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十八.懸念
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数日経ったある日の、全員が揃った夕食の時間のことだった。
食事をしながら、父が大和と悠仁を見る。
「お前たち、最近変わったことはないか?」
その瞬間、大和は心臓が止まるかと思った。
大和と悠仁のやましい行為がバレてしまったのだと、体が強張る。
「変わったことって?」
悠仁が尋ね返す。動揺しているのは大和だけなのか、悠仁は至っていつも通りだ。
大和は心落ち着きなく、父を見た。
「うむ……」
思案した後、父が口を開く。
「最近、“告”の力を使って悪さをしている者がいるようだと、分家から報告があった」
「え?」
予想外に深刻な話で、大和は持っていた箸を置いた。
つい先日の本家で行われた集まりでの報告だろう。
「悪さ、とは?」
「神呼びの力でいわゆる占いのようなことをして、相手に構いなく多額の金銭をせしめているらしい」
悠仁の問いに父が答える。
ある程度の情報が集まったからこうして父は話したのだろうが、まだ不明瞭なところもあるようだ。
思いもしない父の言葉に、信じられず大和は尋ねた。
「まさか……。力を使える人間なんて限られている。皆、信用できる者たちばかりだ。悪用するようには思えない」
告本家を始めとし、分家も互いに“告”の血を守っていこうと、強い血の絆で結ばれている。本家によく出入りもしているし、大和も子供の頃から皆を見知っている。そんな不届き者がいるとは思えなかった。
神呼びの力は相当な体力を消耗する。その為、複数の人間で行う。一番血の濃い大和であっても、一人で行うことは到底できない。
ただ、神を呼び出せずとも、占いのようなことはできるのかもしれない。
確かに自分たちも、神呼びをしてその対価として金をもらってはいる。だが、相手は限られている。
神を呼ぶうえ、その力は安易に使うものではないからだ。
“告”の存在は、公に公表されておらず、一部の人間だけが知る。もちろん、ちゃんとした身元の人間の紹介がなければ、初めての客も受け入れない。
それを本当に金儲けのために誰彼構わず使っているのであれば、問題だ。
例え、それが“告”の力だと言わずに使っているのだとしても、与えられた能力をむやみに使って良いものではない。
「………」
それが事実だとしたら、いや、父が話した以上、事実であることに間違いはないだろう。
だが、いったい誰がそんなことをしているのか。大和は黙り込む。
怖いわね、と君江が呟き、隣の木村も頷いた。
「そういうことなら、特に変わったことはないよ」
悠仁の答えに、大和も頷く。
そうか、と父は頷き返した。
「ところで、大和。正照を覚えているか」
突然話が変わり、大和は首を傾げる。
記憶を辿り、その名の人物を探す。
「……うっすらとだけど」
記憶の片隅に見つけ、大和は父に答えた。隣に座る悠仁が、大和と父を見る。
「正照って?」
「叔父さん。……俺の母さんの、弟」
大和は悠仁に説明した。
正照は、大和の実母の弟だ。
ただ、生まれた時から何の力もなく、成人すると同時に家を出ている。告の家に寄りつくこともなく、大和が初めて会ったのは母の葬儀の時だった。それも大和が中学二年生の時のことで、たった一度顔を見たきりそれ以降会っていないため、顔ははっきりと思い出すことはできない。
細身のひょろりとした男で、悲しみというより昏い目をしていたということは覚えていた。
「……まさか、叔父さんが?」
父が尋ねてくるということは、そういう意味なのだろう。大和は父を見た。
だが、正照はまったく何の力もないために“告”の家を出ていて、以来“告”と関わりを持っていない。力のない正照が、力を使って悪さをすることはできない。
「まだ、調査中だ」
「……」
しかし、名を出した以上、何かしら関係があるのだろう。大和は信じがたい気持ちになる。
「万一のこともある。二人とも、くれぐれも気を付けるように。おかしなことがあればすぐ報告しなさい」
