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45.大樹の恋人①
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「最近、服の好み変わった?」
みどりの結婚式から数日して、大樹を見て姉の美代が訊ねた。
言われて大樹は自分の格好を見る。特にいつもと変わらない、カジュアルな格好だ。
「何か落ち着いたっていうか……」
「そりゃ、大学三年なんだから落ち着くよ」
大樹の服はほとんどが姉の見立てだ。
しかし最近は、伊沢と出掛けた時に一緒に選ぶことが多く、姉と服を買いに行くことがなくなった。
シンプルな格好の伊沢と並んだ時に、ラフすぎておかしくないようにと気にはしているが、そういうことを言われているのだろうか。
「うーん。そうじゃないわね。何か色気づいたっていうか……」
言いかけて、あっと美代が声を大きくする。
「あんた、まさか、彼女できたんじゃないでしょうね! てっきりいい歳して姉と一緒に買い物行くのが恥ずかしくなってるのかと思ってたけど、彼女に選んでもらってるんじゃないの!?」
鋭い美代の指摘に、大樹が思わず怯んでしまうと、やっぱりと美代がにやりと笑った。
「母さーん。大樹が彼女できたみたいよ」
わざわざ声を大きくして、美代がキッチンにいる母を呼んだ。
「えっ、そうなの!? 大樹、初めてじゃないの」
報告していなかっただけで、短期間だが過去に彼女がいたことはある。
だが、どうやら二人は大樹に初めての彼女ができたと思い込んだようだ。
「で、どんな子よ。可愛い子?」
美代が肘で大樹を小突く。
「いつから付き合ってるの? 黙ってるなんて水臭いわね」
「………」
答えないと二人から解放されなさそうだ。
大樹は仕方なく、高校二年生の時から付き合っていることを教えた。
「四年も付き合ってたの? もっと早く言いなさいよね」
全然気付かなかったわと、母と姉は顔を見合わす。
当然のように、報告義務があると思われている。
「あんた、その子うちに連れてきなさいよ!」
「は!?」
「そうね、そうしなさい」
興味津々で仕方がないと顔いっぱいに浮かべて、母と美代が大樹を見た。
大樹の家は、女性陣の方が強い。大樹はまだ言い返すことがあるが、父なんかはすっかり黙って従うのが早いと思っているくらいだ。
「嫌だよ。家族に紹介とか、恥ずかしいってば」
理由はそれだけではない。
だが、大樹が抵抗すればするほど、姉たちは余計に絡み始めた。終いには離れてテレビを見ていた父まで巻き込み、父が連れてきたらいいんじゃないかと答えてしまった。
三対一になったところで、こうなったらもう無理だと、大樹は諦めの溜め息をついた。
「……言っとくけど、見てびっくりするなよな」
まさか男が来るとは思うまい。
つまり、思いがけず大樹は家族にカミングアウトすることになってしまった。
みどりの結婚式から数日して、大樹を見て姉の美代が訊ねた。
言われて大樹は自分の格好を見る。特にいつもと変わらない、カジュアルな格好だ。
「何か落ち着いたっていうか……」
「そりゃ、大学三年なんだから落ち着くよ」
大樹の服はほとんどが姉の見立てだ。
しかし最近は、伊沢と出掛けた時に一緒に選ぶことが多く、姉と服を買いに行くことがなくなった。
シンプルな格好の伊沢と並んだ時に、ラフすぎておかしくないようにと気にはしているが、そういうことを言われているのだろうか。
「うーん。そうじゃないわね。何か色気づいたっていうか……」
言いかけて、あっと美代が声を大きくする。
「あんた、まさか、彼女できたんじゃないでしょうね! てっきりいい歳して姉と一緒に買い物行くのが恥ずかしくなってるのかと思ってたけど、彼女に選んでもらってるんじゃないの!?」
鋭い美代の指摘に、大樹が思わず怯んでしまうと、やっぱりと美代がにやりと笑った。
「母さーん。大樹が彼女できたみたいよ」
わざわざ声を大きくして、美代がキッチンにいる母を呼んだ。
「えっ、そうなの!? 大樹、初めてじゃないの」
報告していなかっただけで、短期間だが過去に彼女がいたことはある。
だが、どうやら二人は大樹に初めての彼女ができたと思い込んだようだ。
「で、どんな子よ。可愛い子?」
美代が肘で大樹を小突く。
「いつから付き合ってるの? 黙ってるなんて水臭いわね」
「………」
答えないと二人から解放されなさそうだ。
大樹は仕方なく、高校二年生の時から付き合っていることを教えた。
「四年も付き合ってたの? もっと早く言いなさいよね」
全然気付かなかったわと、母と姉は顔を見合わす。
当然のように、報告義務があると思われている。
「あんた、その子うちに連れてきなさいよ!」
「は!?」
「そうね、そうしなさい」
興味津々で仕方がないと顔いっぱいに浮かべて、母と美代が大樹を見た。
大樹の家は、女性陣の方が強い。大樹はまだ言い返すことがあるが、父なんかはすっかり黙って従うのが早いと思っているくらいだ。
「嫌だよ。家族に紹介とか、恥ずかしいってば」
理由はそれだけではない。
だが、大樹が抵抗すればするほど、姉たちは余計に絡み始めた。終いには離れてテレビを見ていた父まで巻き込み、父が連れてきたらいいんじゃないかと答えてしまった。
三対一になったところで、こうなったらもう無理だと、大樹は諦めの溜め息をついた。
「……言っとくけど、見てびっくりするなよな」
まさか男が来るとは思うまい。
つまり、思いがけず大樹は家族にカミングアウトすることになってしまった。
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