾は志狼に視線を移した後、肩を竦めた。
「強いて言わなくても、オラオラ系ですかね」
は?と穂積が見返すと、柴尾はプッと笑う。
「というのは冗談で、攻撃特化系剣士です」
「ああ、なるほど。そんな感じだな」
ハンターのタイプは攻撃に特化した者、防御が得意な者、魔法を扱う者などがいる。攻撃タイプでも、剣を使う者もいれば斧を使う者もいる。元気いっぱいの様子から予想した通り、志狼は剣士のようだった。
「でも、オラオラ系ってのもホントですよ」
柴尾が軽く笑う。
「志狼、魔族に恨み持ってるから、それはもうギッタギタのボッコボコにやっつけるんで。あの顔で町歩いてたら、絶対人殺しに間違われます」
「……はは」
穂積は苦い笑みを浮かべた。
斎賀の傍らでにこにこしているのとは随分違うようだ。本当にギャップがある奴だ。
話をしていると、少女と母親に挨拶をし終えた志狼が周囲を見回した。柴尾に気付くと、こちらに向かって来る。
陽の光が当たり、明るい茶色の髪がまるで金色のように輝いてキレイだ。いつもガキっぽい雰囲気の志狼しか知らなかったので、年相応の顔つきをした大人っぽい志狼が不思議に思えた。
「あ、穂積先生っ」
穂積に気付くと、ぱっと表情が変わる。少女をあやしていた時の兄のような表情は、見慣れた元気いっぱいの笑顔になった。
「こんにちは」
「よう。見てたぞ。やるじゃねえか」
少女の救出劇のことを言うと、志狼はへへっと照れくさそうに頭を掻いた。その腕には擦り傷がある。
「おい、怪我してるじゃねえか」
少女を助ける時に、道路に滑り込むように走ってきたことを思い出す。
怪我をして当然だ。しかも出血している。
「平気平気。こんなのかすり傷」
へらへらと笑う志狼に、穂積は溜め息をついた。
「うちはすぐそこだ。来い」
「えっ。これくらい、ほっとけば治るよ」
ぶんぶんと振る志狼の手を掴んだ。
「暇だから暇つぶしさせろ。来い」
もう一度言うと、今度は志狼も断らなかった。
隣にいた柴尾が、穂積に頭を下げる。
「先生、よろしくお願いします。志狼、僕は先に帰ってるから」
買い物の紙袋を抱え直し、柴尾はその場を後にした。
病院に戻ると、診察室のイスに志狼を座らせる。清潔な木綿布を水で濡らし血の滲んだ腕を軽く拭くと、傷口に消毒を塗布していく。
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