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33.付き合うことになりました②
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先に口を開いたのは大樹だった。
「なんか……。俺たち付き合うことになりましたね」
大樹はベッドの右隣に腰掛ける伊沢をちらりと見た。
伊沢は少し身を屈めて黙っていたが、物言いたげな視線を向けてきた。
「お前が余計なことを言うから……」
伊沢は溜め息を返した。
「俺だって、こんな展開予想してないですよ」
みどりに隠れて伊沢と会うことに気まずさを感じていたので、みどりに宣言したに過ぎない。
こんなことになるなんて、大樹にも想定外だ。
「まぁ、素直に喜んでおきます」
喜んでいるようには思えないような態度だが、本当は喜んでいる。
伊沢が付き合ってもいいかもと言った時は、投げやりな態度だと思い受け入れはしなかったが、今回は外堀から埋められたというかすんなりと受け入れてしまった。
「……俺はホモじゃない」
伊沢は少し不満気に漏らした。
つい先日も言われた言葉だ。
何故か伊沢はやたらとそこに拘っているように思える。
大樹は伊沢のTシャツの裾をくいっと引っ張った。
「ねえ。もしかして、男と付き合ったらホモになると思ってます?」
疑問に感じて問いかける。
「付き合うからって、別にホモにならないといけないわけじゃないですよ」
「男同士で付き合ってたらホモだろう」
伊沢が疑惑のまなざしを向けた。
「ホモじゃなくても、男同士イケる人いますよ」
セフレ的な意味合いだったが、実際にゲイでなくても男とセックスできる男はいる。
「そんなこと、何のために……」
伊沢は身を起こす。
普通に女が好きな男からしたら、何故ゲイでもないのに男と、と理解しがたいだろう。
だが、伊沢が言いたいのはそういうことではないように思えた。
「もしかして、俺と付き合うのが嫌なんじゃなくて、ホモになるのが嫌なんですか?」
訊ねると、掴んだTシャツ越しにぴくりと伊沢が動揺するのが分かった。
しばらく黙り込まれる。
伊沢は前髪をくしゃりと掻き乱した。
「……きっと、吊り橋効果みたいなものだ。お前も、一時的に錯覚しているんだと思う」
好きだと告げたのを、気の迷いだと言われたことに傷付く。
本気で好きになったのに。
確かに伊沢の場合は、あの追い詰められた状況がそう思わせてしまうのかもしれない。
そんなことない、と文句を言おうと大樹は口を開きかけて止まる。
それはつまり、伊沢も大樹に惹かれていると言っているようなものなのではないのだろうか。
自分で言って、そのことに気付いていないようだけれど。
大樹は小さく笑った。その笑みの意味が分からず、伊沢は不思議そうに見返す。
「俺は本気なのに、失礼だなあ。でも、それって俺と同じ気持ち……てことですよね」
伊沢に顔を近づけて囁くように大樹が告げると、伊沢が困惑の表情を浮かべる。少し頬が赤い。
「ホモじゃないのに、そんなわけ……ない」
語気に説得力がなかった。
大樹はほんの少し、座る位置を伊沢に近づけた。
「何故男の尻の中に性感帯があると思います? ホモじゃなくても、男は誰でも抱かれうる可能性があるからです。だから、あんたが感じちゃったのも、別にホモだからじゃなくて、当たり前のことなんです」
「……そういうのに慣れてるからって、俺を揶揄ってるのか?」
伊沢は少し怒ったように言うが、目元が赤く染まっていて迫力がない。大樹はその様子に思わずそそられてしまった。
大樹は隣に座る伊沢の腰を掴むと引き寄せる。
バランスを崩して大樹に寄りかかりそうになった伊沢の肩に、横から顔を埋めた。
「ひゃぅ」
突然肌に唇が触れ、伊沢が驚きの声を上げた。自分で自分の出した声に驚いたのか、恥ずかしそうに手で口元を抑えた。
普段の姿からは想像がつかない反応に、思わず大樹は口元を緩ませた。
もっと色んな顔を見てみたくなる。
今度はうなじに吸い付くと、逃げるように伊沢が体を捻った。
