セマイセカイ

藤沢ひろみ

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35.変化する日々

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 やはり、男と付き合うのは現実的ではない。

 女と違って、堂々とデートもできない。
 特に伊沢は人目を惹くので、同じ学校の生徒に見られた時にどういう関係かと訊ねられると対応に困る。かといって、会うたびに知っている人のいない遠くへ行くというのも現実的ではない。

 自分の部屋に呼ぼうかとも思ったが、休みの日はたいてい家に父親がいる。それに、伊沢のようなイケメンを見たら、母と姉が放っておかず、二人きりで過ごすなんて無理に決まっている。

 結果として、大樹が伊沢と会う時は、大概伊沢の家だった。

 みどりという良き理解者がいるおかげで、みどりが外出してしまえば二人でいちゃつくことに口を挟む者はいない。

 正確には、いちゃつくというには相手の態度がそれほどまでには至っておらず、伊沢に対し大樹が迫るという状況が正しい。

 伊沢は最初のうちは抵抗感があるようだったが、そのうち男同士で恋人らしい雰囲気になることにも慣れてきたのか、少しずつそういったことを口にしなくなった。



 九月になると、伊沢の母親が帰国した。
 大樹のことは、伊沢の仲の良い後輩としてみどりも仲良くしていると紹介された。

 学年が違うのにしょっちゅう休みの日に訪問するのも不自然なので、伊沢に勉強を教えてもらうという理由で大樹は訪問していた。

 時折みどりが母親を連れて買い物などに出掛けてくれるおかげで、その時だけは二人で恋人らしく過ごせるのだが、そうではない時は本当に伊沢の部屋で勉強をしていることもある。
 伊沢が言うには、普段から勉強していれば、受験になって慌てることもないのだそうだ。
 伊沢の教え方も上手いおかげで、図らずも大樹の成績は上がってしまった。


 週に一日は友達と一緒に遊び、アルバイトのない日は生徒会が終わるのを待ち、駅まで歩く少しの時間を伊沢と過ごす。そして週末は伊沢の家に行く。そんな日々が続いた。

 吊り橋効果などと言われたものだから、時間が経って伊沢の気持ちが無くなってしまったらどうしようと不安に感じてはいたが、大樹ほど積極的ではないものの、伊沢は大樹を受け入れ、二人の交際は続いていたのだった。



 そして十一月になると、生徒会長選挙が行われ、伊沢が生徒会長を引退した。

 選挙の進行を壇上で務める伊沢の姿を見ながら、初めて伊沢を見て興奮冷めやらなかった一年前のこと、カッコ良くて憧れの人となった生徒会長のこと、それから出会い系サイトを通じて訪れた家がまさかの伊沢の家だったこと―――色々と思い出して、胸が熱くなった。

 大樹が初めて憧れた、いや、もしかしたらその時から一目惚れをしていたのかもしれない、生徒会長としての伊沢の姿を、大樹はしっかりと目に焼き付けた。


 年が明けると、伊沢が少しだけ受験勉強に専念するということで、会うことが少なくなった。

 伊沢は希望の大学に合格した。もちろん、滑り止めなどというものは伊沢には必要がないうえでの結果だ。

 そして、あっという間に伊沢と共に過ごせる高校生活は終わったのだった。
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