ひめごと

藤沢ひろみ

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二十六.秘め事

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 そして二人の、誰にも言えない秘密の関係が始まった―――。



 事件の後、念のためにと精密検査を受け、まもなく大和は退院した。
 事件は内々に処理されたのか、一切表沙汰になることも、警察からの事情聴取を受けることもなかった。改めて、“告”のコネクションに感心するしかない。


 退院して、大和と悠仁が気持ちを通じ合って初めてのセックスは、今までの強引なものとは違い、悠仁はちゃんと優しかった。
 無理矢理ではなかったが、大和は素直に悠仁に抱かれることを受け入れた。本来の自分は逆の立場だが、悠仁が望むようにしてやりたかった。

 家族のいる家で隠れて兄弟で抱き合うなんて、なんて親不孝なのだろう。
 それでも二人は求めずにはいられなかった。



 大和は最初に、恋人同士のキスを悠仁に教えた。無理矢理抱かれていたのに、今更キスから始めるのは妙な感覚だった。
 抱かれる側の経験はないがセックスの数はこなしていたので、大和は経験の浅い悠仁を自分がリードすべきだと考えた。自ら悠仁の腰に跨るという慣れないことまでしようとしたのだが、良かれと思った行為は逆効果だった。

「他の男としたことを積極的にしてほしくない」
 悔しげに、悠仁にそう言われてしまったからだ。大和は男に抱かれたことはなく、そんな経験なんてないのに。

 あまり表には出さないが、悠仁は自分が経験がないことを気にしているのかもしれない。それからは、大和は自らリードしようという考えは止め、悠仁の好きなようにさせた。

 真面目で勉強熱心な悠仁は経験の差を埋めるように、色々なAVを見て知識をつけていたらしい。大和はごく普通の恋人らしいセックスがしたいだけなのに、妙なAVのチョイスをしては時折変なプレイを求められて困ったこともあるくらいだ。
 悠仁の好きなようにさせてやりたいと思ってはいても、あまりに恥ずかしいことには限度というものがある。そうかと思えば、ただ何もせずに同じベッドで眠るだけのこともあった。

 悠仁がじつは独占欲が強いということも、恋人になってから知ったことの一つだ。
 夜遊びも、悠仁が嫌がるのでしなくなった。時々顔見知りに会いに飲みに行きたいと思うことはあったが、悠仁と恋人でいられる期間には限りがあるので、大和は悠仁との時間を優先させることにした。

 二ヶ月に一度の精子の提出も、悠仁に採取される。
 大和は隠れて採取のために自慰をしていたのだが、悠仁の居ない所で自慰をすることすら嫌だと我儘を言われ、悠仁が採取するか、悠仁の前で自慰をさせられることになった。

 時々、悠仁の大和に対する執着に驚かされたが、同時にたまらなく愛されているとも感じれた。



 “告”のことを、大和は重荷に感じたことはなかったが、想いを解放してから気持ちが楽になった。
 大和の中で、何かが吹っ切れたらしい。

 それは就職活動についてもだ。
 それまでは、自分を勧誘する企業は“告”を理由に大和を勧誘してきていると、例え大和自身が惹かれても勧誘を拒む気持ちになっていた。

 大和が悠仁と恋人になってしばらくして、あるIT企業の代表が告の家を訪問した。
 それは大和を勧誘するものだった。それまでの大和なら、例え相手が気になっていた企業であろうと話を流して、帰ってもらっていただろう。
 しかし、タイミングもあったかもしれない。大和自身が応募したいと考えていたうちの一社であったことと、大和の気持ちに変化が生まれていた頃の訪問だったため、ちゃんと真面目に話を受けることにした。

 大和はそれなりに優秀な成績を維持していたし、ちゃんと自分の実力を見てほしいという気持ちがあった。
 大和が“告”の人間だからといって会社には何のメリットもないということを伝え、それでも良いのなら、他の学生たちと同様にエントリーをしたいので待っていてほしいと、公平に採用試験を受けその結果をもって判断してほしいと、自分の気持ちを正直に告げた。

 社長はむしろ臆することない大和の態度を気に入ってくれたようで、公平に判断すると約束してくれた。そして、もし入社することになったら、ぜひ自分の下で働いてほしいと。
 後から考えてみれば、大企業の社長が“告”とはいえ無能な人間を勧誘したいと思うわけがない。きっとすでに大和の成績などを調査済のうえで、大和の希望を聞いてくれたのだろう。

 そして大和は、第一希望としていたその会社に無事に内定を決め、大学を卒業した。
 配属されたのは、新卒採用としては珍しいらしく社長秘書室だった。社長が言った、自分の下でというのは言葉通りの意味だったらしい。
 思い描いていた最先端の情報と関わる仕事ではなかったが、家に訪問された際に提案された、“告”の仕事がある時には業務を融通してもらえることも助かっている。

 後から聞いて分かったことだが、大和が高校二年生の頃、社長は紹介を経て“告”の客として訪問していたのだそうだ。
 神呼びを行う大和の姿に魅せられ、その頃から大和が大学を卒業する頃になるのをずっと待っていたらしい。その分余計に思い入れがあるらしく、普段はデキる男なのに、大和に対してまるで息子を可愛がる父親のような態度を取られてしまうことがある。

 告の家が古く歴史があるせいか、一代で日本のトップ企業へと会社を成長させた社長を、大和は尊敬している。気に入られているのは構わないのだが、大和が入社して二ヶ月ほどして株価が上昇し始めたことを、ただの偶然なのに大和のおかげだと興奮気味で言われ、“告”の人間を守り神か何かだと思っているところは、残念に感じてしまうのは否めない。


 そして、入社してから驚く出会いもあった。
 勤めだして三年ほどした時に、偶然会社でケンジと出会ったのだ。

 どこに勤めているのかまでは知らなかったため、社長に同行していた際に偶然本社のエントランスで再会した時には、とんでもなく驚いた。まさか同じ会社に勤めているとは思いもしなかった。

 ケンジには大和が迷走していた頃に恥ずかしい姿を見られていたので、久しぶりの素での再会は少し気恥ずかしいものだった。

 本社ビルだけでも五百人近い社員がおり、ケンジとまた会うことは難しいだろうと思っていたら、社長に同行していたことから秘書室だと見当をつけケンジの方から大和に会いに来てくれた。
 連絡先を交換し、今は時々時間が合えば一緒に食事に行ったりもする。
 ケンジは恋人ができたそうで、時折バーにも恋人と一緒に行っているそうだ。充は相変わらず、特定の相手は作らずに遊んでいるらしい。
 大和がバーに姿を見せなくなったことから、恋人ができたのだろうとケンジは思っていたらしい。

「もし彼氏と別れた時に俺がフリーだったら、俺のとこにおいで」
 今恋人がいるくせに、ある日ケンジが言った。

 冗談だろうが、それはつまり、ネコとしておいでという意味なんだろうか。
 二人でホテルに行った経緯から、ケンジには薄々感づかれているのかもしれない。
 恥ずかしいことまで思い出されて大和は反応に困り照れてしまい、あの夜のことをネタにするようにまたケンジに目元が色っぽいねなんて揶揄われてしまった。

 プライベートも仕事も何もかもが満たされていた。
 気持ちが変わるだけでこんなにも生き方が変わるのだと、大和は気付かされたのだった―――。
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