「な、何してるんだ」
「反応が可愛くて」
「なんか……。俺たち付き合うことになりましたね」
大樹はベッドの右隣に腰掛ける伊沢をちらりと見た。
伊沢は少し身を屈めて黙っていたが、物言いたげな視線を向けてきた。
「お前が余計なことを言うから……」
伊沢は溜め息を返した。
「俺だって、こんな展開予想してないですよ」
みどりに隠れて伊沢と会うことに気まずさを感じていたので、みどりに宣言したに過ぎない。
こんなことになるなんて、大樹にも想定外だ。
「まぁ、素直に喜んでおきます」
喜んでいるようには思えないような態度だが、本当は喜んでいる。
伊沢が付き合ってもいいかもと言った時は、投げやりな態度だと思い受け入れはしなかったが、今回は外堀から埋められたというかすんなりと受け入れてしまった。
「……俺はホモじゃない」
伊沢は少し不満気に漏らした。
つい先日も言われた言葉だ。
何故か伊沢はやたらとそこに拘っているように思える。
大樹は伊沢のTシャツの裾をくいっと引っ張った。
「ねえ。もしかして、男と付き合ったらホモになると思ってます?」
疑問に感じて問いかける。
「付き合うからって、別にホモにならないといけないわけじゃないですよ」
「男同士で付き合ってたらホモだろう」
伊沢が疑惑のまなざしを向けた。
「ホモじゃなくても、男同士イケる人いますよ」
セフレ的な意味合いだったが、実際にゲイでなくても男とセックスできる男はいる。
「そんなこと、何のために……」
伊沢は身を起こす。
普通に女が好きな男からしたら、何故ゲイでもないのに男と、と理解しがたいだろう。
だが、伊沢が言いたいのはそういうことではないように思えた。
「もしかして、俺と付き合うのが嫌なんじゃなくて、ホモになるのが嫌なんですか?」
訊ねると、掴んだTシャツ越しにぴくりと伊沢が動揺するのが分かった。
しばらく黙り込まれる。
伊沢は前髪をくしゃりと掻き乱した。
「……きっと、吊り橋効果みたいなものだ。お前も、一時的に錯覚しているんだと思う」
好きだと告げたのを、気の迷いだと言われたことに傷付く。
本気で好きになったのに。
確かに伊沢の場合は、あの追い詰められた状況がそう思わせてしまうのかもしれない。
そんなことない、と文句を言おうと大樹は口を開きかけて止まる。
それはつまり、伊沢も大樹に惹かれていると言っているようなものなのではないのだろうか。
自分で言って、そのことに気付いていないようだけれど。
大樹は小さく笑った。その笑みの意味が分からず、伊沢は不思議そうに見返す。
「俺は本気なのに、失礼だなあ。でも、それって俺と同じ気持ち……てことですよね」
伊沢に顔を近づけて囁くように大樹が告げると、伊沢が困惑の表情を浮かべる。少し頬が赤い。
「ホモじゃないのに、そんなわけ……ない」
語気に説得力がなかった。
大樹はほんの少し、座る位置を伊沢に近づけた。
「何故男の尻の中に性感帯があると思います? ホモじゃなくても、男は誰でも抱かれうる可能性があるからです。だから、あんたが感じちゃったのも、別にホモだからじゃなくて、当たり前のことなんです」
「……そういうのに慣れてるからって、俺を揶揄ってるのか?」
伊沢は少し怒ったように言うが、目元が赤く染まっていて迫力がない。大樹はその様子に思わずそそられてしまった。
大樹は隣に座る伊沢の腰を掴むと引き寄せる。
バランスを崩して大樹に寄りかかりそうになった伊沢の肩に、横から顔を埋めた。
「ひゃぅ」
突然肌に唇が触れ、伊沢が驚きの声を上げた。自分で自分の出した声に驚いたのか、恥ずかしそうに手で口元を抑えた。
普段の姿からは想像がつかない反応に、思わず大樹は口元を緩ませた。
もっと色んな顔を見てみたくなる。
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「な、何してるんだ」
「反応が可愛くて」
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