「はい」
「……はい」
二人が返事をし、その話題は終わった。
大和に疑問を残しながら。
食事をしながら、父が大和と悠仁を見る。
「お前たち、最近変わったことはないか?」
その瞬間、大和は心臓が止まるかと思った。
大和と悠仁のやましい行為がバレてしまったのだと、体が強張る。
「変わったことって?」
悠仁が尋ね返す。動揺しているのは大和だけなのか、悠仁は至っていつも通りだ。
大和は心落ち着きなく、父を見た。
「うむ……」
思案した後、父が口を開く。
「最近、“告”の力を使って悪さをしている者がいるようだと、分家から報告があった」
「え?」
予想外に深刻な話で、大和は持っていた箸を置いた。
つい先日の本家で行われた集まりでの報告だろう。
「悪さ、とは?」
「神呼びの力でいわゆる占いのようなことをして、相手に構いなく多額の金銭をせしめているらしい」
悠仁の問いに父が答える。
ある程度の情報が集まったからこうして父は話したのだろうが、まだ不明瞭なところもあるようだ。
思いもしない父の言葉に、信じられず大和は尋ねた。
「まさか……。力を使える人間なんて限られている。皆、信用できる者たちばかりだ。悪用するようには思えない」
告本家を始めとし、分家も互いに“告”の血を守っていこうと、強い血の絆で結ばれている。本家によく出入りもしているし、大和も子供の頃から皆を見知っている。そんな不届き者がいるとは思えなかった。
神呼びの力は相当な体力を消耗する。その為、複数の人間で行う。一番血の濃い大和であっても、一人で行うことは到底できない。
ただ、神を呼び出せずとも、占いのようなことはできるのかもしれない。
確かに自分たちも、神呼びをしてその対価として金をもらってはいる。だが、相手は限られている。
神を呼ぶうえ、その力は安易に使うものではないからだ。
“告”の存在は、公に公表されておらず、一部の人間だけが知る。もちろん、ちゃんとした身元の人間の紹介がなければ、初めての客も受け入れない。
それを本当に金儲けのために誰彼構わず使っているのであれば、問題だ。
例え、それが“告”の力だと言わずに使っているのだとしても、与えられた能力をむやみに使って良いものではない。
「………」
それが事実だとしたら、いや、父が話した以上、事実であることに間違いはないだろう。
だが、いったい誰がそんなことをしているのか。大和は黙り込む。
怖いわね、と君江が呟き、隣の木村も頷いた。
「そういうことなら、特に変わったことはないよ」
悠仁の答えに、大和も頷く。
そうか、と父は頷き返した。
「ところで、大和。正照を覚えているか」
突然話が変わり、大和は首を傾げる。
記憶を辿り、その名の人物を探す。
「……うっすらとだけど」
記憶の片隅に見つけ、大和は父に答えた。隣に座る悠仁が、大和と父を見る。
「正照って?」
「叔父さん。……俺の母さんの、弟」
大和は悠仁に説明した。
正照は、大和の実母の弟だ。
ただ、生まれた時から何の力もなく、成人すると同時に家を出ている。告の家に寄りつくこともなく、大和が初めて会ったのは母の葬儀の時だった。それも大和が中学二年生の時のことで、たった一度顔を見たきりそれ以降会っていないため、顔ははっきりと思い出すことはできない。
細身のひょろりとした男で、悲しみというより昏い目をしていたということは覚えていた。
「……まさか、叔父さんが?」
父が尋ねてくるということは、そういう意味なのだろう。大和は父を見た。
だが、正照はまったく何の力もないために“告”の家を出ていて、以来“告”と関わりを持っていない。力のない正照が、力を使って悪さをすることはできない。
「まだ、調査中だ」
「……」
しかし、名を出した以上、何かしら関係があるのだろう。大和は信じがたい気持ちになる。
「万一のこともある。二人とも、くれぐれも気を付けるように。おかしなことがあればすぐ報告しなさい」
「はい」
「……はい」
二人が返事をし、その話題は終わった。
大和に疑問を残しながら。
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